先端物流IT[ZoomUp]27 建機の部品管理無線端末を更新、 シンプルシステムの快速運用に成果 コマツ・粟津工場 グローバル生産体制と 経営戦略 ◆円高でも輸出 建設機械・重機械メーカーとして 世界にその名を知られるコマツは, いち早く進めたグローバル化と健全 も,国内生産・海外輸出を堂々継続 て,現場から不満の声が上がってい 経営で,今や日本の誇る勝ち組企業 し利益をはじき出す強靱な体制を保 たんです」と同社情報戦略本部ソ となっている(図表-1) 。南北アメリ 持していたことは,製造業経営者達 リューショングループの津田朗氏は カ,ヨーロッパ,ユーラシア,中近東, にも畏敬の念を持って迎えられた。 話す。 アフリカ,東南アジア,オセアニア, これも「グローバル経営」が完全に 「導入から6年ほど経ってかなり 中国にグループ企業を展開,巨人・ 根付いていた成果に違いない。 老朽化していたこともあってとにか キャタピラー社に続く世界第2位の 同社の建機の国内製造拠点は, くレスポンスが悪く,2秒以上待つ 実力と企業経営への評価は極めて 石川県の粟津工場を初め,大阪, こともあるというのです。原因を調 高い。 茨城,栃木,金沢などにある。パワー べたのですが,突き止められずにい 同社が最近までの超円高時代に ショベル,ブルドーザー,ホイルロー ました」 ダーなど生産機種は重なるが,大型・ 旧無線ハンディ端末システムの導 中型・小型で区分けしており,国内 入当時,粟津工場では工場建屋内に 工場で重なる生産品目はない。だか 無線LANのアクセスポイント(AP)を 1921年(大正10年)5月13日 らいずれもがマザー工場で,その指 次々に敷設していた。従来使ってい 〒107-8414 東京都港区赤坂 2−3−6(コマツビル) 導を受けるチャイルドは同品目を生 たハンディ端末は約50台。実は数年 産する海外工場という関係にある。 前にコマツとして社内標準の無線通 図表-1 創 立 本社所在地 代 表 者 主な事業 コマツ(登記社名:株式会社 小松製作所)の会社概要 CEO 大橋徹二 ◆工場の通信規格を標準化 建設・鉱山機械,ユーティリ テ ィ( 小 型 機 械 ), 林 業 機 械, 今回編集部が訪れたのは,同社 産業機械など 資 本 金 売 上 高 従業員数 信規格を定めたのだが,その前に進 代表取締役社長(兼) 連結 678億70百万円(米国会計基 準による) ,単独 701億20百万円 (2013年3月期)連結 1兆8,849 億円,単独 7,388億円 [連結]46,730名, [単独]9,921名 の地元・小松市にある中核生産拠 点, 粟津工場だ。同工場の現場では, しばらく前からある課題に直面して いた。部品の入荷検品や入出庫の現 品管理に使っていた無線ハンディ端 末の動きが,思わしくなかったのだ。 「今まで使っていたシステムに対し 津田朗氏 先端物流IT[ZoomUp]27 めてしまっていたという経緯もある。 を構築し,運用開始していた(上位 無 線LANの国 際 規 格として国 や自動倉庫その他周辺システムとのイ 内で主に採用されているのは,米 ンテグレーション,運用管理はクオリカ IEEEが定める2. 4GHz帯の802.11。 が担当) 。これに合わせて統一的な その中にも802.11bを初めa,d,g, 運用を国内工場に展開する考えだっ n等々があり,それぞれに特性があ たのだ。 る。コマツが新たに定めた社内規 もともとは粟津で構築した現品管 格は,上記のどれにも対応可能な 理システムを10年ほど前に茨城工場 Cisco社のAPに対応することだった。 に展開するとき,@Hywayに乗り換 そんな背景があったから, 「システ えた。@Hywayはシンクライアント ムが古いし遅い」という課題に対し, 方式のWebアプリケーションなのが 粟津工場では「社内標準に対応させ 特長で,ハンディ端末はWebサーバ て,全部取替え」という結論を出し と通信して最小限のデータのやりと たのだ。 りだけを行う方式。このためレスポ 証によって,レスポンスが悪い原因 ンスが速く,信頼性の高さが評価さ を取り除ける可能性があると判断し, れている。 モトローラの端末に決めました」と それが金 沢 工場にも展開され, 津田氏は続ける。 ◆社内統一の運用展開へ 進化した姿で再び粟津工場に戻って 「当初のスケジュールは若干遅れ 次に同社は,無線ハンディ端末の きたのだが, 「放流したサケの稚魚 ましたが,従来の仕組みに乗せるこ 機種選定に入った。それを左右する が成長して帰ってきたようで…」と津 とでシステムを最初から作らないでよ ことになったのが,粟津に半年先行 田氏は笑う。 く,大きなトラブルなしでスムーズに 802.11a への対応機種に 1 ❶モトローラ・ソリューションズの無線ハンディ 端末・MC3190 本番稼働できました」 し11年11月に無線端末システムを更 新していた金沢工場と,その近隣の ◆モトローラを採用決定 粟津工場では続いて同12月にも板 出先拠点でのチョイスだった。 粟津工場でのシステム更新にあ 金工程などに11台を追加し,現在は 金沢工場では他社端末とモトロー たり,以上の条件を満たす無線ハ 計69台が稼働している。 ラの端末を併用していた。だが出先 ンディ端末として浮かび上がったの 拠点の現場では同居する関連企業 が,モトローラ・ソリューションズの が,すでに802.11bでAPを施 設し, MC3190だった(写真❶) 。 音声電話にも使用していたためこの 高い堅牢製を持つMC3190はハー 帯域が過密状態になっていた。こ ドな工場の使用環境には最適で, ◆検品と棚入れ れでは問題のレスポンスが期待でき コマツが国内標準としたCisco社か 現品管理システムはシンプルな作 ない。そこでコマツはこの拠点で帯 ら,相互接続性を保障する「CCX りで,複雑なオペレーションのない 域を分けて802.11aを選択し,無線 (Cisco Compatible Extentions) 」認定 仕組みなのが特長。導入されたモト LANシステムを構築することにした。 を受けている点も評価された。モト ローラの無線ハンディの動きととも この802.11a対応機種であること ローラの端末は世界No. 1シェアで に,その流れを追ってみよう。 に加え,もう1つの条件が,無 線 グローバルなサービスネットワークを 編集部が入った現場は,組み立て LANシステム用のミドルウェアとして 持っているから,今後の国際展開に ラインで作業者が部品を組み付ける 知られるシノジャパンの@Hywayに も適した機種と言えるだろう。これ ラインサイドに必要な部品を供給す 対応し,最小限のアプリ変更で導入 が金沢工場に6台導入された後,粟 るため,入荷部品をカゴ車に仕分け 可能なことだった。 津では12年5月,まず58台の本格導 て準備する工程だ。 コマツではすでに,@Hywayを 入が決まった。 工場の搬入口にサプライヤから 実装してJFEシステムズが開発した 「通信規格や@Hywayとの対応性 部品が届いたら,まず無線ハンディ 現品管理システムのアプリケーション の他,Cisco社との相互接続性の保 端末で製品番号のバーコードを読 現品管理システムの役割と 稼働状況 2 4 3 5 ❷❸無線端末による部品の入荷検品 ❹❺部品をカゴ車に棚入れ,バーコードを紐付け 。 み,品種と数量を検品(写真❷❸) コードを読み合 MC3190のヘッド部分は回転するの わ せ,どこに何 で,写真のような横読みもでき便利 が棚入れされた だ。 か紐 付ける。カ 検品OKだと,端末画面にはその ゴ車の棚の上下 部品をどこに入庫すべきかのロケー が別のロケーショ ションが指示される。 ンとして区分され 大半の部品は各ラインの組立にす る場合もあるが, ぐ使われる部品なので,保管せずそ システムは難なく のまま部品エリアの当該ライン工程 対 応 する。写 真 向けカゴ車に仕分けていく (写真❹ ❺のカンバン1枚 ❺) 。 に,ラインへの供 だが遠方のサプライヤなど数日分 給1回分の部品 のロットがまとめて届くこともあるの が対応するのだ。 で,この場合は在庫として一時保管 1日の仕分け する。といっても同じエリアの別のカ 作業が終わったら,別グループの作 部品スペースはガラガラになる。翌 ゴ車にしばらく置いておくだけで,仕 業者が部品セットになったカゴ車を 朝,新たな空のカゴ車をセットして 分け作業自体はほとんど変わらない。 ここからフォークリフトで搬送し,壁 作業を始める,という流れだ。 カゴ車への棚入れでは,部品の現 向こうの所定ラインサイドに並べてい 部品管理エリアの作業者の端末 品票とカゴ車のロケーション表示バー くので,一時保管棚以外,写真❻の 操作は,バーコードを読み合わせ, 6 ❻右手の一部が在庫部品の一時置き場 先端物流IT[ZoomUp]27 部品を所定位置に持って行き,再び バーコードを読み合わせるだけ。作 業できるように 8 なったのが最大 業開始時に自分のID番号と担当エリ の効果と思いま アを指定するくらいで,通常作業に す。古い仕組み はボタンを押す操作がほとんどない に比べたら全然 という。 スピードが違う」 現場作業者は, 「何より,以前に と評価する。 比べてレスポンスが良くなったのが 「前述の通り 有り難いですね。1秒以上待つこと 仕組みは極めて はありません」と話していた。 シンプルで端末 自体にはさほど ◆変化に対応する仕組み ❽部品保管エリア天井のAP(左上の箱形) 機能を持たせて いませんが,落 以上の部品エリアの作業者約70名 が,1人1台のモトローラ無線端末 同一ラインで何機種もの生産を行う としても壊れにくい堅牢性が安心な を持つ。管理対象の部品は全体で 混流生産が行われており,そうした のと,包括保守3年パックに入ってい 約2万点だ。 仕組みが必要な意味が納得できた。 るので,天災等を除き,理由のいか んを問わず保守サービスを提供してく そこにリアルタイム部品管理システ ムが必要とされた背景には,乗用車 ◆部品検索,進捗管理 れるというのは助かっていますね」 ほど細かくないにせよ,建機でも顧 本システムはシンプルと言うもの 今回の粟津工場での無線LANシ 客からのオーダーごとに,同じ機種 の,検品・棚入れ以外に,部品ロ ステム更新への投資額は,全69台 にオプションの有無など必要部品が ケーションやそこにあるべき数量の のハンディ端末とシステム費用を含 異なる多様な組み合わせでラインに 検索,担当分の進捗・残り作業を め計約7,500万円だった。 供給する必要があり,直前の変更も 確認するときなどにも,ハンディ端 日常的という背景がある。 末ですぐ呼び出せる機能をきっちり ◆増産へ追加 「部品サプライヤへの確定発注指 備えている。管理者も,必要部品の 無線ハンディ端末を活用した現品 示は,5日先の1日単位でしか出せ 到着状況,全体の部品仕分け作業 管理システムの今後について津田氏 ない」現状であり, 「変更を前提にし 進捗状況,個別エリアの状況などを は, 「粟津工場では増産に対応する たフレキシブルで,確実な部品現品 いつでもリアルタイムに閲覧可能だ。 必要があるので,まもなく同じ工程 管理」が不可欠だったのだ。 部品入出荷・入出庫現場と組立 の増員に合わせて30台ほど無線端 実際の生産ライン(写真❼)では 工場ではほぼ100%,どこにいても 末を追加する予定です」と話す。 端末が操作できるようにAPを敷設 「他工場への展開については私自 し,無線LANネットワークを完備し 身,車体を作っている工場は同じ仕 た。部品も資材も機械も保管設備も, 組みで統一した方がいいと考えてい 金属だらけの構内だからサーベイを ます。茨城,金沢,粟津に入ったの きっちり行い,全体で60台近くある で,残る大阪工場での導入も検討す APの位置を決めている(写真❽) 。 ることになるでしょう」 7 粟津工場は製品の約半数を,大 国内に仕組みを展開, 増産対応で追加も 阪工場では大半を輸出しているとい う。アベノミクス効果や最近の円安 も追い風になっているかも知れない ❼建機の生産ライン ◆ストレスレス が,この厳しい時代に増産,輸出拡 新無線端末の導入効果について 大という同社の強さを,現場で改め 津田氏は, 「作業者がストレスなく作 て実感できた。
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