平成27年度 小 推薦入学試験 論 文 問題 次の文章を読んで、問いに答えなさい。 スペインのラ・マンチャに住むアロンソ・キハーノは、騎士道物語を読みふけっているうちに、騎士道にとり つかれ、その物語的文脈にしたがって生きる決意をする。そして、自ら「騎士ドン・キホーテ」と名乗り、騎士 道に則って、この世の不正をただし、弱きを助ける冒険の旅に出ることになる。 ドン・キホーテの生き方は、いかにも単純で滑稽なものとして引き合いに出されることが多い。しかし、だれ の人生にもそうした一面があるのではないだろうか。 僕たちは、いったいどれほど独自な人生を歩んでいると言えるのだろうか。自分自身の人生を生きているつも りでありながら、じつは既存の物語を生きているということがないだろうか。幼い頃から僕たちの心の中に取り 入れられ、そのエッセンスが吸収され、僕たちの人生の物語的文脈を方向づけているような、種々の物語という のがあるのではないだろうか。 「ドン・キホーテの原理」と言われるものは、ドン・キホーテのように、物語を読んでその登場人物の生き方 を取り入れることで自らのアイデンティティを構築し、それに基づいた行動をとるようになる僕たちの性質をさ している。読者は、まず物語の参加者として物語の中に巻き込まれ、主要な登場人物の一人に自分を重ね合わせ る。そして、物語を読みながらその登場人物の役割を想像の中で演じる。そうこうしているうちに、その登場人 物のアイデンティティが読者の中に取り入れられ、いつの間にか読者の実生活を導く原理となっている。 物語を取り入れる媒体は、書物にかぎらない。スポーツ選手や人気アーティストの物語を雑誌や新聞で読んだ り、テレビで見たりすることで、その生きざまをひとつの物語として取り入れるというのも、よくあることだ。 だれかに自分を重ね、その人物のアイデンティティを取り込むことで自らの行動原理を確立し、自分自身のアイ デンティティとする。そうしたことは、だれもが経験していることであるはずだ。 (榎本博明『〈ほんとうの自分〉のつくり方』講談社、2002 による。) 問1 傍線部「人生の物語的文脈」とはどのようなことを述べようとした表現なのか。30 字以上 50 字以内で記せ。 問 2 筆者のアイデンティティ形成の考えについて、あなたの意見(賛成か反対、あるいは保留も含む)を、具体例を 示しながら 500 字以上 600 字以内で記せ。
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