手帳をアレンジし 入院病棟の看護力がアップ

連載 第 4 回
本人の思いをつづり伝える「わたしの手帳」
手帳をアレンジし
入院病棟の看護力がアップ
事例提供
アドバイザー
【外科病棟での工夫】
「わたしの手帳」の p.6 と p.7
医療法人社団東山会 調布東山病院
永田久美子 (認知症介護研究・研修東京センター 研究部部長)
自分たちに有用な項目をピック
アップして作り直したシート
東京都調布市にある医療法人社団東山会 調布東山病院(一般病床83床、透析病床66
床)は1982年開設の急性期病院。高齢社会の進展とともに、認知症の人や認知機能
の低下がみられる人の入院が増えてきた。こうした人たちが少しでも気持ち良く入
院生活を続けられる方法を探るために、内科と外科の病棟看護部の認知症チームで
「患者さんのご
は、「わたしの手帳」を自分たちの看護に役立つようにアレンジして活用している。
家族からのメモ
急性期の病院でこそ
活かされる
「私の手帳」
o@o@o@
認知症の人や認知機能の低下が
こと』メモ」
(手帳の p.6・7)を拡
大コピーし、入院患者に記入して
もらうようにした。ところが、入
院患者にそこに載っている 20 項
目をすべて記入してもらうのは難
みられる人の入院が増加してい
しかった。そこで看護師が患者に
る。医療法人社団東山会 調布東
質問し、回答を記入する方法を
山病院の看護師たちはその対応に
とったが、多忙な看護業務の中で
戸惑っていた。そんな矢先、妄想
それを行うことは負担が大きかっ
が強く暴力を振るう高齢者が入院
た。そこで、安藤氏らはもうひと
してきた。同病院看護部長の福地
工夫することにした。
洋子氏は入院中の認知症の人のケ
「急性期病院なので入院期間は
アにあたる看護師たちが疲弊して
13~16 日です。オリジナルの 20
いくのを目の当たりにし、認知症
項目の中から、その短い入院期間
に、
『体を触られ
異なる工夫をしている。項目を
「大
書かれていまし
切なもの」
「楽しみ・喜び」
「イラ
た。 そ の 情 報 が
イラすること」
「リラックスできる
あ っ た の で、
『触
もの」の四つに絞り込み、電子カ
られるのは嫌だろ
ルテに入れて活用することにし
うけど、少し我慢してください
のような話を安藤氏が語ってくれ
現 れ た。
「 大 切 メ モ」の 導 入 は、
た。研修会の参加者の一人、同内
ね』などと声掛けができました。
た。
「しきりに『帰りたい』と言う
病院全体に良い効果をもたらして
科病棟看護師の小笠原光子氏は
もし、その情報を知らずに体を
患者さんがいました。末っ子で寂
いるようだ。
「電子カルテを開けると第 1 画面
触って、患者さんから嫌がられて
しがり屋のその方のご主人が一人
に4項目が出てくるようにし、ほ
いたら、自分の看護が悪かったの
で家にいるから、自分が早く帰ら
かの職種の人にも情報が伝わるよ
だろうかと気落ちしていたと思い
ないと、と思っていたらしいので
うにしました」と語る。
ます」
(安藤氏 )
す。
『帰りたい』という 4 文字の中
o@o@o@
「帰りたい」という4 文字に
込められた思いに寄り添う看護
るのを嫌がる』と
外科病棟では用紙を患者に記入してもらいベッドサイドに貼っている
患者の家族に記入してもらう「大切メモ」
o@o@o@
退院後に情報を
いかに活かすかが課題
o@o@o@
o@o@o@
後列左より山田かおり氏、福地洋子看護部長、安藤夏
子氏、前列左より小笠原光子氏、山口未祐氏
こうした彼女らの患者への接し
に、そういう思いが込められてい
今後の検討課題が明らかになっ
方をみていて、福地氏は「大切メ
ることがわかったので、
『ご主人
て き た。 一 つ は「 大 切 メ モ」の
モ」を導入してからは内科・外科
が寂しがっているから頑張ってリ
項目の見直しだ。また、退院後の
病棟ともに認知症に対してだけで
ハビリをして、早く良くなって帰
使い方も検討したいと認知症チー
なく、看護力全体が上がってきた
りましょうね』と共感する励まし
ムは考えている。
「転院先に渡す
と感じている。
方ができました。また、その方が
サマリーに添付しようかという話
「以前は大変だと思っていた認
1 日も早く帰られるように一生懸
が出ています」
(安藤氏 )。また、
看護についての知識を増やす必要
中に役立ちそうな 13 項目を選ん
性を強く感じた。そこで福地氏は
で、 文 言 も 一 部 変 え て A4 版 の
認知症介護研究・研修東京セン
ペーパー1 枚に作り直しました。
ターの永田久美子氏に相談。認知
また、ご家族からも情報を得たい
この「大切メモ」を取り入れて
症チームをつくって 2013 年 12 月
と思い、
『ご本人の<大切なこと>
から、看護現場ではさまざまな変
から毎月 1 回、研修会をスタート
メモ』を併せて作りました。どち
化が現れた。
させた。すぐに永田氏より、本人
らにも、花のイラストをカラーで
「細かい作業が好きな患者さん
知症や認知機能が低下した患者さ
命サポートしようという気持ちを
患者からカフェ設定の要望が多
を深く理解するために使ったら
あしらって、親しみやすくしまし
のために、家族にお願いして手を
んの看護が楽しいという言葉が最
強くもちました」
。
いことから、内科病棟ではデイ
どうかと勧められたのが「わた
た」と安藤氏は話す。この外科病
動かせる材料を持ってきていただ
近、聞こえてきています。患者さ
看護師たちの試みはほかの職種
ルームの一角にカフェのような場
棟版「わたしの『大切なこと』メモ」
きました。患者さんは日中に取り
んの背景や心の声を知り、その方
にも影響を与えている。例えば 5
が設けられないかと、これから職
o@o@o@
しの手帳」である。研修会に参加
した認知症チームの看護師たち
(以下、
「大切メモ」
)は患者のベッ
組む作業ができ、結果として昼夜
をすべて受け入れる看護のすばら
分ごとにナースコールを押して今
員に案を募る予定という。こうし
は「わたしの手帳」を外来や透析
ドサイドに貼り、医師やリハビリ
逆転がなくなりました」
(内科病棟
しさを実感し、それがほかの患者
日の日課を聞いている患者の目に
たアイデアは地域連携にもつなが
センターに配って患者に渡すとと
スタッフ、管理栄養士などケアに
看護師、山口未祐氏 )
さんの看護にも活かされていま
つくところにホワイトボードを置
るだろう。
もに、病棟での活用を検討しはじ
関わるスタッフ全員が見られるよ
「その方の好きな歌手を話題に
す。看護という仕事へのやりがい
き、
「今日は何々検査をします」
めた。
うにした。
すると、とても会話がはずみ、笑
にもつながっているようです」と
と医師が書いたり、見舞いに来た
ラッシュアップさせ、その人の尊厳
顔も増えています」
(外科病棟看護
福地氏は喜ぶ。
家族と一緒の写真を撮ってボード
を大切にする看護を目指したい
に貼ったりしてくれるスタッフも
と、福地氏らは考えている。
外科病棟の安藤夏子氏らは、
「わ
一方、同じように研修会に参加
たしの手帳」の「わたしの『大切な
した内科病棟では、外科病棟とは
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師、山田かおり氏 )
この福地氏の言葉を象徴するか
今後も、
「大切メモ」をよりブ
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