日常生活行動パターンを通して見る都心居住と郊外居住の住みやすさ

日常生活行動パターンを通して見る都心居住と郊外居住の住みやすさ評価の比較 寺牛 憲太朗 1.
研 究 背 景 ・ 目 的 研究背景・目的 現在日本では少子高齢化の進展が著しく、人口の減少傾向が見られる.そ
対象地域・対象者の選
のような状況の中、都心部の在り方も変化してきた.戦後の高度経済成長を
背景に、人口が地方から大都市圏に流出し、都市圏では人口が郊外に拡散す
予備調査 る現象(ドーナツ化)が見られた.しかし 90 年代後半になると、首都圏一極
アンケート調
集中は変わらないものの、バブル崩壊による地価下落や 97 年に都市計画法に
導入された高層住居誘導地区に伴い、不動産の取得が以前よりも容易になっ
都心郊外の比較分析 たことから、都心居住の利点が見直され、都心に近い地域の人口が増加する
住みやすさ評価の検討 状況となった.そして 2000 年代においても都心部でのマンション需要は増え
考察・結論 続け、郊外部に居住していた人々が都心部に居住回帰し、首都圏全体の縮退、
図 1 フ ロ ー チ ャ ー ト
都心居住の傾向が見られてきている. 表 1 被験 者数(人 ) この様な首都圏における居住空間の転換、背景を踏まえ、本研究
では現在の都心、郊外の居住空間を人間の日常生活行動に基づいた
視点からアンケートを用いて調査し、それぞれにおける行動パター
A、都心内行動 ンと住環境満足度との関係性を明らかにし、都心・郊外の住みやす
社会人
合計
9
8
17
B、都心から郊外へ行動 3
2
5
さについて比較、評価、考察することを目的とする. C、郊外から都心へ行動 13
6
19
2.
D、郊外内行動 1
9
10
26
25
51
研 究 の 方 法 研究の手順を図 1 に示す.対象地域は、人口が増加傾向にある三
学生
合計 大都市圏から首都圏を選択し、東京都と隣接した埼玉県、千葉県、
神奈川県とする.対象者は対象地域に居住地を持ち、世代による居
800
700
住空間への意識の違いを考慮して 20〜50 代の男女と設定する.次に
600
対象者から日常生活行動パターンと住環境評価を抽出するため、予
500
備調査を行い、得たデータをもとに「平日・休日行動調査」
「住環境
400
300
調査」
「一日の具体的行動調査」の 3 つのアンケートを作成し、デー
200
タの収集を行う.
(分)
100
0
比較分析は 3 つのアンケートによって得たデータから、 都心
居住者と郊外居住者の行動パターンによりグループ分けを行い、そ
れぞれのグループごとに住みやすさ評価の比較、評価、考察を行う. 3.
5.0
4.0
3.0
2.0
1.0
0.0
外出時間
(都心) 外出時間
(郊外) トリップ数
(都心) トリップ数
(郊外) 平日 休日 図 2 外出 時間と トリッ プ数の 関係 分 析 ・ 結 果 アンケート調査で得た被験者数を各行動パターン別に分けて表 1 に示す.調査結果の比較から、都心居住
者と郊外居住者では、外出時間とトリップ数(図 2)に違いが見ら
れた.外出時間を比較すると平日は都心郊外ほぼ等しい値となった
30%
25%
20%
15%
10%
5%
0%
都心 郊外 が、休日では郊外が長いことが分かる.トリップ数は、郊外では平
日休日の差があまり見られないが、都心では平日に比べ休日のほう
が多くなっている.次に住居選びの際に重要視すること(図 3)
図 3 住居 選びの 際に重 要視す ること
を比較する.都心では周辺施設や街の活気の値が高いことに対し
て、郊外では治安、交通の利便性、駅までの所要時間、緑地環境
の値が都心よりも高く、住環境を重要視する傾向が見られ、都心
“B-1 ”
(分)
“A-1”
居住者と郊外居住者に違いが見られた. “D-1”
次に表 1 で示すグループ分けよりそれぞれの行動パターンを分
析してみる.行動ルートを見やすくするために各被験者の滞在時
間を別色でそれぞれ示す.また、平日と休日で A−1、A-2 とし、各
“C-1”
図 4 全グ ループ平日 行動 被験者においても同じ表記を用いるものとする. 平日行動(図 4)
において A と D では自宅と職場の最寄り駅周辺のみでの行動が多
く、B と C では自宅と職場の最寄り駅以外に通勤・通学路内の駅
“B-2 ”
で一度滞在する行動が多かった.休日行動において、A-B(図 5)
“A-2 ”
では平日の移動距離に差はあるものの、休日は共通して小中域内
を数カ所移動しながら短時間滞在する行動が多く、C-D(図 6)では中広域にわ
たって施設が充実している場所に長時間滞在し利用していることが多かった. 図 5 グル ープ A-B 休日 行動 “D-2 ”
これらのことより、都心居住者は周辺施設を重要視し、不満を感じない距離
感で短時間の滞在を数回するという行動パターン、郊外居住者は、治安や緑地
環境などを重要視し、郊外に居住地を設け、外出時はなるべく細かい移動はせ
ずに目的地内で比較的長時間滞在する行動パターンが特徴として見られた.ま
たそれぞれの被験者ごとに住みやすさ得点(図 7)を 10 点満点で評価してもら
ったところ、各行動パターンでともに高い評価が得られた. 4.
考 察 ・ 結 論 “C-2 ”
図 6 グル ープ C —D 休日 行動 10
9
8
8
都心居住と郊外居住は、それぞれ住環境に対するに考え方に違いがあり、それが住
みやすさ評価に影響していると考えられる.都心では周辺施設を重要視し、それらを
居住地と一体として利用できるかどうかが住みやすさ評価の鍵となり、郊外では周辺
施設よりも治安や緑地環境など居住地に閑静さを求める傾向にあり、その充実さ
が住みやすさ評価の鍵となっている.また居住地によって日常生活行動には、ト
"A" "B" "C" "D"
図 7 各グループの住み やすさ得点 (10 点満点評価) リップ数と一定の場所での滞在時間、行動範囲に違いがあることが分かった. 調査を通して、住みやすさ評価には行動パターンと居住地に対する嗜好とがお互いに影響していると考えら
れる.居住地に対する嗜好と行動パターンが一致している被験者に、高い評価が得られることら、この 2 つを
組み合わせることによって、都心居住と郊外居住のどちらに適しているのかを比較、評価することができる.