日銀の金融政策の真の課題とは何か - 三菱UFJリサーチ&コンサルティング

2016 年 3 月 18 日
片岡剛士コラム
日銀の金融政策の真の課題とは何か
経済・社会政策部
主任研究員
片岡剛士
3 月 14 日、15 日の日銀金融政策決定会合で日銀は現状維持を決定した。筆者が注目したのは、決定
会合後の記者会見で黒田総裁が予想インフレ率について「このところ弱含んでいる」と指摘したことだ。
日銀が行っている「マイナス金利付き量的・質的金融緩和策」は、2%のインフレ目標を早期に達成
するという意思を明確なコミットメント(約束)として示した上で、そのコミットメントを裏打ちする
ために「量」
・
「質」
・
「金利」の三つの側面を通じ大規模な金融緩和策に踏み込むことで、予想物価上昇
率を上昇させること、長期金利の上昇を抑制することが目的である。
予想インフレ率、長期名目金利、予想実質長期金利との間には次のような関係が成立している。
予想実質長期金利
= 長期名目金利 - 予想インフレ率
予想インフレ率が上昇し、長期金利の上昇を抑制すれば、上の式に基づいて長期金利から予想物価上
昇率を差し引いた予想実質長期金利は低下する。予想実質長期金利が低下すれば、様々な経路を通じて
経済に刺激効果が及び、総需要(GDP)は拡大して現実の物価上昇率が上昇し、それが予想物価上昇率
の上昇にも寄与することになる。
逆にいえば、予想インフレ率が低下すれば、予想実質金利の低下は抑制されて、経済への刺激効果は
及びにくくなり、総需要は低迷して現実の物価上昇率の伸びは止まっていき、予想物価上昇率の上昇も
止まってしまうという悪循環に陥るということだ。
以上のように予想インフレ率の動向は日銀が進める金融政策の核となるものである。黒田総裁が指摘
するとおり予想インフレ率がこのところ弱含んでいることを放置すれば、日銀が掲げる「2%のインフ
レ目標」への重大な障害となりうる。以下、データに基づきながら検討してみることにしたい。
■予想インフレ率、物価上昇率の推移
まず予想インフレ率と物価上昇率の動きについて確認しておこう。図表 1 は消費者物価指数(生鮮食
ご利用に際しての留意事項を最後に記載していますので、ご参照ください。(お問い合わせ) 革新創造センター 広報担当 TEL:03-6733-1001 [email protected]
1
品除く総合)
、消費者物価指数(食料(酒類を除く)
・エネルギーを除く総合)の前年比と内閣府「消費
動向調査」の家計による 1 年後の物価見通しの回答結果から計算した予想インフレ率の推移を示してい
る。
図表 1 からは次の点を指摘できる。まず家計による予想インフレ率の動きをみると、2013 年に入り予
想インフレ率は大きく拡大した。これは政府・日銀による 2%のインフレ目標の設定、デフレ脱却に積
極的な黒田総裁をはじめとする執行部の交代、さらに「量的・質的金融緩和策」の決定・実行といった
一連の金融政策が影響していると考えられる。そして予想インフレ率の伸びが高まることで、消費者物
価指数の伸びも上昇に転じていく。消費者物価指数(生鮮食品除く総合)の前年比は 2013 年 5 月にマ
イナスから脱してプラスに転換し、食料やエネルギー価格といった海外市況に左右される品目を除いた
消費者物価指数(食料(酒類を除く)
・エネルギーを除く総合)も 2013 年 9 月にはマイナスからプラス
に転換して、2014 年 2 月には消費者物価指数(生鮮食品除く総合)の前年比は 1.3%、消費者物価指数
(食料(酒類を除く)
・エネルギーを除く総合)の前年比は 0.8%まで上昇する。
つまり、予想インフレ率の上昇が様々な経路を通じて経済を刺激した結果、現実の物価上昇率を押し
上げ、物価上昇率の上昇が予想インフレ率の拡大にも影響するという好ましい流れが生じたということ
だ。
図表 1:消費水準指数の推移
(%、前年比)
4
家計の1年後の予想インフレ率
( 消費動向調査)
3
2.3
2
1
0.7
0.0
0
-1
消費者物価指数(食
料( 酒類を除く)・エネ
ルギ ーを除く 総合)
消費者物価指数(生
鮮食品を除く 総合)
-2
(月)
(年)
-3
1 2 3 4 5 6 7 8 910
1 1 21 2 3 4 5 6 7 8 910
1 1 21 2 3 4 5 6 7 8 910
1 1 21 2 3 4 5 6 7 8 910
1 1 21 2 3 4 5 6 7 8 910
1 1 21 2 3 4 5 6 7 8 910
1 1 21 2 3 4 5 6 7 8 910
1 1 21 2
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
2016
(出所)内閣府「消費動向調査」、総務省「消費者物価指数」
しかしこうした動きは 2014 年に入ると頓挫してしまう。図表 1 では消費者物価指数の伸びが 2014 年
4 月からジャンプしているが、これは 5%から 8%へと消費税率が高まったことによってモノの値段が上
がり、それが物価を押し上げたことが原因である。またエネルギーを含む消費者物価指数(生鮮食品除
く総合)の動きからは、消費税増税の影響で物価上昇率は一旦高まったものの、2014 年 7 月以降エネル
ギー価格の下落を反映して、物価上昇率の伸びは低下していることもわかる。
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2
消費税増税による物価への影響が完全に剥落した 2015 年 5 月以降1、エネルギー価格を含む消費者物
価指数(生鮮食品除く総合)の伸びはゼロ%近傍で推移した。そしてエネルギー価格を含まない消費者
物価指数(食料(酒類除く)及びエネルギーを除く総合)の前年比は 2015 年 9 月にかけて 0.9%まで高
まるものの、その後物価上昇率は横ばいから低下基調で推移している。この間、予想インフレ率は 2014
年 4 月から 6 月にかけて減少し、その後横ばいの動きとなり、2015 年 2 月以降になると低下が続いてい
る。つまり予想インフレ率と現実の物価上昇率が共に減少しているという関係が図表 1 からは示唆され
るのである。
■原油安、消費税増税が予想インフレ率に与えた影響はどの程度か?
予想インフレ率の低下の背景には何がどのように作用しているのだろうか。まず考えてみたいのが、
現実の物価上昇率の変化が予想インフレ率に与えた影響についてだ。具体的には消費税増税による物価
上昇が予想インフレ率に与えた影響と、原油価格の急落が予想インフレ率に与えた影響についてである。
この点を具体的に考えるため、予想インフレ率の指標として普通国債と物価連動国債(物価に連動し
て元本が増減する国債)の利回りの差から計算されるブレーク・イーブン・インフレ率(BEI:10 年物
利回りから計算)を用いて検討してみよう。
なお BEI は、図表 1 で取り上げた家計の予想インフレ率とは異なり、市場参加者が直面する予想イン
フレ率とみなすことができる。BEI を用いることの利点は、日次ベースでデータを収集することが可能
であるために日々の原油価格の動きが予想インフレ率にどのようなインパクトをもたらしているのか
を精緻に検討することが可能な事、米国でも同じ指標を用いる事ができるため、予想インフレ率と為替
レートとの関係を考える際に有用である点が挙げられる。
一方で日本の物価連動国債は普通国債と比較して発行残高が極めて少ないため、普通国債と物価連動
国債の利回りの差から計算される BEI には流動性プレミアムが含まれており、実際の予想インフレ率を
少なく見積もってしまっている可能性が高いという難点を抱えている。また、直近時点で利用可能な
BEI は 13 年 10 月以降に発行された新物価連動債に基づく値である。2013 年 10 月以前の BEI と直接比
較することができない点も難点と言えるだろう。
以上の点を考慮に入れながら検討してみよう。図表 2 は BEI(10 年、新物価連動債に基づく)の変動
要因を分解した結果である。黒い折れ線が BEI の推移を、緑色の棒グラフは BEI の変動のうち消費税増
税による物価上昇の影響を示している2。そして赤色の棒グラフが BEI の変動のうち、原油価格の影響
1
2014 年 4 月の消費税増税にあたり、ガス代や電気代については 1 カ月間の経過措置(増税は 2014 年 5 月か
ら)
がとられたため、2015 年 4 月の消費者物価指数にも消費税増税による物価押し上げ効果は残存している。
2
なお、図表 1 に記載した消費者物価指数前年比から消費税増税による物価押し上げ分を除いた上で予想イ
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3
を示している3。更に黄色の棒グラフが、BEI の変動から原油価格・消費税増税による変動を除いた動き
を示している。
図表 2
3
原油価格・消費税増税がブレーク・イーブン・インフレ率(10 年)に与えた影響
(%)
原油価格・消費税増税
の影響を除いたBEI10
の平均伸び率:1.06%
2.5
2
1.5
1
0.67
0.5
0.23
0.18
0
-0.16
-0.5
-1
①原油価格の寄与
②消費税増税の寄与
④原油価格・消費税増税を除く寄与
③BEI10
(注)2013年10月9日から2016年3月1日までの日次データを用い、日ブレーク・イーブン・インフレ率(10年)=1.06+0.005×(WTI価格前年比)+0.16×消費税ダミー、自由度修
正済み決定係数:0.45、の推定式(全てのパラメーターは1%有意)に基づいて、日ブレーク・イーブン・インフレ率(10年)の動きを要因分解した結果。消費税ダミーは2014年4月
1日から2015年4月30日までの期間を1、その他の期間をゼロとしている。
(出所)市況データから作成。BEIのデータは宮嵜浩氏(三菱UFJモルガン・スタンレー証券 景気循環研究所シニアエコノミスト)から提供頂いた値。ここに付して感謝したい。
図表 2 から BEI の動きをみていくと、特に 2015 年 12 月以降伸びは大きく低下して、2016 年 3 月 1
日には 0.23%まで急落している。そして消費税増税は BEI を 0.18%ポイント程度押し上げ、原油安は
BEI を 0.15%から 0.3%pt 押し下げたことがわかる。つまり原油安が予想インフレ率の低下の主因である
とは言えないということだ。
そして原油安や消費税増税による物価上昇は永遠に続くものではないことを念頭におくと、BEI の変
動を考えるにあたり重要な点は原油安や消費税増税による影響を除いた BEI の動き(黄色部分)である
と言える。
ンフレ率と物価上昇率とを比較すると、予想インフレ率の低下と(消費税増税を除いた)物価上昇率の低下
が共に進んでいることがわかる。消費税増税を行うと総需要が低下することでデフレギャップが拡大し、そ
のことが物価上昇率を押し下げて予想インフレ率にマイナスの影響をもたらすとも考えられるが、本稿では
こうした影響を考慮していない。今後の検討課題である。
3
BEI と原油価格前年比の時差相関係数を計算したところ、ラグなしの場合が最大となったため、ラグを考慮
せず推計の上で要因分解を行った。
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図表 2 には原油安や消費税増税による影響を除いた BEI の動き(黄色部分)の平均値を点線で示して
いるが、2013 年 10 月から 2016 年 3 月 1 日までの平均値は 1.06%である。これは原油安や消費税増税と
いった影響を除いた BEI の基調的な動きが 1%程度であることを意味する。原油安や消費税増税による
影響を除いた BEI は、2015 年半ばまでは平均値をやや上ぶれる形で推移していたものの、2015 年 12
月以降に急落して 2016 年 3 月 1 日時点では 0.39%と、平均値から 0.67%pt も下ぶれてしまっている。
繰り返しになるが、こうした急落は原油安といった一時的要因に基づくものではない。
つまり、こうした BEI の急落は 2%のインフレ目標を早期に達成するという意思を明確なコミットメ
ント(約束)として示した上で、そのコミットメントを裏打ちするために「量」
・
「質」
・
「金利」の三つ
の側面を通じ大規模な金融緩和策に踏み込むことで、予想物価上昇率を上昇させるという日銀の金融政
策そのものへの信認が崩れつつある可能性が高まっていることを示唆しているのではないか。筆者の考
察が正しいとすれば極めて由々しき事態と言わざるをえないだろう。
■原油安が米国 BEI に与えた影響はどの程度か
さて原油価格の急落は物価安定を目標としている各国の中央銀行にとって共通の悩みの種でもある。
米国の動向はどうなのだろうか。図表 3 は図表 2 と同様の方法で、米国の普通国債と物価連動債(共に
10 年物)から推計した BEI の動きを折れ線で、原油安による BEI への影響を赤い棒グラフ、原油安の
影響を除いた BEI の動きを黄色の棒グラフで示した結果である。
図表 3 からは原油安は BEI を 0.15%から 0.4%pt 程度押し下げていることがわかる。日本の場合と比
較してややインパクトは大きいものの大差はないと言えるだろう。そして原油価格の影響を除いた BEI
の平均伸び率(黄色部分)は 2.1%であり、インフレ目標である 2%とほぼ同水準で安定して推移してい
ることも分かる。
実際の物価上昇率は原油価格をはじめとする様々な要因によって一時的に上下する。こうした中で物
価上昇率を目標値である 2%近傍で安定化させるには、予想インフレ率が 2%の物価上昇率を満たす水
準で安定的に推移することが必要となる。米国の場合、BEI でみた予想インフレ率が物価安定の碇(ア
ンカー)として作用している点は、長引くデフレから完全に脱却するために物価安定の碇である予想イ
ンフレ率を高め、その水準を確固たるものにする段階にある日銀とは大きく異なる点だ。
なお 2015 年 8 月以降、原油安の影響を除いた米国の BEI は 2.1%を下回って推移している。3月 15
日・16 日に開催された FOMC で FRB は政策金利の据え置きを決定し、弱含みで推移する世界経済の動
きを考慮に入れて年内の想定利上げペースを 4 回から 2 回に引き下げ、合わせて 2016 年の成長率とイ
ンフレ率の見通しも引き下げた。BEI が下ぶれている現状で追加利上げに踏み込めば、BEI の値は更に
低下し、そのことで物価上昇率が低下してしまうリスクが高まる。こうした点から考えても、今回の
FOMC の判断は正しいと言えるだろう。
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図表 3 原油価格が米ブレーク・イーブン・インフレ率(10 年)に与えた影響
3
原油価格の影響を
除いたBEI10の平均
伸び率:2.1%
(%)
2.5
2
0.37
1.48
1.5
1
0.5
0
-0.25
-0.5
①原油価格の寄与
③原油価格以外の寄与(=②-①)
②BEI10
-1
(年、月)
(注)2006年2月1日から2016年3月1日までの日次データを用い、米ブレーク・イーブン・インフレ率(10年)=2.1+0.01×(WTI価格前年比)、自由度修正済み決定係数:
0.37、の推定式(全てのパラメーターは1%有意)に基づいて、米ブレーク・イーブン・インフレ率(10年)の動きを要因分解した結果。
(出所)FRB、市況データから作成。
■日銀の金融政策の何が、今課題なのか?
これまで内閣府「消費動向調査」から計算した家計の予想インフレ率、普通国債と物価連動国債の利
回りの差から計算される BEI の動きから予想インフレ率の低下の意味と、昨今の低下の要因について考
えてきた。日銀が年 4 回のペースで公表している展望レポート4をみると、本稿で挙げた予想インフレ率
のみならず、展望レポートに掲載されている全ての指標で予想インフレ率の伸びが頭打ちとなり低下し
ていることがわかる。
1 月 29 日に日銀が決定したマイナス金利政策の導入については、様々な批判が寄せられているが、筆
者の目線からは金融機関の収益悪化への懸念に代表される様々な批判(不安?)が本質をついていると
は思えない。本稿で述べてきたように、マイナス金利政策を導入しても予想インフレ率の落ち込みを反
転させるには至っていないことこそ問題視すべきではないか。
そしてわが国の予想インフレ率の低下は米 FRB の利上げや日銀のマイナス金利政策の影響で円安・ド
ル高圧力が働くと想定された中で米ドルに対して円高が進んだ「不整合な事実」の主因と考えられる。
為替レートの長期的なトレンドは各国の購買力(購買力平価説)
、そして短中期の動きは名目金利及
び予想インフレ率によって概ね説明できる。現状では名目金利差はわずかであるため、短中期のスパン
4
最新版は 1 月 30 日に公表され、予想インフレ率の動きは図表 39、図表 40 に掲載されている。
http://www.boj.or.jp/mopo/outlook/gor1601b.pdf
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でみた為替レートは予想インフレ率の差に大きく影響を受ける。図表 4 はドル/円レートの推移と、日
本の BEI から米国の BEI を差し引いた予想インフレ率格差とを比較しているが、日本の BEI の急落が始
まった 2016 年 1 月以降、予想インフレ率格差は大きく低下し、同じタイミングでドル/円レートの円
高が進んでしまっている5。つまり、円高の背景にはわが国の予想インフレ率の急落が影響していると考
えられるのである。
図表 4
為替レートと予想インフレ率格差の推移
(%)
(円/ドル)
0
130
-0.2
125
-0.4
120
-0.6
115
-0.8
110
-1
予想インフレ率格差(日本BEI10年-米国BEI10年)
ドル/円レート(右軸)
-1.2
-1.4
105
100
95
(年、月)
(注)2016年3月1日まで。
(出所)日本銀行、FRB、市況データ
これまで述べてきたように、2015 年 12 月以降の BEI の急落は原油安が主因ではなく、2%のインフレ
目標の設定とマイナス金利付き量的・質的金融緩和策という日銀の金融政策の枠組みへの信認が崩れつ
つある可能性を示唆している。予想インフレ率が低下すれば、予想実質金利の低下は抑制されて、経済
への刺激効果は及びにくくなり、総需要は低迷して現実の物価上昇率の伸びは止まっていき、予想イン
フレ率の上昇も止まることにつながるという悪循環に陥る。政府・日銀は早急な対策が必要と言えるだ
ろう。
■政府・日銀が行うべき対策とは
予想インフレ率の低下を食い止めるために政府・日銀は何を行うことが必要なのだろうか。大きく二
つの対策が考えられる。
一つ目の対策は、政府による財政政策、日銀による金融政策をより強めることだ。具体的には、消費
5
先程日本の BEI には流動性プレミアムが含まれており、日本の予想インフレ率を少なく見積もってしまう可
能性を指摘したが、図表 4 の両者の動きを比較すると、ドル/円レートの変化と予想インフレ率格差の変化は
ほぼ対応しているため、流動性プレミアムの変化が大きく影響していないと思われる。
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の低迷が長期化し、かつ 2015 年 10-12 月期の家計最終消費支出が消費税増税直後の 2014 年 4-6 月期の
値を下まわってしまっている現状に鑑みて、2017 年 4 月に予定されている消費税増税を凍結し、5%へ
の消費税減税を行うこと、日銀は「量」
・
「質」の更なる拡大(量的・質的金融緩和の拡大)と「金利」
の更なる低下(マイナス金利政策の更なる深化)を行うことが必要だろう6。こうした政策の実行に際し
ては「社会保障と税の一体改革」の枠組みを放棄して、社会保障の財源を逆進性という難点を有し、税
収を増やすには税率を引き上げる必要がある消費税増税に求めることを止め、名目 GDP600 兆円達成を
前提とした税収の増加や、相続税の強化や景気動向に配慮した所得税の累進性強化、政府資産の売却、
特別会計の整理といった形で捻出していくことが必要である。いうなれば、
「社会保障と税の一体改革」
ではなく「成長と社会保障の一体改革」に舵を切るということだ。これは図表 5 に示したアベノミクス
第一ステージの波及経路に即して言えば、金融政策と財政政策を共に拡大させることで総需要の拡大に
よるデフレギャップの縮小・インフレギャップへの転換を進めて物価上昇率を高め、予想インフレ率の
低下を食い止め、インフレ目標の達成に向けて更に予想インフレ率を上昇させるための政策とも言える
だろう。
図表 5 アベノミクスの波及経路
大胆な金融政策
名目金利低位安定化
円安
輸出増
機動的な財政政
策
予想インフレ率上昇
予想実質金利低下
投資増
資産効果
消費増
総需要増加
労働需要増加
資本需要増加
名目賃金上昇
信用創造機能の回復
デフレギャップの改善
インフレ率上昇
(出所)筆者作成
6
家計消費の再拡大のための消費税減税の実行と日銀の金融政策とのポリシーミックスの詳細は、拙稿(
「消
費低迷の特効薬」を考える
http://www.murc.jp/thinktank/rc/column/kataoka_column/kataoka160304.pdf
を参照されたい。
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そして二つ目の対策は政府・日銀の連携強化を図ることで、日銀による金融政策への信認をより高め、
予想インフレ率そのものの上昇を促すことである。具体的には、最近トーンダウンしているように感じ
られる名目 GDP600 兆円達成を具体化すべく、2013 年 1 月に政府と日銀が締結した「デフレ脱却と持続
的な経済成長のための政府・日本銀行の政策連携について(共同声明)」の内容を書き換え、インフレ
目標に採用する消費者物価指数を現状に合わせて見直し明確化すること、さらに 2%インフレ目標の達
成・安定化までは財政・金融両面で緩和を行うことを明記することも必要だ。さらに共同声明を日銀法
に根拠づけられるアコードに格上げすること、物価安定に加えて雇用の最大化を新たに目標に追加する
といった日銀法の改正も必要となる。共同声明のアコード格上げや日銀法の改正には一定の時間が必要
だろうが、共同声明の内容を書き換えることは短期間で可能だろう。
周知のとおり、2%のインフレ目標の達成・安定化が未達の現状、実質 GDP は上下しつつ推移し、特
に家計消費の「底割れ」が生じてデフレギャップの縮小が進まない現状、世界経済のリスク要因が顕在
化しており、外需の拡大に多くを望めない現状、を鑑みれば国内需要を喚起する大胆な政策が必須な情
勢だ。
折しも政府は 3 月 16 日から「国際金融経済分析会合」を開催し、ジョセフ・スティグリッツ米コロ
ンビア大教授、デール・ジョルゲンソン米ハーバード大教授、ポール・クルーグマン米ニューヨーク市
立大教授といった世界を代表する海外の識者に世界の経済・金融情勢について意見交換の機会を設けて
いる。これは画期的な取り組みと評価できる。2017 年 4 月に予定している消費税増税についての識者の
見解が主に報道されているきらいがあるが、それに留まらず日本経済復活のために必要な政策について
の知見を得る機会となることを期待したいところである。
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