要旨 公共サービス型 N P Oにおける委託事業積算とフルコストリカバリー 一具体事例を通してー 中村紀之 NPO法施行以来、法人格を取得する NPOは増加し続け、その社会的役割への期待も一層高まっている。 しかし、その実態は玉石混交であり、また、財政的にも多くの課題を抱えている。 政府や自治体では、財政縮小の結果を NPMの流れに基づく「小さな政府」への転換を図り財政危機 を乗り越えようとした。その過程において、これまで政府によって直接提供されることが多かった、準 公共財たる「公共サービス」を第三者(民間法人、財団・社団、社会福祉法人、 NPO法人等)によって 供給される仕組みが確立されることとなった。 この変化の中で、 NPOを初めとした非営利組織はその活動の範囲と役割を拡大することになる。 しかし、 NPO等への委託事業において、その事業に必要なコストについて十分に理解されず、本当に 必要なコストがカバーされていない現状がある。 日本の NPOは準公共財の供給を行う団体の割合が高いことからも、特に公共サービス型の NPOへの 委託事業のフルコストリカバリーが重要な課題となる。 NPO法人数は全国で 4万を越え、その活動は多様であるが「事業型 NPOJが増加しており、これら の NPOはチャリティ型の NPOよりも、より営利企業に近い組織の形態や仕事の内容となっており、 NPOと企業の活動分野は接近し、働き方においても企業に近い形態をとる場合が増え、有給の職員も増 加し続けている。 しかし、職場としての NPOを考えたときには企業に比べて低い賃金体系や、研修体制など処遇不十 分な場合が多く、その定着率も低い現状にある。 NPOの低賃金状況は、現代における「格差社会」を助長させ、低賃金化の負のスパイラルへと導く危 険を苧んでいる。非営利活動という社会的ミッションを実行する者が安心して働くことができる NPO 法人を実現するためにも法人の財政状況の向上と安定は必要不可欠である。 行政から NPOへの委託事業においては、間接経費が見込まれていない場合が多く、 NPO側でも当然、 合理的で適切な負担を望んでいる。行政からの委託事業は増加するが、委託事業の対価が十分に確保さ れておらず活動の継続が困難になる例も生じている。このような状況は NPOの体力を弱め、健全な発 展を阻害し、ひいては公共サービスの賀の低下の危倶すらある。 原因としては、行政職員が民間事業者にも必要となるコスト項目を十分に理解していないことと、 NPO側でも活動目的を優先し経費を度外視して受託する傾向があいまって悪しき前例となり、著しく低 い積算が続くことが想定される。 NPOが健全な団体運営を継続するためにも、事業に必要となるコストを適正に積算する必要がある。 イギリスにおいては財務省によって NPOのフルコストリカバリーに関する問題が公に提起きれ「直 飽谷大学大学院経済研究 N o . 1 4 -19- 接費のみならず、間接費も含めて、事業を実施するために必要なコストをすべて回収する Jという考え を打ち出している。 日本においては、依然としてコスト削減の面が強調されることが多い現状にあるが、市場化テストに おいて、ょうやくフルコストの回収に配慮すべきことが指摘された。 このような背景に基づき、日本でも愛知県や新潟県などで NPOに対するフルコストリカバリーへの 先鞭がつけられることとなったが、しかし現実には「非営利/ボランティアの NPOになぜ人件費を払 う必要があるのか?Jという古典的な疑問を持つ者も多く、現実の取り組みはなかなか進まない状況に あった。 筆者が勤務する枚方市においては人権に閲する事業を行う「特定非営利活動法人枚方人権まちづくり 協会」が設立され、さまざまな事業を市から受託しているが、法人設立当初の委託料は事業にかかる直 接経費のみで、間接経費や事業を包括する職員の人件費等はすべて補助金や負担金として支払われてい た。しかし行政的には「補助金Jは常に見直しの対象であり、十分な議論がされないままに補助金が減 額されれば、たちまち各事業の運営は困離になることは明白であった。 そして、それ以上に、何よりも本来委託料に含まれるはずの間接経費が一切算定されていないことこ そが大きな問題であり改善すべき課題であると考えた。 そこで、 2 0 ω 年度から段階的に補助金・負担金を減額し、委託料の増額を始めることとした。当初は 法人を所管する人権政策室の委託事業から始め次年度にはすべての市からの委託事業について補助金等 から委託料への撮り替えを行った。 委託料への振り替えについては単純な事業費按分で算出するのではなく、市が行う「事務事業評価J による「人員配置係数Jを用いて積算することとした。 このように枚方人権まちづくり協会での実質的なフルコストリカバリーが実現したが、これは「積み 上げj によるものではなく、いわば『逆算Jによる委託料積算である。 今後は、新たな積み上げ手法についても検討が必要であると考える。しかし行政から NPO等への委 託事業について、本来、市が直営で行った場合の人員配置から間接費按分率を割り出すという今回の手 法は今後の他事業への展開も期待できるのではないか。 委託料への間接費計上が進めば、一方で委託料の上昇を招き「行政の続争入札に対応できないのでは ないか?Jという問題に突き当たることが想定される。これについては、イギリスの事例や「総合評価 競争入札制度j などを絡めることも有効ではないかと考える。 そして、 NPOの活動について、その有効性や効果について適切に評価することが次の時点での課題に なる。 NPOの活動実績を数値化・指標化する、いわゆる「ソーシャルインパクト評価Jについて今後研 究をすすめ、フルコストリカバリーの客観的な評価を裏付ける仕組みについての検討を今後の課題とし たい。 -20ー 要 旨
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