BEIビジネス倫理研究所/2009 企業倫理の実践に取り組む経営者と担当者へのメッセージ - 中小企業のための企業倫理実践の整備 №05 - 企業倫理実践3カ年計画と自社要件の洗い出し <実践の仕組み作り(その1)> BEIビジネス倫理研究 代表 山口謙吉 今回から企業倫理実践のために必要な「仕組み」の構築についての話しを始めたい。 この仕組みは、 「企業倫理プログラム」や「コンプライアンスプログラム」と呼ばれること が一般的だ。 だが、中小企業や社員数の少ない企業はこの名称や「仕組み」という外形にこだわる必要 はない。仕組みに求められる要件事項が現行組織の中に有機的に網羅され、それが機能し ているとの確認と改善ができるようになっていれば最低限だが、OKということだ。 仕組みの要件事項については、前回アメリカ連邦量刑ガイドラインの「コンプライアン ス・倫理プログラムの要件7事項」で紹介したが、この要件に沿って話しを進める。 1.「企業倫理実践中期計画」をステークホルダーに示す 企業倫理の実践は、組織的に取り組んでいくのが当然だが、その前に、企業倫理実践の ための中期的な基本計画やその方針を経営決定しておくことが是非とも必要だ。企業の規 模にもよるが3~5年程度の期間で企業倫理実践中期計画などを策定、公表するというこ とだ。 ステークホルダー(社員を含む利害関係者)に実施する内容を明確に示し理解を求める ことは、実効性のある企業倫理実践を目指すためには大変重要なことである。この計画を 3カ年で考える場合の主な必要事項の例は次の通りである。 ■ 企業倫理実践3カ年計画の実践的例 【 1年目 】 まず、初年度の前半では、社内の各部門と協同でこの仕組みづくりを進め、導入、実践 の全社的気運を盛り上げると同時に企業倫理とその実践への理解を深める。その際、ツー ル類の制作、活用も予定すべきだ。後半では、社内への運用の全体説明会と部署ごとに運 用等に関するディスカッションを実施するとともに、現時点で企業倫理違反についての取 り扱いを明確にする。また、初年度としての社員意識調査(経営陣も含む)を実施する。 -1- Copyright (c) BEI Business Ethics Institute 2009. All rights reserved BEIビジネス倫理研究所/2009 【 2年目 】 2年度目には、出来上がった仕組みの定着化を念頭に運用の浸透とツール類を使いその PRを進める。社内での専用ホームページの立ち上げも有効だ。また、社員の意識調査な どにより初年度の状況などとの比較から、社員の自覚、経営陣の自覚を促し、自社流の仕 組みへの改善を進める。また、社員、役員や各部署の企業倫理実践リーダーへの教育研修 を本格的に実施する。一方、ヘルプラインなどの相談・通報窓口を拡充し、企業倫理の実 践に対する監査の試行とともに企業倫理実践の支援対策を促進する。 【 3年目 】 最終年度では、次年度以降の企業倫理実践の恒久化を図るための検証と改善が重要とな る。実践する側からの視点の大きなポイントは、全社員の自主性を引き出し、いかに持続 させていくかということにある。部署ごとの企業倫理実践リーダーなどによる部署内での 自主研修を定着化させ、そのサポートのあり方についても会社独自のものを築いていくこ とだ。その他には、企業倫理の実践に関する監査の本格的実施とその評価、人事評価との 連動、相談・通報窓口の改善、充実も忘れてはならない。 2. 「コンプライアンス・倫理プログラムの7要件」をチェックリストに 自社の必要事項を洗い出す 仕組みをつくるために必要な事項をアメリカ連邦量刑ガイドライン「コンプライアン ス・倫理プログラムの要件7事項(効果的に倫理的な行為と法令を遵守するために最低限 要請される要件事項)」で整理してみると、何を作り上げるのかあるいは何の機能を現組織 に組み込む必要があるのかその概要が見えてくるのでぜひ活用してほしい。 なお、機能していることが「社外の第3者に認知されることが前提」にあることを忘れ てはいけない。そのためにPDCAのマネジメントサイクルで確実に運営していくことが 望まれる。整理する項目例は次の通りである。 ■ コンプライアンス・倫理プログラムの要件7事項 1.組織の活動基準(倫理綱領など)を策定し、犯罪等企業倫理違反行為を防止するための手続 を明確にすること ・経営理念の再確認、公表 :経営ビジョンや経営者の考え方と企業倫理との関係、位置づけの確認 ・経営者の「企業倫理実践宣言」とその明文化、公表 :経営者の決意と率先の表明と企業ステータスの確認 ・行動規範の制定(名称は企業規模、企業形態、業種などにより独自に) :名称・・・「企業倫理綱領」「企業行動指針」「企業行動規範」「行動憲章」など :実践における社員、の取るべき行動、対応する部署、窓口などのガイド -2- Copyright (c) BEI Business Ethics Institute 2009. All rights reserved BEIビジネス倫理研究所/2009 ・関係規程類の整備 :就業規則、組織(分掌)規程、情報管理規程(個人情報保護)、決済基準(稟議 決裁規程)、教育研修規程、賞罰規程、会議関係規則類 等 2.「1」について統括する責任者(倫理担当役員など)を任命し、その担当部門や担当者を置くこと ・・・・・推進体制の整備・・・・・ ・企業倫理担当役員の任命 ・企業倫理担当部署の設置および責任者、担当者の任命、各部署の担当者任命 ・相談・通報対応への審議、決定機関(企業倫理委員会等)の設置 ・企業倫理実践計画の策定、進捗協議機関(企業倫理委員会等)の設置 3.法律、企業倫理違反を行う恐れがあると思われるような人物を管理職に任命することや権限を 与えることのないように注意をすること ・業績、成果の達成は評価すべきことではあるが、その達成プロセスの企業倫理と の関係についても同様に評価し、処遇の最終決定をする ・管理職への登用条件に企業倫理の実践に関する事項を盛り込む ・業務遂行上における現場指揮者への権限委譲には企業倫理の実践状況を考慮する 4.「1」について周知徹底させるため、教育、研修を定期的に行う仕組みを考え、実施すること ・教育研修計画、研修プログラムの作成とその定例実施 :部署別、階層別、新任管理職、役員研修、自主研修、e ラーニング、セミナー ・浸透、徹底のためのポスター、ハンドブック等のツール類を作成、配布 5.企業倫理の実践状況の定期的チェックや不正行為を発見するシステムを構築すること ・・・・・「自浄システム」の核となる部分・・・・・ ・企業倫理の実践状況を定例的に検証、評価する制度の整備 :倫理監査の確立、自主点検システム、人事評価への導入 ・相談・通報受付窓口の設置と人員の配置 :ヘルプラインの開設と受付、調査の手順や審議などの対応システムの確立 ・定期的な「企業倫理意識調査」の実施とその結果の公表、フィードバック 6.「1」に違反する者に対しての懲戒制度を導入すること ・賞罰規程などの制定、改正 ・企業倫理綱領などの配布時に社員からその遵守に対する「誓約書」を受け取る :企業倫理綱領の内容に関する説明機会の定例化が必要 -3- Copyright (c) BEI Business Ethics Institute 2009. All rights reserved BEIビジネス倫理研究所/2009 7.不正行為を発見した場合には適切な措置を講じること。また、同様な行為の再発防止のため、 適宜、行動規範類の改訂、企業倫理実践の仕組みなどの変更を行うこと ・不祥事の発生報告手順の確立 :担当部署、担当者、連絡昨詳細などの全社への周知、備付け ・不祥事発生に対する外部対応手順の確立および担当の任命 ・不祥事の調査、再発防止の協議機関の設置とその責任者の任命 ・行動規範類の改訂、企業倫理実践の仕組みなどの変更機関の設置 ※「社員」:正社員、契約社員、派遣社員、パート・アルバイトなど業務に従事する全ての働く (了) -4- Copyright (c) BEI Business Ethics Institute 2009. All rights reserved
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