授業『武士の家計簿』 - Itscom.net

授業『武士の家計簿』
〔映画のイントロダクション〕
激動の時代を、知恵と愛で生き抜いた家族の姿が 168 年前の実在の〈家計簿〉から、よみがえる。
いの や ま け
原作は、古書店で偶然発見された「金沢藩士猪山家文書」から幕末の武士の生活を生き生きと読み
みちふみ
ごさんようもの
解いた磯田道史著『武士の家計簿「加賀藩御算用者」の幕末維新』(新潮新書刊)。
しんせき
かんこんそうさい
日々の買い物、親戚付き合い、子供の養育費、冠婚葬祭――家計簿から鮮やかによみがえる、幕
いのやまなおゆき
末に生きた下級武士一家の暮らしぶり。この家計簿をつけた武士、猪山直之は、代々加賀藩の御算
あ とと
用者(経理係)として仕えた猪山家の跡取り息子として、家業のそろばんの腕を磨き、才能を買わ
れて出世する。しかし、当時の武家の慣習によって出世する度に出費が増え続け、ついには家計が
窮地にあることを知った直之は、ある”家計立て直し計画“を宣言する。それは、家財を売り払い、
たいめん
家族全員で質素倹約して膨大な借金の返済に充てることだった。体面を重んじる武士の世にあって、
ちょうしょう
世間の 嘲 笑 を浴びながらも、知恵と工夫で日々の暮らしを前向きに乗り越えようとする猪山家の
み
え
せけんてい
人々。見栄や世間体を捨ててもが守りたかったもの、そしてわが子に伝えようとした思いとは・・・。
武士も辛いよ!出世したのに、どうして家計が苦しくなるの?
○家来・使用人を定人数、雇わなくてはならない
しゅうぎ
○親戚や同僚との祝儀交際に出費せねばならない
○藩からもらった屋敷を維持せねばならない
○使いの者にも謝礼をしなければならない
○他家を訪問する/される際の手土産を用意せねばならない
贈答のやり取りをしなければならない
出世したら…
○冠婚葬祭や年中行事に関連した
きょうおう
○子供の通過儀礼での親戚の饗 応 を開かねばならない
ふ にん
○江戸での単身赴任暮らしとの二重生活を送らなくてはならない
現代人からみれば無駄のように思えるが、この費用を支出しないと、江戸時代の武家社会からは、
確実にはじきだされ、生きていけなくなる。つまり、その身分であることにより不可逆的に生じる
費用であり、歴史家はこれを「身分費用」という概念でとらえている。
ワーク1 さて、現代の私たちに引きつけて考えてみよう。現代の「身分費用」とは?
現代には、身分制度はないが、生活していく上では無駄のように思えるが、この費用を支出しな
いと、現代の○○社会(地域社会でもいいし、生徒仲間でもいい)からは、はじきだされ、生きて
いけなくなる。つまり、私たちの立場であることにより不可逆的に生じる費用とは何か?
これが猪山家の“家計立て直し計画”
1. 家計簿をつける
まんじゅう
饅 頭 一個、大根一本の値段も記録!これが猪山家の家計簿。
自分の結婚式も家族の葬式費用も…かかった経費はその日のうちに記録。
2. 家財を売り払って借金返済
着物や茶道具から弁当箱にいたるまで、合計 88 品目を売却。
3. 知恵と工夫で!日々の生活を乗り越える
はかま ぎ
え だい
息子の 袴 着の祝いの“鯛の塩焼き”を“絵鯛”
し らこ
す じょうゆ
にして節約。職場に持っていく弁当も、質素なものに。白子の酢醤油・昆布じめ・焼き物など、一
たら
尾の鱈も料理法を変えてバリエーション。囲碁セットは売り払い、手書きの碁盤と貝殻の碁石で。
ワーク2 現代の「身分費用」を抑えつつ、家計を立て直すにはどうしたらいい?
直之は息子の直吉にも御算用者としての道を歩ませるべく、4 歳にして家計簿をつけるよう命じ、
徹底的にそろばんを叩き込んでいく。それは時に、お駒(妻)の目から見ても厳しすぎると思える
ほどのものだった。時は幕末。父の英才教育のおかげもあって、父よりも早く 11 歳で算用場に見
げんぷく
なりゆき
習いとして入り、元服を済ませた直吉、改め成之は、時代に取り残されまいと自らの進むべき道を
かっとう
よし やす
模索していた。父子の間の葛藤が解消されないまま、攘夷の下、前田家嫡男・慶寧に従って京都へ
と向かった成之。そこで彼は新政府軍の大村益次郎にそろばんの腕を見込まれ、軍の会計職に就く
ことになる。その後、時代は幕末から明治維新へ。
明治維新は、士族にとって「これからの生き方」を選ぶきっかけになった。さて、大きな社会変
動のある時代には、「今いる組織の外に出ても、必要とされる技術や能力をもっているか」が人の
死活をわける。かつて、家柄を誇った士族たちの多くは、過去をなつかしみ、現状に不平をいい、
そして将来を不安がった。彼らに未来はきていない。栄光の加賀藩とともに美しく沈んでいったの
である。一方、自分の現状をなげくより、自分の現行をなげき、社会に役立つ技術を身につけよう
とした士族には未来がきた。
(「武士の家計簿」磯田道史)
ワーク3 社会変動の時代、私だったらどんな技術や能力を身につけ、身を立てるか?