平成 24 年度新潟薬科大学薬学部卒業研究Ⅰ

平成 24 年度新潟薬科大学薬学部卒業研究Ⅰ
論文題目
血液脳関門と末梢血管の違いについて
Differences between Blood-Brain Barrier and Peripheral Vessel
薬化学研究室 4 年
07P027
川上 咲佳
(指導教員:杉原 多公通)
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要 旨
血液脳関門とは脳を保護するための特異的機能であり、毛細血管内皮細胞で
形成されている。毛細血管は臓器を含め全身に発現しているが、末梢に存在す
るものと各臓器に存在するもの、血液脳関門を形成しているものはその機能が
大きく異なっている。同じ毛細血管でありながら存在部位による機能の変化の
うち、特に血液脳関門に見られる特殊な機能がどのように発現しているのかと
いう点に興味を持ち、調査を始めた。
毛細血管には、その構造的特徴から連続性毛細血管、有窓性毛細血管、洞様
毛細血管の 3 種類に分類される。連続性毛細血管は内皮細胞が密接に結合した、
間隙をもたない構造であり、血液脳関門はこれに分類される。有窓性毛細血管
は径 50-80 nm の小孔をもち、一般に薄い基底膜で覆われた構造であり、間隙は
分子量 5000 程度の分子であれば比較的自由に透過することができる。腎臓の糸
球体を形成する毛細血管はこれに分類される。洞様毛細血管は、内径が不規則
で間隙は大きく基底膜を持たず、タンパク質でさえも間隙を通過することがで
き、主に肝臓などの臓器に発現している。連続性毛細血管は、他の 2 種類の毛
細血管構造と異なり間隙がないため、単純拡散で透過できるもの以外物質は出
入りできない。そのため、チャンネルやトランスポーターといった他の毛細血
管ではあまり発現していない輸送系が発達し、必要な物質を細胞内に取り入れ
ていると考えられる。また、血液脳関門では単純拡散により細胞内に侵入した
不要な物質を排除するために排出側の輸送系も多数存在している。
血液脳関門では多数の輸送系が発現することで、物質の輸送を制限し脳を保
護している。輸送系について詳しく解明していくことで脳に直接作用しうる新
薬や、中枢副作用のない薬剤の開発が期待できる。
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キーワード
1.血液脳関門
2.連続性毛細血管
3.有窓性毛細血管
4.洞様毛細血管
5.密着結合
6.血管内皮細胞
7.間隙
8.単純拡散
9.基底膜
10.能動的輸送
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血液脳関門と末梢血管の違い
07P027
川上咲佳
脳を防護するための血液脳関門の実質は脳毛細血管の内皮細胞である。この血液脳関門の機能により、多くの薬物などは脳へと移行しない。
血液脳関門と末梢毛細血管を比較することで、血液脳関門の構造や機能の特異性を考える。
血液脳関門
末梢毛細血管
機能
脳毛細血管と脳組織の間に存在
脳毛細血管内皮細胞およびその周辺組織の特異的構造により、化学的障害から脳を防護する
血液と中枢神経系の組織液との間で物質交換を制限する機構
細動脈と細静脈とを結ぶ網目状の血管
内皮細胞の間隙を通して、血管内の血液中と組織間で、栄養素、酸素、二酸化炭素、老廃物
などの物質交換を行う
構造
血管内皮細胞は蛋白質(Occludin,Claudin-5)により構成される密着結合(tight
junction, TJ)により細胞間隙がとじられているため無窓性のチューブ状構造
内皮内を通過して物質を運搬する役割を持つ飲作用性小胞がほとんど存在していない
グリア細胞:その外周の約80%を星状膠細胞(アストロサイト)が取り囲んでいる
物質の輸送は内皮細胞に発現のトランスポーターにより行われる
平均内径は7-9μmである
間隙(小窓)とよばれる径50-80nmの小孔をもつ有窓構造
間隙は一般的には薄い隔膜でおおわれている
物質の透過
間隙が密着結合により塞がっているためその部分による物質の透過はおこらない
分子量が小さく脂溶性のものは脂溶性に依存した単純拡散に従い、細胞膜透過が
おこる
単純拡散により流入できない化合物や、単純拡散で流入した不要な分子などはト
ランスポーターにより排除される
単純拡散により透過されない化合物も対応したトランスポーターやトランスサイ
トーシスにより透過するものもある
分子量5000以下で蛋白質に結合していない非結合型の薬物は、水溶性脂溶性問わず間隙を通
り比較的自由に通過
受動拡散によって細胞間液中に移動
血液脳関門に発現している輸送機構
受容体を介しての輸送
ペプチドやインスリンなどの蛋白質は受容
体を介して
トランスサイトーシス機構により移行す
る
トランスポーター:脳から血液への排出
P糖蛋白質
トランスポーター:血液から脳への供給
System L(大型中性アミノ酸トランスポーター システムL輸送系)
•LAT1 ( 抗ヒトL型アミノ酸トランスポーター1),4F2hc(4F2 heavy
chain)の 複合体であるが、脳においてはLAT1が選択的に発現
•中性アミノ酸をNa+非依存的に輸送
•中性アミノ酸と類似構造の薬物(レボドパ、メルファランなど)も輸送さ
れる
GLUT1(D—グルコースの1型グルコーストランスポーター)
•グルコースの促進拡散型輸送をおこなう
•デヒドロアスコルビン酸も輸送する
MCT1(モノカルボン酸トランスポーター)
•プロトン勾配を利用する二次性能動輸送単体
•乳酸、探査脂肪酸、HMG-CoA還元酵素阻害薬、サリチル酸、バルプロ酸など
の輸送をおこなう
•ヒトではMDR1発現
•脳から血液方向への排出輸送
•ATPの加水分解エネルギーを駆動力とする一次性能動輸送型のトランス
ポーター
•内皮細胞の血管側膜に局在
•幅広い基質認識性を有する。
OAT3(有機アニオントランスポーター3)
•12回膜貫通型の膜蛋白質
•Na+非依存的にエストロン硫酸、PAH(ρ-aminohippurate)、メソトレキ
セート、シメチジンを輸送し、デヒドロエピアンドロステロン硫酸やオク
ラトキシンA、プロスタグランジンE2等も輸送
•ドパミン代謝産物(ホモバニリン酸など)、チオプリン核酸塩基類似体
の流出に関与
OATP1A4(organic anion transporting polypeeptide1a4)
•脂溶性の高い有機アニオン排出に関与
ASCT2(アラニン、セリン、システイントランスポーター)
•L-異性体選択性アスパラギン酸の流出輸送
CRT(クレアチニントランスポーター)
•脳毛細血管内皮細胞に局在している
•クレアチニン輸送
アデレノメデュリン(AM)について
•52個のアミノ酸からなるペプチド
•AM mRNAを非常に高レベルに発現していて脳毛細血管内皮細胞ではAMを活発に合成・分泌している
•AMの分泌には極性がある
•このAMが濃度依存的にTJ膜蛋白質の一種であるClaudin-5の発現を誘起し、内皮細胞間の密着結合をより強固なも
のにすることで、血液脳関門の機能を高めている
まとめ
血液脳関門は末梢毛細血管と異なり、密着結合により物質の輸送がおこなわれない。
その代わりに、排出供給に関わる多数のトランスポーターが発現することで特異的な
輸送がおこなわれている。その輸送により、薬物が脳に移行したり脳から排出された
りすることで作用副作用の発現が大きく左右されていると考えられる。
出典
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8. 小林 英幸. 横尾 宏毅. 柳田 俊彦. 和田 明彦. 日薬理誌. 2002, 119,
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9. 水野 尚美. 丹羽 卓朗. 日薬理誌. 2005, 125, 200-206
毛細血管構造
密
脳:血液脳関門
連続性毛細血管
血管内皮細胞同士が蛋白質により構成される密着結合(tight
junction)できつく連結している、無窓性のチューブ構造である。
栄養物質や薬物の移動は血液脳関門に発現するトランスポーターなどに
より行われる。
筋組織:心筋
連続性毛細血管
接合部ほぼない。
Na+-Ca+交換体、Cl--HCO3-交換体などのトランスポーターが発現している。
肺:肺胞
連続性毛細血管。
接合部にほぼ間隙はない。
肺胞は肺胞腔と肺胞上皮、肺胞上皮はⅠ型とⅡ型肺胞上皮からなる。
Ⅰ型肺胞上皮は非常に薄く扁平な細胞で、隣り合う細胞質同士は密着結
合により接着し、毛細血管内皮細胞と基底板を介して接着し、血液空気
関門を形成する。この部位で肺胞内の酸素と血液中の二酸化炭素とのガ
ス交換を行う。
ガス交換は単純拡散で行われる。
トランスポーターの発現はない。
腎臓:糸球体
有窓性毛細血管の中でも小孔が多い。また隔膜がない。よって赤血球よ
り小さなものは全て透過する。
基底膜は100-200nmと他よりも厚い。負に帯電している。
糸球体毛細血管にはトランスポーターの発現はない。
ただし、分泌・再吸収の場である尿細管上皮細胞にトランスポーターが
発現している。
膵臓:ランゲルハンス島
有窓性毛細血管と洞様毛細血管の中間
小孔は比較的大きく、基底膜は連続性である。
膵臓の他の部位より毛細血管が中に入り込んでいて、発達している。
ランゲルハンス島から分泌されたインスリン、グルカゴンなどのホルモ
ンを全身に分泌している。
肝臓:小葉
疎
洞様毛細血管(類洞)
内径は不規則で5-30μm(時に40-50μm)で基底膜はもたない。
管腔が大きいため、タンパクも出入りできる。
トランスポーターは発現していない。