第33回 「居場所のなさ」を漫画に見る 相談室の日常 今まで3つの高校で相談室を担当し、昼休みや放課後などに生徒たちの話を聴いてき ました。部屋の名前は、カウンセリングルーム、教育相談室、相談室とそれぞれでした が、悩み苦しむ生徒との時間を、回復の時間を共に過ごしてきました。 その時間の中で私自身が学ばされたこともたくさんありました。その中には、私が知 らなかった漫画やドラマ、ミュージシャンの情報もいろいろありました。 『東京喰種 トーキョーグール』という漫画から 最近、生徒に教えてもらった漫画が『東京喰種 トーキョーグール』(集英社、201 2年2月~)です。来夏の実写映画化も決まっている漫画です。 主人公は、金木研という温厚な性格の男子学生です。ある日、平凡な大学生の金木に 事件が起こります。その結果、金木は、人間と別の種族との狭間で揺れ動き、自分の居 場所を探しながら暮らしていくことになってしまいます。別の種族が残虐なため、この 漫画を読むと、それへの抵抗を大人だと感じてしまうと思いますし、見るに値しないの ではないかと思ってしまうかもしれません。でも、読んでいる若者(生徒)たちは残虐 さを楽しんでいるわけではないのです。 「自分の居場所はあるのか?」 私にこの漫画を勧めてくれた生徒たちも、実は金木と同じように「居場所」のなさを 感じ、悩んでいる若者です。家庭のこと、クラスでのこと・・・いろいろな場で「自分 の居場所ではない」と感じ苦しんでいる若者が、現代日本にはたくさんいるのではない でしょうか。そんな若者たちが、この漫画を愛読しているのではないでしょうか。 語り合うものを持つ 私がこの漫画を買って読み始めると、勧めてくれた生徒たちは嬉しそうな反応を見せ てくれました。自分の関心があることに関心を持ち、語り合うものを持ってくれた。そ んな感情を持ったのではないでしょうか。 そして、語り合うものを持った者同士の語り合いは、若 者(生徒)同士の中でも広がっていきます。 「居場所のなさ」を語り合いながら、「居場所」を作っ ていく。そんな情景が生まれてくるのです。不思議なこと ですが、そういうことが実は若者同士の関係世界の中には たくさんあるのではないでしょうか。 生きづらさと「居場所」 若者支援の世界で「居場所」論が盛んに論じられた時期 がありました。しかし、その後は社会的要請もあり、若者 支援が就労中心にシフトしていき、「居場所」について感 じ考えることが少なくなっていたのではないか。そんなこ とを生徒たちから教えられた気がします。 -1-
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