EY Institute 10 March 2016 シリーズ:企業価値向上のためのコーポレートガバナンス 取締役会が担うべき監督機能とは? ~欧米企業のベスト・プラクティスを踏まえて 執 筆 者 EY 総合研究所では、「シリーズ:企業価値向上のためのコーポレートガバナンス」 として関連する情報を発信している。本稿では、取締役会が担うべき監督機能を取り 上げる。 はじめに 2015 年 12 月をもって新書式によるコーポレートガバナンス(CG)報告書の提 出という CG コードへの初期対応がおおむね一巡※ 1 した。安倍政権誕生以降、矢継 ぎ早に CG 強化のための政策が打ち出されてきたが、これをもって政策対応としての 取り組みを終えたことになる。今後は企業が独自の CG を構築するための取り組みが 深澤 寛晴 本格化することが期待されている。 独自の CG を検討する中で多くの企業で浮上している課題が、取締役会が担うべき EY 総合研究所株式会社 未来経営研究部 上席主任研究員 <専門分野> • コーポレートファイナンス • 財務経営 機能だ。CG コードは取締役会の監督機能の強化を求めている(詳細は後述)が、そ もそも監督機能とは何か、という問いに対して CG コードには何も書かれていない。 今回は、EY 総合研究所が行った欧米企業の CG に関する調査※ 2 を参照しつつ、取 締役会の監督機能について考える。 CG コードの要請は監督機能の強化 CG コードは第 4 章の「取締役会等の責務」で取締役会が担うべき機能についてさ まざまな記載をしているが、取締役会の監督機能に関連する内容が少なくない<図 1 >。特に原則 4-3 において「実効性の高い監督」が取締役会の主要な役割・責務の 一つであることを明記するなど、全般的に監督機能の強化を促す内容になっている。 後述の通り、欧米企業では監督機能に特化したモニタリング・ボードが主流となって Contact EY 総合研究所株式会社 03 3503 2512 [email protected] いるが、CG コードはこれを意識した内容と言える。一方で原則 4-8 では独立社外 取締役は 2 名以上、あるいは 3 分の 1 以上とするにとどめており、欧米の主要企業※ 3 のように大半を独立社外取締役※ 4 が占めるところまでは要求していない。すなわち、 執行機能を担う社内取締役が多くを占める、日本特有のマネジメント・ボードも否定 していない。 このように、CG コードは監督機能の強化を促す一方で、執行機能に軸足を置くマネジメント・ ボードの枠内で監督機能の強化に取り組むのか、モニタリング・ボードへの移行を目指すのかにつ いては企業側の判断に委ねている。以下、監督機能とは何か、から議論を始めよう。 図 1 CG コード第 4 章:監督と執行に関連する原則 CG コードの各原則 取締役会の役割・責務(原則 4-1,2,3) 会社の目指すところを確立し、戦略的な方向付け 経営陣への委任の範囲を明確化 経営陣幹部による適切なリスクテイクを支える環境整備 独立した客観的な立場において多角的かつ十分な検討 経営陣の報酬によるインセンティブ付け 実効性の高い監督を行うことが主要な役割 • • • • • • 経営の監督と執行(原則 4-6) • 独立かつ客観的な経営の実効性を確保すべく、非執行取締役を活用 独立社外取締役の役割・責務(原則 4-7) • 経営の方針や経営改善についての助言 • 経営陣幹部の選解任等を通じた経営の 監督 • 独立社外者のみの会合、筆頭独立取締役の決定 独立社外取締役の有効な活用(原則 4-8) • 独立社外取締役を少なくとも 2 名以上 • 自主的な判断により 1/3 以上 • 独立社外者のみの会合 • 筆頭独立社外取締役 任意の仕組みの活用(原則 4-10) • 指名・報酬に関する諮問委員会の設置 実効性確保の前提条件(原則 4-11) • 知識・経験・能力を全体としてバランスよく備え多様性と適正規模を両立 出典:EY 総合研究所作成 監督機能とは何か 欧米企業の取締役会は大半を独立社外取締役が占めるなど、監督に特化したモニタリング・ボー ドとして設計され、機能している。これに範を取ると、監督機能とは何か、という問いは、欧米企 業の取締役会がどのように機能しているか、といった問いに置き換えて考えることができる。詳細 は後述するが、欧米企業の取締役会の機能は経営の執行に対する PDCA(プラン - ドゥ - チェッ ク - アクション)の中で整理すると分かりやすい。 <図 2-1, 2-2 >は英国の大手製薬企業(以下、英国 A 社※ 5)およびフランスの大手金融機関(以 下、フランス Y 社)の取締役会の 2014 年における活動状況に関する開示の概要だ。同図に示す 「レビュー」 「アップデー 通り、英国 A 社は三つのカテゴリーに分けて開示している。これを見ると、 ト」「報告」といった、既に行われた事項に対応した活動を示す表現が目立つ。執行機能が行った 事項について、取締役会がチェックする機能を果たしたことを示す内容と言える。また、戦略の欄 に「取締役会及び経営陣による戦略ミーティング」とある点も注目される。同ミーティングの成果 のレビューとしているから、正式な取締役会とは異なる場で取締役会と経営陣が共同で同社の戦略 について議論したと考えられる。このような議論は過去に行った事項ではなく、将来に行う事項に 関する内容だからチェック機能ではなくプラン機能と位置付けられる。 EY Institute 2 取締役会が担うべき監督機能とは? ∼欧米企業のベスト・プラクティスを踏まえて 図 2-1 取締役会の活動:英国 A 社 戦略 • 2014-16 年の計画の承認 • GMS(Global Manufacturing & Supply)の業績のレビュー及び戦略の アップデート •‘Deep Dive’- パイプラインの開始、イ ンド(‘Deep Dive’は特定のテーマにつ いて詳細なレビュー。前年より開始) • • • • • 特許保護 • 人材及びリーダーシップ開発戦略のレ ビュー 2015-17 年の計画のレビュー • 信用力と分配方針 調達戦略と財務方針 取締役会およびリスクの監視 ガバナンス • 2013 年の財務成績のレビュー • 2013 年の取締役会 と 2014 年の見通し • • • 監査人の再任 • 研究開発・北米製薬年次アップ デート • 欧州年次アップデート 当該年度の財務状況のレビュー 新興国・アジア太平洋地域及び ワクチン事業の年次レビュー 年金戦略・保険戦略のレビュー に対する内部評価報 告のレビュー • 総務役による報告 • 株主総会の準備 • M&A 案件について 株主による承認手続 き • 2014 年の取締役会 に対する外部評価報 告のレビュー 取締役会及び経営陣による戦略ミーティン グの成果のレビュー 出典:同社年次報告書より EY 総合研究所作成 図 2-2 取締役会の活動:フランス Y 社 ガバナンス • 財務諸表の承認 • CEO の業績評価及び 報酬の設定 • パフォーマンス・シェ ア等の承認 • 株主総会に提出される 決議事項の準備 • • 後継者計画を議論 取締役会の運営につい てレビュー ガバナンス以外 • 予算の検証 • M&A についての議論と重要な案件について条件の承認 • 規制上の要請の観点から、流動性の状況と資本トレンドを継続的にモニター • 2 日間のセミナーで同社のポジショニング、環境及び発展についてレビュー • リスク・エクスポージャーの現状をレビューし、リスク・アペタイトとリスク・ マッピングを議論。市場リスクの制限を承認 • • 規制の変更とその影響についての報告 • • ストレステスト及び資産査定の結果について報告 リスクと内部統制について当局に提出した年次報告書及び当局からのフォ ロー・アップのレビュー 取締役会が取り組んだ主なトピック及び問題:IR(Investor Day)の準備、 規制の変更、情報システム、再生・破綻処理計画、オフショアリング、法令遵 守、人材、証券サービス・ビジネス、国際リテール・バンキング、投資銀行戦 略、保険事業、グループのイメージ 出典:同社年次報告書より EY 総合研究所作成 (注)図 2-1 に倣い、EY 総合研究所の判断によりガバナンスとガバナンス以外に分けている。 EY Institute 3 取締役会が担うべき監督機能とは? ∼欧米企業のベスト・プラクティスを踏まえて フランス Y 社についても同様の整理ができる。英国 A 社と異なり、同社は取締役会の活動につ いてカテゴリー分けをしていないが、同図では英国 A 社に倣ってガバナンスとそれ以外に分けて 示している。「モニター」「承認」「レビュー」「報告」が多く見られるが、これらはチェック機能と して位置付けられる。ただし、 「2 日間のセミナーで同社のポジショニング、環境及び発展につい 4 4 4 4 てレビュー」とあるが、これは過去に起こった事項のチェックではなく、これから行う事項に関す る内容と見られることからプラン機能と位置付ける方が自然だろう。 取締役会が過去に行われた事項に対するチェック機能だけでなく、将来についてのプラン機能に も関与するといった活動は上記 2 社に限った話ではない。スイス A 社は上記 2 社のような詳細な 開示は行っていないものの、「主な議題」としてパイプラインの更新、M&A、および戦略等を挙 げており、特に戦略に特化したミーティングを通常の取締役会とは別に 2 日間かけて行っている。 同様に、ドイツ X 社は取締役会において「事業活動について集中的に取り組む」機会があったこ とを示しており、英国 B 社は公式年次戦略レビュー・デイを実施している。米国企業では取締役 会の活動に関する開示が乏しく実情は明らかでないが、取締役会傘下の委員会に関する開示でプラ ン機能に近い内容が見られる。米国 A 社の科学・技術・持続可能性委員会は R&D に関する全体 的な戦略、方向性および有効性についての監視・レビュー等を行い、米国 B 社の科学技術委員会 は R&D や技術面のイニシアチブについて経営陣の戦略的な方向性や投資を定期的に検証したこと 示している。 取締役会によるプラン機能への関与は CG コードが目指す「攻めのガバナンス※ 6」に通じるも のがある。リスクの回避・抑制や不祥事の防止といった、いわば「守りのガバナンス」によるチェッ クではプランを実行(ドゥ)する段階で経営陣が悪いことをしていないか、あるいはそれを防ぐ仕 組みがあるか、といった内容が中心となるが、「攻めのガバナンス」におけるチェックの対象は経 営陣による企業価値向上のための将来の取り組みだ。これをチェックするには取り組みがどのよう な戦略等に基づいて行われたのかを十分に理解する必要がある。戦略等を理解するにはそれを策定 する段階、すなわちプラン段階から関与する方が効果的だ。また、プラン段階から関与していれば、 チェックを踏まえた適切なアクションを促すこともできよう※ 7。 取締役会による監督機能の要諦は、プランおよびチェックへの関与を通じて業務執行に関する PDCA を機能させることにある、と結論付けられる。執行機能を担う経営陣のみによって構成さ れる取締役会が、自らのプラン - ドゥをチェックし、アクションを促すのは困難なケースが想定さ れる。独立社外取締役の設置・増員が求められる背景には、このような、欧米企業のプラクティス に裏打ちされたロジックがあると言える。 EY Institute 4 取締役会が担うべき監督機能とは? ∼欧米企業のベスト・プラクティスを踏まえて 監督機能に求められるプランとは? ①構成要素 監督機能に求められるプランとはどのようなものだろうか。欧米企業では役員報酬がプランに対 するコミットメントとして機能するよう設計されているため、役員報酬の内容に関する開示を通し てプランをうかがい知ることができる。 <図 3 >はスイス A 社※ 8 の最高経営責任者(CEO)に対する役員報酬の体系だ。 測定指標が数多く示されているが、これらは以下四つに分けることができる※ 9。 ① 短期的な成果:売上、純利益、FCF、および EPS 等 ② 長期的な成果:現金付加価値、相対 TSR ③ 長期的な取り組みについてのマイルストーン:革新・成長、ポートフォリオ・レビュー、 および組織・品質・顧客満足・シナジー ④ リスク管理指標:組織・品質・顧客満足および価値・行動(一部は③と重複) 長期にフォーカスすると、取り組み(③)の先に「目指す姿」があり、それを実現した場合に期 待される財務・株価数値が成果(②)と位置付けることができよう。短期で「目指す姿」はすぐに 成果(①)に結びつくため、取り組みを含める必要がないと考えられる。また、④についてはこれ との対比で「目指さない姿」の顕在化を想定し、それを予防するための管理指標と表現できる。こ れより、プランの構成要素は以下三つに整理できる。 (1)目指す姿(上記①②はその成果) (2)目指さない姿(上記④はその顕在化を想定) (3)(1)を実現する((2)を実現しない)ための取り組み(上記③の前提) 図 3 役員報酬:スイス A 社 変動報酬 固定報酬 年次 年金 基礎報酬 等 目的 年次 インセンティブ 重要な短期目標に対する業績や 長期的な株主価値の創造 相対的な株主収益に 価値・行動に報いる や長期的な革新に報いる 報いる 1年 期間 測定指標 長期相対 業績プラン 長期業績プラン • 財務・革新:売上、純利益、FCF(売 上比)、革新 • 個人目標:EPS 等、革新・成長、 ポートフォリオ・レビュー、組織・ 品質・顧客満足・シナジー • 価値・行動 3年 • • 3年 現金付加価値 各部門の長期的な革新につ いてのマイルストーン • 競合他社に対する 相対 TSR 現金 / 株式 現金 50%/ 株式 50% (3 年間保有) 株式 100% 株式 100% 基礎報酬比 % 100%(0%-200%) 200%(0%-200%) 100%(0%-200%) 出典: 同社年次報告書より EY 総合研究所作成 (注) FCF:フリー・キャッシュフロー、EPS:1 株当り利益、現金付加価値: 営業利益+償却費用 ‐ 税金 ‐ 営業資産に対 する資本コストにより算出、TSR:株式総利回り(インカム・ゲイン+キャピタル・ゲイン) EY Institute 5 取締役会が担うべき監督機能とは? ∼欧米企業のベスト・プラクティスを踏まえて 監督機能に求められるプランとは? ②時間軸と外部環境 プランを経営陣が実行(ドゥ)した後、取締役会の仕事はチェックに移る。チェック機能をスムー ズに行えるようなプランであることも重要な要件と言える。具体的には時間軸と外部環境の二つだ。 まずは時間軸から考えてみよう。中長期の取り組みについては短期的な成果を期待するものではな いため、チェック段階での進 捗 管理は容易ではない。そこで、時間軸を明確にしたマイルストー ンを設定しておく必要がある。前節のスイス A 社の役員報酬の事例では、長期的な取り組みにつ いて年次のマイルストーン(上記③)を設定していることが、時間軸に対する同社の意識の高さを 反映していると言える。 外部環境については、プランの進捗が芳しくないケースで考えてみよう。役員報酬の決定だけで なく、必要なアクションを検討するためにも、それが執行機能における努力不足によるものか、外 部環境の変化によるものかを見極めることが重要となる。スイス A 社の場合、短期的な成果(上 記①)を実際に評価する際には為替変動を除いた数値に基づいて行うなど、外部環境に対する配慮 を行っている。また、同社を含む欧米の主要企業は独立社外取締役により構成される報酬委員会を 設置しているため、外部環境について想定外の事態が生じた場合でも透明かつ公正な手続きにより 報酬を調整する体制が整っている。外部環境が思い通りにいかないことを見越した手当てがなされ ていると言えよう。ここまでの議論を踏まえると、監督機能とは<図 4 >のように示すことがで きる。 日本企業の役員報酬を見る限り、業績連動報酬は単年度の営業利益や純利益等の短期的な指標を 参照するにとどまり、長期志向を標榜する日本的経営の取り組みを反映しているとは言い難いケー スが多い。外部環境の変化を想定した対応(例えば、成果を表す数値の調整や独立社外取締役中心 の報酬委員会の設置)についても、進んでいる企業は少数派なのが現実だろう。監督・執行機能で は時間軸や外部環境に対して高い意識を持っているが、それを役員報酬には反映させていない、と いうことであれば役員報酬の未整備という問題にとどまる。しかし、実際にそのような意識が低い ために時間軸や外部環境への対応が役員報酬に反映されていない、ということであればプランを再 点検する必要があると言えよう。 図 4 監督機能(イメージ) さない姿 リスク管理 時間軸を整理 【Plan】 (2)目指 現状 (今日の姿) 【Plan】(3)取り組み 【Plan】 (1)長期的に 目指す姿 【Plan】 (3)取り組み 【Plan】 (1)短期的に 目指す姿 外部環境 【Check】 ► ► 短期的な取り組み=成果 長期的な取り組み=マイルストーン 出典:EY 総合研究所作成 (注)目指さない姿に関連する取り組み等は省略 EY Institute 6 取締役会が担うべき監督機能とは? ∼欧米企業のベスト・プラクティスを踏まえて 日本企業の課題:株主の視点 前節ではプランにおいて時間軸や外部環境に対する意識の重要性を指摘すると同時に、それが日 本企業の課題となっている可能性を指摘した。ここでは、もう 1 点、日本企業の課題を指摘する。 監督機能を果たす際の視点だ。 生命保険協会が行ったアンケートの結果<図 5 >を見ると、日本企業の意識が高いのは「製品 やサービスの競争力強化・高付加価値化」「事業規模・シェアの拡大」「コスト削減」といった、個 別事業の売上や費用にフォーカスした項目だ。一方で投資家の意識の高い「投資採算を重視した投 資」「事業の選択と集中」「余剰資金の株主還元」といった、個別事業の枠を越えた投資や財務に関 する項目への関心は低くなっている。ここで言う企業とは経営陣、すなわち執行機能と考えられる が、執行機能が投資家と視点を共有できていない状態で、監督機能が株主の視点から行われている とは考えにくい。CG コードが基本原則 4 において取締役会の株主に対する受託者責任・説明責任 に言及していることから、取締役会による監督機能は株主の視点から行われるべきと言えるが、上 記を見る限り、日本企業においてこの視点が十分とは言い難いのが実際のようだ。 図 5 企業と投資家の視点の違い 90% 80% 70% 60% 50% 40% 30% 20% 10% 余剰資金の 株主への還元 企業の意識 事業の 選択と集中 投資採算を 重視した投資 コスト削減の 推進 事業規模・ シェアの拡大 製品やサービスの 競争力強化・ 高付加価値化 0% 投資家の意識 出典:平成 26 年度 生命保険協会調査より EY 総合研究所作成 欧米企業の事例を見てみよう。ドイツ A 社の取締役会の活動に関する開示が分かりやすい<図 6 >。「M&A 案件」「提携」「事業の分離」「研究開発」といったキーワードが目立つ。製薬という 事業特性を考えると、M&A や提携だけでなく研究開発も投資の重要な柱の一つであろう。事業の 分離は投資資金の回収であり財務と位置付けられる。また、M&A、提携、および事業の分離は明 らかに個別事業の枠を越える内容だ。同社の取締役会は、個別事業の枠を越えた投資や財務といっ た株主・投資家の意識を反映した視点から監督機能を果たしていると言えよう。 図 6 取締役会の活動:ドイツ A 社 ガバナンス • • • • ガバナンス以外 株主総会の議題について議論 役員報酬について議論 株主総会について議論 取締役会及び経営陣に関連する事項につ いて議論(CEO との契約延長等) • • CG コードについての宣誓を承認 • 特定の M&A 案件について議論、承認 • 戦略的な提携にフォーカス • 特定の事業の分離についての提案を承認 • 2015-17 の事業運営、財務及び資産負債構成について経営 陣よりプレゼンテーション • 製薬に関する研究開発のトレンドについて議論 • 2013 年年次報告書について議論 • リスク管理体系を議論 • 第 1 四半期の事業展開をレビュー 役員報酬の定期レビュー 出典:同社年次報告書より EY 総合研究所作成 (注)図 2-1 に倣い、EY 総合研究所の判断によりガバナンスとガバナンス以外に分けている。 EY Institute 7 取締役会が担うべき監督機能とは? ∼欧米企業のベスト・プラクティスを踏まえて 個別事業の売上や費用といった視点は執行機能の現場に近い視点であり、事業に詳しくない独立 社外取締役がこの視点から議論に貢献するのは困難だ。一方、株主の視点は株主・投資家が企業を 外から見る視点だ。日本企業の取締役会の議論が株主の視点から行われるのであれば、独立社外取 締役が議論に貢献する余地は大きく広がるのではないだろうか。CG コードが求める受託者責任・ 説明責任を果たすため、さらには独立社外取締役の活躍を促進するためには、取締役会に株主の視 点を取り入れることが重要と言えよう。 前節と合わせると、プランに求められる理想形を目指す姿と取り組みにフォーカスして示すと、 <図 7 >のようになろう。 図 7 目指す姿と取り組み ► 日本企業が陥りがち(イメージ) 外部環境 個別事業の枠を 超えた投資 の視点 (株主の視点) ► 認識・前提は不明確 ► 外部環境との 関係は不明確 ► 理想形(イメージ) 外部環境 ► 認識・前提を明示 個別事業の枠を 超えた投資 の視点 (株主の視点) 【目指す姿と取り組み】 【目指す姿と取り組み】 個別事業の 売上・費用 の視点 ► 個別事業に偏りがち ► 時間軸が曖昧。 マイルストーンなし 短期 中期 時間軸 長期 個別事業の 売上・費用 の視点 ► 両方の視点を取り入れ、 一貫した内容 ► 時間軸を明確に区別し、 マイルストーンを設定 ► 外部環境に関する認識・ 前提と整合的 短期 中期 長期 時間軸 出典:EY 総合研究所作成 EY Institute 8 取締役会が担うべき監督機能とは? ∼欧米企業のベスト・プラクティスを踏まえて むすび 今回は取締役会の監督機能について議論した。結論をまとめると、以下の通りだ。なお、前提と して、必ずしも「監督機能の強化=モニタリング・ボードへの移行」ではなく、マネジメント・ボー ドの現状を維持したまま取り組むことも選択肢であることを付言しておく。 【取締役会が担うべき監督機能とは】 プラン及びチェックを通じ、業務執行に関する PDCA を機能させること。 以下 3 点に注意が必要。 ① プランは目指す姿、目指さない姿、及び取り組みを含むこと ② 時間軸・外部環境を意識すること ③ 株主の視点に立つこと 取締役会の監督機能強化に向け、企業としてはどのように取り組むべきか。まずは取締役会にお いて監督機能の考え方およびその強化という方向性を共有する。続いて自社における監督機能の現 状を点検した上で、(モニタリング・ボードかマネジメント・ボードかを含む)取締役会としての 目指す姿を明らかにし、これを実現するための課題や取り組みを明らかにする。これは取締役会自 体の PDCA であり、継続的に実施することは、すなわち CG コード原則 4-11 が要求する取締役 会の実効性に関する分析・評価に他ならない。 冒頭で述べた通り、今後は企業が独自の CG を構築するための取り組みが本格化することが期 待されている。<図 8 >に示す通り、取締役会の監督機能は原則 4-11 以外にもさまざまな原則・ 補充原則と密接な関係があり、本格的な対応を行う上では避けて通れないテーマだ。早い段階で対 応し、社内のコンセンサスを得ることができれば CG コードの各原則を含むさまざまな課題への対 応がスムーズに進むことが期待される。その際に、本稿がヒントになれば幸いである。 図 8 CG コードの各(補充)原則と監督機能 CG コード • • • • • • • • • • • • • • • • • • • • 原則 1-3 原則 1-4 原則 4-1 ② 原則 5-2 原則 3-1(ii) 補充原則 4-1 ① 補充原則 3-2 ② (iii) 補充原則 4-3 ② 原則 4-4 原則 4-2 補充原則 4-3 ① 原則 4-7 原則 4-8 補充原則 4-8 ① 補充原則 4-8 ② 補充原則 4-10 ① 原則 4-11 原則 4-11 ② 原則 4-14 補充原則 4-14 ② 内容 監督機能との関連 • • 政策保有株式 • 中計へのコミットメント • 株主との対話 • CG に関する基本方針 • 委任の範囲 • 会計監査人と監査役、内部監査部門、 •「目指す姿」等を反映した資本政策 • 資本政策と整合的な政策保有の方針等 • PDCA が機能することで説明責任を果たす •「目指す姿」等に基づく対話 資本政策 社外取締役との連携 • • • • • • • • • 内部統制・リスク管理体制 • • • •「目指さない姿」の見直し •「目指さない姿」を踏まえた内部統制・リ スク管理・監査体制の点検 監査役(会)の役割・責務 役員報酬によるインセンティブ付け 経営陣幹部の選解任 独立社外取締役の役割・責務 監督機能に関する考え方と整合的な基本 方針や委任の範囲 •「目指す姿」等を反映した人事評価 • 監督機能の主たる担い手として、独立社 外取締役に期待する役割を点検 • 上記役割を発揮するために必要な会議体 や組織の検討 取締役の実効性の分析・評価 • 本文参照 役員トレーニング • 監督機能を担う取締役会のメンバーとし て、求められる資質を点検 独立社外取締役の有効活用 独立社外者のみの会合 筆頭独立社外取締役 任意の指名・報酬委員会 出典:EY 総合研究所作成 EY Institute 9 取締役会が担うべき監督機能とは? ∼欧米企業のベスト・プラクティスを踏まえて EY | Assurance | Tax | Transactions | Advisory EY について EY は、アシュアランス、税務、トランザクション およびアドバイザリーなどの分野における世界的 なリーダーです。私たちの深い洞察と高品質なサー ビスは、世界中の資本市場や経済活動に信頼をも たらします。私たちはさまざまなステークホルダー の期待に応えるチームを率いるリーダーを生み出 していきます。そうすることで、構成員、クライ アント、そして地域社会のために、より良い社会 の構築に貢献します。 ※ 1 東証のルールに基づき、6 月に株主総会を行った上場企業は 12 月までに CG コード対応を含む新書式の CG 報告書を提 出しなければならない。 ※ 2 詳細は拙著「日本企業が目指すべきコーポレートガバナンス∼欧米企業の事例調査から得られる示唆∼」 (http://eyi.eyjapan.jp/knowledge/future-business-management/2015-10-07.html)を参照。 ※ 3 前掲拙著(注 2 を参照)の調査対象企業を想定。以下、同様。 EY とは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバ ル・リミテッドのグローバル・ネットワークであ り、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、 各メンバーファームは法的に独立した組織です。 アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミ テッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客 サービスは提供していません。詳しくは、ey.com をご覧ください。 ※ 4 欧米企業では取締役について社内・社外の区別は一般的ではないが、便宜上、本文中では日本の呼称を援用する。 ※ 5 社名は前掲拙著(注 2 を参照)に従う。同著では各国の製薬及び金融の時価総額上位企業を対象に調査を行っており、製 薬は時価総額の順に A 社・B 社、金融は同 X 社・Y 社としている。 ※6 ※ 7 プラン段階での関与を通じてそれに伴うリスクを抽出できれば、守りのガバナンスにも貢献しよう。 ※ 8 前掲拙著(注 2 参照)では役員報酬において参照する指標について、同社を含む、より多くの事例を紹介している。是非、 参照されたい。 ※9 EY 総合研究所株式会社について CG コードは序文において「説明責任を果たすことを含め会社の意思決定の透明性・公正性を担保しつつ、これを前提と した会社の迅速・果断な意思決定を促すことを通じて、いわば「攻めのガバナンス」の実現を目指す」としている。 CG コード原則 4.2 は役員報酬について「中長期的な業績や潜在的なリスクを反映」させることを求めているが、上記で は②及び③が中長期的な業績、④が潜在的なリスクに該当する。同社の役員報酬は CG コードの同原則を高い水準でコン プライしていると言えよう。 EY 総合研究所株式会社は、EY グローバルネット ワークを通じ、さまざまな業界で実務経験を積ん だプロフェッショナルが、多様な視点から先進的 なナレッジの発信と経済・産業・ビジネス・パブリッ クに関する調査及び提言をしています。常に変化 する社会・ビジネス環境に応じ、時代の要請する テーマを取り上げ、イノベーションを促す社会の 実現に貢献します。詳しくは、eyi.eyjapan.jp を ご覧ください。 © 2016 Ernst & Young Institute Co., Ltd. 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