消化器疾患治療薬の薬物相互作用

Contents
Vol.58 No.1 2016
消化器治療薬の
選び方・使い方
専門医が教える
治療と薬の一工夫
19
21
25
33
39
47
55
61
67
73
77
83
特集にあたって 古田 隆久
PPI 抵抗性 GERD での薬物療法と一工夫 竹之内菜菜,岩切 勝彦
除菌の薬物療法と一工夫 古田 隆久,佐原 秀,市川 仁美,鏡 卓馬
機能性ディスペプシアでの薬物療法と一工夫 山崎 尊久,富田 寿彦,三輪 洋人
クローン病での薬物療法と一工夫 池谷賢太郎,杉本 健,花井 洋行
潰瘍性大腸炎での薬物療法と一工夫 杉本 健
過敏性腸症候群での薬物療法と一工夫 清水 誠治,富岡 秀夫,横溝 千尋,上島 浩一,福田 亘
慢性便秘症例での薬物療法と一工夫 雪下 岳彦,小林 弘幸
上部消化管疾患治療薬の長期投与の問題点と一工夫 木下 芳一,三上 博信,沖本 英子
下部消化管疾患治療薬の長期投与の問題点と一工夫 加藤 孝征,中島 淳
消化器疾患治療薬の薬物相互作用 細畑 圭子
初期救急医療,災害医療で使われる消化器疾患治療薬 吉野 篤人
取材
フロントページ
9
メンター制度で新人薬剤師をサポートする 長崎大学病院(長崎県長崎市)
この人に聞く
15
医療用麻薬の使用率,先進国で最低──認定薬剤師制度設立で痛みからの解放
鈴木 勉氏(星薬科大学薬物依存研究室 特任教授・名誉教授/世界保健機関薬物依存性専門委員会 委員)
レポート
104
便秘対策・降圧療法の注意点をレクチャー
第 9 回日本腎臓病薬物療法学会 学術集会・総会 2015(宮城県仙台市)
薬 事 Up-to-Date
106
112
115
海外文献紹介 門脇 大介,平田 純生/木村 利美,木村 友絵
適応拡大クローズアップ アリピプラゾール水和物 猪川 和朗
ニュースレター 医療機関と薬局の連携で「処方薬剤数の減少」を評価/ BZ 受容体作動薬 複数疾患で「重
複処方」の傾向 他
Contents
ト ピックス
91
99
ガイドライン改訂でこう変わる──骨粗鬆症の治療と薬の使い方 三浦 雅一,佐藤 友紀
HIV 感染症患者における薬剤師の服薬カウンセリング効果 関根 祐介
連載
3
頑張る薬剤師の挑戦発掘プロジェクト![16]
『精神科医療の底上げ』のために薬剤師ができること 鈴木 徹士
119
オチる前に読む! 感染症治療のピットフォール[10]
細菌性髄膜炎のピットフォール 石坂 敏彦
131
海外学会見聞録[2]
がん ASCO 2013 橋本 浩伸
135
審査報告書の読み方入門講座[2]
審査報告書を実際に読んでみる 益山 光一
141
深読み添付文書[10]
副作用にまつわる情報──つくる,つかう 野村 香織
147
病態を正しく見抜く! 臨床検査値ケースファイル 特別編[2]
65 歳男性 主訴:胸部の圧迫感,胸焼け 村上 純子,岩川 真也,林田 和久
155
適応外使用の処方せんの読み方[67]
化学療法による悪心・嘔吐の予防 藤原 豊博
161
知っ得! 薬剤師業務に活きる IT・アプリ[25]
アプリ TIPs 荒 義昭
そ の他
98
169
170
付録
『調剤と情報』今月号のお知らせ
愛読者アンケート&プレゼント
次号予告・編集部より
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メンター制度で
新人薬剤師をサポートする
メンターという言葉をご存知だろうか。仕事や人生に関する助言者,指導者のことで,
長崎大学病院
(長崎県長崎市)
メンティー(教わる側)からの相談に乗ったりアドバイスしたりする役割を担う。上司・
部下という関係ではなく先輩・後輩の関係に近い。医学教育では人材育成の一環として
メンター制度が盛んに取り入れられているが,長崎大学病院では 2012 年度から新人薬
剤師を対象にメンター制度を導入。メンティーの職場での悩みや問題解決をサポートす
ることに力を入れている。
メンター制度について話し合う
教育ワーキンググループ
る側)・プリセプティーがあるが,プリセプターがもっ
ぱら業務に関連した指導を行うのに対し,メンターは業
務以外の相談にも積極的に乗るという違いがあるとされ
る(施設によって異なる場合もある)。
一般の企業でも導入されているメンター制度。長崎大
長崎大学病院
直属の
上司以外
双方向の
対話
複数のメンターで複数のメンティーを支える
大学を卒業して社会に入り,仕事の難しさに加えて環
境の変化に適応できず悩みを抱えてしまう──そうなる
前に気軽に相談できる良き先輩がメンターだ。似た言葉
に,主に看護教育で導入されているプリセプター(教え
メンター
直属の
上司・先輩
新人
指示・命令
メンティー
豊富な知識と職業経験をもつ先輩(メンター)は,後輩
(メンティー)に対して,キャリア形成上の課題解決を援
助し成長を支えるとともに,職場内での悩みや問題解決を
サポートする。
メンター・メンティーの関係
鈴 木 勉氏
SUZUKI Tsutomu
星薬科大学薬物依存研究室 特任教授・名誉教授
世界保健機関薬物依存性専門委員会 委員
近年,新規の医療用麻薬が相次いで登場しがん性疼痛の
薬物治療の選択肢が広まった。さらに,がん性疼痛以外の
慢性疼痛にも医療用麻薬の使用が可能となるなど,多くの
患者が痛みから解放される時代になってきた。しかしなが
ら2014 年,WHOは日本における医療用麻薬の必要量に
対する実使用量の比率(充足率)が15.54%と先進諸国の
なかでも特に少なく,患者が必要な疼痛ケアを受けられて
いないとの実態を明らかにした。この原因の一つとして星
薬科大学薬物依存研究室 特任教授・名誉教授で世界保健機
関薬物依存性専門委員会 委員の鈴木勉氏は,国民の医療用
麻薬に対する誤解があると指摘する。そのため 2016 年か
ら,日本緩和医療薬学会では青少年に対する医療用麻薬教
育を担う「医療用麻薬教育認定薬剤師制度」をスタートさ
せる。わが国における医療用麻薬の使用実態と医療用麻薬
教育認定薬剤師制度への期待について話を聞いた。
医療用麻薬の使用率,先進国で最低
──認定薬剤師制度設立で痛みからの解放
─わが国の医療用麻薬使用の状況を教えてください。
ます。これだけ医療用麻薬の開発と緩和医療が進んでい
1986 年に WHO から「WHO 方式がん疼痛治療法」が
るにもかかわらず,わが国では多くの患者が必要な疼痛
発表され,医療用麻薬を使用する標準的な方式として広
治療を受けられていないのです。
く普及しました。しかし 2014 年,WHO では,末期がん
患者の 80%と末期エイズ患者の 50%は 90日間,致死障
害患者の15%は5日間 75 mg/日/人のモルヒネを使用する
─なぜ,必要な医療用麻薬が使用されないのでしょう
か?
との前提のもと,各国の医療用麻薬の使用量から必要量
これには,わが国の文化として痛みに耐えることを美
に対する実使用量(充足率)を報告しました。その結果,
徳とする文化や患者,家族の誤解や偏見から医療用麻薬
驚くべきことにわが国の充足率15.54%は先進諸国のなか
を処方されたくないという意識があります。処方された
でも特に少ないことがわかり,大きな衝撃を受けました。
くない理由としては,「依存や中毒になる」,「寿命が縮
また,国内の別の調査でも34%程度の患者しかがん疼痛
む」,
「最後の手段だと思う」などといったものがありま
治療を受けていないこと,また疼痛が完全に除去されて
す。いずれも誤解であり,鎮痛を目的とした医療用麻薬
いた期間は全疼痛期間の 18%程度という結果が出てい
の使用では依存や中毒にならないことはわれわれがモデ
消化器治療薬の選び方・使い方──専門医が教える治療と薬の一工夫
消化器疾患治療薬の薬物相互作用
細畑 圭子
HOSOHATA Keiko
消化器疾患は,高血圧症を含む心血管系疾患,精神神経系疾患とともにわが国の主要な疾患であるため,さまざまな
薬物との併用が多い。また,消化器疾患治療薬には胃内 pH 上昇,CYP 阻害,尿細管分泌阻害などを介した薬物相互作
用に関与する薬物が多い。薬物相互作用により十分な治療効果が得られない可能性があることから,相互作用例を示す
とともに推奨すべき対応についても概説する。
Key word pH,CYP2C19,CYP3A4 / 5,尿細管分泌,IL-6
胃液酸度を介した薬物相互作用
胃
に比べて 60%低下するが,ファモチジン投与の 2 時間前
にダサチニブを投与した場合にはダサチニブ血中濃度の
胃酸分泌抑制薬による胃内 pH 上昇は併用薬物の吸収
変動は認められていない2)。
に影響を与えることがある。例えば,ダサチニブの溶
ダサチニブ同様,イトラコナゾールはファモチジンと
解性は 690 g / mL(pH<4.0),205 g / mL(pH 4.28),
の併用により AUC が低下するが,フルコナゾールは
1 g / mL 未満(pH 6.99)と pH が上昇するにしたがって
ファモチジンと併用しても血中濃度変動は認められてい
低くなり,溶解度は pH に依存している。したがって,
3)
ない(図 2)
。H2 受容体拮抗薬やプロトンポンプ阻害薬
胃酸分泌抑制薬により胃内 pH が上昇するとダサチニブ
(PPI)以外にも胃内 pH 上昇による併用薬の溶解度低下
の溶解性が低下するため,ダサチニブの吸収さらには血
を引き起こす薬物として,水酸化アルミニウム(Al)
・水
中濃度が低下する。推奨される対応としては,ダサチニ
酸化マグネシウム(Mg)配合剤であるマーロックス® が
ブの薬効は血中濃度-時間曲線下面積(area under the
あげられる。さらに,マーロックス® 中の Al3+や Mg2+が
blood concentration-time curve;AUC)と相関するが,
併用薬とキレートを形成し,難溶性の複合体を形成する
AUC は投与後 2 時間の血中濃度(C2)と相関すること
ため,マーロックス® 併用の際には同時投与を避けるな
が報告されている(図 1)1)。そのため,胃酸分泌抑制薬
ど注意を要する(表 1)。
との併用の際は,C2 値をモニタリングし,十分な投与
量であるにもかかわらず血中濃度が低い場合には,胃酸
分泌抑制薬の中止も考慮に入れるべきかもしれない。ま
CYP を介した薬物相互作用
C
た,胃酸分泌抑制薬の投与タイミングをずらすことによ
1.シメチジンの薬物代謝阻害作用
りダサチニブの血中濃度変動が認められなかった報告も
イミダゾール環を有するシメチジンはワルファリンやジ
ある。ファモチジン 40 mg の投与 10 時間後にダサチニ
アゼパム,トリアゾラム,フェニトイン,カルバマゼピン
ブ 50 mg を投与したときのダサチニブ AUC は単独投与
など多くの薬物の代謝を阻害し,これら併用薬物の血中濃
自治医科大学医学部薬理学講座臨床薬理学部門
2016.1(Vol.58 No.1)── 77
監修
竹末芳生(兵庫医科大学感染制御学 主任教授)
登場人物
編集
吉岡睦展(宝塚市立病院 地域医療連携部 地域医療室)
研修医
感染症治療のピットフォール
は,抗菌化学療法認定薬剤師 認定学術集会の「薬剤師抗菌化
学療法実践教育プログラム」の実務委員が執筆するものであり,同プログラムで症例検討された
内容が中心になっています。
新人薬剤師
これは関西にある虎の巻病院の感染制御チーム(ICT)でのお話です。今年からICTに参加した
新人薬剤師君はピットフォール(落とし穴)につまずきそうになりながらも,指導薬剤師と一緒に,
指導薬剤師
医師から受ける感染症治療の相談に日々奮闘していきます。
第10回
細菌性髄膜炎のピットフォール
石坂 敏彦 ISHIZAKA Toshihiko
堺市立総合医療センター薬剤・技術局 局長/薬剤科長
ケース 1 難易度★☆☆
髄液検査の糖レベルの評価は,髄液糖 /血糖比の確認が
大切!
患者背景
前日より 38.5℃の発熱のため,市販の解熱鎮痛薬を服用していたが,夕食後,野
球観戦中に突然,痙攣発作が出現し意識障害もみられたため救急車にて救急外来の受診となっ
た 49 歳男性。現在,狭心症,糖尿病の治療中であり,副作用歴,アレルギー歴はない。現在,
呼吸器感染症で通院している家族あり。
2016.1(Vol.58 No.1)── 119
コーディネーター
前田 真之
昭和大学薬学部 薬物療法学講座 感染制御薬学部門
昭和大学病院 クオリティマネジメント室 感染管理部門
海外
学会
見聞録
2 がん
ASCO 2013
橋本 浩伸 HASHIMOTO Hironobu
国立がん研究センター中央病院薬剤部
2013 年のことになりますが,薬剤師が中心となって
ものがあります。2014 年の学会年報によれば,応募演題
実施した制吐療法の多施設共同無作為化試験の結果を
数は 5,530,採択演題数は約 2,900 で,採択率約 52%とか
ASCO(American Society of Clinical Oncology;米国
なり厳しいものです1)。学会期間中は教育講演や各種プ
臨床腫瘍学会)にて参加施設を代表して発表させていた
レゼンテーションが行われます。採択演題はオーラルセッ
だく機会をいただきました。がん医療に携わるものであ
れば一度は参加してみたいと思うこの学会で発表させて
いただいたことは,その後の臨床業務において非常に大
きな糧となっています。今回,学会全体についてと,発
表に関する経過と会場における意見交換の様子をお伝え
したいと思います。
ASCO とは
ASCO は毎年 5 月末から 6 月初旬の 5 日間開催され,
会場は米国イリノイ州シカゴにある McCormick Place で
開催されます。参加者は,医師,研究者,看護師,薬剤
師,がんサバイバーなど多岐にわたり総勢 3 万人を超え
るため,全米最大のコンベンションセンターを使用して
開催されるのです( 図 1)
。参加者の半数以上は,米国
外からであり,その国籍は 120 カ国を超えます。スケー
ルの大きさは参加人数だけでなく,演題数も目を見張る
図 1 会場風景
2016.1(Vol.58 No.1)── 131
審 査 報 告 書 の 読 み 方 入 門 講 座
第2回
審査報告書を実際に読んでみる
益山 光一 東京薬科大学薬学部 薬事関係法規研究室 教授
MASUYAMA Koichi
はじめに
審査報告書の読むべき項目等について
今回の課題としては,「審査報告書を実際に読んでみ
審査報告書は,前回もお話ししましたが,図 1 にある
る」ということで,
「SGLT2 阻害薬」に関する審査報告
とおり,審査報告(1)として,申請資料として提出さ
書を読んでみたいと思います。SGLT2 阻害薬について
れた主要な資料(品質・薬理・薬物動態・毒性・臨床薬
は現在,表 1 のような品目があります。
理・臨床)の概要,審査における主要な議論と医薬品医
なぜ SGLT2 阻害薬を選んだのかについては,筆者が
療機器総合機構(PMDA)が考える結論を記載した文
薬学生向けの講義資料作成の頃に報道されていた「脱
書(各パート担当が案を作成→統合)と,審査報告(2)
水」の問題から SGLT2 阻害薬に関心をもっていた学生
として,外部専門家の意見も踏まえた主要な議論の結論
が多かったことと,複数の品目がかなり近い時期に承認
を記載した文書からなり,この審査報告(1)と(2)を
されており,同じ作用機序の医薬品を比較して見やすい
あわせたものということになります。
ことなどがあげられます。
審査報告(1)で読むべき項目として勧めたいのは,
実際に講義資料を作成してみると,学生に説明しやす
「起源・発見の経緯・外国における使用状況等」です。
い内容での審査報告書の活用ができたので,その具体的
ここは開発の経緯等,その品目の特徴や背景を知るため
な内容を今回と次回でご説明いたします。
にも一読するとよいかと思います。
なお,同じ作用機序の医薬品でも審査報告書が作成さ
また,「有効性及び安全性」の部分で臨床的位置づけ,
れた時期が何年も離れていたりすると,提出の必要な
有効性の概要,安全性の概要,さらに審査報告(2)に
データの種類や臨床的位置づけなどが大きく変わってい
記載されている内容について読むようにしておくと,添
る可能性があり,直接比較が難しいこともありますので,
付文書だけよりも理解しやすくなる点も多いと思います
そのような点も含めて個々の品目の審査報告書が書かれ
し,新薬であれば,製薬企業が作成したパンフレット等
た時期は留意するようにしてください。
の資料ではわかりにくい PMDA の意見や考えがよくわ
表 1 SGLT2 阻害薬一覧(2015 年 10 月現在)
品目名
承認日
スーグラ® 錠
デベルザ® 錠
カナグル® 錠
ルセフィ® 錠
(アプルウェイ® 錠)
2.5 mg,5 mg
100 mg
20 mg
25 mg,50 mg
フォシーガ® 錠
5 mg,10 mg
ジャディアンス® 錠
10 mg,25 mg
2014 年
1 月 17 日
2014 年
3 月 24 日
2014 年
3 月 24 日
2014 年
3 月 24 日
2014 年
7月4日
2014 年
12 月 26 日
110 ページ
102 ページ
95 ページ
85 ページ
101 ページ
113 ページ
報告書ボリューム
(審議結果報告書 /
審査報告書)
2016.1(Vol.58 No.1)── 135
深読み
添付文書
第
10
医薬品を正しく理解するために,
添付文書に書かれている情報を
掘り下げて解説します
回
副作用にまつわる情報──つくる,つかう
野村 香織
NOMURA Kaori
東京慈恵会医科大学
Pharmacovigilance(ファーマコビジランス,ファル
これは発現頻度についても同様で,論文などは根拠と
マコビジランス)あるいは医薬品安全性監視という言葉
しておらず,あくまでも国と企業で合意された調査症例数
を聞いたことはあるでしょうか? 聞いたことのある方
が明確な調査結果に基づいて記載することになっています。
は,それは製薬企業がやること,と思われているかもし
後述する市販直後調査は,海外では intensive monitoring
れません。しかし,Pharmacovigilance は,副作用や相
の部類に入り,得られる情報は副作用が疑われる症例の
互作用,より適切な患者さんへの使用方法の検討など,
報告であり,どれだけの患者さんに投与されたのかとい
本来は薬理学的な科学に基づく活動であり,医薬品の安
う調査対象患者数は不明です。つまり分母不明のため副
全性情報の収集や情報提供は企業だけで成り立つ活動で
作用発生割合は算出できず,市販直後調査で特定された
はありません。患者さんに起こった安全性の懸念に気づ
副作用は「頻度不明」として添付文書に追記されている
いて報告し,入手した安全性情報を活用することは,医
のが現状です。一方,使用成績調査や市販後臨床試験で
療現場の医師や薬剤師の責務です。また,添付文書の改
得られた情報は,対象となる患者さんが特定されてお
訂に伴う副作用の評価については,厚生労働省,医薬品
り,発生割合が算出されます。後発医薬品のように調査
医療機器総合機構(PMDA)や企業が行っていますが,
を実施していない場合,
「本剤は使用成績調査等の副作
その際は医師の医学的知見が欠かせません。医療に携わ
用発現頻度が明確となる調査を実施していない」などと
る薬剤師も,院内や地域の医師とともに副作用疑い症例
記載されています。
について症例勉強会を行うと大変勉強になるはずです。
発現頻度を表す表現として,発売後時間が経過してい
今回は,添付文書にある副作用情報がどのように情報提
て改訂が行われていない添付文書には「まれに」や「と
供されているのかについてご紹介します。
きに」といった表現が残っています。しかし,具体的な
数値を示すことが推進されていることから,最近の添付
副作用の記載方法
文書では「0.1%未満」,「5%以下」のように明記されて
います(図 1)。
副作用の記載は,
「重大な副作用」と「その他の副作
「重大な副作用」は,添付文書の記載要領によれば「当
用」の 2 つに大きく分けられます。これらの項目の前に,
該医薬品にとって特に注意を要するもの」として記載さ
「副作用発生状況の概要」を記載することとされます。
れます。“特に注意を要する”の解釈ですが,致死的か
この副作用等の発生状況は医薬品の承認制度に関わる治
どうか,後遺症のおそれがあるかどうかといった点が考
験を含む臨床試験や調査(使用成績調査など)に基づい
慮されます。特に,日米 EU 医薬品規制調和国際会議
た内容となっており,調査症例数,記載時期(承認時,
(ICH)の合意に基づき,
「重篤な副作用」として副作用
安全性定期報告時,再審査終了時,再評価結果時など)
報告の対象となる場合は(1)死亡,(2)障害,(3)死
を明記します。後発医薬品はこうした調査を行っていな
亡または障害につながるおそれのある症例,(4)治療の
いので,当然,記載がありません。
ために病院または診療所への入院または入院期間の延長
2016.1(Vol.58 No.1)── 141