コチラ - 犯罪学研究会

【概要】
日時: 2015(平成 27)年 1 月 24 日(土)13:00~16:30
名称: WIPSS 科研費共同研究・研究会(第 5 回更生保護関係部会)
場所: 早稲田大学早稲田キャンパス 11 号館 7 階 704 号教室
報告内容・報告:
(1) 野口 義弘 氏(有限会社野口石油代表取締役、協力雇用主)
「野口石油における非行少年に対する就労支援の現状と課題、および今後の展望」
(2)北﨑 秀男 氏(NPO 法人福岡県就労支援事業者機構常務理事)
「福岡県就労支援事業者機構の活動の現状と課題、および今後の展望」
(3)総合質疑応答
1.犯罪学研究会 4 年
野口氏、北﨑氏のともに熱き想いが伝わった報告であった。雇った少年に店のお金を盗
まれたり、再度少年院へ行く少年がいるという状況にもかかわらず、協力雇用主として少
年たちを雇い続け、少年院へ行った少年を待ち、社会人として少年たちにマナーまで教え
る野口氏には頭の下がる思いである。また、
「自分が怖いと思ったら相手も怖がる」という
考えから野口氏は少年と同じ目線で立って話すようになった、とのことであった。自分自
身、普段の生活でそのような目で相手をみてしまっていることがあるのではないか、と反
省した。野口氏の人柄により、
「野口さんのところは料金が高い」けれども地域の人がガソ
リンを入れに来たり、野菜を持ってきたりするのだろう。野口氏の熱い想いが地域の人々
にも伝わり、更生保護の理解も得られている。時間はかかるかもしれないが、こういった
地域に根ざした一人ひとりの力が更生保護の促進へとつながっていくのだろう、と感じた。
また、野口氏の会社の雇用の対象にしている少年は非行少年だけでなく不登校、ひきこも
りもいるとのことであった。昨年の研究会における BBS の報告もそうであったが、そうい
った更生保護に携わる機関・団体は必ずしも非行をおかした少年だけを対象としているわ
けではなく、不登校やひきこもりの少年も含まれている。自分が思っているより対象の範
囲は幅広かった。
また、福岡県就労支援事業者機構では、暴追センターからの依頼事業もあり、他県と比
べて暴力団の本部が多い福岡県の特色ある動きであると感じた。就労支援事業者機構に関
しては、近年始まった取組であるが、報告にもあった通り、一定の成果を出されていると
のことであった。都道府県により、状況や実績が異なるのは当然のことと言えるが、やは
り県同士のつながりが課題として挙げられていた。県単位のことでやっていることをまと
めるのはなかなか難しい。しかし、就職したい場所は人により異なり、やはり本人の希望
は大切である。また、元暴力団員ともなれば他県へ行くのはある意味必然であると言える。
県単位の就労支援事業者機構が動き出し、県の中で一定の成果を出し始めた今、他県であ
っても就労がスムーズにいくことが求められる段階に入ってきているのではないだろうか。
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2.犯罪学研究会 4 年
今回の講演を聞いて特に考えさせられたことは「民間の活力」という点である。犯罪・
非行を行った者の社会復帰を主体的に行っているのは公的機関であるが、彼らの受け入れ
を担うのは民間事業者であり、社会全体なのである。“少年は何度も過ちを犯してしまうも
のだ。でも彼らを社会で受け入れていかなければならない”、“少年たちを我々が信じるこ
とができなければ、少年たちは自信をつけることができず本当の悪人になってしまう”と
いった野口さんの言葉は本当にその通りだと思う。野口さんが、就職面接にやってきた 34
名の非行少年全員を自らの事業所で雇い入れ、彼らのキャリアステップのための支援を惜
しんでいないのはそうした考えに基づくものであろう。しかしながらその一方で、そうし
た野口さんの理念はわかっていながらも、実際には犯罪・非行を行った者を受け入れ難い
とする「総論賛成各論反対」の風潮があることも事実である。そうした中で、野口さんや
北崎さんのように、更生保護を支える民間団体が先頭に立ち、犯罪・非行を行った者の再
統合に向けた取組みをしていくことが、更生保護の理解の拡大にとっては必要になるだろ
う。
3.犯罪学研究会 4 年
①野口義弘氏のお話を伺って
「仕事を任せるというのは、相手を信じるということ」
野口さんのこの言葉を耳にして、出院後に就職先を見つけられないとき少年が社会に対
して抱くことであろう疎外感のほどが想像され胸が痛んだ。自分が社会から疎外された場
所にいるという意識は、人の規範意識を曖昧にしてしまうのだろう。野口さんに雇用され
た少年の多くが更生を果たしたという事実が、自分を受け入れ必要としてくれる人間関係
の大切さを示している。
野口さんに出会わなければ、自分の「居場所」を探して彷徨い続けることになった少年
は少なくないのだろう。この「居場所」として、家庭が機能していない非行少年が多くい
ることを野口さんは指摘し、その場合は少年を家庭から切り離すしかないと話されていた
ことが強く印象に残っている。何人もの少年と向き合ってきた野口さんの経験が、少年の
両親に多くを期待できないという結論を出したのだと思う。
「子どもは変わるけど、大人は
変わりませんからね」と話す野口さんの顔は暗かった。野口さんの持つ、子どもならでは
の可塑性への期待は、裏を返せば成人が変わることの難しさを物語っているようにも感じ
てしまった。
更生保護は、人が変わることができるという可能性に対する楽観と悲観のせめぎ合いの
なかで、それでもなお人を信じようとする野口さんのような方々に支えられてきたのだと
思う。少年を信じる野口さんの想いは少年を更生へと導くことに成功している。一方で、
家庭環境に問題があれば親と切り離すしかないという悲観も、少年の更生に必要なのだろ
2
う。
もしも少年が成人だったら、そして彼の社会への不満や、社会とのズレが決定的なもの
だったら、私たちは彼とどう接するべきなのだろう。野口さんの、少年の更生に対する不
屈の信頼に心を打たれながら、この疑問がいつまでも頭から離れなかった。
②北崎秀男さんのお話を伺って
更生保護において地方自治体が果たす役割は小さすぎないだろうかと、私はこれまで不思
議に思っていた。出所者を自治体職員として採用することと、公共入札において協力雇用
主を優遇すること以外の施策を知らなかったからである。しかし福岡県では、就労支援事
業の一環で、福岡県が就労支援事業者機構に就労体験事業を委託しているという。これに
より就労支援事業者機構は就労支援員を7名も賄うことができているそうだ。
質疑応答のなかでは、協力雇用主をリスト化して共有する案が挙げられていた。個人情報
保護の問題が指摘されていたが、他にも、自治体の出所者支援の充実が他地域からの出所
者流入を加速させることが、地域住民の納得のいくところであるかは考えるべき課題だろ
う。
4.犯罪学研究会 2 年
この研究会ではまず、HAND という映像を見ましたが、そこに出てきたガソリンスタン
ドで働く少年は当時 19 歳でした。私と一つしか違わないこの少年を見て、自分の住んでい
る世界とどれ程かけ離れた世界にこの人は住んでいるのだろうと思いました。相手の気持
ちになって考える、と言うのは簡単ですが、生まれも育ちも違う人が理解しあえるとは思
えません。私は髪を染めたり、耳に穴を開けたりする心理が全く理解できません。したが
ってその様な身なりの人を見れば恐怖を覚えます。ここでいう私の恐怖は、その外観から
醸し出される暴力性に因るものと、相手の理解不能性に因るものがあるのでしょうが、後
者の恐怖については相手も私に対して抱くのだと、野口義弘氏の話を聞いて知りました。
相手を理解するには共感が必要で、つまり自身もそれなりの体験をしていなければなりま
せん。然して私は家族に愛され、お金にも困らず、良き友に恵まれてしまいました。その
ような私が無理に彼等を理解しようと努めることは、かえって彼等の自尊心やアイデンテ
ィティを傷つけるでしょう。私にできることは彼等を理解不能なものとして理解すること
のみであり、そのうえで真に彼等を理解できる人間が彼等と関係を築けるような仕組みを
考える事だと思いました。これは最初から理解を諦めているのでは勿論ありませんが、し
かし理解できるものとして捉える方がよほど危険な思想ではないのかと思うのです。野口
氏のところで働いたかつての非行少年が、そこから独立して、同じように非行少年を雇っ
ている、という話を聞きましたが、まさにこのような形が望ましいのだと思います。子供
達は重要な居場所である家庭が本来の機能を果たさないので、居場所を求めてゲームセン
ターなどに溜まります。彼等は孤独で寂しがり屋なのだと野口氏は言います。彼等に必要
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なのは、道徳や教訓を垂れる先生・上司ではなく仲間です。そして重要なのは、悲しい事
ですが私の様な人間は真の意味での仲間にはなれないという事です。そう考えると、果た
して今の施設は真の仲間づくりに適した環境なのか、疑問に思いました。少年にとって働
くことの意義は、収入を得る事、必要とされている感覚を知ること、社会の規範意識を身
につける事等でありますが、何より大切なのはそれらを通して非行に訴えなくて済むアイ
デンティティの確立方法を習得することなのだと思います。
以上、抽象的になりましたが感想です。施設等で教育、矯正をしてもいつかは独立しな
ければなりません。そこに果たす就労の役割の大きさを知ることができました。
以上
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