第 2 章:変動する農村の社会

≪第 2 章≫
変動する農村の社会
第 2 章 変動する農村の社会 -1
1. 農村とは―土地に根ざす地域共同管理
農業をなりわいとする村
■周辺生態系への働きかけ
■共同作業による基盤整備
■持続可能な利用と管理
3 つの要件
①低い人口密度,粗放的土地利用
②生産基盤と結ばれた集落
③自然環境と調和した暮らし
≪外形的特徴で定義された農村≫
➡現実の「農村」はどうか?
神社
小川
墓地
田畑
寺
A
クミ境
≪地域共同管理の仕組みとしての農村≫
C 山
B 田畑
小川
むら境
図 2 - 5 村の空間構成
注:多くの場合,村の中の小地域集団ごとに共同
作業や冠婚葬祭などが執り行われるが,図中
の「クミ境」はその範囲を模式的に表してい
る。
資料:日本村落研究学会編(2007)
『村の社会を
研究する──フィールドからの発想』農山
漁村文化協会,14頁より転載。
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第 2 章 変動する農村の社会 -2
1. 農村とは―食料生産に邁進する「農村」
スラウェシ島,マロヌン村
■隣県の孵化場から仕入れた稚魚
■親エビは孵化場がハワイから購入
■台湾製の専用飼料がエサ
■ 4 か月で収穫したのち池に殺虫剤
□オーナーの共同作業で修繕・管理
田原市伊良湖町
■営農条件に恵まれない砂湿土壌
■収益性にもとづく合理的土地利用
■多くない就農者と高い農業所得
■外部環境から切り離されたハウス
□市町村別で日本一の農業出荷額
図 2 - 3 スラウェシ島のエビ養殖池
資料:筆者撮影(2013年)
。
図 2 - 4 伊良湖町のミニトマトのハウス
資料:筆者撮影(2008年)
。
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第 2 章 変動する農村の社会 -3
1. 農村とは―いかにも「農村」の場所
スコットランド,イースト・キルブライド
□石造りの家,耕耘機,家畜
□博物館ボランティアによる農作業
■古きよき田舎暮らしの擬似体験
■フードシステムから切り離された観光
柏崎市荻ノ島
□水田を囲む茅葺きの民家
□曲がりくねった小径,用水路
■時が止まったような田舎らしい風景
■年間 20 万人が訪れる「美しいむら」
図 2 - 1 スコットランド農村生活博物館
資料:筆者撮影(2004年)
。
口絵 2 農村空間をみる──荻ノ島の環状集落
資料:高橋誠撮影(2007年)
。
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第 2 章 変動する農村の社会 -4
2. 農村の変動―農村・都市分化
村落
(自給自足的小農耕集落)
≪藤田弘夫「都市は飢えない」≫
自給自足的小農耕集落
都市化
農村化
➡
都市に基盤をおく権力・国家
➡
村落の「農村」化
都市
(大集落)
支配(文化)
農村〔村落〕
(小集落)
生活資料(食糧)
図 2 - 6 農村と都市との関係
資料:藤田弘夫(1993)『都市の論理──権力はなぜ都市を必
要とするか』中央公論社,69頁より転載。
*食料供給空間への変化
*都市の「傘」への取込み
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第 2 章 変動する農村の社会 -5
2. 農村の変動―3 つの農業革命
≪ M. トラフトン≫
1. 農業による定住
■野生動植物の栽培化・家畜化
■村落社会が農業の基盤
■天然の資源分布に規定された立地
2. 自給から市場へ
■市場交換による金銭的利益
■個別経営の家族農場へ転換
■(英)三圃式農業から輪栽式農業へ
3. 農業の産業化
■機械化と化学化
■食品産業/アグリビジネスの支配
■自然を制御する工業的な農業
表 2 - 1 3 つの農業革命
農業革命
の区分
1 .発端と拡大
2 .自給から市場へ
時 期
1 万年前以前から20世
紀まで
およそ西暦1650年から現
在まで
重要な
時 代
新石器時代
中世ヨーロッパ
重要な
地 域
ヨーロッパと東南アジ
ア
西ヨーロッパと北アメリ
カ
ソ連と東ヨーロッパ,北ア
メリカと西ヨーロッパ
主要な
目 標
家内食料供給と生存
余剰生産と金銭収入
単位当たり生産費用の低減
特 徴
・主要種の最初の選択
と栽培作物化
・農耕が,生活の手段
として,そして農村
集落と農村社会の基
礎として,狩猟と採
取に置き換わる。
・農業社会が各地に出
現し,自給自足の農
業(労働集約的,低
技術水準,共同体的
な土地保有)が人口
増加を支える。
・重大な技術革新,重商
主義的な態度,産業革
命の食料需要が自給自
足を市場指向に置き換
える(産業部門として
の農業)。
・個別経営の家族農場が
生活様式として,そし
て生計を立てる手段と
して「理想」になる。
・科学技術的なインプッ
トとインフラストラク
チャーへの依存度を増
しながら,商業的な農
業が発達する。
・集団的(社会主義的)お
よ び 企 業 的 ( 資本 主 義
的)イデオロギーと農業
技術の普及が,農業生産
を食料産業システム全体
に統合することに有利に
働く。
・生産性に対する強調と,
利潤獲得のための生産が,
農業構造と農場の生活様
式の基本になる。
・集団的ないし企業的な生
産が,規模の経済や資本
集約性を指向し,労働力
を機械に置き換え,少数
の大規模な単位に生産を
特化させる。
18世紀のイングランド,
「ヨーロッパ人」の入植
地域における19~20世紀
3 .産業化
1928年から現在まで
現在
資料:Troughton, M. (1986) “Farming Systems in the Modern World”, in Pacione, M. ed., Progress in Agricultural Geography, Beckenham: Groom Helm, p. 95より作成。
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第 2 章 変動する農村の社会 -6
2. 農村の変動―都市化の時空間序列
G. ルイス/ D. マウンド
Ⅰ
伝統的
地域社会
Ⅱ
人口流出
Ⅲ
人口還流
Ⅳ
人口流入
Ⅰ
伝統的
地域社会
Ⅱ
人口流出
距
離
の
変
化
農村 = 都市関係の時空間序列
■空間的序列:人口の流出/流入/還流
■時間的序列:前工業化/工業化/現在
1. 前工業化段階
■比較的孤立した伝統的地域社会
2. 工業化段階
■若年労働者の都市移住
■エリート中間階級の郊外居住
3. 現在
■カントリーサイドへの還流
■近郊ベッドタウンへの流入
■周縁農村からの流出継続
Ⅰ
伝統的地域社会の残存形態
Ⅲ
人口還流
都市地域
現在の段階
工業化段階 前工業化段階
時間の変化
図 2 - 7 都市化の時空間序列
資料:Lewis, G. J. and Maund, D. J. (1976) “The Urbanization of the Countryside: a Framework for Analysis”, Geografiska Annaler, Vol. 58B,
No. 1, p. 22より作成。
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第 2 章 変動する農村の社会 -7
3. 日本の状況と政策―戦後の農業政策
農業基本法(1961 年)
≪農業の近代化≫
■農業生産基盤の近代化
■農産物販路の確保
■農家所得の向上・安定
食料・農業・農村基本法(1999 年)
≪農業の多面的機能≫
■環境保全,災害抑止
■景観保全,文化伝承
■政策ターゲットの複線化
①競争力の高い産地の育成
②都市郊外でのサービス供給
③中山間地域の農業維持
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第 2 章 変動する農村の社会 -8
3. 日本の状況と政策―農業地域 農村
農業政策は成功したか?
■農業の兼業化
■農外就業機会の増加
■米の需給バランス崩壊
■進まない生産規模拡大
モザイク化する農村空間
自給率 4 割の国の農村の姿
フィート
メートル
300
フィート
メートル
2000
100
■都市近郊のスプロール化と混住化
■「過疎」から「限界集落」へ
■補償と引換えの迷惑施設立地
■アグリビジネスで成功する地域
800
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