お正月太りの正体は水分だ

からだの科学 ∼健康を科学的に考える∼
福岡大学スポーツ科学部教授 桧
垣 靖 樹 先生
お正月太りの正体は水分だ
みなさんは、体重が増えると「また、太っちゃった」
図1
実験のながれ
と考えがちになりませんか?
+1,500キロカロリー
お正月は特に「食べて動かず、また食べる」の3日間。
朝からテレビの前に腰を下ろし、駅伝やサッカーなどの
スポーツ番組や、初笑い番組のオンパレード。またい
つもはゆっくり見ることのできない、映画やドラマをレ
ンタルして見る方も多いでしょう。そうすると、思わず
口寂しさにお菓子やおつまみ、お酒の量も増えてしま
います。
では、短期間に食べ過ぎたものは、カラダのどこに
溜まっているのでしょうか?
0日
7日
10 日
身体活動量に変化がないか、 普通食を
1週間観察
3日間
13日
過食を
3日間
27日
通常の生活を2週間
事後観察
1週間、身体活動量に変化がないか観察する。その後、3日間の普通食を摂取した後、
引き続き3日間の過食を行う。過食は、1日当たり+1,500キロカロリーを余分に3
日間連続で摂取し、その後は普通食に戻す。2週間、通常の生活を行い、体重の変
化を観察する。
事前の身体活動等の観察を行った20歳代の健常者
8名に、3日間普段の食事より1,500キロカロリー余分
図2
にとり続けてもらい、事後の観察を行いました。
(図1)
その結果、過食後に体重は平均830グラム増加しま
したが、詳しい検査をしてみると、脂肪量は約50グラ
ム増加しただけで、増加分のほとんどは、「水分」であ
ることが判明しました。(図2)
特にお正月料理は、日持ちするよう塩をよく使い
ますので、塩分濃度の高い物が多いです。塩分の取
りすぎは、カラダの水分貯留を促進します。塩っ辛
いものを摂り過ぎると、のどが渇き、より多くの水分
を摂取することになりますので、体重が増加すること
になります。
1日1500キロカロリーを3日間連続で余分に摂取した場合、
体重の変化とその内訳
(kg)
64.0
63.5
63.0
62.5
約50
グラム
約830
グラム
約780
グラム
62.0
61.5
61.0
過食後は平均で約830
グラムの 体 重 の 増 加が
認 められたが、脂 肪 量
の 増 加 は 約50グ ラ ム
で、増加分のほとんどが
水分だった。
もし、体重増加の正体が脂肪組織だったら
∼お正月3日間で、体重+2キロの場合∼
例えば、お正月3日間で2キログラム体重が増えたとします。
もし、増加分全てが「脂肪組織」だった場合、身体に蓄えられた脂肪組織1グラムの熱量は、約7キロカロリーですから、
約14,000キロカロリーを貯め込んだことになります。何もしなくても骨格筋や肝臓、脳の働きによって消費される、生
命活動に最低限必要なエネルギー量を「基礎代謝量」といいますが、身長170cm、体重60kgの健常男性の1日の基
礎代謝量は、およそ1,400キロカロリーになります。従って、脂肪組織2キログラムのエネルギーは、基礎代謝量10日
分のエネルギーに相当し、運動で消費するエネルギーに換算すると、なんとフルマラソン約5.5回分、距離にして230キ
ロメートルを走る燃料にあたります。
もし、体重増加の正体が全て脂肪組織だったら、体重を元に戻すことは難しくなりますが、先ほどご紹介した過食実験
の後、ご協力いただいた方にはいつ体重が元に戻るか、体重測定をしてもらいました。その結果、早い人で1日、遅い
人で2週間、全体の平均では5日間で過食前の体重に戻るという結果になりました。
体重増加の正体は、「水分」です。お正月には、食べすぎ・飲みすぎが気になるとは思いますが、息がはずむ程度の
軽運動は発汗と利尿を促進しますので、溜め込んだ水分を体外に排出し、体重をすばやく元に戻しましょう。
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