主体的な鑑賞能力を高める指導の工夫

沖縄県立総合教育センター
前期長期研修員
研究集録
第 32 集
2002 年 9 月
<美術>
主体的な鑑賞能力を高める指導の工夫
――鑑賞教材に郷土の作家(ニシムイの画家たち)を用いた授業を通して――
那覇市立古蔵中学校教諭 前 田 紫
Ⅰ
<研究仮説>
テーマ設定の理由
鑑賞の授業において,地域の芸術家たちの作品や
生き方を教材として用いることによって,生徒の興
美術教育は「表現」と「鑑賞」のふたつの領域から
味・関心を引き出し,主体的な鑑賞能力が高まるで
構成されている。従来は表現領域の指導に教師の関心
あろう。
も集まり,鑑賞指導は表現活動の導入や付随する指導
Ⅱ
としての位置づけに留まることが多かった。
美術教育の目標に「表現及び鑑賞の幅広い活動を通
して,美術の創造活動の喜びを味わい美術を愛好する
1
心情を育てるとともに・・・」とある。ここでいう美
(1) 鑑賞教育の変遷
術を愛好するとは,
「表現」を愛好することだけでは
研究内容
鑑賞教育について
美術の授業が「鑑賞」より「表現」を中心に進めら
なく,
「鑑賞」を愛好することでもある。
れてきたことは,自分自身の経験を振り返ってみても
今回の学習指導要領の改訂では,鑑賞領域の学習が
明らかである。実際私たちは,絵を鑑賞した記憶より
特に重視され,独立した活動としてその充実が強く求
絵を描いた記憶の方がはるかに多い。美術の授業で芸
められている。これまで鑑賞指導は,ともすると知識
術作品を鑑賞した経験など,ほとんど思い出せない人
理解に偏った美術史的扱いが多く見られ,必ずしも生
が多いのではないだろうか。
徒が主体的に学べるものではなかった。鑑賞指導の重
ところが,学習指導要領を遡ってみると鑑賞教育は
要性を十分認識し,これからは鑑賞を通した人間形成、
軽んじられるどころか、常に鑑賞の重視は謳われてき
生涯にわたって主体的に作品を鑑賞し楽しむという
ている。だが、時代とともにその目的はかなり変化し
視点を踏まえた,より効果的な指導のあり方の研究や
てきた。戦後すぐの鑑賞教育の目的は,国の産業発展
教材の開発が求められている。
のために国民の美的価値判断の能力を形成すること
では,これからの鑑賞指導に有効な教材としてどの
に置かれていた。しかし現在では,個人の美的感性を
ようなものが考えられるだろうか。教科書や資料集の
図版を眺めながら生徒が尋ねる。
「ルネッサンスって,
豊かにするだけではなく,国際社会に伴う異文化理解
の必要性や,その基となる日本文化あるいは地域文化
いつ?」遠い時代,遠い国で制作された美術作品はい
の基礎的理解の推進へと変化してきている。さらにこ
かにそれらの芸術的価値が高くとも,生徒一人ひとり
れからは、美術を愛好する心情として,生涯教育の視
の日常から遠くかけ離れたものであり,生涯を通して
点からも鑑賞教育に求められる役割はより重く,より
実物を見る機会を得ることも難しい。そこで今回,終
拡大していくと思われる。
戦直後のオキナワに存在した芸術村ニシムイで活動
(2) 今回の改訂にみる鑑賞教育のあり方
した「ニシムイの画家たち」という独自の鑑賞教材の
今回の改訂で鑑賞は特に重視され,表現の活動と表
作成を行うのは,生徒が興味関心を持って主体的に鑑
裏一体となった鑑賞だけではなく,独立した活動とし
賞するのに有効な教材ではないかと考えたからであ
ての鑑賞の充実が強く求められている。この鑑賞は,
る。郷土の美術を学ぶということは,同じ風土同じ社
美術作品などをただ自由に味わうだけでなく,想像力
会背景の中で生活し成長している生徒一人ひとりに,
を働かせて作者の心情や表現の意図,工夫などを読み
美術を愛好する喜びを訴えかけることになるであろ
取り味わう学習とされている。また,第2・3学年の
う。そして,生涯にわたって美術を愛好する心情が育
鑑賞の目標の改訂の要点としては,
「自分の価値意識
っていくことをねらいとしてこのテーマを設定した。
をもって」主体的に鑑賞する活動を大切にし,美術作
49
品の感じ方を互いに「批評し合い」ながら,「自己の
教育のあり方であると思う。だが,その時鑑賞させる
美意識や美的選択能力を高める」ようにすることが望
素材について深く研究された事例は まだ少ない。今,
まれている。また基本方針の中に,
「我が国やアジア
もっぱら鑑賞のさせ方のノウハウが話題の中心だが ,
など諸外国の美術文化についての関心や理解を一層
何を見るか,何と対話するかの題材を今後方法ととも
深められるよう鑑賞の充実を図る。
」とあるように日
に大切なテーマと考えていくべきであろう。
本文化の鑑賞を重視し,地域の美術館を活用するなど
2
鑑賞の発達段階
の地域を意識した具体的な改訂がなされている。この
ニューヨーク近代美術館(MOMA)の教育プログ
地域というキーワードをもとに生徒の環境に対応し
ラム責任者であったアメリア・アレナス女史の理論に
た独自の地域鑑賞教材の開発が必要になってくると
考えられる。
よると,鑑賞能力には次の5つの発達段階がある。
第1段階
(3) 地域教材ついて
物語の段階
作品をじっくり見ようとせず,自分の記憶や経験へ連想が
「日本文化の鑑賞を重視」をうけて,地域の文化財
飛躍してしまう。セザンヌの静物画に描かれたオレンジを見て
を中心とした鑑賞教材の開発が実際に行われ始め て
「今朝食べたオレンジはすっぱかったな」と別の連想を始める
いる。だがそのほとんどは仏像や寺などの建築物が多
など,その思考は作品のなかに入り込むことができない。
↓
い。それは,地域にあるということで生徒が自ら鑑賞
に出かけられるというメリットは確かにある。
第2段階
構築の段階
また優れた自国の歴史的作品に触れることも伝統
作品に接する機会が増えるにつれて,多くの人は美術に関す
文化の理解と日本文化に誇りを持つという点で大切
る知識や情報を増やそうとする。また,作品を観察することを
な部分を担うであろう。古く価値基準のあまりにもは
心がけるようになる。
↓
っきりした作品の場合,作家の思いにははるか遠く,
時代設定を理解するうえでかなり知識理解の要素が
第3段階
分類の段階
強くなり,作品の本来の芸術性を味わうまでに受け身
鑑賞体験とともに知識が増えるにつれて,美術史上の分類な
の鑑賞になることも予想される。生徒は今を生きてい
どを重視するようになる。作品を見たときに知識のみを話した
る。そこで「自己の美意識や美的選択能力を高める」
ためには現代,少なくとも近代の作品を鑑賞すること
がることに特徴がある。
↓
も文化財を鑑賞させることとはまた違った目的で大
第4段階
切であると考えられる。そして沖縄には,そうした時
解釈の段階
美術史,技法などのあらゆる知識を踏まえた上で,自分の感
代背景や,美術の流れが存在するのである。
性を加えて解釈ができるようになる。
(4) これからの鑑賞教育に求められるもの
↓
そもそも鑑賞教育の重要性が叫ばれるのは,21 世
第5段階
再構築の段階
紀を展望した教育の基本的な方向として,新しい学習
美術に関して熟知しており,創造者であるアーティストとい
指導要領の拠り所ともなっている,
「生きる力」の育
う存在に最大の敬意を払う。作品と対話するかのような深い思
成を目的とした教育 改革が推進されているからであ
索ができる。
る。知識獲得的な鑑賞教育から脱却し,子供たちが自
これは鑑賞と言う言葉から,まだ漠然としたイメージ
ら課題を発見し解決に向かう,体験的で主体的な学習
しか持ち得ない者に,その理解を深めさせる説明とし
を促す鑑賞教育の実現が望まれている。
て非常にわかりやすい。日頃の授業を通して生徒の実
鑑賞教育の重要性が叫ばれているのは日本だけで
態は明らかに,第1,第2段階にあると思われるので,
はなく,海外ではいち早くこの波は訪れている。教育
この鑑賞の発達段階を踏まえて,鑑賞教材の作成を行
現場だけでは なく発達段階にある子供たちを取り巻
く社会問題の側面から試みた鑑賞の活動,また医療と
っていく必要があると考える。
3 鑑賞教材の作成
しての事例も多い。鑑賞指導の工夫として鑑賞の仕方
(1) 沖縄の近代美術概観
(方法)と何を鑑賞させるか(題材)の二つの視点が
琉球王朝時代の美術は,宮廷画家たちによる日本の
あげられる。現在もっぱらこの方法論に話が及ぶこと
流れをくむ屏風絵や,中国様式を踏襲した御後絵(お
が多く,対話型の鑑賞法など,いろいろな実践研究で
ごりえ)と呼ばれる歴代国王の肖像画や,観賞用の花
目覚しい効果をあげている。子供が主体的に,積極的
鳥画・山水画などの正統的な水墨画でしめられていた。
に作品と関わり対話するわけである。すばらしい鑑賞
廃藩置県後,これらの系譜は日本画家として山田真
50
(3) 教材に取り上げる作家
山,金城安太郎,柳光観らに引き継がれるものの,
「洋
画」の普及にともない次第に衰退していく。
ニシムイで活動した作家の中から以下の3名を取
沖縄の近代美術の発展は美術教師たちに負うとこ
り上げる。この3名としたのは,ニシムイに今だにア
ろが大きい。近代化の過程において目立つのは,美術
トリエがある作家もおり当時のことが偲ばれること ,
結社の出現である。
「沖縄絵画同好会」は 1903(明治
ひとりひとりの作家が戦後の沖縄の美術に大きな功
36)沖縄師範学校に赴任した山口辰吉が主催,
「丹青協
績を残したこと,それぞれが追求した主題がまったく
会」1908 年(明治 41)は山口が結社に動いたが離沖し
違い,画風が大きく異なることによる。
た後,沖縄で始めて東京美術学校に学び沖縄師範に赴
任した西銘生楽が引き継いだ。当時の沖縄に大きな美
術人脈を構成し,近代美術の萌芽と育成に尽くした貢
名 渡 山 愛 順 (1905∼1970)
天衣無縫という形容のぴったりする先生でしたが、ラフ
献度は大きい。
「ふたば会」は 1920 年(大正9),丹青
ァエロを愛し、音楽を愛し、沖縄―特に伝統芸能、文化を
協会から分化,時流に刺激されて気鋭に走った前衛的
愛した名渡山愛順という、ひとりの偉大な芸術家の残した
絵画グループであった。
「樹緑会」
は 1922 年(大正 11),
遺産は莫大なものがあります。その中でもとりわけ、私た
西銘を中心に 県立二中の生徒によって結成されたグ
ち教え子に「美しいものを美しいと思う心」を与えてくだ
ループを後に,比嘉景常が引継ぎ発展させた。名渡山
さったことに深く感謝したいのです。(久場とよ)
愛順,大城皓也,山元恵一,大嶺政寛,安谷屋正義ら,
1927
東京美術学校入学、和田英作らに師事
後の沖縄画壇の中核をなす人材を排出する。明治から
1928
第 9 回帝展初入選
大正にかけて,山口はグループの活動のあり方に関与
1932
東京美術学校卒業、県立第二高女で教職
し,山口に続いて県立第一中に赴任した山本森之助は
1947
首里西森にアトリエを構える
東京美術学校への夢を若者たちに抱かせた。
その後,さまざまな絵画グループが誕生するが,時
山 元 恵 一 (1913∼1977)
局が急を告げ,絵の具の入手も困難となり,美術活動
沖縄での最初のシュールリアリストといわれる彼の絵に
に没頭することが許されない社会情勢となり,消滅し
は、湿っぽい妖気はなく、乾燥した空気が吹き抜け、遠くの
ていく。
(2) ニシムイについて
地平まではっきりと見通せる光に満ちたものであった。山元
のひとりでゆらりゆらり歩く後姿のイメージには、こうした
東恩納や知念などの各地から首里儀保の地に画家
社会的断絶や絵画感の亀裂に直面した一人の男の一生を見
たちが移住,通称ニシムイの美術村と呼ばれるアート
る思いがするのである。(稲嶺成祚)
コロニーが形成される。1948 年 4 月のことである。
1938
東京美術学校卒業。東京区役所勤務
実質的な沖縄美術の復興は,ここから始まると言われ
1947
石川より首里西森に転居
ている。当時のニシムイには日曜日になると米軍将校
1951
第 3 回沖展優秀作品専門家投票1位
たちが車で訪れ,注文に応じて肖像画や風景画などを
1952
琉球大学美術工芸科助教授
描くことで画家たちの当時の生計は立てられていた
という。こうした生きていく場としてのニシムイはも
安 谷 屋 正 義 (1921∼1967)
うひとつ芸術の拠点という顔も,持ち始めていた。離
彼は、自分が描きたいと願う心象世界について、ときど
れた場所で活動する各地の美術家や美術に限らず演
き私にこう語った。
「高く高く、どこまでも無限に伸びてい
劇,伝統芸能の人々などもたびたびそこを訪問したと
る、透明で清らかな空気が満ちている、何か崇高で敬虔な
いう。1948 年 7 月に創刊号を発行した沖縄タイムス
感じなんだ」と。彼の育った清教徒的家庭環境や性格的指
の豊平氏も足繁くそこを訪ねている。他にも美術を志
向性からいって、それはいかにも彼らしいリアリティに満
す学生なども加わり画家たちのなかでは,生活のため
の制作とともに各自の個性に基づく創造的な表現活
ちたイメージの世界だった。(安谷屋節子)
1940
東京美術学校入学
動へと創作意欲がかきたてられていったという。この
1948
首里西森に住宅兼アトリエ建設
美術村にアトリエを構え移り住んだ画家たちは,山元
1951
琉球大学美術工芸科講師
恵一,金城安太郎,許田普正,安谷屋正義,名渡山愛
1960
ロックフェラー財団基金により米国等視察
順,大城皓也,屋部憲,玉那覇正吉,具志堅以徳,ま
た儀保の入り口には末吉安久,平良には大嶺信一,那
覇農連ちかくには安嶺金正らがいたという。
51
Ⅲ
約 47%(約半数)が、あると答えている。鑑賞の充
指導の実際
実が叫ばれていても半数の生徒が鑑賞の授業を保障
されていない。そして、受けたことがあると答えた生
1
生徒の実態
徒の内、その授業に興味を持つことができなかった生
事前に美術の授業,
「鑑賞」に関するアンケートを
徒がその 64%(約3人に2人)という現実に、授業
3クラス(約110名)対象に 10 項目行い,検証授
内容の改善が望まれる。
業のための参考とした。その中から,1 項目だけ挙げ
また、鑑賞の授業を受けたかどうかさえも、わから
てみる。
ないと答えた生徒 18%という数字も予想に反して高
「鑑賞の授業を受けたことがあるか?」との問いに
い数値であった。
わからない
16%
わからない
18%
ある
47%
ない
35%
図1
2
はい
20%
いいえ
64%
今までに鑑賞の授業を受けたことがありますか?
図2
その鑑賞の授業に興味が持てましたか?
検証授業
(1) 題材名
鑑賞「ニシムイの画家たち」
(2) 時間設定
週1時間の2時間扱い
(3) 指導のねらい
○「ニシムイ」の存在を知り,画家たちの生き方に興味関心を持ち,意欲的な鑑賞ができる。
○取り上げた作品のもつ主題や色や表現方法の違いの面白さを素直に感じ取ることができる。
○画家の遺族らのインタビューなどの情報を得て,画家の心情に迫ることができる。
○同じ作品を鑑賞しても感じ方が違うことに気づき,他者の感想に理解や興味をもつことができる。
(4) 指導計画
時
学
習
の
活
動
留
想像する
・作品画像を鑑賞
名渡山愛順「郷愁」
山元恵一「貴方を愛するときと憎むとき」
安谷屋正義「塔」
1
・ワークシート1に記入
と
評
価(★)
・ワークシート1まではできるだけ作品に
関する情報は入れず想像させる。
★素直な印象や直感を大切に,想像できた
★級友(他者)の意見に興味を持つことが
情報を得る
・作品についての簡単な説明を聞く
・VD教材「ニシムイの画家たち」を鑑賞
(VD教材は約 15 分,作品画像・インタビュー・
を出し合う。
・ワークシート2(感想)に記入
・次週に期待できるよう話をしておく。
術への興味関心を持つことができたか。
味わう
・作家について,ニシムイについての感想
できたか。
(発言)
・画像を見ながら補足説明を加える。
★VDのインタビューなどから郷土の美
当時の地図や写真で構成)
本
時
点
か。
(シート1)
生徒それぞれの感じたことを発表
2
意
(ワークシート2,発言)
★自分なりの視点で感じたことを言葉に
できたか。
(感想)
・鑑賞の授業のまとめとして,鑑賞の広が
りについて触れておく。
52
(5) 本時の展開
導入
(10 分)
学 習 活 動
指 導 上 の 留 意 点
・1週間前の鑑賞を振り返る意味で,3 点
・1 週間という時間の経過があるので前回の鑑賞を簡
の作品映像を鑑賞する。
単に再現して確認しておく。
・前回の授業で記入したワークシートの中 ・生徒のワークシートの中からイメージに広がり
から級友のユニークな回答を聞く。
を持てる回答例を選び,感じ方の多様性を知らせる。
・本時の学習の流れを知る。
・前回の授業との関連性を明確に伝えておく。
・「ニシムイの画家たち」のインタビュー ・画家の遺族のインタビューを見て,郷土の画家を
展開
を映像としてスクリーンで見る。
身近に感じ,興味をもたせる。
(30 分)
・地図や写真はあくまで情報のひとつと言う程度に
とどめておく。
・作品に戻るとき,あえて作品の画像は見せず,生
徒の中の残像により好きと言うより気になる作品
を選ばせる。
・ニシムイの地図や当時の写真などの資料
を見て,時代背景などを知る。
・自分の好きな作品を選び,なぜその作品
を選んだのか数名発表する。
・ワークシート2に従い質問に答えを記 ・感想が自分の言葉で書けるよう声かけをする。
まとめ
(10 分)
入する。
・生徒の鑑賞分野への意識を変えるため,少し鑑賞
・2時間の鑑賞の授業を振り返り,感想
について整理して伝える。
を短いことばにまとめる。
3
生徒の感想から
授業の考察
○3人の画家が私と同じ沖縄の人だと知って,びっくり
作品の題名,作家のプロフィール等何の情報も与え
したし,もっといろいろ見たいと思いました。
ず,作品だけをゆっくりワークシートに導かれ鑑賞さ
○ニシムイのことを初めて知った。どの画家も絵にたい
せた1時の導入は,生徒の自由な想像を思い思いに膨
する情熱がある感じがした。
らませることができたようだ。作家の性別や国籍など
○3つの作品を見てなんとなく個性がある気がした。
の問いに,おもしろい答えがいくつも返ってきた。
○1つの同じ絵を見ても,考えることがみんな違うこと
また,情報を与えた後つまり自作のVD教材で作家
に気づいた。
の遺族の生の証言を聞いた2時の授業では,生徒の集
中度はかなり増し主体的な鑑賞へと移行していくよ
うに感じた。また,友人(他者)の意見を聞いて共感
○ただ絵を見ただけで,結構いろんな事を考えられた。
したり驚いたりする場面など教師の予想をこえた展
○自分の好きなことで自分の今感じていることを表現
少し美術に興味がでた。
できるってすごい。
開が見られた。
指導のねらいに照らし合わせ,右記のような生徒の
感想が得られた。
53
4
研究仮説の検証
鑑賞の授業において地域の芸術家たちを題材に「ニ
鑑賞の発達段階(5段階)から見ると,1段階,明ら
シムイの画家たち」というインタビューを中心とした
かに「絵の表面の事柄にのみ関心」をみせていた二人
VD教材を独自作成し授業を行った。これにより生徒
だが,鑑賞の授業をきっかけに「描いた作家に思いが
の興味・関心が引き出され,主体的な鑑賞能力が高ま
及び,自分なりの見方」をしようと鑑賞を深めている
ったか?について検証した。
様子が読み取れる。これは作品を観察することを心が
授業を受けた生徒2名のワークシートにみる,山元
けるようになる2段階へのステップと考えられる。
作品(図3)に対する感じ方の変容を追ってみる。
多くの生徒が感想では,作品に対するそれぞれの感じ
方,ニシムイへの思いなどを積極的に言葉にしていた。
これらのことから,今回の検証授業において研究仮説
である主体的な鑑賞能力の高まりを個人差があるに
せよ,確認できたと考える。
Ⅳまとめと今後の課題
図3
山元恵一作「貴方を愛するときと憎むとき」
鑑賞の活動は,教室の中だけで行われるものではな
く,また,数回の鑑賞の授業で鑑賞の能力も大きく伸
M・Mさん
びるというものではない。今回の研究内容が生徒の主
作品のみを鑑賞、題名す
ワークシート1(一時)
ら知らずに
体的な鑑賞へのきっかけとなり,生涯を通した美術を
想像
砂漠にあるお店。世界の不思議を集めた
愛好する心情 へと繋がっていくか?の検証には長期
お店。謎めいている。
的な鑑賞の取り組みが必要である。今後も引き続き美
術の授業における鑑賞の領域に注目し,柔軟に教材研
究および実践を行っていく必要性を強く感じる。以下
に今研究の成果と課題を挙げる。
VD教材を見る、など情
ワークシート2(二時)
報を得た後
味わう
描いた山元さんって,想像力豊かな人だ
1
と思う。一日中絵を描いていたんじゃな
○3点の作品に絞りワークシート1及び2を活用す
成果
いかな。自分の心をありのままに描けた
ることによって,生徒は鑑賞を深め,味わうという体
験ができた。
と思う。
Y・Kくん
○ニシムイの存在を知ったことで,表現活動や画家自
作品のみを鑑賞、題名す
ら知らずに 想像
ワークシート1(一時)
岩が描かれている。明るい色から楽しい
身を身近に感じ,もっと見たい,知りたいという主体
イメージが伝わってくる。
○級友(他者)の作品に対する感じ方を聞き,同じ作
的な鑑賞へと繋がった。
品でも捉え方の違い がある事に気づくことができた
VD教材を見る、など情
ワークシート2(二時)
報を得た後
生徒もあった。
味わう
画家が何を思ってその絵を描いたか疑
2
問に思ったし,不思議な絵だなと感じ
○鑑賞の学習を進めていくにあたり,単発の授業に終
た。山元さんは,外見はとても無口でお
わらぬように各学期,各学年を通した長期的な鑑賞の
となしそうだけど,絵を描くときはとて
授業計画が重要になってくる。
○今後,鑑賞の場の設定や教材開発には,美術教師を
も楽しそうに描いた気がする。
課題
中心に地域と連携し取り組んでいく必要がある。
<主な参考文献>
上野行一監修
2001
文部省
『中学校学習指導要領解説
那覇市編
1999
1995
『まなざしの共有』
『戦後 50 年 1945−1995
淡交社
美術編』
開隆堂出版
沖縄の美術』
54
那覇市