ボイル シャール の法則

あか提灯 8月
ボイル シャール の法則
そうそうで会社を定年になり,いまから数学者になると宣言して,この結果,ほん
ものの町の研究家が出来上がった.挙動の不審は日頃からのことなのだが,どういう訳か
いささかの頓着もなく 年たってしまった.
ついこの間も,ボイル シャールの法則の研究と称する一作をものにし,これを某
有名誌に投稿したが,残念なことに土,日をはさみ三日もたたずに 当誌にふさわし
くない と掲載を断るメールが届くことになった. この神業のようなメールの速さ
からみて,とても中味の検討がすんだとは思えない.さしずめ 町の研究者 ボイル シャールの研究 という絶妙の組み合わせが,編集の担当者をしてピン と来
させた,というの が本当の ころでは なかっ たろうか .だいたい この著 者の Æ
所属部署名 には 豪徳寺 1丁目 としか書かれていてない. これでどこの馬
だか骨だかという話になっても,もあながち無理な話ではないようにも思えるのだが.
.
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ド イ ツ の 物 理 学 者 ク ラ ウ シ ウ ス は 年に,熱の微分を温度で割り経路に沿って積分すると,これが経路によらなくなることに
気づいた.理屈からいって,この経路積分だけで新しい関数が直ちに定義できるはずであ
ル.しかし,このようにことがらを整理できるのは現代の我々の要約だからである.実
際,温度を積分分母とする熱の積分にエントロピーの名を付して提案するまでに,クラウ
ジウスには 年以上の思索が課されたのである.エントロピーがこのようにして生まれ
たのは 年のことである この年,日本では新撰組の屯所が京都の壬生にできた.
エ ン ト ロ ピ ー に は も う 一 つ ,ボ ル ツ マ ン の 統 計 力 学 に よ る エ ン ト ロ ピ ー と い う
のがある.これはボルツマンによる 年の 定理に始まると言われているが,多数の
粒子から成る系を考え,系が内部に実現する総ての状態の数を勘定し,そしてこの状態
の数の対数がエントロピーに等しい,というところのエントロピーである.これら二つ
のエントロピーが同一のものであるという証明が,この時代,なされたのかどうか,詳
細は知らない ドイツ語が読めないから.しかし,一見,別物に見える二つのエントロ
ピーのうち,ボルツマンのエントロピーの方が,物理をより強力に語るものとして世に受
け入れられるようになったのはこの頃からではないだろうか.物理学者でも,エントロ
ピーはわかりにくいが統計力学を学んで初めてわかった,というのが多い.多くの現在の
熱力学教科書にしても,統計力学の引用なしでエントロピーの説明が終わることは少ない.
一 方 .統 計 力 学 で は 具 体 的 な 模 型 を 設 定 し た う え で 状 態 の 場 合 の 数 を 具 体 的 に
勘定する.すべての議論は具体的になる.しかしながら,反対に,統計力学の方法は一般
性のある表式を導くのには疎い憾みがあるのも事実である.設定した模型についての答え
しか出てこない.
こ の よ う に し て ,元 祖 ク ラ ウ ジ ウ ス で 始 ま っ た エ ン ト ロ ピ ー は ,ボ ル ツ マ ン に
よって質 しち に取られた格好となり,今になってももとの本家には戻っていないのが
実情である.エントロピーが熱の積分であった,などという話はどこかに行ってしまっ
たのである.
も う 一 つ ,ケ ル ビ ン に よ る 温 度 の 話 が あ る . 年 ,有 名 な 物 理 学 者 ケ ル ビ ン
は,温度 絶対温度 が可逆サイクル 動作物質には関係ない.理想気体ではカルノー サ
イクル の最大熱効率で定まるという基本的な発見をした.しかし,この温度は現在に
なっても定めるのが難しくて,実用では氷点とか金点などが使われている.これもクラウ
ジウスの場合と同じで,理屈は良いのだが,実際は理屈倒れになっている例である.熱力
学にはこのようなことが多い.良い理論式が不足しているからではあるまいか.
統 計 力 学 で も 温 度 と は 何 か と 言 う 問 い は 一 度 出 て く る . !" 因 子 を 導 出
する際に # と言う式が一度出てくるだけである.しかし, " 因子
の導出後は,もし個人が好むのであればこのような式は忘れてもよろしい.なぜなら,こ
の式はこれ以後,論理的に出てこないからである もちろん,覚えていても良いし,使っ
て良いのだが,使わなくても事は済む . は基本的に独立なパラメータになり, と言
う字さえ忘れていなければよろしい.
さ て ,ボ イ ル シ ャ ー ル の 話 で あ る が ,も と も と 願 い は こ の よ う な 熱 力 学 に 何 と
か復権の望みを見いだせないかという願いが込められているのである.なぜこのように何
もかも統計力学に先を越され,取り残されてしまったのか.各個の模型のようなものは統
計力学にまかせるとしても,より基本的なところでは熱力学が主導しなければならないの
ではないか.思うに,これはひとえに式の不足にあるのではあるまいか.まず,クラウシ
ウスの基本原理をもっと詳しく調べてみる.
そ こ で ク ラ ウ ジ ウ ス の 仮 説 を 参 考 の た め 式 に 書 き 下 ろ し て み る .先 ず 熱 の 微
分を
# で与える.クラウジウスの条件は,係数関数 に関する微分方程式
#
で与えられる 熱力学の基本方程式.そのとき積分分母たる温度 は
#
$
で与えられる 温度方程式.
遠 い 昔 の 学 生 の こ ろ ,教 科 書 の ど こ か に 熱 力 学 は 天 網 ,粗 に し て 漏 ら さ ず
の大原理で,個々の状態方程式がどうであるとか,ないとか細かいことには関知しない.
人間など遠く関知できない,つまり不可知のところで宇宙を統べるのである,といった
風のことを見たような覚えがある.ところが,実際は全く正反対の小心翼々たる,まこと
に穴の小さい理論であることがわかる.つまり,上に示したような複雑な方程式から毛ひ
と筋ほどずれても,関わりを放擲してしい,対象を見限ってしまうのである.
こ れ は 別 の 面 か ら 次 の よ う に 考 え ら れ る .熱 力 学 は 熱 平 衡 状 態 を 対 象 と す る .
この熱平衡状態という状態は,自然の中では極めて特殊な,厳密には普通は存在しない状
態である.特殊であればあるだけ,極めて強力な拘束条件で縛られているのは当然であ
る.これがクラウジウスの条件から知ることのできるもっとも重要な点なのである.
し か し ,こ れ ら の 抽 象 的 な 数 学 理 論 が 物 理 と し て ど こ ま で 本 当 な の か ,実 は 自
信があるといえばあるし,ないと言えばない.上で述べたような式をまずはボイル シャー
ルの法則のような単純だが,しかし基本的といえるものに使ってみることで始めたい.ボ
イル シャールの法則,これは現象論の関係式として次のように与えられる.
# このとき熱は
# % で与えられ,したがって熱力学の基礎方程式は
%
#
$
また,温度方程式は
#
% となる.以上の方程式にさらに, と が示強変数であることを示す次の二式を加える.
%
%
# %
%
# &
これらの式を全部連立させて解く.これは比較的容易に初等的は方法で解けて,次のよう
な解が得られる.ここで は任意の数で,積分常数である.
#
#
#
% #
#
% %
%
% %
% % %
#
%
% $
以上と比較するため,以下に '(
の本 )*+! +,
-) からの引用で,統計力学
の分配関数を使って得られる理想気体の諸熱力学関数の表式を示す.
$
# #
!"##$ / % # .
$
$
% . $
$
% % %
# ここで % は (
独特の表記で, # % # である.
と
解 $ の 積分常数を # $ # # すれば,これらの統計力学からの解 が全面的に符節を合わせてい
¾
るのを見ることができる.もっとも,違ったら困るのであって,そんなことは当たり前で
はないかと思われるかもしれない.しかし,初めて聞いたらうろんに思われる基礎方程式
だとか温度方程式などがそんなに怪しげなものでないと理解してもらう助にはなる.
な お (
の 解 の 方 は 単 原 子 理 想 気 体 に 関 す る 結 果 で ,分 子 回 転 ,分 子 振 動 ,
スピンなどの内部自由度の効果は含んでいない.これを含ませるためには,統計力学で
は,これらの自由度を模型を追加すればよい.一方,熱力学方程式の解 $ にとっては,そのような自由度が存在することは知るよしもないのだが 解がおかれ
た一般的な条件のせいで,積分常数に内部自由度の効果も折り込みうることを指摘してお
く.積分常数 と内部自由度の分配関数 との対比は #
たいし # # #
#
に
のようになっている.
前 で 述 べ た 某 雑 誌 へ の 投 稿 の 中 に は ,何 か 計 算 し た だ け で ,そ れ を そ の ま ま 論
文にする奴がいるらしい.このボイル シャールもそれに似たところがないわけではない.
しかし,このボイル シャールは,熱力学の原理だけから直接に 統計力学のお世話にな
らず 諸々の熱力学関数を出してきた最初の例であることは認めてもらいたい.
あ か 提 灯 に こ ん な 無 粋 な も の を 書 き 込 ん で 良 い も の か ,書 い て い る う ち に 気 が
引けてきた.しかし,途中でやめると,また支離滅裂になってしまうので,我慢して続け
た.
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