No.153 東南アジアのムスリム観光客の 福岡誘致に向けて バンコク事務所 東 幸治 経 済 成 長による中間 層の増 大、訪日短 期 滞 在ビザの免除 等により、今 後 増 加が予 想される東 南アジ アからの訪日ムスリム観 光 客。福岡県を快 適に旅 行してもらうためには、食 事や礼 拝などの宗 教 上の習 慣に配 慮するなど、受け入れのための環 境を早 急に整える必 要がある。 界 最 大のムスリム人 口を有するインドネシアのほ １ 東南アジアのイスラム市場 か、イスラム教を国 教とするマレーシアにも多く 世 界のイスラム教 徒の人 口は、現 在 1 6 億 人を のムスリムがいる（表２） 。近 年、東 南アジア諸 国 超えると推 定されており、世 界の４人に１人はム の経 済 成 長は著しく、中 間 層が増 加していること スリム１と言われている（表１） 。イスラム教と言え から、イスラム市 場に世 界 中から大きな注 目が集 ば中 東のイメージが強いが、地 域 別の分 布をみる まっている。特に、今 後 着 実な増 加が予 想される とアジア・大 洋 州が最 多で、ムスリムの 6 2.1 ％を 訪 日ムスリム観 光 客については、政 府や自 治 体が 占める 1 0 億 5 5 1 万 人が存 在する。東 南アジアだ 誘 致のための環 境 整 備に取り組み始めている。 けでも 2 億 3,3 9 1 万 人ものムスリムが存 在し、世 表１ 世界のムスリム人口 ムスリム人口 （千人） アジア・大洋州 表２ 東南アジア各国のムスリム人口及び経済成長率 人口比 ムスリム人口 （％） （千人） 1,005,507 62.1 インドネシア 中東・北アフリカ 321,869 19.9 サブサハラ・アフリカ 242,544 15.0 44,138 欧州 アメリカ大陸 計 人口比 （％） G D P 成長率 （％） 204,847 88.1 6.23 マレーシア 17,139 61.4 5.64 フィリピン 4,737 5.1 6.81 2.7 タイ 3,952 5.8 6.43 5,256 0.3 ミャンマー 1,900 3.8 6.30 1,619,314 100.0 シンガポール 721 14.9 1.32 カンボジア 240 1.6 7.26 ブルネイ 211 51.9 0.95 ベトナム 160 0.2 5.25 1 0.1％以下 7.93 出典：ピュー･ リサーチ ･ センター（2010 年） ラオス 計 233,908 － － 出典： （ムスリム人口､人口比） ピュー・リサーチ・センター（2010年） （GDP成長率） 国連貿易開発会議（UNCT AD） （2012年） 14 BUSINESS SUPPORT FUKUOKA 2015.２ れている。 ２ 訪日観光客へのビザ免除措置 ・九 州では別 府の人 気が高い。マレー系のムスリ 日 本 政 府は、観 光 立 国の推 進 体 制を強 化する ムは温 泉には入らないが、湯 煙の風 景が好まれ ため、2 0 0 8 年に観 光 庁を設 立した。2 0 1 3 年に ている。 は長 年の悲 願であった訪 日 観 光 客 1,0 0 0 万 人を 達 成し、今 後は 2 0 2 0 年の東 京オリンピックに向 ・食 事、写 真、買い物は重 要な要 素。特に買い物 に対する関 心は非 常に高い。 ・歴史にはあまり興味がなく、博物館に連れて行っ けて 2,0 0 0 万 人を目 指すこととしている。 その取 組みの中で訪 日ビザの要 件が緩 和され、 2 0 1 3 年７月にはタイ、マレーシアの訪 日 短 期 滞 在ビザが免 除された。ビザ免 除の影 響は非 常に大 き く、免 除 前 後１年 間 の 訪 日 観 光 客 数 を 比 較 す ると、タイ、マレーシアで大きな伸び率を示して いる一 方、インドネシアの伸び率は小さいままで ある（表３） 。しかし、2 0 1 4 年 1 2 月には新たにイ ンドネシアでも訪 日 短 期 滞 在ビザが免 除されたた ても魅 力を感じない。 ・個 人 旅 行 者 も 増 え て お り、J R の J a p a n R a i l P a s s もよく売れている。 ・L C C の影 響で、中 華 系に加えてマレー系の訪 日 旅 行 者も増えている。 ［インドネシア ] ・桜、都 市 観 光、伝 統 文 化、テーマ パーク、雪 が 訪 日 旅 行の５大 動 機。 め、今 後はタイ、マレーシアと同 様に、訪 日 観 光 ・東 京、富 士 山、京 都、大 阪などを巡るゴールデ 客が大幅に増加することが予想される。それでは、 ンルートが人 気。九 州は直 行 便がないのがネッ ムスリムが多いマレーシアおよびインドネシアの訪 ク。 日 旅 行の傾 向はどのようになっているのであろう か。現 地 旅 行 会 社へのヒアリング結 果を以 下にま ・訪日旅行者は中華系とそれ以外で６：４の割合。 家 族５～６人で行くケースが多い。 ・団 体 旅 行がほとんどだが、今 後はホテルと空 港 とめた。 送 迎 付のパッケージツアーなどの人 気が出てく ると思う。 ［マレーシア ] ・人気の渡航先は、東京、大阪、北海道、名古屋。 ・旅 行 の ピーク は、３～４月 の 桜 シーズ ン、６～ 特に大 阪、名 古 屋は格 安 航 空（ L C C ）の「エア ７月のスクールホリデー、レバラン休 暇２（毎 年 アジアＸ」の影 響が大きい。 変 動） 、1 2 ～１月のスクールホリデーの４回。 ・桜、雪、紅 葉など、季 節に関 連するものが好ま ・訪 日 旅 行に関する情 報 量はまだ少ない。旅 行 会 表３ 訪日外客数の推移 2012 年７月～ 2013 年６月 人数（人） 前年同期比（％） 2013 年７月～ 2014 年６月 人数（人） 前年同期比（％） タイ 330,261 52.6 582,416 76.4 マレーシア 140,330 28.5 221,242 57.7 インドネシア 123,237 52.0 146,897 19.2 出典：日本政府観光局（J N T O） お問い合わせ 情報取引推進課 TEL：092-622-6680 BUSINESS SUPPORT FUKUOKA 2015.２ 15 社を通して情 報を入 手する人は少なく、ウェブ 料 理）でも大 丈 夫で、特にシーフードの天ぷらや やブログなどが主な情 報 源。 焼き魚が好まれるとのこと。 インドネシアの場 合も、ハラル食 品でなくても タイの場 合は、ゴールデンルートや北 海 道を訪 ポークフリーなら大 丈 夫なケースが多いそうであ ずれたことのある旅 行 者が次に九 州を旅 行すると る。ただ、いずれの国の方も刺 身はまだ食べ慣れ いう波が今まさに来ているところであるが、マレー ていないため、あまり好まれないそうである。 シアの場 合は、ゴールデンルートの次に北 海 道に 礼 拝に関しては、旅 先では１日５回のお祈りの 行く旅 行 者が増えている段 階で、九 州への波はタ 簡 素 化が許されるそうであるが、礼 拝 所 自 体が少 イの一 周 遅れになると思われる。また、訪 日 短 期 ないことが旅 行しにくい要 因となっているため、 滞 在ビザが免 除されて間もなく、所 得 水 準が両 国 その環 境を整えることは必 要であろう。インドネ に比べてまだ低いインドネシアには、訪日旅行ブー シアから福 岡に修 学 旅 行 生を派 遣している元 九 州 ムはまだ来ておらず、東 京・大 阪 以 外に日 本の都 大学留学生によると、生徒の親からの要請もあり、 市を知らない旅 行 者も多いとのこと。九 州を訪れ 金 曜 日にはモスクでの礼 拝を予めスケジュールに るインドネシア人が増えるのは、タイの二周遅れ、 入れるよう配 慮を行っているそうである。 マレーシアの一周遅れになると思われる。しかし、 宿 泊 施 設については、キブラ（メッカの方 向を ここ数 年のうちに九 州を訪 問するムスリム観 光 客 示す矢 印） 、祈 祷 用マット、コーランの設 置を求め が増 加することは確 実と予 想されるため、受け入 る声が多い。また、九 州には温 泉 宿も多いが、人 れのための環 境 整 備は今すぐにでも始めなければ 前で裸になることが禁じられているムスリムの場 間に合わない課 題と言える。 合は、貸 切 風 呂でないと入 浴が難しいかもしれな い。女 性の場 合はさらに厳しく、身 内 以 外との入 ３ ムスリム観光客誘致に向けた環境整備 浴は貸 切 風 呂でも許されないとのことである。 また、マレーシアのムスリム対 応ホテルでは、 ムスリム観 光 客が海 外 旅 行において最も懸 念す イスラムのコンプライアンスに従って、プールでは ることは、イスラムの信 仰を守りながら旅 行でき 女 性 専 用の時 間を設け、チェックアウト後はイス るかということである。特に「食 事」と「礼 拝」に ラム式の清 掃を行っている。レストランではアル は配 慮が必 要になる。 コールの提供は行っておらず、ハラル食材のチェッ 食 事に関しては、ハラル料 理を提 供できること クに加え、仕 入 先の確 認も行っている。一 方で、 が最も望ましいが、どこまでなら許 容できるかは ホテル外から豚 肉 製 品やアルコールを持ち込むこ 個 人 差が大きい。マレーシアとインドネシアを比 とは認めており、ノンムスリムの宿 泊 客も歓 迎し 較した場 合、一 般 的にインドネシアの方が寛 容と ている。このような柔 軟な対 応は、ムスリム観 光 されている。マレーシアの旅 行 会 社によると、ム 客の受け入れに際して参 考になると思われる。 スリムだけのグループの場 合は必ずハラル食 品で なければならないが、中 華 系と混 合のツアーの場 合は比 較 的リベラルなムスリムが多いため、ポー クフリー（豚 肉および豚 肉 由 来のものを使わない 16 BUSINESS SUPPORT FUKUOKA 2015.２ ４ 本県へのムスリム観光客誘致に向けて 最 後に、本 県へのムスリム観 光 客の誘 致に向け て、私 見ではあるが何 点か指 摘したい。 て日 本 人が予 約できないほどに需 要が増えている まず、レストランについては、ハラル認 証を取 ため、今 後、福 岡 直 行 便の再 就 航を期 待したい。 得することがもちろん望ましいが、他の訪 日 旅 行 マレーシアのハラル産 業 開 発 公 社（ H D C ）で 者とのバランスを勘 案すると、ムスリム観 光 客の は、現 在 地 近くのハラルレストランを検 索できる ためだけにコストと手 間をかけるのではなく、当 スマートフォン用のアプリを開 発している。本 県 面はムスリムフレンドリー３な環 境を整えることを でもムスリムフレンドリーなレストランを検 索で 目 指すのが現 実 的な選 択 肢であると思う。そのよ きるようになれば、食 事への配 慮が大 切なムスリ うな環 境 整 備を通じて、ムスリム観 光 客が増え、 ム観 光 客にとっての利 便 性が格 段に向 上すると思 県 内でもハラルが身 近なものとなり、自 然 発 生 的 われる。 にハラル認 証 取 得を目 指す企 業が増えることが、 現 在、ハラル食 品やムスリム観 光 客の誘 致に注 さらにムスリム観 光 客の誘 致につながるという好 目が集まっており、一 種のブームのようになって 循 環に結びつくことを長 期 的には期 待したい。 いる。これを一 過 性のものとして終わらせず、国 宿 泊 施 設については、キブラ、祈 祷 用マット、 籍や宗 教の違いを受け入れ、その背 景にある文 化 コーランの設 置などは、それほどコストをかけず を理 解した上で、ムスリムを始め外 国 人が旅 行し に準備ができるため、ムスリム観光客の増加を狙っ やすい環 境を整 備することが、アジアとともに発 て設 置するムスリムフレンドリーな施 設が増える 展する本県が目指すべき方向性ではないだろうか。 ことが望まれる。 また、マレーシア、インドネシアでは、福 岡と の間に直 行 便がないため不 便だという声をよく耳 １ イスラム教 徒を指す。 にした。マレーシアの旅 行 会 社からは、 「九 州は各 ２ ラマダン（断 食 月）が明けたことを祝う休 日 県の街の景 色が違って面 白いため、人 気が出る旅 ３ ハ ラル認 証は取 得してはいないが、ムスリム向けに配 慮した 行 先だと思うが、直 行 便がないのがネックである」 製 品やサービス という意見があった。過去に直行便があった頃は、 マレーシアからの修 学 旅 行のアレンジを行ってい たが、現 在は実 施していないそうである。採 算 性 の問題で直行便は廃止になったのかもしれないが、 他の日 本 路 線は現 在、マレーシア人の予 約が増え 海外事務所設置状況についてのお知らせ 本県では、中国（上海・香港） 、米国（サンフランシスコ） 、タイ（バンコク） に県独自の海外事務所を設置していま す。また、欧州および韓国においては、現地在住のコンサルタント等に業務を委託しています。各海外事務所およ び現地コンサルタント等は県内中小企業の皆さんの国際業務の支援をいたします。活用につきましては、お気軽に ご相談・ご利用ください。 連絡先 お問い合わせ 福岡県商工部商工政策課（担当：山田・前田） T E L（092）643-3434 F A X（092）643-3417 公益財団法人 福岡県中小企業振興センター（担当：前田） T E L（092）622-6680 F A X（092）624-3300 情報取引推進課 TEL：092-622-6680 BUSINESS SUPPORT FUKUOKA 2015.２ 17
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