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『こんな症例 経験しました。』
JA 岐阜厚生連 西美濃厚生病院 放射線科 高木理光
【症例】80 歳代男性。主訴は糖尿病コントロール不良。既往歴に 2008 年 5 月~2 型糖尿病。
インスリン自己注射にて外来経過観察中。低血糖にて度々救急搬送されるため自己管理の
再指導目的にて当院内科入院となる。入院時の腹部単純画像に異常所見は認めなかった。
入院後、糖尿病コントロールを行うが血糖値が不安定であったため糖尿病薬“α-GI(αグルコシダーゼ阻害薬)”が増量された。また腹部不快の訴えがあり上部消化管内視鏡検
査が施行され早期胃がんを認めた。術前検査にて腹部単純撮影および腹部単純 CT 検査が施
行された。腹部単純画像において腸管に沿った嚢胞状のガス像を広範囲に認めた。また腹
部単純 CT 画像を肺野条件にて観察すると広範囲に腹腔内遊離ガスおよび腸管壁内に気腫
像を認めた。炎症所見は認めず腹部所見もみられなかったため腸管穿孔や腸管壊死は否定
的であると考えられ、腸管嚢胞性気腫症と診断された。腸管嚢胞性気腫症とは、腸管壁内
に多房性気腫を生じる比較的稀な疾患である。発生機序には機械説・細菌節・呼吸器説・
薬剤説などがある。薬剤説にはステロイド、免疫抑制剤、精神病薬、糖尿病薬によるもの
があり今回は糖尿病薬α-GI が関与したものと考えられた。治療は保存的治療が原則とされ
ている。今回の症例は入院後に増量されたα-GI の減量と酸素療法が行われ、発症 7 日後に
は腹腔内遊離ガスおよび腸管壁内気腫は完全に消失した。【結語】腸管嚢胞性気腫症は特
徴的な画像所見により腹部単純画像 1 枚から示唆することが可能であり腸管穿孔・壊死を
否定することが鑑別として重要であると考える。また腹腔内遊離ガスを伴う症例では腸管
穿孔として緊急手術が行われたという報告も散見され、本症を念頭に入れた画像作成が不
必要な手術を回避するためのポイントであると考えられた。