栄光ゼミナール PRESENTS テーマ カタツムリ あめ ひ み い もの 雨の日に見かける生き物といえば、カタツムリ せなか から せ お すす すがた み だ。背 中に殻を背負い、ゆっくり進む姿を見て テキスト版 き も いると、こっちものんびりした気 持ちになるよ いがい のうりょく ね。でも、このカタツムリ、意外とすごい能力を も 持っているんだよ! 執筆/柳田理科雄 制作/空想科学研究所 提供/栄光ゼミナール どうぶつ 1 ◆カタツムリって、 どんな動物? つ ゆ くさ は き えだ べい み 梅雨どきになると、草の葉や木の枝やブロック塀でカタツムリが見ら れる。 カタツムリって、 どんな動物なのだろう? どうぶつ じ ぶ ん いえ はこ カタツムリには 「自分の家を運んでいる」 というイメージがある。する な か ま き と「ヤドカリの仲 間?」 という気がするが、そうではない。ヤドカリはエ な か ま まき がい し のこ かいがら しり もぐ こ ビやカニの仲間で、巻き貝が死んで残した貝殻に、お尻から潜り込んで たい から からだ い ち ぶ う いる。これに対して、カタツムリの殻は体の一部で、生まれたときからあ る。体が大きくなるのに合わせて、殻も大きくなっていく。 カタツムリは、貝の仲間だ。貝はタコやイカも含まれる軟体動物だか からだ おお あ かい から な か ま おお かい ふく なんたいどうぶつ な か ま なんたい ら、カタツムリはタコやイカやサザエの仲 間ということになる! 軟 体 どうぶつ ま がい に ま い が い とうそくるい 動物には 「巻き貝」 や 「二枚貝」 、タコやイカなどの 「頭足類」 など7つの グループがある。カタツムリは、巻き貝の仲 間で、巻き貝のなかで陸 上 に住むものをカタツムリと呼んでいる。 カタツムリは、世界で1万1000種、日本だけで700種がいる。カタツ ま す がい な か ま ま がい ほそなが から も カタツムリには細 長い殻を持つものもい る りくじょう よ せ か い から まん まる しゅ にっぽん いんしょう しゅ ひら ほそなが ムリの殻は 「丸い」 という印象があるけど、平べったいものや細長いもの から もある。また、ナメクジのように殻のないものもある。そう、ナメクジは、 殻のないカタツムリの仲間なのだ。 から な か ま 今日の1日1科学 かい から たいか ナメクジは、カタツムリの殻が退 化した い もの なかま 生き物で、カタツムリの仲間だ なかま カタツムリは貝の仲間 つの やくわり 2 ◆カタツムリの角 の役割 どうよう つ の だ やり だ あたま だ か し 「かたつむり」 という童謡に、 「角出せ、槍出せ、頭出せ」 という歌詞が あるね。 では、 カタツムリの角は、 何のためにあるのだろうか。 つの つの ただ なん しょっかく あたま うえ ほん なが だい カタツムリの角は正しくは 「触 角」 という。頭の上に2本の長い 「大 触角」 と、頭の前に2本の短い 「小触覚」がある。これらの触角は、出し たり引っ込めたりすることができる。 しょっかく あたま ひ まえ ほん みじか しょう しょっかく しょっかく だ こ だ い しょっかく さき まる め ひかり あか かん 大触角の先には丸い目がついている。ただし、光の明るさを感じるだ けで、物の色や形はわからない。だから、草の葉などに目をぶつけて、 慌てて引っ込めることがある。カタツムリには、草の葉が見えていないと あわ もの いろ ひ こ かたち くさ は め くさ だ い しょっかく め は み あか し あさ いうことだ。大 触角の目で、カタツムリはまわりの明るさを知って、朝と 夕方に行動する。雨の日はまわりが暗いので、昼間も活動する。だから、 ゆうがた こうどう あめ ひ くら ひ る ま かつどう しゅるい つの も なが カタツムリは2種 類の角 を持 つ。長 い だい しょっかく さき め みじか 「大 触 角」 の先には目がついていて、短い しょうしょっかく あじ かん 「小触覚」 では味とにおいを感じるのだ 1 つ ゆ わたし め と 梅雨どきに私たちの目に留まるのだ。 小 触 覚は、味とにおいを感じることができる。これで餌を探したり、 しょう しょっかく たまご う あじ じ き かん な か ま えさ さが さが 卵を産む時期に仲間を探したりしている。 今日の1日1科学 しょっかく ひかり あじ かん カタツムリの触角は光と味とにおいを感じる あし 3 ◆カタツムリに足 はある? あし み ある カタツムリには、足がないように見える。 それでも歩けるのはなぜだろ うか。 ま がい な か ま ま がい からだ ぶ ぶ ん わ カタツムリは巻き貝の仲 間だ。巻き貝は、体が3つの部 分に分かれ る。頭と、内臓と、足だ。内臓は殻のなかにあり、 「角」 と呼ばれる触角の あたま ないぞう あし ないぞう あたま から つの あし どうたい よ しょっかく み ぶ ぶ ん ついているのが頭だ。すると、足は? そう、胴体に見える部分が、すべ あし て足なのだ! こ は いし ぶ ぶ ん あし うら なみ カタツムリは、木の葉や石にくっついた部分、つまり 「足の裏」 を波の ように動かして、前に進む。また、この足は、両側から細いものを挟み込 むこともできる。こうしてカタツムリは、細い草の茎も登れるし、糸にぶら うご まえ すす あし りょうがわ ほそ さ ある うえ む くさ は ほそ くき うえ はさ のぼ こ いと ある 下がって歩いたり、上を向けたナイフの刃の上を歩くことさえできる。 カタツムリは、動きがのろいことで有名だが、この歩き方でどんなス うご ゆうめい で ある かた けんきゅうしゃ ピードが出せるのだろうか。ある研 究者がクチベニマイマイというカタ ある そ く ど はか ば し ょ さ すす ツムリの歩く速度を計ったところ、場所によっても差があり、20㎝を進 むのに130秒から146秒かかったという。これは、およそ時 速5mだ。 びょう にんげん ふ つ う びょう ある そ く ど じ そ く じ そ く にんげん ぶん 人間が普通に歩く速度は時速4㎞だから、人間のおよそ800分の1と きょうそう さ ん か いうことになる。もしカタツムリが100m競争に参加したら、ゴールする までに20時間もかかってしまう! じ か ん み ぶぶん あし なみ うご の足。ここを波のように動かして、ガラス うえ ある の上でも歩けるのだ 今日の1日1科学 あし どうたい 胴 体のように見える部 分は、カタツムリ どうたい み ぶぶん カタツムリの足は胴体に見える部分 は 4 ◆びっくり ! カタツムリの歯! い ようぶん と ひつよう カタツムリも、生きるためには、養分を取る必要があるはずだ。 いった なに た い何を食べているのだろう? カタツムリは、草や野菜やキノコを食べる。なかには、他のカタツムリ を食べる肉食のものもいる。小触角のあいだに口があり、口のなかには くさ た や さ い た にくしょく ほか しょう しょっかく し ぜ つ くち がね くち がね みぎらん しゃしん 「歯舌」 というおろし金のようなものがある。おろし金とは、右欄の写真 のように硬いギザギザがたくさん並んだもので、大根やショウガを細か かた なら だいこん こま し ぜ つ すうせんぼん くすりおろすためのものだ。カタツムリの歯舌には、ギザギザが数千本 もあって、草の葉などをおろし金のように削って食べる。食べたものは、 細い管を通って、殻のなかにある胃や腸へ運ばれる。 くさ ほそ くだ とお は がね から けず い から ちょう た た はこ つく ひつよう て い また、カタツムリの殻を作るにはカルシウムが必要だ。これを手に入 れるために、カルシウムを含む石を歯舌で削り取って食べる。また、カ ふく いし し ぜ つ けず と た がね だいこん おろし金 は、大 根おろしなどをすりおろ しぜつ がね す。カタツムリは 「歯舌」 で、おろし金のよ た もの けず た うに、食べ物を削って食べる 2 ふく かべ ルシウムはコンクリートにも含まれる。よくカタツムリがコンクリートの壁 にいるのは、コンクリートを食べるためだ。 た た ふん で では、食べたもののうち、いらなくなったもの、つまり糞はどこから出 から おお み ぎ ま み ぎ ま てくるのだろう。カタツムリの殻は、多くのものが右巻きだ。右巻きとい うのは、殻のてっぺんから時計の針の向きにだんだん外へ広がってい から と け い はり む み ぎ ま そと ば あ い から ひろ ね みぎがわ るということだ。右巻きのカタツムリの場合、殻のつけ根の右側、つまり 「首」 に見えるところに、糞を出す肛門がある。その近くには息をするた くび み ふん だ こうもん ちか いき あな めの穴もある。 今日の1日1科学 くさ しぜつ た カタツムリは草を歯舌ですりおろして食べる しお よわ り ゆ う 5 ◆ナメクジが塩 に弱い理由 しお からだ ちぢ し しお どく ナメクジに塩をかけると、体 が縮んで死んでしまう。塩 が毒になる せいぶつ 生物もいる、 いったいなぜだろうか? ナメクジはカタツムリの一種で、カタツムリはタコやイカや貝などと同 じ軟体動物だ。軟体動物は、体が乾くと死んでしまう。タコやイカのよう いっしゅ なんたいどうぶつ なんたいどうぶつ うみ かい からだ かわ す おな し しんぱい りく く に海のなかに住んでいるものは、その心配はないが、陸で暮らすカタツ ムリやナメクジは、体が乾かないように、体のなかの水を、表面に出して いる。ただの水だと、すぐ流れ落ちてしまうので、ネバネバの粘液を出し からだ かわ みず からだ なが みず ひょうめん お だ ねんえき からだ ある だ のこ て、体にまとわりつかせている。カタツムリが歩いたあとに残るネバネバ したものは、その粘液だ。 ねんえき たいない すいぶん そと で このように、カタツムリやナメクジは、体内の水 分が外に出るように なっている。また、塩は、生物の体から水分を吸い出す働きがある。右 しお らん しゃしん とりにく せいぶつ からだ すいぶん しお す す だ だ はたら みぎ すいぶん 欄の写真は、鶏肉に塩をかけたものだ。吸い出された水分が、バットの 下にたまっているのが見える。 した み しお からだ すいぶん す だ とりにく しお ふん しゃしん 鶏 肉に塩 をかけて25分 たった写 真。 とりにく す だ すいぶん 鶏肉から吸い出された水 分が、バットの した 下にたまっているのがわかるね し ナメクジに塩をかけると、体の水分がどんどん吸い出されて死んでし おな まう。これは、カタツムリも同じだ。 今日の1日1科学 しお せいぶつ からだ すいぶん す だ 塩は生物の体から水分を吸い出す こ と ば けんきゅう や く だ 6 ◆言 葉の研究にも役立ったカタツムリ むし よ カタツムリは、 でんでん虫ともいう。 また、 マイマイとも呼ばれ、 これが 生物学での正式な名前だ。 そして、漢字で蝸牛と書いて、 「かたつむり」 せいぶつがく せいしき な ま え か ん じ く ん よ かぎゅう か お ん よ と訓読みしたり、 「かぎゅう」 と音読みしたりすることもある。 こんなにたく さんの呼び名があるのは、 それだけ人間の生活に溶け込んできたから よ な にんげん せいかつ と こ だろう。 1920年代、柳田國男という学者が、これに目をつけた。柳田先生の 専門は、方言や、古くから伝わる伝説や、生活習慣や、子どもの遊びか ねんだい せんもん ほうげん に ほ ん じ ん や な ぎ た く に お ふる ものごと がくしゃ つた でんせつ かん め せ い か つ しゅうかん かんが やなぎたせんせい こ あそ く ら、日本人が物事をどのように感じ、どう考え、どのように暮らしてきた 3 かんが みんぞくがく かを考えること。民俗学という。 や な ぎ た く に お せんせい ほうげん ほうそく き 柳田國男先生は、カタツムリの方言に、ある法則があることに気づい き ん き ち ほ う すこ た。たとえば、近畿地方ではカタツムリを 「デデムシ」 という。そこから少 し東に離れた中部地方と、西に離れた中国地方では 「マイマイ」 、さらに ひがし はな はな ちゅうぶ ち ほ う かんとう にし はな ちゅうごくちほう し こ く はな と う ほ く ち ほ う きゅうしゅう 離れた関東と四国では「カタツムリ」 、もっと離れた東北地方と九州では と う ほ く ち ほ う きた きゅうしゅう にし から 「ツブリ」 、そして東北地方の北と、九州の西では殻のついたカタツムリ を 「ナメクジ」 と呼ぶ。つまり、近畿地方を中心にして、北東と南西に同 よ き ん き ち ほ う はな おな ちゅうしん な ま え ほくとう なんせい おな よ じくらい離れると、カタツムリを同じ名前で呼ぶのだ。 柳 田國男先 生は、これは昔、日本の中心だった京 都 から、言 葉が や な ぎ た く に お せんせい ち ほ う むかし ひろ にっぽん きょうと ちゅうしん はな きょう と ふる こ と ば や な ぎ た く に お せんせい おな れい ほか おお ひと よ ひろ けんきゅう な ぶんぷ きょうと ことば かんが 広がったと考えられている さんせい 考えた。同じ例が他にもあることがわかり、多くの人が賛成した。カタ こ と ば ぜんこく か く ち ツムリの呼び名の分布。京都から言葉が のこ 地方に広がったためで、京都から離れるほど古い言葉が残っていると かんが しら 柳田國男先生が調べた、全国各地のカタ こ と ば やく ツムリは言葉の研究にも役だったのだ。 今日の1日1科学 ほうげん きょうと ひろ カタツムリの方言は京都から広がった やなぎた り か お へんしゅう こ う き 柳田理科雄の編集後記 やさい は た のうぎょう ひと がいちゅう ぼく こ カタツムリは野菜の葉を食べるので、農業をする人にとっては害虫になります。僕は子ど やさい つく そ ぼ てつだ な ぱ は ものころ、野菜を作っていた祖母の手伝いで、菜っ葉やキャベツの葉から、 カタツムリを と ふる せんめんき あつ と か 取って古い洗面器に集めていました。取ったカタツムリはどうするかというと、飼っていた にわとり えさ にわとり だいす と り ご や なか な い 鶏 たちの餌にするのです。鶏はカタツムリが大好きで、鶏小屋の中に投げ入れてやる うば あ た ざんこく と、 ラグビーのように奪い合って食べていました。 ちょっと残酷かもしれませんが、 それが、 ぼく せいぶつ かた やなぎた 僕のカタツムリという生物とのつきあい方でした。 (柳田) 4
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