在宅症例 - 平成調剤薬局

平成 26 年 8 月症例検討会
福光店
訪問診療における薬剤師の処方提案症例
訪問診療の際、薬剤師が医師に処方変更を提案し、患者や施設スタッフの QOL 改善に繋がった症例を
報告する。
症例
94 歳 女性 (現疾患:逆流性食道炎、うつ病、慢性鼻炎)
H26.5.7 処方
オロパタジン錠 5mg 1 錠
ネキシウムカプセル 10mg 1C
サインバルタカプセル 20mg 2C
分 1 夕食後
14 日分
H26.5.21 の訪問診療同行に向け、本人を訪問。本人と施設職員に話を聞いた。
本人の様子
いつもは、居室でテレビを見ているが、ベッドで昼寝をしていた。声をかけても反応が悪く、薬剤師
だと認識するのに時間がかかった。寝起きのせいである可能性を考慮し、おやつの時間に再び訪問した
が、いつもは笑顔で話すが、表情が乏しく、目に力がないように感じた。また、会話があまり理解でき
ていない様子であった。
施設職員の話
最近、入浴を拒否することが増えた。また、食事の時は、フロアーまで出てくるが、それ以外の日中
は、ほとんどをベッド上で居室にこもっている。食事量も減っている。
医師への報告書
意欲低下がみられます。入浴を拒否されることが増え、日中ベッド上での生活がふえ、食事量も減っ
ています。表情が乏しく、笑顔もなく、声をかけても反応悪く会話を余り理解できない様子でした。
意欲向上のために「ドネペジル錠」などを服用した方が、宜しいでしょうか。
翌日の訪問診療
最初に看護師が居室に入ったところ、本人は、ベッドで寝ており、声をかけても誰か分からず、起き
上がろうとしない。次に医師が入り、声をかけると、数十秒後、医師であることを認識したが、いつも
の笑顔はなく、ぽかんとした様子。医師の質問にも返答がない。
その場で、医師は、認知症の診断をし、
「ドネペジル塩酸塩錠 3mg」の処方を決定した。
施設職員への指導
「ドネペジル塩酸塩錠」を開始すると、吐き気、下痢、食欲不振などの胃腸障害が現れることがある
が、数週間で改善することが多い為、許容範囲であれば継続して欲しい旨を伝えた。また、易怒性や落
ち着きがなくなることもある為、転倒等注意して頂くように伝えた。
服用後の様子
服用翌日:
「家に帰る。
」と言って荷物をまとめて、非常階段から外の出ようとした。胃腸障害はなく、
食欲はある。入浴の拒否なし。
3 日目:再び「家に帰る。
」と言って外に出ようとした。
4 日目:施設看護師より、服用中止の相談を受ける
→「家に帰りたい。
」という本来の意識が表面化しただけで、意欲が出た証拠だと思われる旨を伝え、胃
腸障害もない為、しばらく様子を見てもらえるように、伝えた。
以降:フロアーでお茶や食事をしている姿や、リハビリ体操に参加している姿を見かけるようになった。
14 日後の施設職員からの医師、薬剤師への報告書
「ドネペジル塩酸塩錠」を開始後、
「家に帰る。
」と言って、2 回非常階段から外に出ようとした。食欲
はあり、食事全量摂取でき、リハビリ体操に参加するようになった。
訪問診療前日に本人を訪問
居室でテレビを見ていた。声をかけると、笑顔で応対され、目つきもしっかりして会話がスムーズだ
った。食欲、睡眠、排便も、順調と話された。
薬剤師からの医師への報告書
「ドネペジル塩酸塩錠」を服用後、胃腸障害はみられません。表情が豊かになり、笑顔も見られ、会
話がスムーズです。
「家に帰る。
」と言い、外出しようとすることが服用翌日と 3 日目にありましたが、
その後はみられません。入浴拒否はなくなり、フロアーで食事やお茶、リハビリ体操を毎日されるよう
になりました。居室では、以前のようにテレビを見るなど意欲が出ている様子です。
医師の訪問診療
居室に入ると、昼寝をしていたが、医師が声をかけるとすぐに起き上がり、
「先生、こんにちは。
」と、
笑顔で挨拶された。医師は、その表情を見て「数年前の○○さんに戻ったみたいだね。」と、言われ、
「ド
ネペジル塩酸塩錠」の効果を実感された。処方は、通常量の 5mg に増量が決定された。
その後
「ドネペジル塩酸塩錠」を継続し、意欲が保たれている様子である。他の入居者との会話を楽しむ姿
をみかけるようになった。
施設職員からも、不穏が減り、入浴拒否や食事拒否がなくなり、介護の手間が減ったと聞き取った。
考察
薬剤師は、調剤や残薬確認だけでなく、患者さんを観察することで、患者や家族の QOL 改善につなが
ることがある。医師への報告には、薬学的観点からの提案だけでなく、本人や家族、施設スタッフが気
付かない点を補い、積極的な処方提案をすることも必要であると感じた。
また、患者の行動に影響がある認知症治療薬は、より具体的な効果と副作用の説明を予めすることに
よって、不必要な服用中断を防げるのではないかと感じた。