Title Author(s) Journal URL 先端生命医科学研究所の未来 有賀, 淳 未来医学, 未来医学(28):13-13, 2015 http://hdl.handle.net/10470/31057 Twinkle:Tokyo Women's Medical University - Information & Knowledge Database. http://ir.twmu.ac.jp/dspace/ 先端生命医科学研究所の未来 有賀 淳 Atsushi Aruga 東京女子医科大学 先端生命医科学研究所教授 東京女子医科大学・早稲田大学共同先端生命医科学専攻 副専攻長・教授 長い間消化器外科の臨床医として勤務してきた 化学療法、放射線療法に次ぐ癌治療として期待さ 私が先端生命医科学研究所に異動になってからも れてきたが、十分なエビデンスのないまま自由診 う 5 年目になる。その年齢は東京女子医科大学と 療として広まる状況となっている。しかし、近年 早稲田大学との間で新設された国内初の共同大学 開発された「免疫チェックポイント阻害剤」は多 院共同先端生命医科学専攻医療レギュラトリーサ くの癌腫において免疫抑制環境を解除するだけで イエンス研究分野の年齢に等しい。共同大学院に 癌が治療できる可能性を明らかにし、その第 1 号 ついては本誌の特集Ⅰに掲載されているのでそち となる医薬品は日本で先駆けて 2014 年に薬事承 らを参照して頂くこととして、ここでは「先端生 認された抗 PD-1 抗体ニボルマブである。同様の 命医科学研究所の未来」という題目で私の自由作 製剤が今や世界中で先を争って開発研究されてい 文にお付き合い頂きたい。先端生命医科学研究所 る。我々が研究してきた「がんワクチン」は第Ⅲ の中心となる第 1 の矢は「細胞シートを利用した 相 試 験 で 難 渋 し て お り、 樹 状 細 胞 を 利 用 し た 再生医療」であり、世界に誇れる日本の宝だと信 Provenge の 開 発 以 降、Stimuvax, MAGE-A3 が じている。岡野先生、大和先生、清水先生、松浦 プライマリーエンドポイントを達成できず、失敗 先生、岩田先生など強力な世界的リーダーたる に終わっている。今は免疫チェックポイント阻害 面々が揃い、この分野での今後の未来も明るいも 剤との併用治療が研究されており、それによる巻 のと確信している。続く第 2 の矢は村垣先生、正 き返しを狙っている。また、以前より活性化リン 宗先生ら FATS が率いる「脳神経先端工学外科」 パ球療法と称する治療法が蔓延してきたが、リン で、地下に存在する梁山泊はその活動源の象徴と パ球に癌抗原や癌標的分子を認識する受容体を遺 も言える。伊関先生が早稲田大学教授に就任され、 伝子導入して作成する T 細胞医薬品の開発が進 早稲田大学との共同活動もますます活発になって められており、白血病の CD19 分子を標的とした おり、こちらの未来も益々輝かしい光を放つだろ 細胞医薬「CTL019」の国内開発も発表された。 う。第 3 の矢はどうだろうか? 丁度、年末の衆議 CTL019 はすでに臨床試験において著明な抗腫瘍 院選挙が終了し、安倍政権が安泰となったが第 3 効果が確認されており、今後は同様の技術による の矢の行方は未だ定かではない。先端生命医科学 細胞医薬品が幾つも開発されていくことが想像さ 研究所にも第 3 の矢が放たれるのかと考えてみる。 れる。癌標的分子と T 細胞をつなぐ BiTE 抗体も 元々私の専門は腫瘍免疫であり、消化器癌領域 その高い有効性が期待され、開発が進んでいる。 での癌免疫療法が長年の課題であった。消化器外 「癌免疫療法」は第 3 の矢になるだろうか? それ 科時代からの「がんペプチドワクチン」の臨床試 が私の「先端生命医科学研究所の未来」を考える 験及び医師主導治験が本年度で終了し、これで一 時の考察である。この機関誌を読まれた誰かと共 旦消化器外科からの仕事がすべて完了するに際し に「癌免疫療法」の第 3 の矢を放つ日が来ること て、残りの在職年数で次の仕事について思いにふ をひそかに楽しみにしている。 ける日々を過ごしている。癌免疫療法は外科手術、 未 来 医 学 N o . 2 8 2 0 1 5 13
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