業務監査知識の吟味(4) -監査人として恐れるべきこと

業務 監査 知識 の 吟味(4)
―― 監査 人 と して恐 れ るべ き こ と 一―
ヤ
酉
居
叡
I 監 査運命論 に対す る抗議 の芽生 え
監査 とい うものに何 の 関 わ りも持 ったことのない人 々, と りわけ, 監 査 を受
ける側 ( 被監査者) と して監査 を経験 した ことの ない人 々 にとってはい ざ知 らず ,
監査 を楽 しむ とい うことは多 くの人 々 にとって無理 とい うのが現実 の ようであ
る。その歴 史的 な理 由は, 古 来 よ り今 日に至 るまで監査の典型 として私達 の身
近 に行 われて きた「
財務監査」に これ を求 め得 る とG . W . P a r k e r 氏は指摘 してい
ると これは どの よ うに解すべ きもので あ るのか先ず考 えてみ よう。
「
財務」とは組織 における富 の流れを一手 に掌握 し, 組 織 の向か うべ き方向に
つい ての意思決定 に参画す る分野 ・部門で あるが故 に, そ こは, 人 々の関心 の
集 中す る ところ, そ れ故 にまた, 批 判 が可能 で あ る場合 には, そ れが容赦 な く
財務監査」とい うのは, そ の ような
尖鋭化 し得 る ところであ ると解 して よい。 「
「
財務」につい て批判可能 な余地 が ないか吟味検討 し, そ の結果 について報告す
る ことで あ るが , そ の着眼点 の反映 である と見 ることがで きる監査 目的 は, 誰
か特異 な個人 の発 明 になる仮 そめの もの とい うよ りは, む しろ, 多 くの人 々 に
よる是 々非 々の判断 を経 て きた確 固 たるもの としてこれを解す ることがで きる。
この ような もの として今 日認識 されてい る財務監査 の 目的 は以 下 の如 きもので
2)
あ る。
1.財
務記録 ・会計 記録 お よびそ れ らの記録 に もとづ い て得 られ る財務諸
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θ??2s,Gower House,
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と
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1)-4)G.ヽ V.parker,T72θr12渉
1995,p.24.
中 昌太一教授退官記念論文集 ( 第3 1 5 号)
140
表 が ,示 されて い る 日現在 にお け る組織 の財 政状 態 を真実 か つ 正 確 に,
そ して ,適 正 に表示 して い るか ど うか見 るため に,そ れ ら記録 お よび財
務 諸 表 の 正 確性 と誠実性 とを検 証 す る こ と。
織 の標準 的 な会 計 実務 は法定基準 を忠 実 に守 った もので あ る とい う
2. 組
こ と,か つ また ,法 定基準 の 遵守 は順繰 り的 な もので あ る とい う こ とを
確 認 す る こ と。
織 の資 産 を取得 す る 。引 き上 げ る ・あ る い は処分す るにつ い ては ,
3. 組
正 当 な権 限授 与 の もとに これが な されて い る とい う こ とを確認す る こ と。
織 の経 済活動 の 中 で負 う こ とにな った正 当 な財 務負債 のみが 計 上 さ
4. 組
れ て い る とい う こ とを確 認 す る こ と。
5 。 内 部的 な財 務照合 システムに もとづ い て分析 と改善 を行 うこ と一 監
査人 の同意 な しに この財務照合 システムの導入 とか変更が行 なわれる こ
とはあ っては な らない ことで あ る。 ( 監査 人 は専 門家 でなけれ ばな らな
い
。
)
6.詐 欺行為 ・背任行為 の予防 と発見。
産 の収益稼得能力減少 を予防す るために,資 産及 びその使用法 につ
い てあ らか じめ用意 されて い る不 正 防止策 を吟味す る こと一 これ には
7.資
付保行為 にもとづ く損害発 生 の 回避が含 まれる。
8.懸 念 ・危険 ・損失 のあ る領域 に関 して特別調査 を始 めること。
以上 の 「
財務」監査 目的 の うち最後 の(8)は
(1)∼
(7)の
確認 だけでは安心 で きない
と考 えられる事態 に備 えた包括的事項 と考 える ことがで きる。す なわち(1)∼
(8)
一
=命
を 体 としてみるとき,内 部監査 を要求す る利害関係者 の関心
を受 け内部
監査 に従事す る人 (監査人)の関心 は,組 織 の 中 に不誠実 な者 ・組織 の利益 よ り
も自己 の利益 を優先 させ よ う とす る者 が い ないか どうか とい うことになるであ
ろ う。 ところで,人 は,常 にとい うことでは ない に して も,嘘 を言 い得 る存在
で あ り,こ れを手段 として別途犯 されてい る不誠実 な行為 を隠蔽 し得 る存在 で
ある とい うことは大抵 の 人が承知 してい る ところで あ り,監 査人 も例外 ではな
い。 か くして内部監査 に従事す る監査 人は,そ の職務上 ,自 らと同 じ組織 に所
業務監査知識の吟味( 4 ) 1 4 1
言葉 には出す ことので きな
誠実性 に関す る疑 い」とい う「
属 して い る構 成員 の 「
つい ての吟味 を行 わ ざるを得 な くな るのであ
い含 み」をもって上記 の( 1 ) ∼
(8)に
ると言 えると 「
あなたの誠実性 あ るい は誰 か他 の人 の誠実性 を私 は疑 っている」
などとい う言葉 を監査人が発する ことは ない として も, 監 査 人の心 にある こと
は監査人 の 目に映 しだ される ことであ ろ う し, 何 よ りもその行動 の 中 に示 され
る ことにな らざるを得 ない。監査 を受 けてい る側 の人 ( 被監査者) に とって も監
査人 にとって も, そ の心 中 にある ことは, い ず れ明 らかにな らざるを得 ない と
い うのが公平 な見方 で あ るように思 われるか らである。 か くして, 「財務」監査
は, 堂 々 と口に出 して表明す ることので きない こと, 「組織 内 の構成員 に対す
る疑 い」を基本 に据 えて, 1 5 0 年 以上 もの 問行 われ, 今 日に至 ってい る とい うこ
4)
とになるのである。 この よ うな監査 を好 きになってほ しい とか楽 しんでほ しい
とか望む者が い る とす れば, そ れは望 む方 が無理 であ る と答 えざるを得 ないで
あ ろ う。道 が ここで二手 に分 かれる ものであ ることは, こ れ まで誰 の 目にも見
えなか った。 これ まで通 りの道 をた どって行 く道 の他 に, もう 1 つ の道がある
ことを発 見 したのはG . W , P a r k e r 氏の功績 である。すなわち, こ れ まで の財務
監査 に認 め られる ことはすべ て事実 で あ るとして も, こ れを運命論 的 に受け と
め, こ れに降伏すべ きではない とい うのがG . W . P a r k e r 氏が新 たに呈示 した立
5)
場 で あ る。
Ⅱ 負 のイメージ克服のために必要な こと
人 は信頼すべ きもので あるのか疑 うべ きもので あ るのかは, きわめて難 しい
問題 である と言 つて よいであ ろ う。人 を疑 うことを知 らない とすれ ば, い ず れ
確実 に輛 される ときが来 るであ ろ うし, 人 は信頼すべ きもので ない とい う反動
がその人に押 しよせ ることになるであろ う。そ うで あるか らといって, 人 の誠
実性 を疑 うとい うことが極端 になって しまっては, 教 えを受けるとい うことも,
をとるとい うことも, 治 療 を受 け るとい うこ
食物 を摂す るとい うこと も, 休 烏、
とも, 厳 密 な意味 では不可能 にな らざるを得 ない。その結果 は, 精 神 をも身体
5)Fbづα.,P.21.
142
一教授退官記念論文集 ( 第3 1 5 号)
中 _4-太
を も害 す る とい う こ とにな らざる を得 な い で あ ろ う。結局 , 人 を疑 う こ とを知
らな い お人好 しであ って は不都 合 も生 じて来 , 困 る こ とで あ る け れ ど も, しっ
か り見極 め をつ け た うえで人 を信 頼 す る とい う こ とが で きなけれ ば , な お 困 る
というのが本当のところであると解することができるであろう。G.W.Parker
監査の有する利益が組織 と組織への参加者 とに余す ところなく実感され
氏は 「
6)
るよ うに」 とい う観点 か ら, 旧 来 の暗黙 の 「人の誠実性 に対す る疑 い」 を排除
し, 次 の ように宣言す る。
監査が行 われるとい うことは, ま た もや, 新 たに衝突 が発 生 し, 罰 が下 さ
「
7)
れる ことになるとい うことだ と考 えてはな らない。
」 この宣言 に見 られるG.W.
Parker氏の新 たに見出 した道 と旧来 の道 との分岐点 は,G.W.Parker氏 によっ
て次 の よ うに表現 されてい る。
監査 は,誤 謬 とか理解不足 ・不明確 が見出 された とか詐欺的資料 が発見 され
「
た場合 に も,こ れ らのことについて報告すべ きでない とい うことを意味す る も
のでは ない。 これ らの ことについ ての報告 はなされなければならない。 さもな
けれ ば,重 要 な弱点 は見過 ご され,重 大 な損失源泉 は隠 されるとい うことにな
るであ ろ う。 しか し,こ れ らの ことが監査 の主たる関心事 とい うことで はない。
監査 の焦点 は経営 システムそれ 自体 に合 わ されてい るのであ って,代 理人 (係
8)
員) に 合 わ され て い るので は な い 。」
実 際 に何 らか の不都 合 を来 た したの は組織 内部 の 具体 的個 人で あ って も, そ
の 個 人 を傷 つ け まい とす るG . W , P a r k e r 氏 の 姿 勢 は , 「 人名 は用 い ず 職務 名 の
9)
み用いて」 とする具体的指示の中にも読みとることができる。
1 0 )
今, 氏 の紹介 してい るマ ーケテ イング監査 を介 し, 氏 の見解 についてす こ し
吟味 してみ よう。 マ ーケテ イング監査 の 目的 として挙げ られるものは凡そ以下
.,P.24.
6)-7)r19,α
冴, , P . 2 5 。 ( ) 内 筆者補充。
8)Fbを
9)rbガび,, P.21.
1 0 ) マ ー ケテ イング監査 とは, どの よ うな問題点がある ことによって経営状況が落 ち目になっ
て い るのか, あ るい は, どの よ うな対策 をとれば よいの か考 える うえで必 要 な資料 を収集
・分析 し, 問 題 の解決法 を提案 しようとす る もので, そ の 目的 は, 組 織 を今 よ りも満足 な
状態 にお くとい うことにあ る。G . W . P a r k e r , げ, c 力. , P ` 2 7 .
業務監査知識 の吟味(4) 143
1 1 )
の 3 点 で あ る と い う。 す な わ ち ,
。会 社 自体 の 強 み と弱 み か ら生 じる マ ー ケ テ ィ ン グの 諸 問題 と好 機 とを識 別
す ること。
●経済 の動向 ・競争 の動 向 ・顧客 の期待 ・規制風土 ・社会 の知覚作用及 び傾
向,こ れ らの ものの変化 か ら生 じることが予測 される組織外部 のマーケテイ
ング諸問題 と好機 とを識別す ること。
●上記会社 の強み ・弱 み ・好機 ・脅威 についての分析 をふ まえた うえで,マ ー
ケテ イングの 目的 ・戦略 ・計画 を形成す ること。
G,W.Parker氏 が意図的 に排 除 しよ う としてい る旧来 の根底的監査観 「人 の誠
実性 な ど疑 わ しい限 りであ る」 が上記 マ ー ケテ イ ング監査 にも適合 しうるとす
れば,そ の適合場所 は 「
会社 の弱 み」 以外 にない と解 して よい で あろ う。 「
会
社 の弱 み」 として従業員 の誠実性 の問題 がある とい うことが識別 された とい う
ので あれば, と りあえず は問題 とされてい る従業員 の配属部署 を考慮す る こと
によって実害 の発生 を阻止す ると共 に教育 の効果 を注視す るとい うことにな ら
ざるをえないで あろ うけれ ども,重 要 な ことは,「会社 の弱 み」 としての 「人
の弱 さ」 はその存在 をおお い隠 さず ,明 るみに出す とい うこと以外 に考 えられ
ない。 この他 に 「
従業員 の誠実性 に関す る疑 い」如 きものがマ ーケテ イング監
査 の考慮事項 として存在す る余地 は認 め難 いが故 に,「従業員 の役割 の遂行具
合 (performance)タ
ロ何 を もって従業員 の査定 を行 うことを目的 とした監査 の
定義 な ど他 の研究分野 にお い て見 出 し難 い ことで あ る」 とす るG.W.Parker氏
の主張 は妥当性 ある もので あるように思われるであろ う。
しか しなが ら,そ うで あ るか らとい って,安 易 に人 を信頼す ることが危険 き
わ ま りない ことで ある とい う認識 は誤 りで あ った とか,そ の よ うな認識 は最早
や不要 になった とい うことで あ るか とい えば,「否」 とい う他 ないで あろ う。
この点 に関す るG.W.Parker氏 の見解 は前期引用 の ごと く,「誤謬 とか理解不
足 ・不明確 ・詐欺的資料 が発 見 された場合 に も,こ れ らの こ とについ て報告す
11)rbガ溺., PP.26-27.
12)rめ,冴.. P,25.
144
中
皇太
一教授退官記念論文集 ( 第3 1 5 号)
べ きでない とい うことを意味す るものでない」 とい う表現 の 中に示 されてい る。
これは要す るに 「
人 (従業員)に よる誤謬 とか詐欺 あるい はその他不都合 な事
態 が表面化 してい る場合 には,監 査 として も取 り上げざるを得 ないであろう。
しか し,こ の ような不都合 な事態 が発生 してい る ことは ないか捜 し求 める こと
は不要 な ことで あ る」 とい うことを意味す る もの と解す る他 はない。表面的 に
は何 らの不都合 もな きように見 えようとも,不 都合 な事態 が存在 してい ること
はないか専 門家 が捜 し求 めれば,必 ずや次 か ら次へ とその よ うな ものが発 見 さ
れるであろ うことをG.W.Parker氏 は否定 してい る とは考 え難 い。その よ うな
ことを知 らない訳 ではないが ,そ の よ うな監査 を従前 の如 く行 っていて為 すべ
きことの多 い内部監企業務遂行 のための協力 を従業員 か ら果 た して十分 にとり
つ け る ことがで きるのか, とい うことを考 えた うえでの見解 で あ るように筆者
には思 われる。す なわち,洗 い出 しを本当 に公平 に行 うな らば,人 皆 同罪 と言
えるが如 くに,芳 しくない ものは監査 を行 う側 にも監査 をされる側 にも続 々 と
見 出 される ことになるか もしれないが ,こ れの解決 を果 た して監査が能 く為 し
一
得 る もので あ るかは疑間 であるが故 に,こ の問題 は 旦 ,棚 上げ とい うことに
して,人として可能な最善の もの を見出 し,育てていこうとす るのがG.W.Parker氏
の隠 された考 えでないか と筆者 は想像 してい る。
別 の観点 か ら前記引用文 中 に見出 される氏 の見解 を眺 めるな らば,不 都合が
表面化 してい ない限 り監査 はこれに対処 しない,あ るい は積極的 に不都合 な事
態 の存否確認 に乗 り出 さない とい うことは,場 合 によつては,こ の ように して
投 げかけ られてい るか もしれない深刻 な問題 を会社があるい は社会が上手 に解
決す るの も,あ るい はこれによって悩 むの も,す べ て,そ の ように不都合 な事
態 を引 きお こ してい る従業員 をかかえてい る会社 が負 うべ し,社 会 が負 うべ し
とい うことで あ る と解す る ことがで きる。 きわめて利 口な問題解決法 で あ る こ
とは疑 いの余地 な きところで あるが ,冷 淡 に して高踏的 な見解 で あ る と解す る
1 3 )
ことができるであろう。
1 3 ) し か しなが ら, 筆 者 は, 監 査 に対す る新 しい道筋 を切 り拓 こ う と して い るG . W . P a r k e r
氏 の試 み に反対 して い る者 ではない。氏が提示 して い る新 しい道筋 の妨害者 としてではな
く, 安 心 して通 り得 る道 であるか否 かの確認 をとってい る者 で あるにす ぎない③
業務監査知識の吟味(4) 145
回 包 括的な内部監査概念 の定義 にもとづ く監査課業 の限定
内部監査 人の課業 として承認 し引 き受 け るよう求 め られてい る ものは, 以 下
に紹介 してい る如 く, きわめて多岐 にわたるものであ ると言 われてい る。す な
1 4 )
わち,以 下 の如 くで あ る。
1.以 下 の諸事項 間の矛盾 を識別す る こ と
。(組織 の)外 部 にお い て定 め られてい る要件 と (組織内部 の)経 営 シ
ス テ ム にお い て規定 されてい る事柄
・なされてい る ところ と規定 されてい る事柄
・なされてい るところ と (組織 の)外 部 か ら要求 されてい る事柄
2.組 織 につい て,ま た経営 システムについて,そ れぞれ以 下 の能力がある
か決定す ること
・仕事 の引 き受 け
。特定 の方法 をもってす る 自己の活動 の統制
3.経 営 システムが十分 な ものであ るか どうか決定す ること
4.経 営 システムが有効 な もので あるか どうか決定す ること
5.任 務 の遂行具合 を分析 し,吟 味 し評価す ること
6.危 険が存在 してい る領域 を識別す る とともに
・危険 を査 定 し
。結果 として生 じることになる責任 はどのようなものであるか決定す ること
7.損 失 を識別す るとともに,損 失 の
。発 生源
・性質
・範囲
を識 別す ること
8.統 制 システムが危険 お よび損失 の最小化 のために十分 な ものにな ってい
るか どうか決定す る こと
14)乃 ガ
α.,P.28。 ()内 筆者補充。
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146
9.生
じた損 害 を識 別 す る とと もに損 害 の
。範 囲
・価 額 ( 責任 ) を 識別す る こ と
1 0 . ( 監 査 ) 対 象 の 正 当性 を立 証 す る こ と ( 組織 の 製 品 ・サ ー ビス につ い て
テ ス トす る こ ととか 点検 す る こ と, あ るい は, 仕 事場 。環境 か ら採 取 した
標 本 をテ ス トす る こ ととか 点検 す る こ と)
1 1 . 是 正 行為 ( 改善行 為 ) に つ い て提 案 を行 う こ と
1 2 . 調 査 を行 う こ と
上 記 い ず れの仕 事 もきわめ て魅 力 あ る もので あ る とは い え, 自 らの 能力 に照 ら
して結 果 的 に全 う し得 な い課業 まで内 部監査 が抱 え込 む とい う こ との な い よ う
用心すべ きで ある とい うことも当然 な ことで ある と言 って よいであろう。 この
ことを意図 して の ことで あるか否か は不明 で あ る とはい え, G . W . P a r k e r 氏 は
内部監査 が 引 き受 け るべ き課業 の限走 を行 ってお り, そ の ような限定 を行 うた
めの手段 として一種 の権威 ( I S 0 8 4 0 2 ) を援用 した内部監査概念 の定義付 けを
行 ってい る。す なわち以下の如 くである。
「
活動 と, そ れに伴 う結果 が, 計 画 されてい る手筈, ま たは公表 されてい る基
準 に準拠 した もので あ るか どうか, そ の手筈 が効果的 に履行 されてい るか どう
か, 手 筈 が表明 されてい る 目的 を達成す るために適当な もので あるか どうか を
1 5 )
決定す るため, 理 路整然 とそ して独 立 した立場 か ら調査す る こ と。
」
この定義 にお い て, ( 内 部) 監 査 が引 き受 け るべ き課業 として示 されてい る
… を決定す るため」 中の 「
・
・
・
ものは, ( 内 部) 監 査 の 目的 について述べ た文言 「
」
に他 な らない。監査 目的 に関す る文言 の 中のい くつ かについ てG . W . P a r k e r 氏
は注釈 を附 してい るので, 以 下 , こ れに従 い吟味 してみる。
結果」 について
① 「
「
結果」 とは,す なわち,活 動の結果 としての,生 産された製品 ・副産物 ・サー
ビス ・作 り出された効果 ・達成 された業績値 ・出された情報 ・得 られた理解等
1 6 )
を指 して い る。 これ らの もの は,定 義 されて い る基 準 に従 い ,良 い 。悪 い とか ,
15)-21)Fbづ α., P.29.
業務監査知識の吟味(4) 147
受 け入 れ 可 ・受 け入 れ不 可 とい った方法 で分類 し, 判 断 し得 る もので あ り, 現
実 にお い て もそ の よ うな扱 い を受 け て い る もので あ る とい って よい で あ ろ う。
それ故 , そ こ に介入す る監 査 , た とえば , 製 品 につ い ての 製品監査 , 副 産物 に
つ い ての廃 棄物 ・損 失 ・汚染監査 の 目的 とす る ところは , こ れ まで , 受 け入 れ
可 , あ る い は , 受 け入 れ不 可 と型 ど う り判 断 され , 分 類 され , 測 定 されて きた
もの が本 当 にその 通 りの もので あ るか ど うか , あ る い は , 過 去 にお い て発 見 さ
れ報告 され て い る限 りにお い てそ うで あ るのか決定 す る とい う こ とにな らざる
1 7 )
を得 ない。換言す るな らば, 上 記定義 に よって示 されてい る監査 の本質 は,
v a l i d a t i o n p r o c e s s査対象
( 監 としての結果 を法的 に有効 な もの として確定 し
よ うとす る担当者 の職務権限行使 の過程) に 偏見 とか誤謬 が紛 れ込 んでい るこ
とはないか どうかチ ェ ックす ることにある と解す ることがで きると
効果的に」について
② 「
「
効果」の有無はどのように判定されるものであるかと問われるならば,普
それは結果に照らして」という返答になることであろザ
通には,「
告そして,
結果 が 良好 な場合 にお い ては, 「 これは計画 された手筈 に従 った ことの結果 な
ので あ り, そ れ故, 計 画 された手筈 は良好 な ものであ ったことが今証明 されて
い るので ある」 と考 え られることであ ろ う。逆 の場合 にお いて も同様 の論法 が
成 り立 つ ように思 われ, 人 々の心 中 に根深 く植 え付 け られてい る思考法 をここ
2 0 )
に見 るこ とがで きる。 これ に対 し, こ の よ うな解釈 の誤 りを指摘 す るG . W . P a r k 一
e r 氏の議 論 は , 以 下 の如 く小気味 よい もので は あ るが , 見 方 に よっては , 五 十
歩 百歩 の議 論 で あ る と解 す る こ と もで きるで あ ろ う。G o W . P a r k e r 氏の 主 張 は
以 下 の如 き もの で あ る。
「
計 画 され た手筈 とい う もの は , 完 全 に履行 され た と して , 成 功 に何 が しか
の 貢献 をす る ところは あ るか も しれ な い と して も, ほ とん どその よ うな貢献 を
なす もので はな い と言 って よい 。成功 とい う もの は , こ れ とは全 く異 った , 計
画外 の , そ の場 限 りの 手筈 に よって , あ るい は, 関 係 者 の手腕 ・知識 ・機 略 に
2 1 )
よって達成されるものである。」
このG o W . P a r k e rの
氏見解 を小気味 よい と筆者が解す る理 由は, 人 の計画 に
148
中 革太一教授退官記念論文集 ( 第3 1 5 号)
なる手筈 の巧拙 , ひ い て は , 手 筈 の計 画 に携 わ った人 の力量 を絶対化 せ んかの
如 き試 み に対 し, 氏 の 見解 は これ を見事 に否定 してい る とい う ところ にあ る。
上 記 引用 文 中 に見 られ るす べ ての文 言 は, こ の こ とをなす ための 手段 で あ る と
解 す るな らば , 更 に付 け加 え るべ き こ とは何 ら存 しな い とす べ きであ るのか も
しれ な い 。 G . W . P a r k e r 氏 が 異議 を唱 えて い る議 論 の論 法 も, こ れ に対 す る氏
の議 論 の論 法 も五 十歩百歩 で あ る と筆者 にお い て解 した こ との根拠 は単 に, G .
W . P a r k e r 氏 の議 論 に も氏 が批 判 して い る見解 中 にあ るの と同 じ思 考 法 を認 め
得 るの は何 故 ? と い う こ とに あ る。す なわ ち , G . W . P a r k e r 氏 は , 一 方 にお い
て 「
関係者 と
人の計画 した手筈」の絶対化 に異議 を唱えつつ,他 方 において 「
い う名の人の手腕 ・知識 ・機略」 に依存する (ここに絶対化 を求める)姿 勢 を
とっているように,少 くとも表面的には解 さざるを得ないのは何故 ?と い うこ
とにある。目に見 える限 りでの人とか物 に余 りにも注意 を集中す ることの限界
とい うことが意識 される見解である。
また,計 画的な手筈 とか基準が監査時点において適切なものであるかどうか,
必要 とされるすべての場合 にこれら手筈 とか基準が適用されているかどうかは,
「
効果的な履行」 とい うことに照 らし,監 査人 として当然確かめなければなら
ないことではあるが,「効果的な履行」 とい う文言中に含意 されている 「
定義
された人 (従業員)・ 定義 された方法 による,そ して,定 義 された条件下にお
ける手筈 ・基準 の適用」 とい うことについては,そ の適用の継続性 とい うこと
2 3 )
が確認 されなければならないであ ろ う。そ うでなければ, 心 安 ん じて以下 の如
き命題 を受 け入れ る ことは不可能 であ るように筆者 には思 われる。
「
計画的 な手筈 とか基準 の適用 は適切 なすべ ての場合 に正 しくなされてい る
とい うことで あ るな らば, 計 画的 な手筈 とか基準その ものによつて効果的 な成
2 4 )
果 が得 られる ことになるか どうかは問題 にならない。」
22)rbぢ冴.,P30.
23)こ れ は ,あ る い は ,不 変性 とい う言 葉 で 表現 され て い る と見 て よい のか も しれ な い が ,
明 らか で な い 。G.W.Parker.οp.cケ .,P,30.
24)乃 づ
α.
業務監査知識の吟味( 4 ) 1 4 9
Ⅳ 経 営 シ ス テム監 査 の 場合
経営 システムの監査 は,内 部 監査 として分類 される ものではあ るが,一 般的
な内部監査 とは異 った扱 い を要す る ものの よ うで ある。すなわち,経 営 システ
ム監査 を除いた内部監査 の関心 は,監 査対 象 (客体)の 妥当性如何,vttidation
結果」 を法的 に有効 な もの として確定 しようと
process(監 査対象 としての 「
す る担当者 の職務権限行使 の過程 )そ の ものの正確性如何 ・不遍性如何 ・不変
性如何 で あ るのに対 して,経 営 システム監査 の関心 は,そ の ような ところには
な くて,専 ら,経 営 システムの妥当性如何 ・誠実性如何 とい う ところにあ ると
2 5 )
い うのである。 このように等 しく内部監査 であるにもかかわらず,経 営 システ
ム監査 の関心 だけが他 の内部監査の関心 とは異なるものであるとい うことは,
それぞれ働 く場所 に相違す るところがあ り, しかも,経 営 システム監査 の働 く
場所 だけは格別 に特異 なものであることを示唆す るものである。G.W.Parker
氏が教示 している経営 システム監査 の働 き場所 は,以 下に引用,紹 介 している
規定 されているこ
図の中では, 3点 ,す なわち,「求められていること」 。 「
と」 ・ 「
為 されていること」 を以て形成される三角形の内部 に限 られている。
この引用図において 「
達成 されたこと」 として示 されているのは,監 査対象 と
o瑚ect domain」
を指す
しての 「
結果」 に他な らず,G.W.Parker氏の言 う 「
と考 えられるから,「求められていること」 。「
達成 さ
為 されていること」 ・「
おいて経営 シ
れたこと」 を以て形成 される三角形 (outer control domain)に
2 7 )
ス テム監査が働 くことは ない とい うことは, 次 の ことを意味す ると解す る他 は
ない。す なわち, 「為 されてい ること」 と 「
達成 された こと」 との 間 に識別 さ
れ る能率 , 「達成 された こと」 と 「
求 め られてい る こと」 との 間 に識別 される
効果 ない し有効性 は, 経 営 システム監査 の関与 しないこ とで あ る, と い うこと
以外 に考 え られない。その意味す る ところは, 能 率 とか有効性 についての吟味
2 5 ) F b づα. , P . 3 0 .
2 6 ) r b づ冴. , P . 3 1 .
2 7 ) r b ケα. , P . 3 0 .
150
中
阜太
一教授退官記念論文集 (第315号
)
経営 システム監査 の働 く領域
(経営 システムに関 して)
求 め られて い ること
有効性 を監視せ よ_ _
, 法的に有効 なもの とせ 玉、
達成 され た こ と
経営 システム
よ
せ
十 ︲ 証 ︱︱ ・
校
監視 し
統制せ よ
ト
為 されて い ること
( 為す よ うに)
規定 されて い ること
検証 し ・監視せ よ
。,P.31)
先cづ
け
(出所 :G.W.Parker.四
は他 の内部監査 の領域 で あ ることを認 め,経 営 システムの監査 はこれに介入 し
ない とい うことで なければな らない。
経営 システム監査 の働 き場が限定 された ものであ ることはわかるとして も,
その実際 の働 きは どうい うことになるのであろ うか。例 をもって考 えてみ よう。
以下 に引用 し列挙 してい るところは,環 境問題 に関 して組織経営 システムが設
2 8 )
定す るで あ ろ う と思 われる 目的で あ る。
イ. 法 的規制 に対す る服従 ( c o m p l i a n c e : 準
拠性) 一 環境 に対処す る方針 ・
手続 ・実務 の十分性お よびこれ らの ものへ の準拠性
口. 汚 染事故発生 の危険 とそれに伴 う失費 の削減
ハ . 緊 急時 に採 られるべ き手続 の設定
二. 隣 人 との問題 が発生す る ことがない よ うにする こと
ホ. 廃 棄物 に関 しての発生源 ・性質 ・発 生量 及 びその安全 な処分法 の識別
卜. 損 失 の識別
28)Fbケ α., PP.25-26.
業務監査知識の吟味(4) 151
チ リ ヌ
環境悪化 に加担す る ことになるよ うな衝撃 を減 らす ための廃棄物 の最小化
会社 イメ ー ジの 改善
環境 問題 に対 す る取 組 み如何 とい う こ とに よって仕 入先 の 選択 を幾分 か
左 右 させ る顧 客 との 間 で競 争 的優位 を維持 す る こ と
ル.仕 入先お よび仕 入数量 の選定 に際 して,環 境 に衝撃 を及 ぼす ライフサ イ
クル要因が存在 してい るか否 か を判断材料 として幾分 か考慮す ること
経営 システム監査 にお ける比較 の第 1は 「
経営 システム に関 して求 め られて
い ること」 と 「
為す ように規定 されてい ること」 との比較 であるとい ってよい。
上記 「
環境問題 に関す る経営 システ ムの 目的」 は即 「
経営 システムに関 し求 め
られてい ること」 と解 しうる ものであ り,あ い まい さな く示 されてい ることを
認 め うるか ら,こ こには何 らの問題 も存 してい ない と言 って よいであろう。他
方 「
為す ように規定 されてい ること」 とは,上 記例示 の如 き経営 システムの 目
的 を着実 に実行 に移 してい くための手段 としての規定 とか手続 の制定 を指す も
の と解 してよいであろ う。組織 内の職員 はこの よ うな規程 とか手続 の制定 と承
認 によって初 めて会計責任 の追求対象 とな り,統 制 され得 る もの となる。それ
故 ,た とえば上記 (イ)に関 しては,(口 )∼ (ル)を各論 とす る規程が作成 されて
お り,(口 )∼ (ル)に関 しては, 日々の実績報告 まで包含 した手続 が文書 の形 を
以て して力W隠習 としてか確 立 されてい ることが 「
為す よう規定 されてい ること」
の内容 であ る と解 して よいであろ う。 また 「
為す よう規定 されてい ること」及
び 「
経営 システムに関 し求 め られてい る こ と」 とは,前 記 「
為す よう規定 され
てい る こと」 で制定す ることが求 め られてい た規程及 び手続 が存在 してい るか
どうか とい うこと,及 び (口)∼ (ル)に関 してはそれぞれの手続通 りの実施 と報
告 がなされてい るか どうかを指す と解す ることがで きる。 この ような経営 シス
テ ム監査 の意義 は何処 に求 め られる ものであるのかG.W.Parker氏は何 も示 し
てい ない。 ともあれ,氏 の呈示する経営 システム監査 の定義 は以下 の如 きもの
で あ る。
「
経営 システム監査 とは,(経 営)シ ス テム及 びそ の (構成)要 素が計画的な
手筈 ・公 表 されて い る基 準 に準拠 した もので あ るか どうか,ま た,(経 営)シ
152
中 昌太一教授退官記念論文集 ( 第3 1 5 号)
ス テ ム及 びその ( 構成) 要 素 が 規定 されて い る通 りに履行 されて い るか ど うか ,
公 表 され て い る 目的 を達成 す るため に適 当 とい える もので あ るか ど うか 決定 す
るため , 経 営 シス テ ム お よび そ の構成 要素 につ い て行 われ る理 路 整然 と した独
2 9 )
立的検査 である。」
この定義 に従 えば,監 査人 は最終的 に,「為 されていること」 によって所定
の 目的である 「
経営 システムに関 して求められていること」力Sよく達成される
ものになっているか否かにつ き意見 を表明 しなければならない。そのための判
断 を形成す るに際 し監査人に求められるところは何 であるのか。単 に,「為 さ
れていること」がそれ自体適当なものであるかどうか,あ るいは,適 切なもの
3 0 )
で あ るよ うに見 えるか どうか,と い うよ うな ことでは許 される筈 もない と言 う
べ きである。す なわち,経 営 システムの核心 ともい うべ き 「
為 されてい る こと」
につい ての判断が この よ うな もので あ って よい とい うことは,「経営 システム
に関 して求 め られてい ることは ?」 与 「
求 め られてい ることを為す ために規定
してい る ことは ?」 キ 「
経営 システム に
現実 に為 されてい るところは ?」 キ 「
関 して求 め られてい る ところは ?」 とい う循環的 な計算 の流れを滞 りな く動 か
す組織 の心臓 としての経営 システムの役割 りを損 うことに他 な らない と言 うこ
とがで きるで あ ろ う。
V ま とめ
第 皿節 冒頭 にお い て紹介 した 「内部監査人 に求 め られる課業」 中, 経 営 シス
テム担 当の内部監査 人 として如何 にもして引 き受 けなければな らない課業 は以
下 の 4 項 目に限定 され, 他 の課業 は査定者 の課業 か, あ るい は, 経 営者 の通常
3 1 )
の 責任 と義務 に属 す る とい うの がG . W . P a r K e r 氏の主 張 で あ る。
1 . 差 果 ( 矛盾 ) の 識 別
2 . 経 営 シス テ ムが 一 定 の 方法 で活動 を統制 す る能力 を どの程度有 して い る
29)rb勉 .,P32.()内 筆者補充 。 この定義 にお い て 「
計画的 な手筈 ,公 表 されて い る基準」
とされて い る ものには,適 用可能 で ある,あ るい は,採 用す るよ うに と組織 によって公 表
されて い る基 準,手 筈 も含 まれて い る。
30)rbぢ溺., P.30.
業務監査知識の吟味( 4 ) 1 5 3
かの 決定
3.経 営 シス テ ムの 十分性 の 決定
4。 (上記 1を 用 い て の )危 険領 域 の 識 別 , しか し,危 険 な領 域 とか そ れ に
関連 した負債 につ い ての査 定 は 除 く。
この よ うに, G o W . P a r k e r 氏にお い ては, 是 正行為 につい て提案 を行 うこと も
経営 システム担当内部監査 人の職責 として受 け入れ られない もの とされてい る。
以下その論 理 として示 されてい る ものの 中 に氏 の根本的 な理解 をさぐり, 問 題
点 を指摘 して まとめ としたい。す なわち, 氏 の論理 は以 下 の如 くであ る。
①是正行為についての提案は,不 一致 (矛盾)の 原因についての調査が徹底
的 に行 われ た後 にな され る もので あ る。
②監査人が不一致 ( 矛盾) の 原因調査に携わるならば, 不 一致 ( 矛盾) の摘
出 に精 を出す べ き監査 に用 い る こ とので きる時 間 が 削 られ る こ とになる。
③不一致 (矛盾)の 原因が全 く明白であり,人 の感情 を害すものでない場合
には,矛 盾の原因について報告することは可能であろうけれども,矛 盾の
原因を突 き止 める課業 を与 えられ,矛 盾 の原 因は同僚 あるい は経営者 の技
量不足 あ るい は人格上 の欠点 にある可 能性 あ りとい うことに直面 した監査
人であ るなら,そ の多 くの者 は,そ の ような監査 に関与す ることを辞退す
る (多分,す べ き)で あ ろ う。
す なわち,是 正行為 につい ての提案 は矛盾 の存在 を前提 としないでは考 えら
れない ことで あ り,か つ また,矛 盾 には必ず原 因が伴 うものである。 しか も矛
盾 の原因が機械 の故障 による もので あ るとか,不 注意 (ケアレス ・ミス)に よ
る もので ある場合 にお いては ともか く,そ うでない場合 においては是正行為 に
つい ての提案 とい うことと,不 正 の認定,摘 発 とい うこととは不可分 の関係 に
あ ると見 る ことがで きる。不正 の認定 とい うことは査定 の一応用形態 で あるが
故 に,不 正摘発 とい う旧来 の監査 イメー ジを払拭 したいG.W.Parker氏が監査
の課業 か ら価値判断 を伴 う査定 を排 除 したい との願 い をもち,こ れを自 らの主
張 に反映 させてい ることはよ く理解す ることがで きる。す なわち,組 織内部 に
31)-32)rbぢ 冴..P。35.
154
中 昌太一教授退官記念論文集 (第315号)
生 じる欲 求不満 とか非難等悪 しきこ との源 は これ を 「
査定」 に求 め得 るので あ っ
て ,監 査 課業 に これ を含 め る場合 にお い ては ,そ の よ うな悪 しきもの まで もが
3 3 )
引 き出 される ことにな り, 監 査機能か ら引 き出す ことので きる利益 まで もが損
の主張 は理解 しがたい ものではない。
われる ことになる とい うG . W . P a r k e r 氏
「
計画 のまず い監査 プログラム, あ るい は, 実 行 の まず い監査 プログラムは,
3 4 )
組織 とその文化 に対 して,い つ まで も消 えない損害 をもた らす。」 との言 は旧
来 の監査が今 なお広 範囲の人 々の心理 に及 ぼ してい る悪 影響 を目の当 りに した
G.W.Parker氏 の感慨 を示す もの と解す ることがで きる。 しか しなが ら,前 掲
引用文 に も見 られ る如 く,G.W.Parker氏 が経営者 は勿論 の こと被監査者 とし
ての 同僚 の感情 を害す ることを極瑞 に恐 れてい ることには,筆 者 として同意す
ることがで きない。 い たず らに人の感情 を害す ることは,こ れ を回避す るよ う
極力配慮すべ きで あ ろ う。 しか しなが ら,監 査人で あれ,被 監査者 で あれ,あ
るい は経営者 で あれ,真 に恐 れるべ きことは,如 何 なる種類 の批判 であろ うと
も,こ れに耐 え られない状態 に 自 ら陥 っていることはないか とい うことで なけ
ればな らない。Go W.Parker氏が恐 れてい る 「人」 は,感 情的 に も身体的 に も
極 めて移 ろい易 い存在 で あるが故 に,自 らの味方 として 「人」 を頼 り,そ のた
めの手段 を講 じよう とす ることは危険 な ことで あ り,賢 明 とは認 め難 いこ とで
ある と言 わなければな らない。
33)rわを
α.,G,W.Parker氏 は,上 出来 の監査 プ ロ グラム を有 して い るこ とによって得 られ
る利益 として23個の もの を列挙 して い る。そ の 中のい くつ か を紹介す るな らば以下の如 く
である。
・自 らの欠点 を識 別 し是正す る順 向 アプ ローチ を採用す る組織 に し,こ れに伴 い,顧 客 が
引 きつ け られ ,離 れない傾 向が高 くなる。
・組織 で行 われて い ること,お よび,そ の実行方法 に対す る信頼 が改善 される ことになる。
・よ り良 い品質 ・よ り安全 な製品, よ り安全 ・よ り健康 によい作業場,よ り良 い防衛手段 ,
環境負荷 の軽減等 ,経 営 システムの 目的が よ り確実 に,あ るい は,よ り容易 に達成 され
るよ うにな る。
34)rbガα., P,36.