特 許 公 報 特許第5778888号

〔実 11 頁〕
特 許 公 報(B2)
(19)日本国特許庁(JP)
(12)
(11)特許番号
特許第5778888号
(45)発行日
(P5778888)
(24)登録日 平成27年7月17日(2015.7.17)
平成27年9月16日(2015.9.16)
(51)Int.Cl.
A23L
FI
1/22
(2006.01)
A23L
1/22
Z
A61K 47/36
(2006.01)
A61K
47/36
請求項の数10 (全16頁)
(21)出願番号
特願2009-239669(P2009-239669)
(22)出願日
平成21年10月16日(2009.10.16)
日本食品化工株式会社
(65)公開番号
特開2011-083248(P2011-83248A)
東京都千代田区丸の内1丁目6番5号(丸
(43)公開日
平成23年4月28日(2011.4.28)
審査請求日
平成24年8月22日(2012.8.22)
審判番号
不服2014-1632(P2014-1632/J1)
審判請求日
平成26年1月29日(2014.1.29)
(73)特許権者 000231453
の内北口ビル20階)
(74)代理人 100107342
弁理士
横田 修孝
(74)代理人 100117787
弁理士
勝沼 宏仁
(74)代理人 100091487
弁理士
中村 行孝
(72)発明者 佐分利
亘
静岡県富士市田島30
日本食品化工株式
会社内
最終頁に続く
(54)【発明の名称】分岐糖類を含有する風味改善剤および製剤用マスキング剤
1
2
(57)【特許請求の範囲】
【請求項5】
【請求項1】
茶系飲料が、緑茶飲料である、請求項4に記載の風味改
α−1,4−グルコシド結合により構成された直鎖状グ
善剤。
ルカンと、少なくともその直鎖状グルカンの非還元末端
【請求項6】
に導入された分岐構造とからなる構造を有する、重合度
ポリフェノール類がカテキンである、請求項1または4
5∼10のグルカンまたはその還元物を有効成分として
に記載の風味改善剤。
含んでなる、ポリフェノール類含有食品用風味改善剤で
【請求項7】
あって、風味改善がポリフェノール類に起因する苦味お
α−1,4−グルコシド結合により構成された直鎖状グ
よび/または渋味の低減である、風味改善剤。
ルカンと、少なくともその直鎖状グルカンの非還元末端
【請求項2】
10
に導入された分岐構造とからなる構造を有する、重合度
分岐糖類の重合度が5∼8である、請求項1に記載の風
5∼10のグルカンまたはその還元物をポリフェノール
味改善剤。
類含有食品に添加することを含んでなる、ポリフェノー
【請求項3】
ル類に起因する苦味および/または渋味が低減されたポ
分岐構造が、α−1,4−グルコシド結合以外のグルコ
リフェノール類含有食品の製造方法。
シド結合により結合した1個以上のグルコース残基によ
【請求項8】
り構成される、請求項1に記載の風味改善剤。
ポリフェノール類含有食品が、茶系飲料である、請求項
【請求項4】
7に記載の製造方法。
ポリフェノール類含有食品が、茶系飲料である、請求項
【請求項9】
1に記載の風味改善剤。
茶系飲料が、緑茶飲料である、請求項8に記載の製造方
( 2 )
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法。
与が避けられず、緑茶飲料といった低甘味飲食物には使
【請求項10】
用が制限されていた。しかも、この公報では、分岐を有
ポリフェノール類がカテキンである、請求項7または8
する3∼4糖に苦味・渋味の抑制効果があることが試験
に記載の製造方法。
例として開示され、重合度が5以上の分岐糖類にはそれ
【発明の詳細な説明】
らの効果が認められないことが指摘されている。
【発明の背景】
【0005】
【0001】
特開2007−117087号公報(特許文献2)では
発明の分野
高甘味度甘味料および糖アルコールを用いた方法が開示
本発明は、分岐糖類を有効成分とする風味改善剤および
製剤用マスキング剤に関する。
されている。しかし、高甘味度甘味料の甘味や後味の苦
10
味によって飲食物自体の風味を損ねる問題があった。特
本発明はまた、分岐糖類を用いた風味が改善された食品
に緑茶飲料においては甘味の付与が好まれないため、甘
の製造方法および不快な味がマスキングされた医薬品の
味を付与することなく苦味・渋味を低減させることが望
製造方法に関する。
まれている。
【0002】
【先行技術文献】
背景技術
【特許文献】
ポリフェノール類とは分子内に複数のフェノール性ヒド
【0006】
ロキシル基を持つ植物成分であり、カテキンやアントシ
【特許文献1】特開2006−280254号公報
アニン、クロロゲン酸などが代表的なポリフェノール類
【特許文献2】特開2007−117087号公報
として知られている。ポリフェノール類には、多くの健
【発明の概要】
康増進に有利な生理作用があることが報告されており、 20
【0007】
例えば、カテキンには抗酸化作用、抗菌作用、脂質代謝
本発明者らは、重合度5以上の分岐糖類が苦味・渋味の
改善作用、血圧上昇抑制作用、血糖値上昇抑制作用、消
抑制に極めて有効であるとともに食品本来の味に悪影響
臭作用、抗アレルギー作用などを有する。このような生
を与えないことを見いだした。本発明はこの知見に基づ
理活性を利用し、カテキンを高濃度含む緑茶飲料やニア
くものである。
ウォーターが健康飲料として広く販売されている。しか
【0008】
し、様々な生理機能が知られているがほとんどのポリフ
すなわち、本発明は、苦味・渋味の抑制など食品の風味
ェノール類は強い苦味・渋味を呈する。すなわち、ポリ
改善に有効であるとともに食品本来の味に悪影響を与え
フェノール類の強い苦味・渋味のため、高濃度にポリフ
ない食品用風味改善剤および風味が改善された食品の製
ェノール類を含有させた飲食物では、その苦味・渋味に
造方法を提供することを目的とする。本発明は、また、
より飲食しづらいものとなる。このため、ポリフェノー 30
医薬品の不快な味のマスキングに有効な製剤用マスキン
ル類には様々な有益な生理機能があるにも関わらず、高
グ剤および不快な味がマスキングされた医薬品の製造方
濃度摂取することが困難であることが問題である。
法を提供することを目的とする。
【0003】
【0009】
そこで、ポリフェノール類の味質改善方法として従来か
本発明によれば、以下の発明が提供される。
ら種々の改善策が提案されてきた。例えばポリフェノー
(1)重合度5∼10の分岐糖類またはその還元物を含
ル類の一種であるカテキン類を含有する容器詰飲料に関
んでなる、食品用風味改善剤または製剤用マスキング剤
して、特開2004−254511号公報においてβ−
。
シクロデキストリンを使用する方法が開示されている。
(2)風味改善が、苦味および/または渋味の低減であ
しかしながら、β−シクロデキストリンはADI値(一
る、(1)に記載の風味改善剤。
日許容摂取量)が5mg/kg/日と定められており、 40
(3)分岐糖類の重合度が5∼8である、(1)に記載
使用量が制限されるという課題があり、更にシクロデキ
の風味改善剤。
ストリンを配合することにより飲食物の旨味までも低減
(4)分岐糖類が、少なくとも非還元末端に分岐構造を
してしまうという問題があった。
有するグルカンである、(1)∼(3)のいずれか一項
【0004】
に記載の風味改善剤または製剤用マスキング剤。
特開2006−280254号公報(特許文献1)では
(5)分岐構造が、α−1,4−グルコシド結合以外の
分岐構造を有する3∼4糖を有効成分とする風味調整剤
グルコシド結合により結合した1個以上のグルコース残
を使用しカテキン類の苦味及び/又は渋味を抑制する方
基により構成される、(4)に記載の風味改善剤または
法が開示されている。しかしながら、糖は低分子である
製剤用マスキング剤。
ほど甘味が強く、高分子であるほど甘味が弱くなるため
(6)重合度5∼10の分岐糖類またはその還元物を食
、低分子である3∼4糖を多く含有することで甘味の付 50
品に添加することを含んでなる、風味が改善された食品
( 3 )
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の製造方法。
,4−グルコシド結合により構成された直鎖状グルカン
(7)重合度5∼10の分岐糖類またはその還元物を苦
と、少なくともその直鎖状グルカンの非還元末端に導入
味および/または渋味を有する食品に添加することを含
された分岐構造とからなる構造を有する、重合度5∼1
んでなる、苦味および/または渋味が低減された食品の
0のグルカンが挙げられ、更なる具体例としては、α−
製造方法。
1,4−グルコシド結合により構成された直鎖状グルカ
(8)苦味および/または渋味を有する食品が、ポリフ
ンと、その直鎖状グルカンの非還元末端のみに導入され
ェノール類含有食品である、(7)に記載の苦味および
た分岐構造とからなる構造を有する、重合度5∼10の
/または渋味が低減された食品の製造方法。
グルカンが挙げられる。
(9)ポリフェノール類含有食品が、茶系飲料、果実飲
【0013】
料、炭酸飲料、野菜飲料、スポーツ飲料、乳性飲料、ア 10
本発明による風味改善剤および製剤用マスキング剤の有
ルコール飲料、その他の飲料、アイスクリーム、ゼリー
効成分である「分岐糖類」は、非還元末端に導入された
、ムース、飴菓子、ガム、フィリング、健康食品、また
分岐構造に加えて、グルカンの中間部分に分岐構造を有
はサプリメントである、(8)に記載の苦味および/ま
していてもよい。このようなグルカンの中間部分に存在
たは渋味が低減された食品の製造方法。
する分岐構造はデンプン等の製造原料に由来するもので
(10)重合度5∼10の分岐糖類またはその還元物を
ある。
、医薬品に添加することを含んでなる、不快な味がマス
【0014】
キングされた医薬品の製造方法。
本発明において「分岐構造」とは、α−1,4−グルコ
(11)風味改善に有効な量の重合度5∼10の分岐糖
シド結合以外のグルコシド結合により直鎖状グルカンに
類またはその還元物を含んでなる、食品。
結合した1個以上のグルコース残基からなるグルカン残
(12)ポリフェノール類の苦味および/または渋味の 20
基を意味する。α−1,4−グルコシド結合以外のグル
低減に有効な量の重合度5∼10の分岐糖類またはその
コシド結合としては、α−1,6−グルコシド結合、α
還元物を含んでなる、ポリフェノール類含有食品。
−1,3−グルコシド結合、α−1,2−グルコシド結
(13)医薬品の不快な味のマスキングに有効な量の重
合が挙げられる。
合度5∼10の分岐糖類またはその還元物を含んでなる
【0015】
、医薬品。
後述するように、本発明において用いる分岐糖類の製造
【0010】
において糖転移作用を有する酵素を選択することによっ
重合度5以上の分岐糖類は、苦味や渋味などの不快な味
て、非還元末端に導入される分岐構造を変化させること
を効果的に抑制できる。また、重合度が10以下の分岐
ができる。分岐構造のグルカン残基を構成するグルコー
糖類はデンプン原料にα−アミラーゼを作用させ、次い
ス残基の個数は本発明において用いられる分岐糖類の重
で、α−グルコシダーゼを作用させることにより簡便に 30
合度を満たす限り特に限定されないが、好ましくは、1
調製することができる。従って、重合度5∼10(特に
∼数個、より好ましくは、1∼4個、1∼3個、または
、重合度5∼8)の分岐糖類は風味改善を目的とした食
1∼2個とすることができる。
品添加剤や不快な味のマスキングを目的とした製剤用添
【0016】
加剤として有用である。また、重合度5∼10(特に、
分岐構造が2糖単位で構成されたグルカン残基の場合に
重合度5∼8)の分岐糖類またはその還元物は低甘味で
は、その分岐構造としてはコージビオース、ニゲロース
あることから、低甘味が要求される食品の風味改善剤と
、マルトース、イソマルトース構造が挙げられ、より具
しても有利である。
体的には、直鎖状グルカンの非還元末端にα−1,4−
【発明の具体的説明】
結合以外の結合様式でコージビオース、ニゲロース、マ
【0011】
ルトース、またはイソマルトースが結合した構造が挙げ
本発明による風味改善剤および製剤用マスキング剤の有 40
られる。分岐構造が3糖以上のグルカン残基の場合には
効成分である「分岐糖類」は、少なくとも非還元末端に
、その分岐構造としては、イソマルトトリオース、ニゲ
分岐構造を有するグルカンを意味し、典型的には、直鎖
ロトリオースなど単一なグルコシド結合のみから構成さ
状グルカンと分岐構造とからなるグルカンであって、少
れるグルカンや、パノースなど複数のグルコシド結合に
なくとも直鎖状グルカンの非還元末端に分岐構造が導入
より構成されたグルカンが挙げられ、より具体的には、
されたグルカンである。ここで、「直鎖状グルカン」と
直鎖状グルカンの非還元末端にα−1,4−結合以外の
は、単一のグルコシド結合(例えば、α−1,4−グル
結合様式で、イソマルトトリオース、ニゲロトリオース
コシド結合)によりグルコース分子が結合して構成され
など単一なグルコシド結合のみから構成されるグルカン
た直鎖状のグルカンを意味する。
や、パノースなど複数のグルコシド結合により構成され
【0012】
たグルカンが結合した構造が挙げられる。
本発明において「分岐糖類」の具体例としては、α−1 50
【0017】
( 4 )
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8
本発明において「還元末端」とは、還元性を示す糖残基
ム−炭素、パラジウム−硫酸バリウム、パラジウム−酸
を意味する。本発明において「非還元末端」とは、還元
化マグネシウム、パラジウム−アルミナなどのパラジウ
性を示さない糖残基、すなわち、「還元末端」以外の末
ム触媒;白金黒、コロイド白金、酸化白金、硫化白金、
端糖残基を意味する。
白金−炭素などの白金−担体触媒等の白金触媒;コロイ
【0018】
ドロジウム、ロジウム−炭素、酸化ロジウムなどのロジ
本発明においてグルカンの「中間部分」とは、末端糖残
ウム触媒;ルテニウム触媒などの白金族触媒;酸化二レ
基以外の糖残基を意味する。
ニウム、レニウム−炭素などのレニウム触媒;銅クロム
【0019】
酸化物触媒;三酸化モリブデン触媒;酸化バナジウム触
本発明において「重合度」とは、グルカンを構成するグ
媒;酸化タングステン触媒;銀触媒などが挙げられる。
ルコース残基の個数を指し、直鎖状グルカンを構成する 10
これらの触媒の内では、ラネーニッケル、還元ニッケル
グルコース残基の個数のみならず、分岐構造を構成する
、ニッケル珪藻土を用いることが好ましく、より好まし
グルコース残基の個数を含む。分岐糖類の重合度は、高
くは、ラネーニッケルである。
速液体クロマトグラフィー (HPLC)法によって測定
【0025】
することができる。
また、水素の圧力は通常10∼250kg/cm
2
2
、好
【0020】
ましく50∼200kg/cm
本発明による風味改善剤および製剤用マスキング剤の有
反応温度は触媒量、溶媒種別により異なるが、通常80
効成分である「分岐糖類」の重合度は5∼10であり、
∼200℃の範囲であることが好ましく、90∼160
好ましくは重合度5∼8または重合度5∼7の分岐糖類
℃がより好ましい。
を用いることができる。
【0026】
【0021】
20
の範囲である。また、
なお、本明細書において単に「分岐糖類」というときは
本発明において「還元物」とは、糖の還元末端のグルコ
、還元物をも含む意味で用いられるものとする。
シル基のアルデヒド基が還元され、水酸基となっている
【0027】
ものを言う。
本発明による風味改善剤および製剤用マスキング剤の有
【0022】
効成分である「分岐糖類」は、デンプン原料に、α−ア
糖の還元物を得る方法は当業者に周知であり、使用可能
ミラーゼを作用させ、次いで、糖転移作用を有する酵素
な還元方法を例示すれば、ヒドリド還元剤を用いる方法
を作用させることにより製造することができる。
、プロトン性溶媒中の金属を用いる方法、電解還元方法
【0028】
、接触水素化反応方法等が挙げられる。本発明において
デンプン原料にα−アミラーゼを作用させることにより
は、少量の還元物を調製する場合にはヒドリド還元剤を
、デンプン主鎖のα−1,4−結合がランダムに加水分
用いる方法が簡便且つ特殊な装置を必要とせず便利であ 30
解される。この加水分解反応はα−アミラーゼの酵素反
り、一方で、工業的に大規模に実施する場合には、経済
応が進行する温度で実施することができ、通常、85℃
性優れ、副生成物も少ないという点から、接触水素化反
付近までの温度範囲で実施することができる。好適な反
応を用いる方法が好ましい。
応温度は、30∼60℃である。また、この加水分解反
【0023】
応は、酵素反応が進行するpHで実施することができ、
接触水素化反応とは、触媒の存在下、不飽和有機化合物
通常、pH4.5∼9.0の範囲で実施することができ
の二重結合部に水素を添加する反応であり、一般に水添
る。好適な反応pHは、pH5.5∼7.0の範囲であ
反応とも言われている。本発明による還元物の製造方法
る。
を具体的に説明すると、本発明において用いる分岐糖類
【0029】
を水に溶解し、そこにラネーニッケル触媒を適量加え、
次いで、糖転移作用を有する酵素を作用させることによ
水素ガスを添加し、高温条件下で還元する。次に、脱色 40
り、低分子化されたデキストリンの非還元性末端に糖転
・脱イオン処理して、分岐糖類還元糖組成物を得る。
移作用を有する酵素(例えば、α−グルコシダーゼ)が
【0024】
作用してα−1,4−結合を切断し、グルコシル基を他
接触水素化反応において使用し得る触媒としては、公知
のあるいは同一の非還元性末端のグルコシル基にα−1
の水添触媒なら特に限定されないが、例えば、ラネーニ
,6−結合、α−1,2−結合、あるいはα−1,3−
ッケル、還元ニッケル、珪藻土、アルミナ、軽石、シリ
結合で付加する。これにより非還元性末端に分岐構造を
カゲル、酸性白土などの種々の担体に担持したニッケル
有する糖類が生じる。この酵素反応は、糖転移が進行す
−担体触媒などのニッケル触媒;ラネーコバルト、還元
る温度で実施することができ、通常、65℃付近までの
コバルト、コバルト−担体触媒などのコバルト触媒;ラ
温度範囲で実施することができる。好適な反応温度は、
ネー銅、還元銅、銅−担体触媒などの銅触媒;パラジウ
30∼55℃である。また、この酵素反応は、糖転移が
ム黒、酸化パラジウム、コロイドパラジウム、パラジウ 50
進行するpHで実施することができ、通常、pH3.0
( 5 )
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∼8.5の範囲で実施することができる。
【0036】
好適な反応pHは、pH4.0∼6.5の範囲である。
本発明において用いられる分岐糖類の製造に用いる酵素
【0030】
は、分岐糖類を生成できる限り、精製酵素であっても粗
酵素の使用量と反応時間とは密接に関係しており、目的
酵素であっても良く、また、遊離の酵素であっても、固
とする酵素反応の進行により適宜反応時間を調節するこ
定化された酵素であってもよい。固定化酵素の場合、反
とができる。
応の形式は、バッチ式、半連続式および連続式のいずれ
【0031】
でもよい。固定化方法としては、担体結合法、(例えば
本発明において用いられる分岐糖類の製造では、デンプ
、共有結合法、イオン結合法、あるいは物理的吸着法)
ン原料としてデンプン液化液を用いることができる。原
、架橋法あるいは包括法(格子型あるいはマイクロカプ
料として用いられるデンプン液化液のデンプン濃度は、 10
セル型)など、公知の方法を使用することができる。
酵素反応の効率やデンプンの溶解度等の観点から、10
【0037】
∼45質量%とすることができる。但し、デンプン部分
本発明において用いられる分岐糖類の製造に用いる「α
分解物を原料とする場合は基質濃度が45質量%を越え
−アミラーゼ」は、市販のものを用いても、微生物から
ても反応を良好に進行させることができる。デンプン液
単離したものを用いてもよい。単離源となる微生物は、
化液のDEは、通常DE2∼25の範囲とすることが好
天然由来の微生物に加えて、α−アミラーゼ産生能を有
ましく、より好ましくはDE3∼10の範囲である。
する組換え微生物や、天然由来の微生物を変異させた変
【0032】
異株であってもよい。「α−アミラーゼ」の微生物起源
酵素反応に用いられるα−アミラーゼの添加量は、反応
は特に限定されないが、例えば、バチルスサチルス (Ba
効率および製造コストの観点から、対基質(固形)1g
cillussubtilis)、ジオバチルスステアロサーモフィル
当たり0.1∼100単位とすることができる。ここで 20
ス (Geobacillusstearothermophilus)、 アスペルギル
、α−アミラーゼの酵素単位は、JIS K7001
- 1 9 9 0
工業用
スオリゼ (Aspergillusoryzae)、バチルスアミロリクエ
アミラーゼの液化力試験法により求めることができる。
ファシエンス(Bacillusamyloliquefaciens)、大麦由
【0033】
来のものを用いることができる。
酵素反応に用いられる糖転移作用を有する酵素のうちα
【0038】
−グルコシダーゼの添加量は、反応効率および製造コス
本発明において用いられる分岐糖類の製造に用いる「糖
トの観点から、対基質(固形)1g当たり0.01∼3
転移作用を有する酵素」としては、α−グルコシダーゼ
0単位とすることができる。ここで、α−グルコシダー
、6−α−グルコシルトランスフェラーゼ、およびデキ
ゼ1単位とは1分間に1μmolのマルトースを加水分
ストリンデキストラナーゼが挙げられる。
解するのに必要な酵素量をいう。
【0039】
【0034】
30
α-グルコシダーゼは、市販のものを用いても、微生物
α−グルコシダーゼ以外の糖転移作用を有する酵素の添
から単離したものを用いてもよい。単離源となる微生物
加量については、酵素反応や反応条件は周知であること
は、天然由来の微生物に加えて、α−グルコシダーゼ生
から、当業者であれば、α−グルコシダーゼの添加量に
成酵素産生能を有する組換え微生物や、天然由来の微生
従ってその添加量を決定できる。
物を変異させた変異株であってもよい。α−グルコシダ
【0035】
ーゼの微生物起源は特に限定されないが、例えば、アス
製造原料となるデンプンの由来は特に限定されないが、
ペルギルス ニガー (Aspergillusniger) およびアクレ
例えば、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、米
モニウム エスピー (Acremoniumsp.) 由来のものを用い
デンプン、餅米デンプン、小麦デンプン、サゴヤシデン
ることができる。
プンなどの地上デンプンや、馬鈴薯デンプン、甘藷デン
【0040】
プン、タピオカ澱デンプン、くずデンプンなどの地下デ 40
デンプン液化液にα−アミラーゼ、糖転移作用を有する
ンプンを用いることができる。さらに、デンプンから得
酵素を順に作用させると、反応物中に分岐糖類を得るこ
られたアミロース、アミロペクチン、デンプン部分分解
とができる。反応物中に存在する分岐糖類の非還元末端
物などを原料とすることも可能である。これらのデンプ
に分岐構造が導入されているかは、マルトデキストリン
ンは液化あるいは糊化して本発明において用いられる分
やデンプンの非還元性末端から2糖単位でα−1,4−
岐糖類の製造方法に使用することができる。例えば、デ
結合を加水分解するβ−アミラーゼにより加水分解を受
ンプンにアミラーゼなどの液化酵素を作用させて得られ
けないことにより確認することができる。使用できるβ
たデンプン液化液を本発明において用いられる分岐糖類
−アミラーゼは、特に限定されないが、例えば、大豆由
のデンプン原料として用いることができる。デンプンの
来のβ−アミラーゼを使用することができる。なお、β
液化の方法や糊化の方法は当業者に周知であり、いずれ
−アミラーゼと同様にマルトデキストリンやデンプンの
の方法をも用いることができる。
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非還元性末端よりα−1,4−結合を加水分解するグル
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12
コアミラーゼを使用することも可能ではあるが、この酵
ルカンの非還元末端にα−1,6−結合により結合する
素はα−1,6−結合分解能も有するため、β−アミラ
グルカンであって、分岐構造を構成するグルコシド結合
ーゼを使用することが好ましい。
がα−1,4−結合および/またはα−1,6−結合か
【0041】
らなるグルカンであってもよい。なお、アスペルギルス
本発明において用いられる分岐糖類の製造では、糖転移
ニガー由来のα−グルコシダーゼを用いた場合はごく
作用を有する酵素を選択することにより、所望の分岐構
微量ではあるがα−1,2−結合やα−1,3−結合が
造を非還元末端に導入することができる。例えば、アス
分岐構造中に含まれることがある。
ペルギルスニガー由来のα−グルコシダーゼ、デキスト
【0044】
リンデキストラナーゼあるいは6−α−グルコシルトラ
糖転移酵素として6−α−グルコシルトランスフェラー
ンスフェラーゼを使用すると、α−1,4−グルコシド 10
ゼを使用した場合には、直鎖状グルカンの非還元末端に
結合により構成されたグルカン鎖の非還元末端にα−1
α−1,6−結合によりグルコースが1分子結合した分
,6−グルコシド結合からなる分岐鎖を導入することが
岐糖類が得られる。
でき、アクレモニウム
【0045】
エスピー由来のα−グルコシダ
ーゼを使用するとα−1,3−グルコシド結合からなる
糖転移酵素としてデキストリンデキストラナーゼを使用
分岐鎖を導入することができる。
した場合には、直鎖状グルカンの非還元末端にグルコー
【0042】
ス1∼6残基からなる分岐構造がα−1,6−結合によ
本発明において用いられる分岐糖類の製造では、糖転移
り結合した分岐糖類が得られる。この分岐構造のグルカ
酵素としてアクレモニウム
ンは主としてα−1,6−結合から構成されるが、わず
エスピー由来のα−グルコ
シダーゼを使用すると、グルコース残基がα−1,3−
かにα−1,4−結合が含まれることがある。
グルコシド結合により非還元末端に結合した分岐糖類を 20
【0046】
製造することができる。この場合、分岐糖類が有する分
本発明において用いられる分岐糖類の製造では、酵素反
岐構造は、グルコースがα−1,3−結合により分岐し
応により得られた生成物を、そのまま本発明による風味
た構造、マルトースがα−1,3−結合により分岐した
改善剤や製剤用マスキング剤とすることができる。また
構造、ニゲロースがα−1,3−結合により分岐した構
、必要に応じて、酵素反応により得られた生成物を遠心
造、マルトトリオースがα−1,3−結合により分岐し
分離あるいは濾過等により不溶物を除去し、水溶性画分
た構造、マルトシル−α−1,3−グルコースがα−1
を濃縮することで、重合度5∼10の分岐糖類を含有す
,3−結合により分岐した構造、ニゲロシル−α−1,
る溶液を得ることもできる。あるいは、必要に応じて活
4−グルコースがα−1,3−結合により分岐した構造
性炭により脱色させたもの、適当なイオン交換樹脂によ
、ニゲロトリオースがα−1,3−結合により分岐した
りイオン性成分を除去したものを濃縮してもよい。保存
構造が挙げられる。4糖以上の分岐構造が結合する場合 30
性やその後の用途においては、脱色、イオン除去したも
には、その分岐構造は、基質の直鎖状グルカンの非還元
のを微生物の繁殖が問題とならない程度の水分活性とな
末端にα−1,3−結合により結合するグルカンであっ
るまで濃縮することが好適である。または、用途によっ
て、分岐構造を構成するグルコシド結合がα−1,4−
ては利用しやすいように、乾燥し、粉末として得ること
結合および/またはα−1,3−結合からなるグルカン
もできる。乾燥は、通常、凍結乾燥あるいは噴霧乾燥や
であってもよい。
ドラム乾燥などの方法が利用できる。乾燥物は、必要に
【0043】
より粉砕することが望ましい。
本発明において用いられる分岐糖類の製造では、また、
【0047】
糖転移酵素としてアスペルギルス ニガー由来のα−グ
本発明の酵素反応により得られる生成物は、重合度5∼
ルコシダーゼを使用すると、グルコース残基がα−1,
10の分岐糖類と共に、重合度4以下の糖類または分岐
6−グルコシド結合により非還元末端に結合した分岐糖 40
糖類、重合度9以上の糖類または分岐糖類、限界デキス
類を製造することができる。この場合、分岐糖類が有す
トリン、あるいはこれらの混合物を含有している。この
る分岐構造は、グルコースがα−1,6−結合により分
生成物はそのまま後述するような食品などの用途に用い
岐した構造、マルトースがα−1,6−結合により分岐
ることができるが、必要に応じてこれらの成分を除去し
した構造、イソマルトースがα−1,6−結合により分
てもよい。糖類の単離・精製方法および糖類の分離・除
岐した構造、マルトトリオースがα−1,6−結合によ
去方法としては、ゲルろ過クロマトグラフィー、カーボ
り分岐した構造、イソパノースがα−1,6−結合によ
ン−セライトカラムクロマトグラフィー、強酸性陽イオ
り分岐した構造、パノースがα−1,6−結合により分
ン交換カラムクロマトグラフィーなど当業者に周知の糖
岐した構造、イソマルトトリオースがα−1,6−結合
類の精製方法を使用できる。なお、本発明の酵素反応に
により分岐した構造が挙げられる。4糖以上の分岐構造
より得られる生成物には、デンプン原料に由来する分岐
が結合する場合には、その分岐構造は、基質の直鎖状グ 50
構造を非還元末端に加えて直鎖状グルカンの中間部分、
( 7 )
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すなわち、末端残基以外の糖残基、に有するグルカンが
苦味および/または渋味の低減剤として用いることがで
僅かに含まれており、そのような分岐糖類も本発明の範
きる。
囲内であることはいうまでもない。
【0055】
【0048】
ここで、ポリフェノール類とは分子内に複数のフェノー
本発明の酵素反応により得られる生成物を食品の風味改
ル性ヒドロキシル基を持つ成分を意味し、例えば、カテ
善や医薬品の不快な味のマスキングに用いる場合には、
キン、アントシアニン、クロロゲン酸などが挙げられる
生成物中の分岐糖類の含有量は風味改善効果やマスキン
。ポリフェノール類には生体に好ましい様々な生理機能
グ効果が発揮される限り特に限定されるものではなく、
が知られているが、ほとんどのポリフェノール類は強い
例えば、生成物中の分岐糖類の含有量は、固形分当たり
苦味や渋味を呈するため、高濃度の摂取が困難である。
10質量%以上(例えば、10∼80質量%)、好まし 10
分岐糖類はポリフェノール類に起因する苦味および/ま
くは、20質量%以上(例えば、20∼70質量%)と
たは渋味を効果的に低減することから、本発明による風
することができる。
味改善剤はポリフェノール類の高濃度摂取を可能にする
【0049】
点で有利である。
本発明の酵素反応により得られる生成物を食品の風味改
【0056】
善や医薬品の不快な味のマスキングに用いる場合には、
分岐糖類また、低甘味であることから、本発明による風
その生成物に重合度4以下の糖類および分岐糖類が含ま
味改善剤を食品に添加した場合でも、食品本来の風味を
れていてもよいが、後述するように味のバランス等の観
損なわずに風味を改善できる点で有利である。
点から、重合度4以下の糖類および分岐糖類の一部また
【0057】
は全部をゲルろ過クロマトグラフィー、カーボン−セラ
分岐糖類を添加することができる食品は特に限定されな
イトカラムクロマトグラフィー、強酸性陽イオン交換カ 20
いが、例示すれば、茶系飲料、果実飲料、炭酸飲料、野
ラムクロマトグラフィーなど周知の方法により分離・除
菜飲料、スポーツ飲料、乳性飲料、アルコール飲料、そ
去してもよい。
の他の飲料や、アイスクリーム、氷菓、ゼリー、ムース
【0050】
、飴菓子、ガム、フィリング、健康食品、サプリメント
後記実施例に記載したように、重合度5∼10の範囲内
、パン類、クッキー類、米飯、ケーキ類、麺類、冷凍食
の分岐糖類は、苦味・渋味抑制効果を有するとともに、
品、凍結飲料が挙げられる。また、高麗人参やウコンな
低甘味という特徴を有する。従って、重合度5∼10の
どの生薬成分を含有する食品にも分岐糖類を添加するこ
分岐糖類を食品に添加することにより、食品本来の風味
とができる。
を損なわずに食品の風味を改善できる。また、重合度5
【0058】
∼10の分岐糖類を医薬品に添加することにより、医薬
食品への分岐糖類の添加方法は当業者であればその食品
品の不快な味をマスキングすることができる。従って、 30
の製造方法に従って適宜選択することができ、食品の製
本発明によれば、重合度5∼10の分岐糖類またはその
造原料に予め配合して製造しても、食品の製造工程中あ
還元物を含んでなる、風味改善剤および製剤用マスキン
るいは製造後に配合して製造してもよい。
グ剤が提供される。
【0059】
【0051】
分岐糖類を添加することができる医薬品は特に限定され
ここで、風味改善としては、苦味および/または渋味の
ないが、例示すれば、経口投与用製剤が挙げられ、好ま
低減、酸味の低減、エグ味の低減が挙げられる。
しくは、錠剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、液剤、シロップ
【0052】
剤(ドライシロップ剤を含む)、カプセル剤、トローチ
また、医薬製剤においてマスキングあるいは矯正される
剤などである。分岐糖類を医薬品に添加することにより
味としては、有効成分や他の製剤用添加剤に特有の不快
、有効成分や他の添加成分の味を矯正あるいはマスキン
な味(例えば、苦味、渋味、酸味、エグ味)が挙げられ 40
グできるとともに、賦形剤としても利用できる点で有利
る。
である。
【0053】
【0060】
分岐糖類は、苦味および/または渋味を効果的に低減す
医薬製剤の製造方法や医薬品の原料となる製剤用添加剤
ることから、本発明による風味改善剤は、好ましくは、
は当業者に周知であり、分岐糖類を、有効成分や他の製
苦味および/または渋味の低減剤として用いることがで
剤用添加剤と混合等することにより、常法に従って製造
きる。
することができる。
【0054】
【0061】
特に、分岐糖類は、ポリフェノール類に起因する苦味お
本発明によれば、重合度5∼10の分岐糖類を食品に添
よび/または渋味を効果的に低減することから、本発明
加することを含んでなる、風味の改善方法および風味が
による風味改善剤は、好ましくは、ポリフェノール類の 50
改善された食品の製造方法が提供される。
( 8 )
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【0062】
ール類0.13質量%に対して、重合度5∼8の分岐糖
本発明によれば、また、重合度5∼10の分岐糖類を苦
類を固形分換算で0.4∼10質量%含有するポリフェ
味および/または渋味を有する食品に添加することを含
ノール類含有食品が提供される。本発明による食品の更
んでなる、苦味および/または渋味の低減化方法および
に好ましい態様によれば、ポリフェノール類を含有する
苦味および/または渋味が低減された食品の製造方法が
低甘味飲料(例えば、緑茶飲料、紅茶飲料、ウーロン茶
提供される。前述のように、重合度5∼10の分岐糖類
飲料等)において、ポリフェノール類0.13質量%に
は、ポリフェノール類に由来する苦味および/または渋
対して重合度5∼8の分岐糖類を固形分換算で0.4∼
味を効果的に低減することから、苦味および/または渋
2質量%含有する低甘味飲料が提供される。
味を有する食品としては、ポリフェノール類含有食品が
挙げられる。
【0069】
10
本発明による製剤用マスキング剤は医薬品に配合されて
【0063】
使用できる。従って、本発明の別の面によれば、本発明
ポリフェノール類含有食品としては、ポリフェノール類
による製剤用マスキング剤を含んでなる医薬品が提供さ
を含有するものであれば特に限定されず、元々ポリフェ
れる。
ノール類を含有している食品はもちろんのこと、ポリフ
【0070】
ェノール類が添加された食品も該当する。また、食品の
本発明によれば、重合度5∼10の分岐糖類を医薬品に
形態も特に限定されず、固形はもちろんのこと、半固形
添加することを含んでなる、不快な味がマスキングされ
、液状のものも含まれる。ポリフェノール類含有食品の
た医薬品の製造方法が提供される。
具体例としては、茶系飲料(緑茶飲料、紅茶飲料、ウー
【0071】
ロン茶飲料など)、果実飲料、炭酸飲料、野菜飲料、ス
本発明の更に別の面によれば、重合度5∼10の分岐糖
ポーツ飲料、乳性飲料、アルコール飲料などの飲料や、 20
類を含んでなる医薬品が提供される。
アイスクリーム、ゼリー、ムース、飴菓子、ガム、フィ
【実施例】
リング、健康食品、サプリメントなどが挙げられる。な
【0072】
お、本発明において「食品」とは飲料も含む意味で用い
以下の例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発
られるものとする。
明はこれらの例に限定されるものではない。なお、本明
【0064】
細書において「固形分」当たりの割合や「固形分」の含
本発明による風味改善剤は、食品に添加して使用できる
有割合に言及した場合には、固形成分の質量に基づいて
。従って、本発明の別の面によれば、本発明による風味
定められた割合を意味するものとする。
改善剤を含んでなる食品が提供される。
【0073】
【0065】
実施例1:糖類の製造
本発明の更に別の面によれば、風味改善に有効な量の重 30
(1)分岐糖類含有シラップの製造(試料1)
合度5∼10の分岐糖類を含んでなる食品が提供される
DE6.5に調整されたコーンスターチ液化液10Lを
。
53℃とし、pH6.0に調整した。これにクライスタ
【0066】
ーゼL1(大和化成社)320μlを添加して、53℃
この場合、提供される食品は、好ましくは、ポリフェノ
に24時間保持した。これにトランスグルコシダーゼア
ール類含有食品であってもよく、この場合、ポリフェノ
マノ(天野エンザイム社)2,580
ール類含有食品はポリフェノール類の苦味や渋味の低減
、さらに24時間保持した。得られた反応液を80℃に
に有効な量の重合度5∼10の分岐糖類を含んでいても
加温し、クライスターゼL1
よい。ポリフェノール類含有食品の具体例や好ましい例
ウ素−デンプン反応が消失するまで保持した。このpH
は前述の通りである。
【0067】
μlを添加して
300μLを添加し、ヨ
を4.0として酵素を失活させた後、活性炭(精製白鷺
40
)30gを添加して30分間保持した。これを珪藻土(
ポリフェノール類含有食品に分岐糖類を使用する場合に
ラジオライト#800
400g)、グラスフィルター
は、例えば、甘味を必要とする飲食物を対象とする場合
、No.2
には、分岐糖類に砂糖、異性化糖、高甘味度甘味料とい
mフィルターにて濾過し、イオン交換カラムクロマトグ
った甘味の強い組成物を混合して使用することができる
ラフィーに供した。これに活性炭(精製白鷺)6gを添
。一方、緑茶飲料や惣菜といった甘味の好まれない飲食
加し、60℃に保持した。これを同様に濾過し、減圧下
物に使用する場合は分岐糖類単独もしくは分岐糖類と多
で固形分75%となるまで濃縮した。β−アミラーゼ処
糖やタンパク質、油脂等を混合して使用することができ
理によりグルカンの非還元末端に分岐構造が導入された
る。
分岐糖類の含有量を測定したところ、重合度5∼8の分
【0068】
岐糖類を対固形分当たり約26%含有していた。
本発明による食品の好ましい態様によれば、ポリフェノ 50
【0074】
濾紙(Advantec社)、0.45μ
( 9 )
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(2)分岐糖類含有シラップ分画品の製造(試料2)
を含む画分を回収した。
試料1を分画原資とし、カーボン−セライトカラムクロ
【0079】
マトグラフィーにより重合度5∼7の分岐糖類を主成分
試料1∼3の糖組成を測定した。糖組成の測定は、高速
とする糖液を調製した。Brix50に調整した試料1
液体クロマトグラフィーを用いて行った。高速液体クロ
の分岐糖類シラップ240mLをφ10x50cmのカ
マトグラフィーは、カラムにAminex
ーボン−セライトカラムに供した。水から順次エタノー
2A(φ7.8x300mm、バイオラッド社)を用い
ル濃度を上げて低分子糖を溶出させた後、15%エタノ
、カラム温度を75℃とした。移動相には精製水を用い
ールにより重合度5∼7の分岐糖類からなる画分を溶出
、流速を0.5ml/分とした。糖の検出には示差屈折
させて回収した。これをイオン交換樹脂により脱塩した
計を使用した。
後、濃縮して以後の試験に使用した。β−アミラーゼ処 10
【0080】
理によりグルカンの非還元末端に分岐構造が導入された
表1に試料1∼3の糖組成を示した。
分岐糖類の含有量を測定したところ、重合度5∼7の分
【表1】
HPX−4
岐糖類を対固形分当たり約90%含有していた。
【0075】
(3)分岐糖類含有シラップの製造(試料3)
日食フジオリゴG67(日本食品化工社)を強酸性カチオ
ン交換樹脂(XFS−43278)にて分画して得られ
たマルトヘキサオースおよびマルトヘプタオース高含有
画分(マルトテトラオース3.4%、マルトペンタオー
ス9.6%、マルトヘキサオース36.4%、マルトヘ 20
プタオース49.2%、他1.4%)を原料とし、分岐
【0081】
糖類を製造した。すなわち、30%(w/v)に調整し
(4)パノース(分岐3糖類)の製造(試料4)
た上記糖液650mlに1M酢酸緩衝液(pH4.5)
日食パノリッチ(日本食品化工社)を精製水で希釈して
6.5mlおよびトランスグルコシダーゼアマノ(天野
20%(w/v)とした水溶液1200mlにダイヤイ
エンザイム社)174μlを添加し、55℃に40時間
ーストYST26.4g添加し、30℃で90時間浸透
保持した。これにβ−アミラーゼ#1500(ナガセケ
培養した。これに上記と同様に活性炭を添加して脱色し
ムテックス社)2.15gを添加し、さらに3時間保持す
、0.45μmフィルターにて濾過して濾液を得た。こ
ることにより、分岐が負荷されなかったマルトオリゴ糖
れをイオン交換クロマトグラフィーに供して脱塩し、5
を消化した。
0%(w/v)程度まで減圧濃縮した。これをカーボン−
【0076】
30
セライトカラムクロマトグラフィーに供した。
次に、得られた糖液中のマルトースおよびグルコースを
【0082】
酵母により消化した。すなわち、3倍程度に希釈した糖
活性炭とセライト545(関東化学社)を等量混合し、水
液にダイヤイーストYST(キリン協和フーズ社)10
に懸濁したものをガラスカラム(φ10×50cm)に
gを添加し、室温下で3日間培養した。本操作により糖
充填し、これに上記サンプルを全量供した。これを水で
液中のマルトースおよびグルコースがほぼ完全に消化さ
充分洗浄した後、2%、4%と準じエタノール濃度を上
れた。
昇させることにより、吸着した糖質を溶出した。その結
【0077】
果、4%エタノール画分はパノースを高含有していたが
これに活性炭(精製白鷺、キリン協和フーズ)を数グラ
、2%エタノール画分はパノースと二糖からなる画分で
ム添加し、煮沸処理した。これにラヂオライト#800
あった。このため、2%エタノール画分を再度濃縮して
を50g加えて懸濁し、濾紙で濾過した。これをイオン 40
同様にクロマトグラフィーに供し、2、4、6%エタノ
交換カラムクロマトグラフィーに供した後、3μmフィ
ールで順次溶出させた。その結果、6%エタノール画分
ルターにて濾過して50%(w/v)まで濃縮した。
がパノース高含有画分として得られた。以上の操作によ
【0078】
り得られたパノース高含有画分を回収し、試料1と同様
得られた糖液をゲル濾過クロマトグラフィーに供し、4
に中性糖を精製して純度92.3%のパノースを22.
糖以下の分岐糖を除去した。クロマトグラフィーでは、
6g得た。
TOYOPEARL
【0083】
HW−40(φ5.0x90cm)
を担体とし、上記糖液を20ml供した。精製水を移動
(5)イソマルトテトラオース(分岐4糖類)の製造(
相に用い、流速を1ml/分に設定した。
試料5)
クロマトグラフィーは、室温下で実施した。15mlず
デキストラン(ナカライテスク社)500gを精製水5
つ分画した画分の純度を確認し、重合度5∼8の分岐糖 50
lに溶解し、100℃まで加熱した。これに濃塩酸25
( 10 )
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0ml添加し、100℃に1時間保持した。これを水酸
シラップを使用した場合(配合2)には、苦味・渋味の
化ナトリウムにてpH4.0に調整した後、活性炭を数
低減が認められたが、同時に旨味も弱くなったために全
グラム添加して煮沸処理した。これにラヂオライト#8
体の味のバランスが悪くなった。
00を50g加えて懸濁し、濾紙で濾過した。得られた
【0089】
濾液を減圧下で50%(w/v)程度まで濃縮し、上記と
また、試料1を使用した場合(配合3)には苦味・渋味
同様にカーボン−セライトカラムクロマトグラフィーに
の低減が顕著に認められた。一方で、配合3は味のバラ
供した。クロマトグラフィーには、182g(固形分で
ンスが良いとの評価であったが、甘味がやや感じられ、
100g)ずつ4回に分けて供した。吸着した糖は、エ
味のバランスが影響を受けていた。
タノール濃度を高めることにより溶出させた。すなわち
【0090】
、10L溶離液を流すごとに2%ずつエタノール濃度を 10
一方、試料2を使用した場合(配合4)には、苦味・渋
上昇させた。12%エタノールにより溶出された画分に
味の低減が顕著に認められるとともに、優れた味のバラ
イソマルトテトラオースが高純度で含まれていたため、
ンスを示した。このことから、分岐オリゴ糖をポリフェ
本画分を回収し、製造例1と同様に中性糖を精製した。
ノール類などの苦味・渋味抑制に使用する場合には、重
その結果、純度99.3%のイソマルトテトラオースを
合度が5∼8程度の分岐オリゴ糖が優れることが明らか
24.5g得た。
になった。
【0084】
【0091】
試験例1:高濃度カテキン含有緑茶飲料への配合
試験例2:緑茶茶飲料への配合
分岐糖類とシクロデキストリンのカテキンの苦味抑制効
重合度3および4の分岐オリゴ糖であるパノース(試料
果を比較することを目的として、それぞれを添加した高
4)およびイソマルトテトラオース(試料5)と、分岐
濃度カテキン含有緑茶飲料の味質を比較した。
20
糖類(試料3)の苦味抑制効果、味のバランスを試験例
【0085】
2により比較した。
表2に示す配合(質量部)にて原料を混合攪拌し、緑茶
【0092】
飲料を製造した。カテキンはポリフェノンCH(三井農
表4に示す配合(質量部)にて原料を混合攪拌し、緑茶
林社)を用い、シクロデキストリンはシクロデキストリ
茶飲料を製造した。カテキンはポリフェノンCH(三井
ンを20%含むシラップ(日食セルデックスSL−20
農林社)を用いた。試料1、3、4、および5は固形物
、日本食品化工社)を用いた。試料1、2、シクロデキ
換算して配合した。
ストリンは固形物換算して配合した。
【表4】
【表2】
【0086】
【0093】
10人のパネラーにて、作製した緑茶飲料の官能評価を
10人のパネラーにて作製した茶飲料の官能評価を行い
行い、苦味・渋味および味のバランスについて評価を行
、苦味・渋味および味のバランスについて評価を行った
った。評価結果を表3に示す。
。評価結果を表5に示す。
【表3】
【表5】
【0087】
表中の苦味・渋味低減効果については、効果あり(○)
【0094】
、効果なし(×)の評価結果で示し、味のバランスにつ
表中の苦味・渋味低減効果については、非常に効果あり
いては、非常に良い(◎)、良い(○)、若干改善され
(◎)、効果あり(○)、ほとんど効果なし(△)、効
た(△)、悪い(×)の評価結果で示した。
果なし(×)の評価結果で示し、味のバランスについて
【0088】
は、非常に良い(◎)、良い(○)、若干改善された(
従来から使用されているシクロデキストリンを含有する 50
△)、悪い(×)の評価結果で示した。
( 11 )
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22
【0095】
て苦味をより低減しただけでなく、味がまろやかで味の
表5に示したように、パノース添加区(配合8)やイソ
バランスを崩すこともなかった。
マルトテトラオース添加区(配合9)では無添加区(配
【0096】
合5)と比較して苦味を低減したものの、甘味が強く感
以上の結果より、分岐5∼8糖は、カテキンなどのポリ
じられ、味のバランスが悪くなった。一方、本発明の分
フェノール類の苦味・渋味の抑制や味のバランスにおい
岐糖類添加区(配合7)では、パノース添加区(配合8
て分岐三糖や四糖よりも有効に利用することが可能であ
)やイソマルトテトラオース添加区(配合9)と比較し
ることが明らかになった。
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(72)発明者
上 村
由香里
静岡県富士市田島30
(72)発明者
山 本
静岡県富士市田島30
(72)発明者
日本食品化工株式会社内
健
高 田
正
日本食品化工株式会社内
保
静岡県富士市田島30
日本食品化工株式会社内
合議体
審判長
紀本
孝
審判官
小野
孝朗
審判官
千壽
哲郎
(56)参考文献
特開昭63−291588(JP,A)
特開2009−124994(JP,A)
特開2006−280254(JP,A)
特開2002−10745(JP,A)
特開平6−217731(JP,A)
特開平3−175989(JP,A)
特開2006−312705(JP,A)
(58)調査した分野(Int.Cl.,DB名)
A23L1/00