<第 19 号>平成 27 年 11 月 25 日 湘南養護学校 支援連携部 相談支援係 ―教師編ー ~拡大するこだわり行動への対応~ 自閉症のこだわり行動にこだわりぬいた「自閉症スペクトラムとこだわり行 動への対処法 白石雅一著 東京書籍 2013」という文献があります(支援ロ ッカー貸出可) 。今回は、この文献をもとに自閉症のこだわり行動の中でもこ だわり行動が拡大することに焦点を当てて考えていきたいと思います。 まず、自閉症のこだわり行動には 3 つの特徴があると指摘されます。 ①変えない:物の位置を変えない 予定の変更を受け付けない ②やめない:おんぶをしつこく要求する 水遊びをやめない ③始めない:新しいことはやりたがらない 食わず嫌い など これらは、いずれもより対応困難なこだわりへと拡大していく危険性があります。そして、支援者側 がこだわり行動に慣れて鈍感になってしまうと、本人も自分のこだわりをやめられなくなってしまうそ うです。上の文献では、次のような症例が紹介されています。 ・右手首に巻いた複数のひも ・頭上には開いた絵本 ・左小脇に雑誌数冊 ・摺り足歩き ・首にはバスタオル数枚 (自傷防止のためのヘアバンド) 「前掲書 p.211 より抜粋」 「本人のこだわりだから。」と放置してしまったり、仕方なく付き合ったりしてしまうような事態は、生 活の多くの時間を過ごす入所施設や学校で助長されやすく、意図しなくても支援者が積極的にこだわり 行動を増強するような関わりになってしまうこともあるとのことです。上記の事例はやめたいのにやめ られなくなってしまうという「②やめない」タイプのこだわりで、自分では止めるきっかけをつかめずど んどんエスカレートしてしまって放置された典型と言えます。 こだわり行動への対応 本書の対応の方針をご紹介します。ただし、こだわり行動は介入する必要があるかどうかの見極めも 必要です。生活に支障があったり今後その可能性があるかどうかが介入の目安となります。 ☆ 信頼関係: まずは、関係を築くことです。こちらの要望に応えてもらうためには、こちらが先に子どもにとって 大切な存在になることです。自分にとって大切な人の言葉を聞き入れやすいのは、自閉症のあるなしに 関わらないことかもしれません。すなわち、 “相手の行動を変えたければ、自分の行動(接し方)をまず変える” というのは、広く社会生活でも活用できる考え方です。 ☆ 交渉する: こだわり行動を巡って、子どもは色々な要求をしてきます。受け入れないとパニックに陥るなどの課 題はありますが、要求を丸飲みするとかえって後でそのツケを払わなければならないこともあります。 上手く交渉して、子どもが譲歩したり交換条件を飲めるようになったりすることは成長のあかしです。 ☆ 形を変える: こだわりは撲滅を目指しても、より不都合の大きなものになってしまうことがあります。そこで、今 あるこだわりをより不都合の少ないものに変えていくという視点が求められます。変更に関するこだわ りの場合は、目に見えないほどの小さな変化を仕組んで少しずつ慣れさせていくとよいようです。 ☆ 日常生活の中に変化を取り入れる: いつもやっている役割や遊びなど、いつもと同じようにやることが心の安定をもたらすことは分かっ ていても、頃合いを見てあえてちょっと変化を加えます。負荷の少ない変化を与え続けることによって、 変化に慣れるトレーニングができます。 ☆ 見通しを持たせる: 予定の変更や待ち時間、苦手な刺激などは、子どもに分かる形で予告してから提示します。そうする ことによって受け入れやすくなります。 ~校内の風景より~ O 君は集団行動が苦手です。活動自体になかなか興味が持てなかったり、ざわざわした環境が苦手だ ったりします。そこで、次のような手立てで接することにしました。 交渉「O さん、課題をやったら好きなプラレールを休み時間にできるよ。」 日頃からの信頼関係「いつもみたいにまた一緒に遊びたいなあ。」 見通し「タイマーで 10 分測って課題やろうね。 」 変化を追加「今日は、ちょっとこの活動もやってみてね。」 (心の声)「う~~ん、課題は嫌だけど先生と一緒にプラレールで遊びたいし、しかも 課題が追加になったよ~。でも、10 分だけだったら。」 「まあ、やるか!」 また、こだわり行動の中には、他人を巻き込んで会話や自発的な発信と見せかけたこだわり行動もあ ります(高機能自閉症・アスペルガー症候群「その子らしさを生かす子育て」 吉田友子 中央法規 p.113,145) 。この場合、 自分の思った通りに答えてくれないとパニックになってしまうからといって付き合うと、さらにこだわ り行動に巻き込まれていくことになります。悪循環に慣れてしまわないことが大切です。 Y 君は日に数回、特定の場所を探索するこだわりがあります。こだわりが情緒 の安定をもたらすものだとしても、安易に認めてしまうと今度は止めるタイミン グを逸してしまいます。そこで、交渉という手立てを使い、彼の好きな遊びを増 やす代わりに探索回数を減らしています。先生の提案に対して、Y 君が譲歩して 気持ちを切り替える力を一緒に育んでいることがよく分かる取り組みです。 『探索するこだわりがある Y 君』 自閉症の方が示すこだわり行動は、傍から見るとそれがいかに奇異だったり自分や人の生活に支障を きたすことであったりしても、接する側が慣れてしまうと「いつものことだから」と放置されてしまいがち です。常識的に見て、 「これはやっぱり何とかした方がよりよい生活につながるのではないか?」という疑問を 大切にし、今一度子どもたちのこだわり行動を見直すきっかけをもってみてください。
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