事業レポート No.5

長年培ってきた IT 製品向け技術を展開
車の未来を素材と加工で支える
JX 金属 機能材料の
車載電子機器向け製品・技術
REPORT
JX 日鉱日石金属株式会社
事業レポート No.5
December 2015
IoT化社会に向かって飛躍する
JX金属 機能材料の車載関連技術
近年話題となっている IoT(Internet of Things、モノのインターネッ
ト)の進展で、これまでにない革新的なサービスが提供され、生活がよ
り便利に、より低環境負荷になる未来が近づいています。
IoT 化により、スマートフォンやパソコンのような IT 端末だけにとど
まらず、自動車や家電、さらには時計や交通システムなど身の回りのあ
らゆるものがネットワークに接続されます。もの同士がつながることで、
電子機器の情報処理量が飛躍的に増加し、センサー、ディスプレイなど
の電子部品の用途も広がり、そうした電子部品に使われる JX 金属が開
発した最先端の電子材料や精密加工技術も、より活躍のフィールドが拡
大します。
IoT 化の波に乗って飛躍するべく、当社の電材加工事業本部全体が新
製品・技術の開発に取り組んでいますが、今回は特に機能材料の分野で
自動車向けに使用される製品・技術をご紹介いたします。
自動車に関しては、世界中の自動車メーカーや IT 企業によって、イ
ンターネットに接続しさまざまなセンサーを搭載した「コネクテッド・カー」
の開発が加速しており、自動運転技術の実用化も近づいています。
JX金属グループの製品・技術使用例
合金
合金
合金
合金
HEV コネクタ
めっき
当社グループの機能材料分野の製品では、チタン銅、コルソン合金な
どの銅合金や圧延銅箔が最新の自動車に適用されており、IoT 化の進展
に伴い、その裾野はさらに広がっていきます。また、精密プレス、精密
めっきといった、当社グループが IT 製品向けに長年培ってきた技術も車
載向け製品に展開しています。
Sn-Cu-PET Foil
HA Foil, Tough Pitch Copper, HA-V2
NKC164E, NKE010, NKE012
シールド用銅箔
カーインフォテイメント用 FPC
基板対基板コネクタ
合金
合金
合金
めっき
合金
めっき
IoT化社会イメージ図
インターネット
スマートフォンやパソコンだけでなく、ウェアラブル端末、自動車や家電、時計
や交通システムといったものまで、あらゆるもの同士がつながる
HA Foil, Tough Pitch Copper, HA-V2
ヘッドライト用 FPC
電池用圧延銅箔
コンビネーションスイッチ
合金
合金
合金
HS1200
ミリ波レーダーアンテナ基板
1
HS1200, Tough Pitch Copper
KT322, C1990HP,
N
NKC388, NKC286, HA Foil,
Tough Pitch Copper, HA-V2 NKT322, C1990HP,
C5210, NKE012
パワーウィンドウ用モーター
NKC286, NKC164
ワイヤーハーネス用中継コネクタ
めっき
めっき
NKB083, NKB032, C5210
PCB コネクタ
リフロー錫めっき / 金めっき / 銀めっき
2
機 能 材 料 の 最 新ト ピック
Topic
精密加工
自動車のスマート化を素材でサポート
IT デバイスから車載電子機器へ
自動車のスマート化にともなって、実装される電子部品
特長その2:ウィスカーフリー
の高機能化が進み、それらの部品をつなぐコネクタの多
表面に純すず層がないことから、従来のすずめっきの
近年、自動車のスマート化が進むにつれて、これまで民生用 IT デバイスに搭載されていた各種コンポーネントが車載
極化が進行しています。自動車の製造工程では、コネク
課題であったウィスカー(すずのヒゲ状単結晶)発生によ
電子部品として採用される動きが加速しています。これまで高い機能性で IT 業界の発展を機器内部から支えてきた
タの組み立てを手作業で行うことが多く、作業員の負荷の
る端子間の短絡がおこりません。この特性を活かし、従
JX 金属の各種製品は、これからの車載電子機器の発展も同様にサポートしていきます。
低減が課題となっていました。こうした自動車業界のニー
来のすずめっきでは困難であった狭ピッチコネクタへの適
ズを受け、当社の技術開発センターが中心となって開発し
用も可能となりました。
車載コネクタ組み立ての負荷を大幅に低減する、後めっき技術「hyperTin®を開発」 コネクタ(オス側)イメージ
ためっき技術が「hyperTin (ハイパー・ティン)
」です。
®
Topic
銅 合 金 、圧 延 銅 箔
(低挿入力化が必要なのは裏側)
耐ウィスカー性
発生せず
エレクトロニクスデバイスの小型化・高性能化に貢献する高機能銅合金
『hyperTinⓇ 』加工部分
ウィスカー
※球圧子法、
荷重2N、時間120h
特長その1:低挿入力
当社独自の特許技術により、従来のすずめっきにおい
hyperTinⓇ
リフローすず
JX 金属の高機能銅合金は、電子機器の内部に搭載さ
最高レベルの強度を持ち非常に高い加工性も併せ持つチ
てコネクタ挿入時の負荷(挿入力)が高まる原因となっ
れるコネクタに多数採用されています。高強度・高導電・
タン銅、高強度・高導電という特性を高いレベルでバラ
ていた純すず層をなくし、摩擦係数が半分以下となる「す
特長その3:高耐熱性とコストダウン
高加工性といった特長から、これまでスマートフォンやパ
ンス良く両立させたコルソン合金は、エレクトロニクスデ
ず – 銀」および「すず – ニッケル」合金層をオスコネク
自動車では、特にエンジン周辺の部品には高い耐熱性
ソコンといった各種 IT デバイスの高機能化・小型化・高
バイスの発展に欠かせない素材となっています。車載用
タ側に形成することにより、挿入力を約 36% 程度と大
が求められます。hyperTin® は電気特性、はんだ付け性
信頼性化に寄与してきました。
途例では FPC コネクタやワイヤーハーネスコネクタ、基
幅に低減しました。
などが良好であり、特に高温環境下で使用しても接触抵
当社独自の製造プロセスにより、多くの伸銅製品で世
板対基板コネクタに使用されています。
抗が劣化しにくいため、従来の金めっきや銀めっきなどの
界 No.1 シェアを持っています。とりわけ、銅合金の中で
貴金属めっきを使用していた部分の代替となることが可
❶ FPC コネクタ(チタン銅 C1990HP, NKT322 / コルソン合金 NKC388)
使用例
❷ワイヤーハーネスコネクタ(コルソン合金 NKC164, NKC286)
❸基板対基板コネクタ(チタン銅 NKT322)
能で、大幅なコストダウンにつながります。
すず─銀合金層
hyperTin
Ⓡ
2015 年の発表以来お客様からの評価も良好で、
現在、
すず─ニッケル合金層
ニッケル
JX 金属プレシジョンテクノロジーでの来年度の量産開始
『hyperTinⓇ 』の断面構造
に向けて準備が進められています。
さまざまな付加価値を持つ圧延銅箔
JX 金属は圧延銅箔として世界最薄の 5 μ m 箔製造技
い信頼性を誇る圧延銅箔の採用が進んでいます。
術に加えて付加価値を高める表面処理技術を有し、供給
近年、これらの特長に加えて圧延銅箔が持つ優れた高
能力・品質・機能において世界最高水準の能力を誇って
周波特性、電磁波シールド性といった特性が注目を浴び
います。JX 金属のタフピッチ銅箔やオリジナル銅合金
ています。車載用途例としては、優れた高周波特性により、
箔 HA、HA-V2 は、高屈曲・高耐折性といった特長を持
ASV(先進安全自動車)に欠かせないミリ波レーダー装
ち、主な用途としてフレキシブルプリント基板が挙げられ
置のアンテナに、圧延および表面処理技術により伝送損
ます。また、高強度・高耐熱といった特長を持つ銅合金
失のロスを低減した低粗度圧延銅箔が採用されています。
箔 HS1200 も製造しています。ローエミッションビーク
電磁波シールド性を活かした例としては自動車のワイヤー
ルとして拡大が続く EV/PHEV には高性能な Li イオン電
ハーネスのシールド材として採用されており、各種電子機
池が欠かせませんが、その負極集電板には、高強度で高
器の誤動作の防止に役立っています。
使用例
市 場 開 発 部 より
「圧延」と「表面処理」を自在に組み合わせられるのが、JX金属の強みです。
JX 日鉱日石金属 電材加工事業本部 機能材料事業部 市場開発部長 三宅淳司
圧延と表面処理による高機能素材開発
区別があった車載向けと IT(モバイル)向けの垣根
当社はチタン銅、コルソン合金、各種銅箔をはじ
がなくなり、IT(モバイル)向けの部品が次々に自動
め、さまざまな製品で高い世界シェアを誇っています
車に採用されるようになってきています。
が、その特長をひとつ挙げるとすれば、圧延(倉見工
このようなムーブメントは当社にとって大きな追い
場)と表面処理(日立・白銀工場)の組み合わせにより、
風で、自動車向けの部品市場は実績が重視されるた
さまざまな用途に活用できる高機能素材が開発できる
め、これまで新規参入には時間がかかっていましたが、
点です。
IT 向けで長年にわたり世界的な評価を受けている当
自動車の衝突予防システムのセンサーとなるミリ波
社の部品が、自動車でも採用例を増やしています。
❹ Li イオン電池(HS1200, タフピッチ銅)
、❺ミリ波レーダー(HS1200)
レーダーに使用される銅箔は、高周波数への耐性が
たとえば車載カメラの FPC コネクタには、耐熱性
❻ワイヤーハーネス(Sn-Cu-PET Foil)
求められるため、高レベルの平滑性が要求されます。
に優れた当社のチタン銅(NKT322) の引き合いが
これを実現しているのが、世界でも当社だけの特長で
増えています。こうした IT 向けに開発を行ってきた、
ある、圧延した材料に表面処理で付加価値を加える生
世界でも当社しか製造できない高機能で差別化され
産体制です。
た製品を、自動車向けにも展開を拡大していきます。
また、金属材料の精密加工を行うJX 金属プレシジョ
IoT のムーブメントを追い風に飛躍
ンテクノロジーを傘下に持ち、顧客目線の材料要求
この 1、2 年余りで、自動車の電装化は急激なスピー
を迅速にフィードバックできるのも強みの一つです。
ドで進行しており、以前は部品のサイズなどに明確な
3
4
車載向けコネクタ材の一貫加工拠点
JX金属プレシジョンテクノロジー掛川工場
JX 金属プレシジョンテクノロジー掛川工場は、当社グループの車載向けを中心としたコネクタ材の一貫加工拠点として、
2013 年に操業を開始しました。伸銅品のプレス、めっき設備と成形・組み立てラインを備えています。
工場概要
所在地
TEL:
(0537)
23-6600 FAX:
(0537)23-6622
操業開始
2013年4月
従業員数
209名
(2015年4月1日現在)
事業
沿革
5
静岡県掛川市菖蒲ヶ池101番地
車載用・IT用等各種電子部品向け
精密部材のプレス、めっき加工、成形、組み立て
2013年4月 操業開始
2015年3月 プレス・めっき設備の移管完了(一貫加工対応確立)
IoTの進展、車のスマート化により、素材・加工メーカーの可能性が拡大
車載向け製品の厳格な基準をクリアする最新鋭の設備と生産体制 JX 金属プレシジョンテクノロジー
代表取締役社長 坂上信三
JX 金属プレシジョンテクノロジー
執行役員 掛川工場長 岡崎芳則
JX 金属プレシジョンテクノロジーは、国内に 4 つの工
性の高い樹脂に、当社の要素技術を加えるという取り組
掛川工場では、コネクタ材の製造を、プレス、めっき、
車載向け製品は、特に厳しい品質レベルが要求されて
場を保有し、会社全体でプレス、めっき、成形、組み立
みを行っています。すでに IT 向けでは技術・販売面にお
成形・組み立ての一貫したプロセスで行っています。 受
おり、掛川工場では自動車産業の国際的な品質マネジメ
てまで車載向け製品の一貫製造体制を整えています。中
いて共同の顧客対応をはじめているところであり、耐熱性
注の割合はプレスの約 80%、めっきの約 50%、成形・
ント規格である「ISO/TS16949」を取得しています。
でも掛川工場は、工場単独で一貫製造体制を整備し、車
が要求される車載向けの共同開発も期待されています。
組み立ての 100% が車載向けで、その他スマートフォ
この規格は継続的な品質改善および製品の供給責任な
載向けに重点化しているという特徴があります。
JX 金属グループで推進している精密加工事業は、電
ンなどの IT 製品向けコネクタ材も製造しています。銅合
ど、高品質な製品の安定供給に対して、ISO9000 シリー
IoT の進展、車のスマート化により、車載部品の電装
材加工事業本部 機能材料事業部 圧延・加工材料ユニッ
金を生産する JX 金属 倉見工場を含めたグループ全体で
ズよりも格段に厳格な基準が定められており、車載品を
化が進み、一層の小型化、複合化を実現する技術が求め
トが全体を統括し、市場開発部が IoT 化や車のスマート
素材調達までを一貫して行えることから、材料から部品
扱うには不可欠な規格です。
られています。 小型化、複合化は当社が IT 製品向けで
化の最新動向を調査してニーズを発掘、JX 金属プレシ
に至るまでを一元管理し、品質、納期、コスト面で優位
工場の改善活動に関しては、AK3(All Kakegawa
培ってきた技術であり、掛川工場でもその技術を応用し
ジョンテクノロジーが製品開発・試作を行っています。ま
に立つことができるのが、他社にはない強みであると考
Kaizen Katsudo)と称して、安全、品質・生産性、コ
ています。車載の部品を製造している顧客企業だけでは
た基礎的な技術および新製品開発は、技術開発センター
えています。
スト削減、販売促進の改善活動を従業員全員で行ってい
開発が難しい製品でも、当社が顧客の製品設計の段階か
で行っています。
掛川工場は、品質環境面では製造エリアの空調・圧力
ます。
ら参画することにより、実現が可能となる例もあり、こう
JX 金属プレシジョンテクノロジーは、掛川工場をはじ
管理、エアシャワー設置、発塵対策などによる異物対策、
お客様に当工場のこうした強みを知っていただくことも
した案件を増やして、当社の事業を拡大していきたいと
めとした高い生産性と安全性を誇る最新鋭の設備、JX
物流に関しては、一貫生産に適したロケーションや入荷、
重要であると考えています。今後は、新たな車載向けの
考えています。
金属グループ全体にわたる長年の技術蓄積を活用し、
出荷、保管などエリアの最適化、その他に環境対策、耐
めっき技術である hyperTin® の導入を来年度に計画して
複合化では、JX エネルギーの機能化学品カンパニー
IoT 化に向かう車載マーケット発展に大きく貢献すること
震性、BCP 対策、セキュリティといった観点を設計に盛
いるほか、高付加価値部品のラインアップを増加させ、
とコラボレーションし、JX エネルギーの製品である耐熱
を目指していきます。
り込んだ最新鋭の工場となっています。
お客様の多様なニーズに応えてまいります。
6
取材に関するお問い合わせ
JX 日鉱日石金属株式会社
広報・CSR 部
TEL: 03-6257-6269
製品・技術に関するお問い合わせ
JX 日鉱日石金属株式会社
電材加工事業本部 機能材料事業部
TEL: 03-6257-7421
〒100-8164 東京都千代田区大手町二丁目6番3号
www.nmm.jx-group.co.jp