360年記念 九谷焼フェスタ 1 360 年の伝統を誇る 九谷焼の巨匠 福島武山先生訪問記 レポーター 山田 貴子 平成 27 年 5 月 4 日、広島から片道600㎞のドライブをして、北陸新幹線開 通と“九谷焼茶碗まつり”で多くの観光客で賑わう能美市を訪れ、念願であった 九谷焼の巨匠福島武山先生の工房を訪問した。 福島武山先生は、広島そごう・岡山天満屋・大阪近鉄・横浜高島屋・東京三越 他、全国の大型百貨店で幾度も個展発表会をされている、国内外で最も知名度の 高い陶芸家であり、私がずっと憧れていた九谷焼の巨匠である。 独特の赤絵について認識はしていたが、髪の毛ほどの超極細のラインで描かれた 幾何学的文様や花鳥風月の繊細な美しい作品が、とても人間業と思えず、根気の 領域をはるかに超え、神がかりとも思える緻密な制作をする『巨匠福島武山』に、 どうしても直接お会いしたかったのである。 通常では無理だろうが、武山先生と交流のある岩田商店の会長に頼み込めば何と かなるのではと、10 時間ひたすら能美市をめざして車を走らせた。 幾つもの幸運が重なりやっとお会いした武山先生は、とても穏やかな優しい目 をした紳士だった。 広い和室に案内されると、そこには香炉や大皿、花瓶、大鉢等、素晴らしい作品 が20~30点展示してあった。 「ちょうど次の展示会準備の為にこれだけの作品が今はあるが、いつもは殆ど手 元にないんですよ」との事。 古典的な図柄もあれば、モダンなデザインの作品もあり、「ゆっくり見てくださ い」のお言葉に甘え、時を忘れて赤絵細描の世界に入り込んでしまった。 場所を移し案内された先生の工房には、制作途中の花瓶が置かれていた。 その白磁の花瓶には下絵も割付の線もなく、机上にはルーペも顕微鏡もなかった。 ずっと不思議だった極細のラインについて質問すると、先生は私にルーペを手渡 し「見てなさい」と言って、白い紙に私の名前を書いて下さった。 先生はメガネをかけるでもなく、普通に筆をとられたが、驚くことにその字は、 私がルーペで見てやっと読める程小さいものであった。 赤絵の伝統技法を追求し、技をみがき続けて『巨匠 福島武山』がここにいる。 ずっと天才だと思っていた。でも先生が筆を持ち集中する姿を見ていて、私の頭 でもう一つ、禅寺の修行僧が重なった。 mmレベルの幾何学文様を、震えも迷いもない極細の線で延々と描き続ける。 心を無にし筆先に集中するうち、無我の境地に到達されたのではあるまいかと。 だから周りに優しく穏やかに生きておられるのではないか、と想像したのである。 遠方から来た私を気遣い、筆は試作を繰り返した広島の熊野筆を使っている事 2 や先生の展示会の話、作品制作の事などパンフレットなども交え色々話して下さ り、楽しくて時がたつのを忘れてしまった。 エルメスから時計の文字盤の依頼が来たという話は初耳だったので、聞き入っ てしまった。 エルメス依頼の「風紋の女」と先生提案の「駒競べ」の2点制作。 実際の赤絵細描のデザイン画と新聞記事の切り抜きも見せて頂いたが、目前にし ていても、これが人の手で描かれたものとは、とうてい信じ難いほど素晴らしい 出来栄えだった。 腕時計は、スイスの時計見本市で公開され、720万円で販売されたそうだ。 それほど国内外に伝統工芸の巨匠と認められている方なのに、御自身は至って謙 虚。 10 人ほどの門下生の名前を挙げられ、「すでに海外で活躍している子もいるし、 これから絶対有名になっていく子達だから、是非注目していてくださいね」と宣 伝された。 「デパートの展示会で、僕の作品は売れないけど、この子達のは完売したんだよ」 とも。 その日、先生の傍でずっとお世話して下さった林美佳里さんは、20 代のとて も可愛い素敵な女性。御身内かと思ったらお弟子さんだった。 こんなに若い方なのに陶芸家?と半信半疑で、「ここに作品がありますか?」と 聞くと、デパートで皆売れてしまって手元にないとの事。 すると先生が、スマホに保存したのを見てもらいなさいと言って下さり、ワイン グラスの作品を見せてくれた。(う~ん、素敵) 広島に帰って調べると、林さんは若くても九谷焼工芸展で技術賞をとった新進気 鋭の陶芸家だった。 先生の作品は高価すぎてとても私には手が出ないけど、機会があれば是非林さん の作品を手に入れたいと思う。 つい調子に乗って「先生の門下生は皆美人だけど、美人でないとお弟子さんにさ れないのですか」とからかうと、「そんなことはないのだけれど…」と真面目に 困っておられる先生が、とても可愛かった。(先生ごめんなさい) そんな先生だから、女性のファンが多いし、門下生が多いのだろうと納得。 今後は、福島武山先生だけでなく、林さんの作品にも注目していきたい。 強行軍であったけれど今回の北陸石川への旅は、私にとって楽しく有意義な記憶 に残る出張となった。 (記述 山田貴子) 3 九谷焼の美をリードする現代の名工 福島武山 1944 年生れ。63 年石川県立工業高校デザイン科卒 業。日本伝統工芸展入選。日本工芸会正会員。創造 展で東京都知事賞など受賞。伝統九谷焼工芸展大 賞。全国伝統的工芸品公募展で第一席グランプリ内 閣総理大臣賞。能美市佐野町在住。 緻密な筆遣いに驚き 「赤絵細描」の第一人者 赤絵具で髪の毛ほどしかない極細の線を連ね、花鳥風月を写実的に 描いたり、幾何学的な文様を表現する「赤絵細描」の第一人者。 その緻密な筆遣いは、これが人の手によるものかと思わずため息が出る ほど。伝統技法を追求する一方、古典柄をモダンにアレンジするなど、 新たな表現にも意欲的にチャレンジし、その仕事ぶりは多くのファンを 魅了する。 4 福島武山先生を訪ねて 平成 27 年 5 月 4 日福島武山工房 5 福島武山作 フランス有名ブランド エルメス腕時計 オリジナル 6 7 九谷焼協同組合、岩田商店岩田会長と 8 9
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