W + BWW

進化生態学(第12講)
今日の話題:変動環境への適応
1. アメリカボウフウの種
アメリカボウフウは2種類の種を作る。休眠して秋に発芽するものと、冬越しして春に
発芽するものである。秋発芽種子は冬になるまでに成長する時間があまりないので、春
発芽種子と比較して死亡率が高いことがわかっている。では、どうして秋発芽種子を作
る必要があるのだろうか?一つの仮説は「夏の環境条件は発芽後の成長にいつも適して
いるとは限らないため、もしものときに備えて別の時期(秋)に発芽する種子を用意し
ておく」というものである。予測不能な環境の変化に対して、危険を分散させておく方
が高い適応度を得ることができるかもしれない、ということだ。
2. 長期的に有利になるには
ある戦略をとったとき、各世代における適応度(残せる子供の数)が大きく変化すると
しよう。ある一年生草があって:
戦略 X では、子が1個体できる年と、6個体できる年が半分ずつある
戦略 Y では、子が2個体できる年と、4個体できる年が半分ずつある
としよう。どちらの戦略がより有利だろうか?
答え
適応度が世代ごとに大きく変化する場合、その戦略の「有利さ(長期的な平均の適応度)」
は、適応度の相加平均(算術平均)ではなく、相乗平均(幾何平均)によって評価され
るべきである。たとえば適応度(子の数)が WA になる年と WB になる年が交互にくるな
らば、この長期平均 W は、「W = (W A + W B ) 2 」ではなく「W = W A " W B 」をつかって
評価しなくてはいけない。WA がどんなに大きくても WB が0であったらこの生物は存続で
きないことを考えれば、このことをよく理解できるだろう。
!
!
3. 生物がみつけた「賭けに勝つ方法」
次の夏がよい環境になるかどうかわからないのに2種類の種子を作り分けなければい
けないということは、これが植物にとって一種の賭けであることを意味している。
1年生のある植物があって種子 a と b を毎年合計12個つくるものとする。環境条件に
A と B があり、それぞれの環境に適応した2種類の種 a と b があるとしよう。各環境に
おいて各種子の生存率が以下のように書けるとする:
環境 A
環境 B
種子 a
2/3
1/3
種子 b
1/6
5/6
環境 A と B がそれぞれ 50%で訪れるならば、(1)種子 a のみをつくる植物、(2)種子 b
のみを作る植物、(3)種子 a と b を半々で作る植物の適応度(1年あたりの増殖率)は
それぞれどのようになるだろうか?思考実験で確かめてみよう。
□種子 a のみを作る植物
発芽さえすれば生存できるとして、N 年後の生存個体数は何個体になっているだろうか。
N 年後までのうち(N/2)年は環境 A、残りの(N/2)年は環境 B である。したがって、N 年
後の生存種子の数は:
[環境 A における生存種子数][環境 A のくる年数] [環境 B における生存種子数][環境 B のくる年数]
=
=
したがって一年あたりの増加率は
と計算される。
□種子 b のみを作る植物
この場合も同様の計算をすることによって、一年あたりの増加率は
と計算さ
れる。
□種子 a と種子 b を半分づつ作る植物
この場合には N 年後の生存種子の数は:
[環境 A における生存種子数][環境 A のくる年数]
[環境 B における生存種子数][環境 B のくる年数]
ここで[環境 A における生存種子の数]には種子 a と b の両方がある。つまり、[環境 A
における生存種子の数] = [環境 A での生存種子 a 数]+[環境 A での生存種子 b 数] で
ある。これを利用すると、N 年後の種子の数は
率は
、ここから1年あたりの増殖
と計算される。
これらの比較からわかることがある。それは種子 a と種子 b の両方を作った方が、片方
しか作らないよりも有利になる場合があるということだ。
4. 最適混合戦略
では、どのような割合で種子 a と b を作るのがもっとも有利になるだろうか。種子 a を
割合 p で、種子 b を割合(1-p)でつくるとき、1年あたりの増加率 W は以下の式で表さ
れる:
#2
&#1
&
1
5
W = 6 % p + (1" p)(% p + (1" p)(
$3
'$ 3
'
6
6
最適な種子 a 生産割合 p*をみつけるには、W を最大化する p を探せば良い。X 軸に p を
!
Y 軸に W をとってグラフを描くと:
となる。このことから適応度(増殖率で評価)を最大にする種子 a と b の生産割合は、
「種子 a を 2/3、種子 b を 1/3」ということになる。このように複数の戦略を混ぜ合わ
せることによって長期的な適応度を高めるやり方のことを「両賭け戦略」という。
5. 進化を学んで人生がどう変わるか?
進化学を「いかにいきるべきか」という哲学的な問題に結びつけることができるか?最
終講義ではこれをテーマに論じます。
以上