平成 27 年 3 月 25 日 オリンピック・パラリンピックに伴う大規模施設対策等小委員会 中間報告 一般社団法人日本物流団体連合会 1.五輪大会開催に向けて懸念される物流への影響 (背景) 2020 年に開催が予定されている東京オリンピック・パラリンピック(以下五 輪大会)を見据え、東京都心部全域で再開発の機運が高まっている。多くの競技 が開催される湾岸地区を中心に、新競技場の建設や既存の施設の改修、更に五輪 大会開催を前にオープンする大型商業施設の建設も検討されている。 五輪大会の観客が訪れることにより、東京とその周辺の経済活動も活性化す ることが予想されている。 (建設需要増大の影響) 経済の活性化をもたらすと考えられる五輪大会であるが、物流事業において は懸念材料も含んでいる。その最たるものが、大規模建築物の建設ラッシュであ る。 五輪大会の開催に当たっては、実際に競技が行われるスタジアム、競技に参加 する世界各国の選手達が宿泊する選手村、観客が宿泊するホテル等、多種多彩な 大規模建築物が必要であり、五輪大会に向けてそれら施設の建設が、特定のエリ アで限られた期間内に集中して起こることが予想される。 これにより、大規模建築物の建設に従事する建設業関連の車両の通行が大幅 に増加することが予想されており、慢性化している東京都心部の渋滞に一層拍 車をかけるとともに、地域社会の環境全体が悪影響を受ける懸念がある。 (交通規制の影響) また、五輪大会開催期間中においては、競技の円滑な開催と観客の安全確保を 目的として、競技場などに至るルートでの車両の通行が制限されることが予想 され、物流事業者の集配業務などに支障が出る可能性も否定できない。 p. 1 2.現状の建物における物流に関する問題点 大きな懸念は、オリンピックを契機として建設される大規模建築物をはじめ、 今後新しく建造される施設において、物資の搬入や搬出を円滑に行うことが可 能かどうかという点である。現存する百貨店や複合商業ビル等の大規模建築物 では、物流に配慮されて建設されたものは少ないと言わざるを得ない。 昭和の高度経済成長期が終わって以降、物流は少量多頻度納品を基本とする ジャストインタイムを主流とする方式へと移り変わったが、貨物を受け入れる 側であるビルなどの建造物は、その急激な変化に追いつくことができていない という側面がある。そのため商業ビル等大規模建築物が関連する物流は、現在多 くの問題点を抱えていることが、報告されている。建築物の施主の協力と物流事 業者の工夫によって円滑な物流を実現した先進的な取り組みは、まだ多くはな いのが現実である。 建物への荷物搬出入作業の際に生じている問題点として、当委員会に報告さ れた主なものを整理すると、以下のとおりである。 ① 高さ制限により、貨物車両が入構できないこと 都市部の建物に多く見られる事例として、駐車スペースの高さ制限のため貨 物車両が建物内部に入構できないことがある。一般的に集配に使用される2t 車が 3.2m、4t車が 3.5m~3.8mの高さを有するのに対し、駐車スペースの出 入り口に設けられている高さ制限は、2.1mとされていたり、2.5mとされている ものが多く存在する。 このため、物流事業者は高さ制限が存在する駐車スペースに入構するため、荷 台の昇降を行い建築限界に抵触しない特殊な車両を用意したり、軽車両や1t 車など小型の車両で何度も配送を行ったりと、非効率な作業を余儀なくされて いる。 これに伴い、建物に出入りする車両が増えることで、周辺道路の渋滞等環境悪 化が誘発される懸念が生じる。 ② 荷捌き場、駐車スペースの不足により路上荷役作業が発生し、それがもと で周辺道路の渋滞、貨物車両の二人乗務等が発生すること 大規模商業施設などに実際に出入りする荷物量に、建物内の荷役スペース等 の供給が追い付いていないケースが存在する。 p. 2 例えば、一日数十台の貨物車両が出入りする建物であるにも関わらず、駐車ス ペースが2台分しか設けられていない建物も存在する。また荷捌き場において も、段差や勾配があるために作業が滞るケースがあり、スペースが十分に確保さ れていないケースも多い。 荷捌き場の狭さ、駐車スペースの受け入れ台数の少なさは、1回当たりの荷役 作業に要する時間を長くする。その結果、その後に行う次の場所への配送に遅れ ないようにするため、建物内の駐車スペースや荷捌き場に入れなかった貨物車 両が、やむを得ず建物付近の道路上において荷役作業を行うこととなる。 車両を駐車して集配を行うと違反となるため、それを回避するために社員を もう一人乗務させるという対応を余儀なくされる場合もあり、物流事業者の人 件費負担の増・人手不足の要因に繋がっている。 また、貨物車両が路上荷役を行うことで、周辺道路は渋滞が発生し、地域の円 滑な交通網実現に支障が出てしまう例も多い。ひいては、周辺道路の渋滞や環境 悪化により、建物の価値に悪影響が及ぶ可能性がある。 ③ 貨物用エレベーターの未設置、不足による長い手待ち時間が発生すること 商業ビル等の大規模建築物においては、当然のことながら高層階への荷物の 集配作業を行うことも多い。高層階での作業にはエレベーターが必要不可欠で ある。建物の利用者と荷物の取扱量がともに多い建物では、旅客用エレベーター と貨物用エレベーターの独立した運用が望ましい。 しかし現実には、貨物用エレベーターの数が不十分であったり、もしくは貨物 用エレベーターそのものが存在しないなど、縦の物流動線が整備されていない 場合も多い。数少ないエレベーターを使用して荷物の搬出入を行う場合は、エレ ベーターを使う順番を待ち続ける必要があり、手待ち時間が長くなる。 旅客と共用するエレベーターでは、最初から旅客で満員になっていて、荷物の 搬出入のためにエレベーターを使えないケースもある。エレベーター利用まで 30 分以上待ち続けた事例もある。 手待ち時間の増加を嫌い、低層階へは、階段を利用して集配を行う事業者もあ るが、その場合は台車を抱えての階の昇降など、作業における負担が大きくなる。 ④ 館内動線の不備により、円滑な搬出入の阻害、人の移動との交錯が発生す ること 建物の内部における物流動線の整備不足による支障も多く見られる。 商業ビル等の大規模建築物においては、建物の利用者もかなりの数に上るが、 p. 3 人の動線と荷物の動線が分離されておらず、双方の移動が交錯してしまうケー スが多く存在する。物流事業者が、建物の利用者の通行量が多い通路を荷物の搬 出入に使用すると、人を避けながらの移動が必要となるため、作業に時間がかか り、能率が上がらない。 一方、建物の利用者が貨物の動線と交錯すれば、利用者の側から見ても移動の 煩雑さを招き、荷物と接触し怪我を負うリスクも高まる。物流事業者のみならず 建物の利用者も不利益を被るこのような事態は、建物の所有者・運営者にとって、 決して望ましいものではない。 3.建物における物流への配慮による問題点の改善と効果 例えば、最近都心で竣工した高さ約200mの大型ビルには、毎日約 1100 台 の車両が出入りしているといわれているが、その構成を見ると、650 台から 700 台は、貨物用車両だと言われている。大型のビルには、多くのレストランや、シ ョッピングのエリア、事務所などが入居しているが、その業務を進めるために、 物資の搬出入が欠かせないのである。 このような、建物側にとって不可欠な物流であるからこそ、上記のような課題 は、物流事業者にとって問題となっているだけでなく、より広範な関係者に悪い 影響を与えている。 逆に言えば、このような問題が生じないように、建物側において、物流に関し て適切な配慮が行われれば、その効果は次のように多くの関係者に及ぶ。 ① 物流事業者にとっての意義 ・円滑な作業の実現による業務効率化が可能となる。 (手待ち時間の短縮・二 人乗務の解消・車両運行回数の削減など) ② 建物の所有者にとっての意義 ・荷物の滞留や周辺道路の渋滞が発生しない円滑なビル運営の実現 ・それによる自らの所有する建物の資産価値向上 ③ 建物の利用者にとっての意義 ・的確な物流サービスに支えられて、建物内での便利な活動や業務が可能とな る。(入居者・テナント) ・人の動線と荷物の動線がそれぞれ分離された上で円滑に運営されるため、快 適で安全な利用ができる。(建物を利用する一般消費者) p. 4 ④ 建物が存在する地域社会にとっての意義 ・円滑な荷役作業により、建物周辺での路上駐車・路上荷役がなくなる。 ・建物周辺における一般車両の通行を妨げない円滑で安全な地域交通が実現 され、環境面でも好ましいものとなる。 4.問題点解決に向けた提言 大規模建築物の建設において、あらかじめ物流への配慮の措置を講じておけ ば、上記のように、多くの関係者にメリットを与えることができることとなる。 しかしながら、大規模建築物は一旦建設されるとその耐用年数は長く、数十年に 及ぶ。また、建設後に施設の改築を行おうとしても、大きなコストや長い時間が かかり、容易ではない。 他方、物流への配慮を設計段階から実施している建物であれば、上記のような 問題の多くは、回避することができ、また、追加的な大きなコストも回避するこ とができると考えられる。 そこで日本物流団体連合会は、大規模建築物における物流に関わる問題点解 決に向け、以下の提言を行う。 〇大規模建築物を建築する際には、設計段階において物流関係者との協議を 経て、物流に配慮したものとなるようにすること 〇そのための手順をルール化すること なお、物流に配慮した作りとなっている建物には、それが分かるようなビルの 呼称を与え、建物に関わる物流への配慮の取り組みを広く社会へ知らせること が望ましいと考えられる。 5.更なる活動及び検討の必要性について 中間報告による以上の提言に加え、今後、競技場などを含む大型建築物の目的 や性格に基づく具体的な対策検討や、建物における必要な出入口や駐車スペー スの数値的な分析、法令・条例による駐車場整備等に関する制度の改善すべき事 項、周辺道路の渋滞対策など、更なる検討が必要な案件について、平成 27 年度 以降も引き続き検討を重ねていく。 p. 5
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