経済百葉箱

日本経済研究センター
公益社団法人
第 81 号
Japan Center for Economic Research
2015年4月8日公表
欧州諸国に学ぶ駆け込み・反動の抑え方
―消費増税の価格転嫁に日欧の差―
短期予測班
高野 哲彰、菊池 紘平、井上 里菜
<監修>短期予測班主査:竹内
淳、総括:松岡 秀明
▼ ポイント ▼
✓欧州諸国の付加価値税引き上げ時の駆け込み・反動の大きさは日本よりも小さい。
✓その大きな理由は、欧州では消費増税前から徐々に価格を引き上げ、増税時は企業が増税分を
消費者に転嫁せず負担している。一方、日本では増税前の駆け込み時にセールなどにより価格
を引き下げ、増税時に一気に価格転嫁を行うため、駆け込みと反動が大きい。
✓増税前後の景気のかく乱を抑えるためには、政府による「転嫁対策」を無理に行うべきではない。
事業者間の増税転嫁を確実に実施するには、インボイス方式の導入が望ましい。
【問題意識】
14 年 4 月に消費税率を 5%から 8%に引き上げてから 1 年が経過した。この 1 年は、我が国にとっ
て財政再建が如何に難しいかを知らされた年であった。増税の反動に加え、賃金を上回る物価上昇
から個人消費の回復が予想以上に鈍く、その結果として安倍晋三首相は昨年 11 月に 15 年 10 月に
予定されていた消費税率 10%への引き上げを先送りした1。他方、欧州諸国では付加価値税(日本
における消費税に相当)の引き上げが 2000 年以降も実施されているが(図表1)、後述するように駆
け込み・反動の大きさは日本よりも小さい。本稿ではなぜ他国の駆け込み・反動が小さいのか、その
背景を探り、どのような増税方法が望ましいかを検討する。
図表1 2000 年以降の欧州各国の付加価値税率の推移
国
ドイツ
フランス
イタリア
スペイン
英国
2000年以降の
変更
2007/01/01
2000/04/01
2014/01/01
2011/09/17
2013/10/01
2010/07/01
2012/09/01
2008/12/01
2010/01/01
2011/01/04
標準税率
16.0
20.6
19.6
20.0
21.0
16.0
18.0
17.5
15.0
17.5
→
→
→
→
→
→
→
→
→
→
19.0
19.6
20.0
21.0
22.0
18.0
21.0
15.0
17.5
20.0
変化幅
+3.0
-1.0
+0.4
+1.0
+1.0
+2.0
+3.0
-2.5
+2.5
+2.5
23
22
21
(%)
ドイツ
フランス
スペイン
英国
20
19
18
17
16
15
(四半期)
14
00:1 02:1 04:1 06:1 08:1
(資料)European Commission “VAT Rates Applied in the Member States of the European Union”
1
イタリア
10:1
12:1
14:1
14:3
安倍首相が先送りを示した後の 12 月 1 日、米格付け大手ムーディーズ・インベスターズ・サービスは、日本の長期国債の
格付けを「Aa3」から「A1」へ1段階引き下げた。理由は、財政目標の達成と債務抑制に関する不確実性の高まりである。
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【消費増税時の欧州諸国の駆け込み・反動は日本より小さい】
図表 1(前掲)は、英国とユーロ圏のGDP上位 4 ヵ国の 2000 年以降の付加価値税率の推移を整
理している。ユーロ加盟国では資本・労働の移動が比較的自由であり、法人税や所得税など直接税
の増税を行うと税負担の少ない国へ租税回避が起こるということもあって、付加価値税などの間接税
に高い税率を課す仕組みにシフトしている。財政規律の厳しいユーロ加盟国ではリーマン・ショック
やギリシャ危機以降、付加価値税を中心に増税してきた。英国についてはリーマン・ショック直後の
2008 年末に、景気対策として時限的に 2.5%ポイント税率を引き下げていたが、2010 年 1 月に元の
水準に戻し、さらに翌年に 2.5%ポイント引き上げている。
各国の付加価値税率の引き上げ前後の消費動向を見てみると、欧州諸国では、増税前の駆け込
み、その後の反動のいずれも、日本と比較して小さく抑えられている(図表 22)。増税の1四半期前を
見ると、日本では 14 年 4 月の増税に伴う駆け込みが前期比 2.2%3、反動が-5.2%である。一方、
比較的明確に駆け込みと反動が確認できるドイツ(2007 年 1 月)で駆け込みが前期比 1.7%、反動が
-2.1%と日本に比べて変動が小さい(図表 2 左)。水準で見ると(図表 2 右)、他国は増税前の消費
水準に戻るまでの所要時間が短い(概ね半年で元に戻る)一方で、日本は 2014 年 4 月の増税から 1
年以上経っても依然として増税前の水準に戻っていない。
図表 2 付加価値税増税前後の家計消費動向(日、独、英、西)
(2四半期前=100)
(前期比、%)
3.0
103
2.0
102
1.0
101
0.0
-1.0
100
-2.0
99
-3.0
98
-4.0
97
-5.0
(四半期)
(四半期)
96
-6.0
-2
-1
独(07/01、+3.0%)
0
1
英(10/01、+2.5%)
-2
2
西(10/07、+2.0%)
-1
0
日(97/04、+2.0%)
1
2
日(14/04、+3.0%)
(注)実質家計最終消費の推移を示している。
(資料)Eurostat
【駆け込み・反動の大きさの違いは価格転嫁の違い】
日本と欧州の駆け込み・反動の大きさの違いは、何によってもたらされているのであろうか。主な理
由は企業による価格転嫁率の違いだ4。
2
図表 2 では、2000 年以降に 2%以上の増税を実施した国を抽出した。ただし、2 年連続で付加価値増税を実施したこと
で実質賃金が下落し、目立った駆け込みが見られなかった英国(2011 年 1 月)と、深刻な不況の下で付加価値増税を実
施したスペイン(2012 年 9 月)を除外している。
3
我が国の消費増税前後の消費動向を詳細に振り返ると、14 年時は 2 月が大雪の影響で弱かったこともあり、3 月の消費
動向指数は、前月比 5.2%と高い伸びとなった。その結果、4 月は-8%を超える大きな反動減となった。
4
他のテクニカルな理由として 2 つある。1 つ目は欧州諸国ではそもそもの税率が高いので、増税による物価への直接的な
影響は小さいことである。例えば、増税前の付加価値税率が 0%であれば、1%の増税が物価に与える直接的な影響は
100→101 で、物価は 1%押し上げられる。対して、付加価値税率が 20%の状態では 1%の増税の影響は 120→121 と、
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各国の消費増税前後の物価動向を見てみよう。図表 3 と図表 4 にそれぞれ日本と欧州各国の税
込みの消費者物価指数(CPI、実線)と増税分を除いた税抜き(点線)を示した。図表 3 の日本の税抜
き CPI の前年比は、日銀推計による「増税分が価格にフル転嫁された場合の CPI 押し上げ効果」を
除外したものだ。このグラフからは、実際に増税分が価格にどの程度転嫁されたかは正確には分か
らないが、それでも税抜きの物価が増税前後でどのような動きをしているのかを見れば、転嫁の状況
が想像できる。ここでは、税抜き CPI が増税前後で殆ど変化していない。つまり、日本の企業は増税
による価格上昇(97 年は約 1.5%、14 年は約 2%)5の大半部分を消費者に価格転嫁した可能性が高
いと言えるだろう。一方、同様に欧州 3 ヵ国における付加価値増税時の税抜きの物価(図表 4 点線)
を見ると、いずれも低下しており、日本と大きく様相が異なっている。
図表 3 日本における消費増税前後の物価動向
(前年比、%)
4.0
3.5
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
(月次)
-6 -5 -4 -3 -2 -1
14/04(+3.0%)、税込み
0
同左、税抜き
1
2
3
4
5
6
97/04(+2.0%)、税込み
同左、税抜き
(注)消費者物価指数(総合)の推移。
(資料)総務省『消費者物価指数』
図表 4 欧州における付加価値税増税前後の物価動向
2.5
【ドイツ 07年1月 +3.0%】
(前年比、%)
税込み
税抜き
2.0
4.0
3.5
【英国 10年1月 +2.5%】
(前年比、%)
税込み
税抜き
3.0
2.5
2.5
1.5
【スペイン 10年7月 +2.0%】
(前年比、%)
3.5
税込み
税抜き
3.0
2.0
2.0
1.0
1.0
1.0
0.5
0.0
1.5
1.5
(月次)
-6 -5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5 6
(注)各国HICP(全品目)の推移。
(資料)Eurostat
0.5
0.5
(月次)
0.0
-6 -5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5 6
0.0
(月次)
-6 -5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5 6
日本の企業が増税による価格上昇の大半を消費者に転嫁できている背景として、政府による転嫁
対策が指摘できる。転嫁対策は、消費税の円滑かつ適正な転嫁を確保し、減額や買いたたき等の
行為を未然に防ぐことを目的としている。1989 年の消費税導入時には、中小零細の小売業者やサ
ービス業者が消費税を転嫁出来なかったとの指摘があった。つまり、本来は最終消費者に帰着する
物価上昇率は 0.83%に留まる。2 つ目は課税ベースの違いが標準税率の引き上げ幅に対する物価上昇率に影響するこ
とである。欧州諸国では、食料品等の生活必需品に標準税率より低い税率を課す「軽減税率」が普及しており、課税ベー
スが小さいため、税率引き上げが物価に与える直接的な影響も小さくなる。
5
日本銀行の金融経済月報(2014 年 3 月)によれば、消費税率引き上げの直接的な影響を受ける品目(課税ベース)は消
費者物価指数(総合、除く生鮮食品)に対するウエートで約 7 割である。
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はずの消費税負担を中小企業が一部被ることとなった6。その教訓を踏まえ、97 年時には公正取引
委員会が「消費税率の引上げ及び地方消費税の導入に伴う転嫁・表示に関する独占禁止法及び関
係法令の考え方」を作成、周知徹底等の取り組みを行った。さらに 14 年時には「転嫁対策特別措置
法(消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関す
る特別措置法)」が整備され、消費税の転嫁を阻害した企業を実名で公表する等、厳しい対応がとら
れた。その結果、14 年 9 月に行われた日本商工会議所の「中小企業における消費税の価格転嫁に
係る実態調査」によると 60.6%の事業者が「全て転嫁できている」、28.6%の事業者が「一部転嫁で
きている」と合計で約 9 割の事業者が「転嫁できている」状況となっている。加えて、14 年時には、そ
れまでの内税表示のみならず、外税表示をも可能としたため、多くの事業者が外税表示を選択する
こととなった。
一方、欧州における付加価値増税直後の物価動向を見てみると、ドイツ・英国ではそれぞれ、3%、
2.5%の増税があったにかかわらず、CPI上昇率は僅かに上昇した程度(0.5%ポイント以下)になっ
ている。スペインは 2%の増税があった一方で、税込みの物価上昇率は若干低下している。これは、
企業が増税分を消費者に転嫁せず自ら負担していることを意味する。増税の直接的な影響を除くと
3 ヵ国ともCPI上昇率は 1~2%程下落している(図表 4 の点線の税抜き)。2010、11 年と 2 年連続で
2.5%ずつ(15%→17.5%、17.5%→20%)引き上げた英国では、ONS(国家統計局)(2011)の推計7
によると、付加価値税 2.5%のうちCPIに転嫁されたのはそれぞれ 0.4%ポイント、0.76%ポイントと低
い。ドイツの 2007 年時の付加価値税の価格転嫁率は、Carare and Danninger(2008)の推計によると
累積で 73%である。
しかし、増税前の物価動向を見てみると、3 ヵ国とも共通して上昇傾向にあった。森信(2014)が指
摘しているように、欧州では税率引き上げが決まると、増税前から徐々に価格を改定していく。特に、
売れ筋商品の価格を高く引き上げ、そうでないものは価格を据え置くなど、一律に価格を引き上げる
のではなく、全体として売り上げとマージンを確保できるよう増税分を家計に転嫁していく。すなわち、
欧州では、消費税はコストの一部として認識されており、増税時に一気に転嫁するのではなく、転嫁
しやすいものから徐々に価格を引き上げていくといった方法がとられている。因みに Carare and
Danninger(2008)も、ドイツの 2007 年の増税時の駆け込み期に耐久財の物価が上昇していたことを
指摘している。彼らの分析では先の付加価値税の価格転嫁率 73%のうち、24%が 2006 年に、残り
の 49%は増税のあった 2007 年に転嫁された模様だ。駆け込みが発生する増税前の時点から価格
が引き上げられれば、当然駆け込み需要は小さくなる。事業者の立場からすれば、そこで十分に収
益を稼げば、その後の反動に耐える蓄えが得られる。
【わが国の日次物価は駆け込み期に下落】
それでは日本の場合、増税前の物価動向はどのような状況であったのだろうか。以下では総務省
が公表する「消費者物価指数」(CPI)だけではなく、「日経・東大日次物価指数」を考察する。CPI は
各品目の毎月の価格変動を捉える目的で作成されおり、特売価格の情報が反映されないためだ。
調査日が特売日の場合は、調査日に最も近い通常の日の価格が調査される8。そのため、増税前の
駆け込み需要時には各所でセールが行われていたが、CPI にはこうした動きが反映されない。しかし、
消費増税など、一時的なイベント時に家計の消費行動に影響を与えるのは、基調的な物価動向で
はなく、実際に商品を購入する際に消費者が直面する物価だ。
6
ここでの議論は加藤(2012)を参考にした。
7
Office for National Statistics(2011)”Impact of the VAT increase on the CPI”
8
特売が 8 日以上続く場合は、特売時の価格を調査することとしている。
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図表 5 の左、中央に 97 年と 14 年の消費増税前の駆け込み需要時の日経・東大日次物価指数を
見ると、増税 1 ヵ月前に大きく下落していることが分かる。さらに CPI から日経・東大日次物価指数が
採用している品目を取り出して作成した指数と比べてみるとおおよそ 1~1.5%ほど低い9。つまり我
が国の増税前には、CPI では捉えられない物価下落が駆け込みを煽っていた可能性がある10。
図表 5 増税前後における日経・東大日次物価指数と CPI
2.0
(前年比、%)
日経・東大日次物価指数
(7日間移動平均)
CPI(日経・東大日次物価指数ベース)
1.5
(前年比、%)
5.0
(前年比、%)
1.0
2.5
1.0
0.5
0.0
0.0
0.0
-0.5
-2.5
-1.0
-1.0
(日次/月次)
(日次/月次)
-2.0
-1.5
97/01 97/02 97/03 97/04 97/05 月
14/01 14/02 14/03 14/04 14/05 月
(注)データは15年4月3日まで。97年、14年は消費増税の直接的な影響除く。
(資料)総務省『消費者物価指数』、日本経済新聞社『日経・東大日次物価指数』
-5.0
95/01
(日次/月次)
00/01
05/01
10/01 15/04月
15/01
以上をまとめると、日本が増税前に駆け込み需要を取り込むべく価格を引き下げ、増税時に一気
に価格転嫁を行っている一方で、欧州諸国は、増税前から価格を引き上げ、増税後に需要動向を
睨みながら税抜きベースで価格を引き下げている。どれだけ税率が上がったとしても、税込みの物価、
すなわち消費者が直面する物価が変わらなければ消費に対する影響は中立だ。欧州では、こうした
物価動向のため我が国と比べて増税前後の駆け込み・反動が小さいと考えられる。
【着実な財政再建を行うための増税】
我が国と比べて欧州諸国の消費増税時の駆け込みと反動が小さいのは、消費増税前から徐々に
価格を引き上げ、増税時には企業が増税分を消費者に転嫁せず負担しているためである。つまり、
駆け込み期の需要増に応じて価格を引き上げ、反動期の需要減を防ぐため価格を引き下げるなど、
需給に応じた価格設定を行っている。他方で、日本では「転嫁対策特別措置法」など、政府による転
嫁対策が存在するため増税時に短期間で一気に価格転嫁を行う。さらに日次物価が示すように、増
税前の駆け込み時にセールなどにより価格を引き下げるため、駆け込みと反動が相対的に大きくな
る。
欧州方式は、増税後に価格転嫁が難しく、事業者の収益が圧迫されるとの批判がありそうだが、日
本方式でも増税後の反動が長引けば、事業者の収益はそれ以上に圧迫されることとなる。また、転
9
渡辺・渡辺(2013)に記載されている日経 POS データの 3 桁分類を参考に、消費者物価指数の品目別価格指数(全国)
から該当する品目の価格変動を、同ウエート情報を用いて加重平均した。日経・東大日次物価指数で採用している品目
は消費者物価指数がカバーする品目(ウエートベース)の約 17%を占める。日経・東大日次物価指数は日本全国約 300
のスーパーで扱う全ての商品(食料品や日用雑貨など 20 万点超)を対象としているのに対し、消費者物価指数はその基
礎統計である小売物価統計調査による全国 167 の市町村での調査に基づく 587 品目を採用している。2 つの物価指数の
調査ベースは異なるにもかかわらず、長期的な動向をみると概ね一致している(図表 5 右)
10
また、日経・東大日次物価指数は販売数量に応じたウエートで指数を作成しているのに対し、消費者物価指数のウエー
トは基準年から 5 年間据え置かれる。変動ウエート下では一般的に、ある財の価格が下落すると、それに伴って購入量が
増加するため、指数のウエート拡大を通じて物価をより押し下げる圧力がかかる。他方で固定ウエート下では、財の価格
が下落(上昇)してもウエートが変わらないため、価格の下方(上方)硬直性が存在することが知られている。
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経済百葉箱 2015.04.08
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嫁対策特別措置法は、中小事業者が、大規模小売業者からの不当な圧力により、増税分を価格に
転嫁できないことを防ぐことが主たる目的だが、欧州ではそうした特別法に依らずとも、インボイス方
式により、消費税分が明確に切り分けられることで、事業者間の転嫁は確実にできるようになってい
る(消費税分は益税が発生することなく納税され、仕入れ先はその分を税額控除できる)。インボイス
方式は、軽減税率を導入する際には、品目毎に異なる税率を正しく認識するためにどのみち不可欠
な枠組みだ。この際、次回の増税では、インボイス方式を導入すると同時に、転嫁対策特別措置法
を撤回してはどうか。
それが難しい場合には、「転嫁対策特別措置法」など政府による転嫁対策で確実に物価が上昇
する日本では、消費増税を小幅で小刻みに行うこと11により、景気変動を最小限に抑えることが望ま
しいのではないか12。
<参考文献>
加藤慶一(2012)「消費税の転嫁に関する議論-消費税をめぐる論点④」『調査と月報』第 759 号
日本経済研究センター(2014)「消費再増税「1%ずつ」検討を」2014 年 10 月
森信茂樹(2014)「『経済教室』消費増税の課題㊤ 価格の一斉改定、日本特有」『日本経済新聞』
2014 年 2 月 24 日
渡辺公太、渡辺努(2013)「スキャナーデータを用いた日次物価指数の計測」、CARF ワーキングペ
ーパー
Carare, A. and Danninger, S.(2008)“Inflation Smoothing and the Modest Effect of VAT in Germany”
IMF Working Paper, WP/08/175
Office for National Statistics (2011) “Impact of the VAT increase on the CPI”
高野 哲彰、研究員、日本経済研究センター
菊池 紘平、2014 年度研究生、三井住友銀行より派遣
井上 里菜、2014 年度研究生、アフラックより派遣
(本稿に関するお問い合わせ:予測・研修グループ 03-6256-7730)
※本稿の無断転載を禁じます。詳細は総務本部までご照会ください。
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11
1%ずつ引き上げると企業の事務負担が大きいとも言われるが、実際に声を聞くと、1%ずつ上げるかどうかよりも、総額
表示か税別表示かを切り替える方が巨額のシステム改修を要するとの指摘(食品スーパー大手)がある。システム開発大
手も、税率の引き上げだけなら、大きな手直しは不要と述べている(日本経済研究センター(2014)による)。
12
日本経済研究センター(2014)では景気の振れを最小限にするために、15 年 10 月に消費税率を 10%まで増税する際
に、一度に 2%引き上げるのではなく、1%ずつ引き上げることが提案されている。
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