脳波位相同期解析による視知覚の研究

(VISION Vol. 19, No. 4, 193–200, 2007)
脳波位相同期解析による視知覚の研究
北城 圭一・山口 陽子
理化学研究所・脳科学総合研究センター・創発知能ダイナミクス研究チーム
〒351–0198 埼玉県和光市広沢 2–1
現象を最初に発見したのは振り子時計を発明し
1. は じ め に
たオランダの Huygens である 4).彼は二つの振
脳波は大脳皮質のニューロンで発生している
り子時計が壁を通しての相互作用により同期す
樹状突起のシナプス後電位の総和を頭皮上から
ることを発見した.振り子時計の振動の同期現
観察する計測方法である. 1920 年代に Hans
象は物理学の力学系の観点から,微弱な力の相
Berger によって脳波とその 10 Hz 前後のアル
互作用がある結合振動子の同期現象として考え
ファ波の振動現象が発見されて以来,脳波を用
ることができ,このような結合振動子系の同期
いてヒトの脳の神経活動の研究が行われてきた.
の理論はその後に京都大学の蔵本らによって統
長い間,ヒト覚醒時の脳波研究は必ずしも振動
計物理の分野で定式化され 5),生物を含むさま
現象としての性質に注目しない事象関連電位の
ざまな振動同期現象の理解に役立っている.
シータ波のような脳波の各周波数帯域でのパ
研究を中心に行われてきたが,近年,振動現象
に注目した時間周波数解析が行われている.
ワースペクトルのピークはニューロン集団が局
Berger の発見したアルファ波 (8–12 Hz)成分以
所的に相互作用して同期して振動活動をしてい
外にも,脳波の周波数解析を行うことによって
ることを意味する.このような脳波の性質とし
デルタ波 (1–3 Hz),シータ波 (4–7 Hz),ベータ
ての振動同期を最初に指摘したのは生体,機械
波 (13–24 Hz),ガンマ波 (25 Hz–)と名づけられ
での情報伝達,制御を統一的に扱う学問である
るいくつかの周波数帯域でパワースペクトルの
サイバネティックスの創始者である Nobert
ピークが観察され,さまざまな認知,知覚課題
Wiener である 6).Wiener は脳波を周波数解析
時の脳波信号を時間周波数解析することによっ
して得られたパワースペクトルがアルファ波付
て,脳波の振動成分と脳機能との関連について
近でピークをもち,溝のようにへこんだ帯域に
の研究がなされている.たとえば,シータ波に
よって挟まれていると指摘し,これは大脳皮質
関しては暗算課題,迷路課題,記憶課題などで
のニューロンは相互作用をする異なる固有振動
出現する振動成分がよく知られており,この
数をもつ振動子集団からなる結合振動子系とみ
シータ帯域での振動はこれらの課題において何
なすことができて 10 Hz で巨視的に振動同期活
らかの機能を果たしていると考えられてい
動をしているためだと主張した.
る
1,2,3)
.
このようにヒトを始めとする生物の脳は非線
ところで,二つの周期的な振動現象(振動
形振動子と考えられる莫大な数のニューロンが
子)が相互作用しあう結果,元来は異なった周
結合をした結合振動子系とみなすことができる.
波数で振動をしているのに,ある条件下で自発
結合振動子系としての性質である振動同期は,
的に振動のリズムが一致する場合がある.この
偶然の性質ではなく脳において何らかの機能的
現象は振動の同期 (synchronization),あるいは
な役割を果たしていることが予想され,振動同
引き込み (entrainment)と呼ばれる.この同期
期とその機能に関しての研究が近年盛んに行わ
– 193 –
れている.本稿では脳を結合振動子系とみなす
覚器から脳のより高次の領域への情報の流れで
立場から,脳の振動同期とその機能についての
あるボトムアップ過程と,脳の高次領域から感
研究の背景と筆者らの視覚系に関する脳波位相
覚器,低次領域への情報の流れであるトップダ
同期の研究を紹介する.
ウン過程の両者があり,入力刺激により駆動さ
れるボトムアップの過程のみでは不完全性,多
2. 振動同期仮説とその理論的背景
義性のために意味,解釈を確定できない場合で
振動同期の機能については 1980 年代にいく
も,トップダウンの過程により状況に応じた意
つか理論的な研究が行われており,主に知覚情
味,解釈が確定されると考えられる.清水と山
報処理の情報統合の観点から考えられてきた.
口のホロビジョンモデルによると,バインディ
脳の異なる知覚モダリティ,たとえば視覚,聴
ングはボトムアップとトップダウンの双方向の
覚,嗅覚,体性感覚等の知覚入力情報の一次処
情報伝達過程の相互作用,フィードバックルー
理部位は空間的に局在化して,それぞれのモダ
プによって振動同期ネットワークによって決定
リティの情報処理を行っている.また,単一の
され,状況依存的な知覚が成立すると考えられ
知覚モダリティ,たとえば,視覚だけに関して
る.また von der Malsburg らは入力情報の要素
7)
も,Hubel と Wiesel によって発見された視覚
の特徴がニューロン発火のタイミングが同期す
野の方位選択性コラムに代表されるように視覚
ることによって動的にリンキング,バインディ
情報の方位,色,形,動き,奥行き等の異なる
ングされるとの仮説の提唱を行った 9).これら
情報に反応する機能分化した複数の部位が空間
の理論研究によって提案されたように,さまざ
的に局在して情報処理をしている.我々の意識
まな空間スケールで分散した神経要素間での神
体験がうまく生じるためにはこのような複数の
経活動の同期,引き込みにより動的,機能的な
神経部位で処理された情報は機能的に統合され
振動同期ネットワークが形成されて,脳におけ
なければならない.また環境は視覚,聴覚,そ
る情報統合,バインディングが行われるという
の他の多くのモダリティの刺激に満ち溢れてお
のが振動同期仮説である.
り,適切な神経活動間の情報統合すなわちバイ
ンディング(結び付け)がうまく行われないと,
3. ニューロン発火の振動同期と視覚機能
理論的に予測された振動同期仮説であるが,
外界を適切に反映する意識体験は成立し得ない.
このバインディングがいかになされているかと
ニューロン発火の振動同期が脳の情報バイン
いうのがいわゆるバインディング問題であり,
ディングと実際に関連しているという実験結果
脳科学の難問の一つである.
は Gray と Singer10),Eckhorn ら
11)
のそれぞれ
振動同期が脳神経系において特にこの情報統
二つのグループによって 1980 年代末に初めて
合,バインディングに関連した機能を担うとす
報告された.Gray と Singer はネコの一次視覚
る振動同期仮説といわれる仮説がある.清水と
野のニューロンの発火を測定し,受容野に動く
山口らは非線形振動子結合系の視覚パターン認
棒を視覚刺激として提示するとニューロンは
識モデルホロビジョンを提唱し,このモデルが
40 Hz で振動発火することを確認した.この際,
振動同期,引き込みによって,ボトムアップと
空間的に離れた二つのニューロンの受容野に一
トップダウンの過程の相互作用を通じて,図と
本に見えるように動く棒を視覚刺激として提示
地を分離でき,視覚パターンを自己組織的に認
する実験条件でそれらの二つのニューロンの
8)
識できることを示した .通常,不完全性や多
40 Hz 振動発火は同期した.これに対して二本
義性がある入力刺激の意味を確定するためには
の独立した棒に見えるように提示する条件では
状況依存的にバインディングが行われる必要が
二つのニューロンの振動発火は同期しなかった.
ある.知覚情報処理においては大きく分けて感
この結果は,棒が一本に見えるという視覚機能
– 194 –
に関連した情報バインディングにはニューロン
の振動同期が重要な役割を果たしていることを
示唆する.これらの二つのグループの研究は
von der Malsburg や清水と山口らによる振動同
期仮説の理論研究の予測を裏付ける最初のもの
であった.
4. 脳波の振動同期と視覚機能
すでに述べたように,脳波は大脳皮質ニュー
ロン群のシナプス後電位の集合電位を頭皮上か
ら観察しているものであり,脳波にみられる
シータ波のような振動成分は大脳皮質にある
ニューロンのシナプス後電位が各周波数帯域に
おいて電極近辺で局所的に同期して振動してい
ることを示唆する.
また脳波の単一電極ではなく,より大きな空
間スケールの同期現象について,近年,脳波で
記録される空間的に離れた複数の領野の振動の
大域的な同期が,知覚,運動等の高次な脳機能
において重要な役割を果たしていることが明ら
かになりつつある.
Rodriguez と Varela らは,白黒の二値でコー
ディングされた顔の絵(ムーニーフェイス)の
知覚時の脳波信号を解析した 12).この結果,顔
を知覚するときにはヒトの脳の異なる皮質部位
上から測定した複数電極の脳波信号同士がガン
図 1 顔の知覚と脳波大域的位相同期様相 14).白と
黒の二値化した顔の絵を見ているとき(a: Perception 条件)はガンマ帯域での脳波の大域的
な位相同期(黒線)/脱同期(白線)のパター
ンが観察されるが,上下をさかさまにして顔の
知覚が起きないとき(b: No perception 条件)
にはそのようなパターンはみられない.
マ帯域でいっせいに大域的,かつ過渡的に位相
同期/脱同期を示すことを明らかにした.また,
が情報バインディングにおいて機能的な役割を
上下を逆にした意味が認識できない絵ではこの
果たし,脳波の局所的,大域的同期/脱同期パ
ような位相同期/脱同期のパターンが観察され
ターンとして観察されると考えられる.
なかった(図 3).ヒトの顔という高次の意味を
また,我々は両眼視野闘争時の脳波振動同期
ともなう絵の知覚には,機能分化し,空間的に
の研究を行った 13).両眼視野闘争とは左右の目
離れたさまざまな神経部位間の情報バインディ
に異なる画像をみせた場合,両眼からの視覚入
ングが必要となることが推測される.ガンマ帯
力の間に競合がおきてどちらか一つの画像が見
域での領野間の活動の同期/脱同期が観察され
えて,数秒おきにその見えが自発的に交替する
たことはこれらの周波数における振動同期ネッ
現象である.具体的には赤と黒の水平縞模様を
トワークがバインディングにおいて重要な役割
左目に,青と黒の垂直縞模様を右目にステレオ
を果たしていることを示唆する.解剖学的には
スコープを使って被験者に提示した.物理的に
脳のネットワークは一定な構造をもつが,時々
はまったく定常な視覚刺激であるのにもかかわ
刻々と動的な神経活動パターンとして表現され
らず,自発的に数秒おきに見えが赤縞と青縞間
る振動同期ネットワークが生成,崩壊し,これ
を交替する.知覚交替に際して,古い見えが崩
– 195 –
図 2 両眼視野闘争の知覚交替時の(a)ガンマ帯域 (45 Hz)と(b)シータ帯域 (7Hz)での同期(黒線),脱同期(白
線)パターン 13).0 ms は知覚交替をレポートするボタン押し,(a)過渡的なガンマ帯域での同期,脱同期
パターン,(b)より持続的なシータ帯域での大域的な同期パターンが見られた.
壊し,新たな見えが成立するが,その前後に脳
波の大域的な位相同期度がどのように変化する
かを調べた.知覚交替の前後の脳波信号を切り
出し,特定周波数 f でフィルターをかけて,ヒ
ルベルト変換を用いた解析信号化により位相を
求めて,脳波の異なる電極間の位相同期度
(PLV: Phase Locking Value)を評価した.その結
果,シータ波(7 Hz)帯域での大域的な位相同期
度が知覚交替前後に比較的持続的に上昇した
(図 2).また,知覚交替と関連して過渡的にガ
ンマ帯域での同期度も上昇した.両眼視野闘争
において視覚情報は多義的である.ホロビジョ
ンが予測するように多義的な視覚情報を統合し
て,知覚の意味を確定するためにトップダウン
図 3 注意課題 (a)とガンマ帯域 (39 Hz)での有意な同
期(黒線)(b)16).0 ms はキューの出現時刻,
過渡的なガンマ帯域での同期が 300 ms で観察
されて,キューの方向に応じた半球特異性を示
した.
のプロセスとボトムアップのプロセスのループ
が循環的に働いていることが推測される.我々
の結果は,知覚交替の前後にみられるシータ波
トワークが形成され視覚的注意のスイッチング
やガンマ波の大域的な振動同期ネットワークが
が実現されていると考えられる.
また Mizuhara, Wang, Kobayashi, Yanaguchi ら
それぞれトップダウンとボトムアップのプロセ
は脳波とより空間分解能を高い fMRI(機能的核
スと深く関連していることを示唆する.
さらに最近,我々は,注意課題でのガンマ振
磁気共鳴画像)の同時測定によって,暗算課題
動同期ネットワークについての研究を行った 14).
時の振動同期ネットワークを抽出することに成
キューが示した左または右にターゲットが出現
功し,振動同期仮説を支持する結果を得てい
する.キューを示した直後に注意すべき視野に
る 15,16).
対応した半球側に過渡的な大域的ガンマ振動同
これらの脳波の大域的位相同期の実験研究
期ネットワークが観察された(図 3).この結果
は,異なる領野のニューロン集団の振動同期が
は注意に関連した半球特異的な機能的なネット
情報バインディング等の脳機能において重要な
ワーク形成が過渡的にガンマ帯域での振動同期
役割を果たしていることを示唆する.
現象として観察されることを示している.
キューという「状況」に依存的に振動同期ネッ
– 196 –
図 4 確率共振の概念図.(a)入出力の関係が非線形で閾値型のシステム.(b)閾値下信号をシステムに入れたと
きにノイズなし(A)だと出力はないが,適度なノイズ(C)を加えると入出力のパターンが類似してくる.ノ
イズが多すぎても(D)少なすぎても(B)入出力パターンは類似せず,最適なノイズレベルが存在する.(c)適
度なノイズ強度でシステムの S/N 比は最高になる.
する知覚−行為系のグレーディング応答が,対
5. 視覚確率共振と脳の振動同期
眼に選択入力した視覚ノイズによって改善され
力学系の観点から振動現象と深く関わる現象
るかどうかを検討した.この実験デザインでは
の一つに確率共振 (Stochastic resonance)があ
右眼と左眼からの神経情報は大脳皮質視覚野で
る.確率共振とはニューロンのように閾値があ
はじめて相互作用するため,パフォーマンスが
る非線形なシステムに微弱な周期信号が入力さ
上昇すると網膜等の末梢ではなく,大脳皮質内
れている状況で,適度なノイズの入力が入力信
での確率共振の証拠となる.具体的にはコン
号と出力信号の相関を高める現象である 17).中
ピュータモニタ上に空間的には一様で,時間的
程度のノイズが加わった場合に非線形システム
にガウシアンホワイトノイズ様に変化するグレ
の出力は入力パターンと似たものとなり,通常
イレベル画像をノイズとして左眼に呈示し,右
は情報処理において邪魔者であると考えられる
眼には 3 秒,4 秒または 5 秒周期の正弦波とラン
ノイズがある条件下では微弱な周期信号の検出
ダムなインターバルからなるグレイレベルの変
能力を向上する(図 4).また結合振動子系のよ
化(信号)画像を呈示し,見えの輝度に合わせ
うなネットワークレベルでは振動子の大域的な
て握力を発揮させるというグレーディング課題
18,19)
.
を行った(図 5).信号検出パフォーマンスとし
Kitajo らは微弱視覚信号に応答する視覚課題
て入出力信号の同期度を評価するために,発揮
を用いて,確率共振がヒトの脳内でおきるかに
された握力とグレイレベル信号との相互相関係
同期度が適度なノイズレベルで向上する
20,21,22)
.確率共振がヒ
数,および解析信号化した両信号の位相成分か
トの脳でおきて視覚機能を向上させることを実
ら瞬時位相差分散値を評価した.19 名被験者
証するためには,ノイズと信号がそれぞれ独立
の各個人でノイズの標準偏差 (SD)を信号振幅
に別経路から入力され脳で初めてその情報が統
で 除 し て 規 格 化 し weak (0.5), intermediate
合されるダブル・レセプター・デザインの実験
(2.0),および intense (2.0) の三段階に分割
系が必要である.そこで,ステレオスコープを
してグループデータとして合わせて解析した結
用いて片眼に選択入力した視覚刺激の輝度に対
果,中程度ノイズ (intermediate)で相互相関係
ついて実験検証を行った
– 197 –
図 5 実験方法 20).コンピュータモニタの左右に表示
される画面を,ステレオスコープによって左右
独立に入力する.1. 左眼にノイズ,右眼に信号
を入力.2. 右眼にノイズと信号の両方を入力
し,被験者は握力で見えの輝度変化をグレー
ディングする.
数の上昇,位相差分散値の減少,およびそれぞ
れの t 値の有意な上昇が観察され,中程度ノイ
図 6 (a)ノイズ強度ごとの相互相関係数,(b)位相差
分散 20).いずれも 19 名の平均と標準誤差.信
号の対眼からノイズを入力するダブル・レセプ
ター・デザイン (contralateral noise)と信号,ノ
イズとも同眼から入力するシングル・レセプ
ター・デザイン (ipsilateral noise)のいずれでも
中程度ノイズでノイズなしに比べて,信号検出
パフォーマンスの有意な上昇 (p0.05)が観察
された.
ズで信号検出パフォーマンスが上昇しているこ
とが示された(図 6).これはダブル・レセプ
ター・デザインを用いたヒト大脳皮質内での確
率共振の初めての証拠である.これに対して右
目から信号とノイズを入力するシングル・レセ
プター条件でも同様の結果が得られた.
さらに上記とほぼ同様の課題,ただし,矩形
の向上と類似するパターンを示した.
波状に時間的に変化する信号を用いて同様の実
適度な強度のノイズ印加によって関連する脳
験を行い,脳波を同時に計測して脳波電極間の
内部位間の位相同期度が高まり,領野間の情報
位相同期度とノイズ強度との関係について解析
バインディングが促進され,知覚,行為のレベ
し,脳内で確率共振がおきる神経メカニズムの
ルで確率共振が生じると考えられる.この結果
22)
.グループ解析の結果,確率共
は脳という非線形結合振動子系に対してノイズ
振によってグレイスケール信号の検出パフォー
を印加することで神経活動の位相同期度が上昇
マンスに向上がみられた最適ノイズ強度条件で,
し信号検出パフォーマンスが向上することを実
ノイズなし条件に比べて,視覚刺激提示後にガ
験的に捉えたもので,脳の振動同期研究,確率
ンマ帯域 (30 Hz)で過渡的な大域的位相同期の
共振研究に重要な知見を与えるものである.ま
上昇が観察され,アルファ帯域 (12 Hz),シー
た,身体,脳の内部にも背景活動等のノイズは
タ帯域 (4 Hz)ではより持続的な大域的位相同期
存在するため,これらの内部ノイズ自体にも振
の上昇がみられた.各周波数帯域での同期度は
動同期ネットワークを制御する機能的な役割が
視覚信号検出パフォーマンスの変化と同様に中
あることが示唆される.
検証を行った
程度ノイズで最高となり,検出パフォーマンス
– 198 –
(eds): Mathematical problems in theoretical
6. お わ り に
physics, Springer, Berin, 1975.
6) N. Wiener: Nonlinear problems in random
本稿では脳の振動同期仮説に関して理論と実
theory (MIT Press, Cambridge MA), 1958.
験面から概説した.結合振動子系とみなせる脳
7) D. H. Hubel and T. N. Wiesel: Functional
において単一ニューロン間から領野間にいたる
architecture of macaque monkey visual cortex.
までさまざまな空間スケールの要素間の階層的
Proceedings of the Royal Society of London,
な神経活動の振動の同期現象が観察される.神
198, 1–59,1977.
経活動の振動同期は,不完全,多義的な意味を
8) 清水 博,山口陽子:大脳の情報原理とその
もつ環境下で柔軟に状況依存的に知覚状態を確
バイオコンピューターへの応用―ホロニック
定し,合目的的な反応をするための情報統合,
モデルの目指すところ―. 生体の科学 ,37,
バインディング過程において重要であると考え
26–40, 1986.
9) C. von der Malsburg: The correlation theory of
られ,このような動的な振動同期ネットワーク
は脳機能において本質的な役割を果たしている
brain
と推測される.
Biophysical Chemistry, 81–2, 1–26, 1981.
また,バインディングという広い概念を超え
Technical
Report,
MPI
10) C. M. Gray, P. König, A. K. Engel and W.
Singer: Oscillatory responses in cat visual
て,より具体的に振動同期の機能を考えるため
cortex exhibit inter-columnar synchronization
には,振動同期のダイナミクス,そのメカニズ
which reflects global stimulus properties.
ムを理解する必要があるであろう.単に課題特
異的な振動同期ネットワークの生成と崩壊を観
function.
Nature, 338, 334–337,1989.
11) R. Eckhorn, R. Bauer, W. Jordan, M. Brosch, W.
察して周波数別の機能を記述,推定するのみで
Kruse, M. Munk and H. J. Reitboeck: Coherent
はなく,認知神経科学,計算論,力学系等のさ
oscillations: a mechanism of feature linking in
まざまな観点からアプローチをして総合的な理
the visual cortex? Multiple electrode and
解をすることが重要である.
correlation analyses in the cat. Biological
文 献
12) E. Rodriguez, N. George, J. P. Lachaux, J.
Cybernetics, 60, 121–130, 1988.
1) 石原 務:バイオフィードバック法による脳
Martinerie, B. Renault and F. J. Varela:
波感覚の検討 臨床脳波,23, 191–197, 1981.
2) M. J. Kahana, R. Sekuler, J. B. Caplan, M.
Perception’s
shadow:
synchronization
of
human
long-distance
brain
activity.
Nature, 397, 430–433, 1999.
Kirschen and J. R. Madsen: Human theta
oscillations exhibit task dependence during
13) S. M. Doesburg, K. Kitajo, and L. M. Ward:
virtual maze navigation. Nature, 399, 781–
Increased gamma-band synchrony precedes
784, 1999.
switching of conscious perceptual objects in
3) N.
Sato
and
synchronization
human
Y.
Yamaguchi:
networks
object-place
emerge
memory
binocular rivalry. NeuroReport, 16: 1139–
Theta
1142, 2005.
during
encoding.
14) S. M. Doesburg. A.B. Roggeveen, K. Kitajo, and
L. M. Ward: Large-scale gamma-band phase
NeuroReport, 18, 419–424, 2007.
synchronization
4) A. Pikovsky, M. Rosenblum and J Kurths:
Synchronization:
nonlinear
A
sciences.
universal
Cambridge
concept
selective
attention.
Cerebral Cortex, in press.
in
University
and
15) H. Mizuhara, L. Q. Wang, K. Kobayashi and Y.
Yamaguchi: A long-range cortical network
Press, Cambridge, pp. 1–7, 2003.
5) Y. Kuramoto: Self-entrainment of a population
of coupled nonlinear oscillators. H. Araki
– 199 –
emerging with theta oscillation in a mental
task. NeuroReport, 15, 1233–1238, 2004.
16) H. Mizuhara, L. Q. Wang, K. Kobayashi and
Yamaguchi
Y:
Long-range
EEG
a
coherent
20) K. Kitajo, D. Nozaki, L. M. Ward and Y.
network
Yamamoto: Behavioral stochastic resonance
FMRI.
within the human brain. Physical Review
Stochastic
21) K. Kitajo, K. Yamanaka, L. M. Ward and Y.
resonance and the benefits of noise: from ice
Yamamoto: Stochastic resonance in attention
ages to crayfish and SQUIDs. Nature, 373,
control. Europhysics Letters, 76, 1029–1035,
simultaneously
cortical
Review Letters, 83, 4896, 1999.
phase
synchronization during an arithmetic task
indexes
synchronization in excitable media. Physical
measured
by
NeuroImage, 27, 553–563, 2005.
17) K.
Wiesenfeld
and
F.
Moss:
Letters, 90, 218103–1–4, 2003.
33–36, 1995
2006.
18) P. Jung and G. Mayer-Kress: Spatiotemporal
stochastic
resonance
in
excitable
21) K. Kitajo, S. M. Doesburg, K. Yamanaka, D.
media
Nozaki, L. M. Ward and Y. Yamamoto: Noise-
Physical Review Letters, 74, 2130–2133,
induced large-scale phase synchronization of
1995.
human
19) A. Neiman, L. Schimansky-Geier, A. CornellBell and F. Moss: Noise-enhanced phase
– 200 –
brain
behavioural
activity
associated
stochastic
Europhysics Letters, in press.
with
resonance.