微細加工技術を用いた人工細胞膜システムによる自律的診断治療 マイクロ加工技術を基盤とした人工細胞膜システムの創成 [2C04] (東京農工大院工)○川野竜司 液滴界面に形成した脂質二分子膜によるチャネル膜タンパク質の一分子計測 [1N04] (東京農工大院工)○川野竜司 (042-388-7187) 【概要】 東京農工大学工学研究院の川野竜司准教授(テニュアトラック)らのグループは、マ イクロ加工技術を用いて、プログラム化された DNA を内包する人工細胞膜液ドロップ レットを作製し、小細胞肺癌を自律的に診断し、その治療薬となる DNA 分子を自動的 に放出するシステムを開発した。これにより細胞機能を利用した分子ロボット作製への 展開が期待できる。 図 1 マイクロ加工による人工細胞膜ド ロップレットデバイス。その中でプログ ラム化された DNA が小細胞肺癌の診断・ 治療を自律的に行う人工細胞膜システム を開発した。 【詳説】 自然物を人工的に再現する。これまで人類は生物や環境から学び、その機能を模倣し てきた。古くは空を飛ぶ鳥に憧れ飛行機を発明し、最近では蜘蛛の糸を模倣した強靭な 糸や、魚の体表面の構造を模倣した水着が作られてきている。では生物の最小構成単位 である細胞も一から人工的に作れないだろうか?細胞は主にタンパク質、塩基、脂質な どから構成され、これらを別々に合成し組み立てることができれば、最終的に人工の細 胞を創ることも夢ではない。また人工細胞を作る過程で、それぞれのパーツが持つ細胞 機能を取り出し、人工的に利用する試みも行われている。その中で人工細胞膜は細胞を 構成する物質と外界とのインターフェースとして研究が行われている。 これまで人工細胞膜を安定にかつ再現良く作製することは簡単ではなかった。本研究 グループでは、MEMS やマイクロ微細加工技術といった工学的アプローチにより、人工 細胞膜の作製を行ってきた。その結果、これまで微小なドロップレット表面に細胞膜構 成分子であるリン脂質を配列させ、二つのドロップレットを接触させることで、人工細 胞膜となる脂質二分子膜を簡便にかつ安定に形成することに成功している。特にイオン チャネルなど電流を計測するために微細な電極を配線したデバイスを作製し膜タンパ ク質のチャネル電流の計測を行っている。 本研究グループの平谷萌恵(学部 4 年生)は、小細胞肺癌の癌細胞から放出される microRNA (miRNA)を検知し、その薬となる DNA 薬を自律的に放出する「プログラム化 された DNA」を、人工細胞膜を持つマイクロドロップレットの内部に埋め込んだ(図 1)。マーカーとなる miRNA が存在すると、最適配列に設計された DNA 薬剤を含むプ ログラム化 DNA と miRNA が二重鎖を形成し、予め内包されていた DNA 薬剤を放出す る(図 2)。マイクロドロップレットは診断用と治療用 のドロップレットがチャネル膜タンパク質を介して接 続されており、薬剤 DNA がチャネルを通過して放出さ れる様子をリアルタイムで電気計測可能になっている。 今回この一連のプログラム化された DNA による 1)早 期癌マーカーとなる miRNA の検出・診断、2)薬剤と なる抗腫瘍 DNA 薬剤の放出、を細胞を模倣したドロッ プレット内で分子自身が自律的に行うシステムの構築 に成功した。さらに、その時、薬剤放出を膜タンパク質 を用いてリアルタイムで計測することができた。今後、 自律的に診断・治療を行う分子ロボットして様々な癌の 早期体外診断や DDS への応用展開が見込まれる。 図 2 プログラム化された DNA による miRNA の検知 と DNA 薬剤の放出機構。 <適用分野> 早期がん診断・治療、分子ロボット、人工細胞創出、BioMEMS <用語の説明> 人工細胞膜:生体細胞膜の構成物であるリン脂質を二分子膜状態にしたもの。 MEMS:Micro-electro-mechanical system の略。半導体微細加工技術により作製された、マイ クロサイズの電気計測システム 。加速度センサなどが実用化されている。 miRNA:短鎖の RNA。最近癌細胞に特異的に発現するものが知られ、癌の早期診断用マー カーとして期待される。 分子ロボット:従来の金属機械や電気回路ベースではなく、分子自体を材料としてロボット を作る新しい研究分野。マイクロやナノメートルサイズで、自律的に作動するシステムをロ ボットとして応用する。
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