150826 document

ケアエコノミーへの投資に関する報告
概略
公的投資を増やすことは、雇用と経済成長を刺激し、近年の緊縮政策より効果的に不況から脱する
手段を提供する。
本報告は社会インフラ(基盤)および物理的なインフラに公的投資をする重要性を理論づけて説明
している。社会インフラ(基盤)とは、教育、ケア(育児介護)、ヘルスサービスなどを意味する
が、本報告では具体的に高齢者や障がい者、就学年齢未満の子どもたちのケアをする社会的ケア関
連活動を指す。この社会インフラ(基盤)の考えはケアサービスやその技術を提供する労働力、彼
らが働く建物や施設も含む。物理的インフラとは、建設部門、住宅建設、道路、鉄道のような建設
業を指し、不況期に雇用を生む、いわゆる一般的な公的投資である。
失業率の高い、あるいは失業の蔓延している時期に行う公的投資は、ケインズのマクロ経済理論に
由来する。議論の中心となるのは、失業や不完全雇用は経済の有効需要が欠如しているためであり、
需要の欠如は、商品の市場がないことによる民間投資を抑制する。そのため、政府はこの格差を埋
め、雇用を促進し経済回復を助長するためには、経済に直接的投資をすべきである。このような投
資は完全雇用を含めた資源を確保するだけではなく、生産性を高め、成長率を上げていくことも必
要である。
公的投資は投資が行われる活動(例えば、住宅建築あるいは保育サービスの提供など)に直接雇用
を創出するだろう。しかし、必要な原料や初期投資のためのサービス産業の仕事も創出する(間接
雇用効果)ので、他部門にも波及し相乗効果を生むだろう。さらに、これらの仕事により創出され
た雇用の拡大は、世帯収入を拡大するので、食品、衣料、住宅、ケアサービス、娯楽などの世帯消
費につながる商品やサービス全体に新しい需要を生む(雇用誘発効果)。
つまり、政府投資により需要を経済に入れ込むことは、直接的間接的に雇用を生み、需要全体に景
気拡大の効果を与える。このように公的投資をすることは、需要を拡大し、経済を不況から立て直
す手助けになる。
このような戦略の利点は、時期を得た初期投資がその価値以上に社会に利益を生み出すので、公共
財政赤字の拡大や初期段階の借り入れを正当化することができるということである。支払わなけれ
ばならなかったはずの失業保険や社会保障も縮減さえるので公費の節約となるだろう。新しく雇用
された人々は税金を支払うので、長期的に見れば、投資の利益(リターン)となるだろう。例えば、
橋やケアサービスへの投資では、その利益(リターン)は、運行時間の短縮や、さらに健康な生産
年齢人口の増加によりもたらされる。
通常、公的投資戦略を採択した政府は道路や橋など物理的インフラに投資する。社会全体の富を高
め、長期的に利益をもたらすからである。本報告では、社会インフラ(基盤)への投資による利益
として、よりジェンダー平等であるが類似したものを示し、特にケア産業に着目している。教育や
保育への投資も社会全体に同じような利益をもたらす。このような投資は、さらに高い教育やより
良い保育を受けた子ども達がより生産的で幸せな大人へと成長することで徐々に利益を生んでいく。
社会インフラ(基盤)への投資としてケア産業へ投資するのも同じ理由である。
本報告において、社会インフラ(基盤)への投資により男女への雇用効果に関する実証研究結果や
ケーススタディによる論理的議論を提示している。低成長で失業率の高い失業の蔓延した時期に公
的投資をする必要性を述べている。物理的インフラ同様にケア・インフラへの投資の重要性を強調
し、研究結果を示す事例が相次いでいる状況を鑑み、建設産業およびケア産業への公的投資を増や
すことで雇用へのプラスの影響が見込まれている 7 ヶ国(オーストラリア、デンマーク、独、イタ
リア、日本、英国、米国)の分析から新しい実証的事実を提示している。
我々の分析では、建設産業でもケア産業でも投資により雇用は大幅に生み出されている。仮に GDP
の 2%をケア産業に投資し、そして産業転換せず、あるいは他の産業に労働力供給せずに投資を増加
できるのであれば、国によるが 2.4%~6.1%といった範囲で雇用の増加が生じる。つまり、米国で
1300 万近く、日本で 350 万、ドイツで 200 万近く、英国で 150 万、イタリアで 100 万、オーストラ
リアで 60 万、デンマークで 12 万近くの新たな雇用が創出されることになる。
結果として、女性の雇用率は 3.3%から 8.2%(男性は 1.4%から 4.0%)に増加し、正確な数字は各国
の特性によるが雇用における男女間格差が減少する(最大で米国の 50%、最少で日本とイタリアの
10%)。建設産業で同じレベルの投資を行えば、新しい雇用は創出するが(ケア産業への投資の)
半分程度で、雇用における男女間格差は減少するどころか上昇する。
加えて、保育と社会的ケアの双方で新しい雇用を創出し投資を行うことは現代社会に立ちはだかる
経済社会的主課題をいくつか解消するだろう。例えば、生産性の低さ、ケア不足、人口統計上の変
化、有償・無償の労働における長引く男女間格差。
我々の調査結果は、雇用拡大を模索する政府は公的投資を増やすべきであること、現在のものより
もケア・インフラに投資すべきだろうと主張が強いということを示している。ケア産業への投資は、
大幅に雇用を創出することに加え、ケア不足に対処し男女間格差を減少させる。このような政策は
不況から脱出し景気を盛り上げるだけでなく、より包摂的な開発モデルを創出する。