ハイライト表示 - 大阪市立大学学術機関リポジトリ

【
総
大阪市立大学看護学雑誌
説】
第 2巻 (
2006.
3)
高齢者 のセ ル フ ・ネグ レク トに関す る課題
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要
旨
わが 国の高齢単 身世帯 及び高齢夫婦世帯 は高齢 化 と並行 して増 え続 け て い る。貧 困層 における これ ら世帯 のセ ル
フ・ネ グ レク ト発 生要 因であ る生活保護世帯 の急増 やセ ル フ・ネグ レク トの現 象 の一つ であ る野宿生活者 の増加が社
会問題 になって きている。 しか し、わが国には末 だ高齢者 のセルフ・ネグ レク トにつ い ての定義 は存在 しない。
海外文献 か らセル フ・ネグ レク トの定義 、発生 因子、サ インと介入 な どにつ いて紹介 し、 あわせ て、 わが 国の高齢
単 身世帯 及 び高齢夫婦世帯等 が遭遇 してい る犯罪被害、災 害 、 自殺 、介 護殺 人 な どの社会問題 につ いて統計 数値 に
よ り実態 な らび に課題 を明 らか に した。 また、セ ル フ・ネ グ レク トに関係 す る課題へ の対処 については個別 レベ ル と
地域 レベ ルの両方 を行 う必 要が ある。
キーワー ド :高齢 者世帯、セル フ・ネグ レク ト、在宅 ケア、社会問題
はじめに
には戟後のベ ビーブーム世代が 65・
歳の高齢期 に達 し、
1
0年後の 2025年 にはわが国の高齢人口は 3,
5
00万人 と
わが国の高齢化 は、世界 に例 をみない速度 で進行 し、
ピー クに達 す る。 同時 に高齢単 身世帯及び高齢夫婦世帯
現在世界一の長寿 国 とな り、世界の どの先進 国 も経験 し
が高齢世帯 の 7割 を占め、特 に単身世帯 は都市 での増加
ていない本格的 な長寿社会 に突入 しつつある。201
5年
が著 しいこ とが見込 まれている (
総務省 国勢調査
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奈 良県立医科 大学医学部看護 学科 Na
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氾)0
大阪市立大学看護学雑誌
第
2巻 (
2
06.
3)
長期 に及ぶ経済の低迷 は、団塊 のベ ビーブーム世代 を
研究途上にあるといえる。 さらに、海外文献 を cNAHL
襲 って医療保険 も年金 もない、老後は生活保護 に頼 らざ
るを得ない高齢単身者や高齢夫婦世帯が増 えることが予測
we
b を用いて 自己放任(
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)
と高齢者虐待 (
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)をキーワー ドにし検索 したところ、過去 50年分遡
されている。今後 も増え続けるわが国の高齢者のセルフ・
って も 1
0文献 しか見当たらず、その うち検討で きる文献
ネグレク ト(
自己放任)
に関する課題 について考えてみる。
は 6文献であった。 この 6文献か ら次の定義 を見出 した。
1
.セルフ・
ネグレクト(
自己放任)
高齢者の定義
2) 海外文献 にみ るセル フ・
ネグ レク トの定義
わが国では、2
03年 に厚生労働省補助事業で家庭 内
① セルフ・
ネグレク トの定義 として最 もよ く用い られ
における高齢者虐待 に関する全国調査が行 われた。その
ているのは 「自分 自身に対す る世話 の放棄 によ り起 こる。
際、家庭 内での家族 ・親族等 による高齢者虐待 について
これは高齢者が健康生活維持のため に当然行 うべ き行為
は定義 されたが、セルフ・ネグ レク ト(自己放任)
につ い
を行 わないこと」(La
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l
.2001
)
。
ては、調査対象 としない と言 うことで定義の議論 はされ
② 「
高齢者の知的能力不足 や健康 や安全に注意 を払 わ
なか った。2005年 1
1月にわが国初の高齢者虐待防止法
ない 自己放任的な生活 によって生 じる。時に、 この状況
が制定 され、高齢者虐待の法的な定義が されたが、ここ
が拡大 し原因 となって火事が発生 した り、近隣に悪臭や
で もセル フ・ネグ レク ト(自己放任)
は取 り上 げ られず、
不衛生環境状態や不快状況 をもた らす」(
NCFV ホーム
従 って定義 もされてない。 また、現状 では国内における
ページ,2氾5)
。
(
③ 精神的 な健康 問題 を抱 えるセル フ・ネグ レク トの定
文献検索 ではセルフ・ネグレク ト(
以降( )
内省略)
に関す
る研究論文等 も見当た らない。
義 として 「自己放任 の結果 として、重大 な身体的障害及
び疾病 になる。あるいは心身の健康 を危険にさらす重 い
1) セルフ・ネグレク トの海外文献 にみ る用語の扱い
精神状態 に陥る。本 人だけでな く周囲 を危険 にさらす重
高齢者虐待防止の制度等 に関す る先進国アメリカでは、
大 な環境の健康問題 を起 こす。原因の明確化 と治療 に結
Mo
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n, 1
998)。
びつけること」(
1
965 年 に連邦政府 は在宅高齢者の 自立支援 のために高
齢 アメリカ人法 を制定 し、 1
987 年 に再認可 され高齢者
④ 「自分 自身の健康 ・栄養 ・社会的ニー ドを満たす こ
虐待等 についての定義がなされたが、 この法に基づ く専
とを拒否、あるいは無能力状態 による行動」であ り、高
門的活動等のために全国高齢者虐待資源セ ンターを設け
齢者虐待 とは区別 される (
Ro
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l
.2002)。
た際、セ ルフ・ネグ レク トを取 り上げ 「自分 自身の健康
や安全 を脅かす ことになる、 自分 自身に対する不適切 な、
以上の 4つの定義 及び、アメリカの全国高齢者虐待資
または怠慢 な行為」 と定義 してい る。多 々良は、「アメ
源セ ンターの定義 をよ り平易 に した大阪の高齢者虐待防
リカの全ての州が高齢者虐待 を犯罪 として捉えている。 し
止研 究会の定義 (
津村他
か し、セルフ・
ネグレク トはどこの州で も適切な保護的サ
「セル フ・ネグ レク トとは、高齢者が通常一 人の人 と し
ービスは提供 しているが、犯罪 とはならない。幾つかの州
て生活 において当然行 うべ き行為 を行 わない、姓
の高齢者虐待 に関する法律ではセルフ・ネグレク トについ
は行 う能力 が ない こ とか ら、 自己の心 身の安全 や健康
2
04) に、下線 部分 を加 え
が脅 か され る状態 に陥 るこ と」 と修 正 す る ことで、本
ては言及す らしてない」 と述べている (
多々良,1
99
4)
0
また、セル フ・ネグ レク トの訳 について、 日米両国に
論文 及び、関係者間でセルフ・ネグ レク トの定義 として
987
おいて高齢者虐待研 究 に携 わ って きた多 々良は、 1
用いたい。
年 アメリカの全国高齢者虐待資源 セ ンターが定義 した自
2
.セルフ・
ネグレクトの発生因子、サイン、判断と介入
虐/
自己放任 (
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)の 2用語 を用いて
99
4)、20 l年以降の著書では、セル
いたが (
多々良, 1
1) セルフ・ネグレク トの発生因子
フ・ネグ レク トは 自己放任 と訳 している (
多々良,20 4)。
主要な発生因子 と して、全米家庭 内暴力防止セ ンター
一方 、CI
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ネグレク トの発生率研究 (
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)による海外文献検索の際、 自虐 (
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r20 1) 及び、 アメ リカの地域 メ
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) をキーワー ドに した ところ、用語不適当で検索
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a,1
998)
ンタルヘ ルスワーカー達 のアセス メ ン ト(
で きず、セルフ・
ネグレク トで検索す ると 27件抽 出 され
か ら、7因子 に分け られる。
た。 これ よ りセルフ・ネグ レク ト (自己放任)は海外 で
は一般的 に用い られているが、論文数 も少 な く海外で も
-2-
大阪市立大学看護学雑誌
第 2巻 (
2
(
)
06.
3)
・ 認知症 :発生 した高齢者 自身は 日常 生活 及 び、社会
リカ社会では普遍的 に受 け入れ られず、現在 もその扱 い
生活不 適応 に対 して苦痛 を感 じない こ とか ら、早期発
NEAI
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に変化が ない こ とが文献 等で も窺 える (
見 ・診断が遅 れ るほ どセルフ・ネグ レク ト状 態 に陥 りや
Le
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001
)。 多 々良 は 「正常 な判 断力 を有す る高齢 者
すい。
が、 自分の健康や安全 を脅 か した として も自由意志 に基
・ 疾病 、栄養失 調、過剰 な服薬 :高齢 者の疾病 の放置
づいて起 こ した行為 は、他 人に迷惑がかか らなければ、
や、 これに伴 う栄養失調、過剰 な服薬 による解毒 されな
個 人の選択 の 自由、 ラ イフスタイルの問題 なので、 ア メ
い薬の体内蓄積が、いっそ う健康状態の悪化 や、認知症
リカでは専 門家の介入対象 にはな らない」 と述べ ている
状態 を引 き起 こす。
(
多々良,2004)。一方、わが国の高齢者 の特徴 は、欧米
・ うつ、 自殺念慮 :うつ と自殺念慮の 2つの症状 は密接
の中で も個 人主義 の徹底 しているアメリカ社会 と異 な り、
に関係 してお り、 自己放任 と認知症の症状 を出現 させる。
依存 と気兼ね、世間体 を気 に し、周囲 に委ねて 自己主張
・ 薬物虐待 :長期的な常用薬投与 は高齢者 に うつ、 ス
を しないこ とである。 人権意識の低いわが国の状況 をふ
トレス、喪失感 、不安状態 を出現 させ、結果 と して薬物
まえ、大阪の高齢者虐待 防止研究会では、人権 を守 る と
虐待の問題 を起 こす。
い う観点 か らセ ルフ・ネグ レク トは見過 ごせ ない と言 う
立場 を取 って きている。大阪府 内市町村等で も、高齢者
・ 貧 困 :経済的 に追い詰め られた生活 を している高齢
者 は、適切 なケアを受ける余裕 はない。
の人権 を守 る と言 う同様 な観点か ら高齢者虐待予防のパ
・ 孤立 :社会関係 の有無 と生活 の満足感 は相 関 してい
ンフレッ トにセ ルフ・ネグ レク トを掲載 し、早期発見 ・
る。生活へ の満足感が高い者 ほ どセ ル フ・ネグ レク トの
早期介入の対象 と している ところ もある。
リスクは低い。
)、2) のセ ルフ・ネグレク ト発生因子 ・兆
上述 2 章 l
候の基盤形成 には精神疾患 に起 因する もの を除 くと高齢
・ 精神疾患 に伴 う症状 :原因であ る精神疾患 の症状 と
治療 に焦点 をあてた医学的対応 を早期 に行 う。
者 自身の意 欲喪失 に因 る ところが大 きい。 セ ルフ・ネグ
レク トの判 断 はわが 国で は、2003 年 に厚生労働省補助
事業で家庭 内の高齢者虐待 に関す る全国調査が行 われた
2) セルフ・ネグ レク トのサ イ ン
NCFV,
全米 家庭 内暴 力 防止 セ ンター (
Sel
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際の扱い と同 じく、「
状態 」で判断すべ きと考 える。
また、セ ル フ・ネグ レク トの早期発見 ・早期 介入 に よ
by Ol
de
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t
,ホームページ 20 5) 掲載資 料 及び、海
外文献 をふ まえた多々良のセル フ・ネグ レク ト (
多 々良,
る悪化防止が重要であ ることは専 門職 は誰 しもが認識 し
2004) を基 に整理する と主たるサ インとしては 1
2 兆候
ているが、多 々良 は、 「
個 人の選択 の 自由 とか、 ライフ
である。
ス タイルの問題 だ として、専 門職の介入対象ではない と
・ 必要 な医療や介護サービスを受 けてない、拒否
す るア メリカの高齢者虐待続計 をみ る と、セ ル フ・ネグ
・ 脱水 、栄養失調 (
食事や水分摂取が不十分 )
レク トは、他 の どの タイプの虐待 よ りも発生率や専 門職
・ 高熱 (
例外的 に低体温)
Ta
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tal
.1
998)0
の介入回数が多い」 と述べ ている (
・ 極端 な身体の汚れ ・不潔 (
散髪や入浴 を しない)
この ように、 アメリカの介入対象外 との考 え方 と矛盾す
・ 極端 な住居 の不潔、悪臭 、事故発 生が予想 され る危
るセルフ・ネグ レク トへ の介入 は、倫理 的 ジ レンマ を課
険環境、不潔 な生活環境
題 として伴 うであろ うことは予測で きる。
・ 不適切 な服装 、ふ さわ しくない衣服 ・衣類
si
mmons は、 「
患 者 の 自律 を重 ん じる こ と と、 セ ル
・ 必要な眼鏡、補聴器、義歯、義足 な どを持 っていない
フ・ネグ レク トへの介入 には、倫理的 ジ レンマが必然 的
・ 予期 しない、原因のわか らない健康状 況悪 化
に生 じて くる」 と述べ ている (
Si
mmons
,1
999)0
・ 樽創
Gus
t
one は、 「介入 には、看護者が意志 決定 の ため の
・ 服薬拒否、逆 に常用薬や誤用薬の過剰 内服
効果的な介入技術 の開発が必要であ り、それには複雑 な
・ うつ様症状 出琴 (
不安 ・心気的 な訴 え、寡黙 、閉 じ
意志決定のための組織構築づ くりが不可欠である」と述
こもり、活動性 や意欲低下)
べ ている (
Gus
t
one
,2003)
。
・ 近所 ・地域か ら孤立 (
近所付 き合 いせず 、人の助 け
上述 よ り、わが国だけでな く、 アメリカにおいて も人
を拒否す る)
権 を守 る とい う立場 か らセル フ・ネグ レク ト- の早期発
見 ・介入 をせ ざるを得 ない現実が露呈 されてお り、介入
3) セル フ・ネグレク トの判断 と介入
における倫理的 ジ レンマ、意志決定のための効果的 な技
高齢者虐待 にセ ルフ・ネグ レク トを含 む こ とは、 アメ
術の開発が わが国において も急がれる。
- 3 -
大阪 市立 大学看護学雑 誌
3.高齢単独 ・
高齢夫婦世帯と生活保護、野宿生活者
第 2巻 (
20
06.
3)
さらに、一部の高齢単 身者のセル フ・ネグ レク ト状 態
本論文の 「は じめに」 の章で既 に述べ ているが 、高齢
にあたる野宿生活者の数 をみると、集中地域 は大都市圏
単 身世帯、高齢夫婦世帯 の数は将来的 に も伸び続 けるが
の大阪 は釜ケ崎、東京 は山谷 、名古屋 は笹 島、横 浜 は寿
(
表 1)、東京、大阪、愛知等の三大都市圏では、一層の
町 などであ り、中で も大阪市 は全国で最 も多い野宿生活
加速が予測 されている (
人口問題研究所 「
都道府県の将
者 を抱 えている (
表 2)。 また、野宿生活者 の性別 は、
来推計 人口」 20 4)。高齢単身世帯数、高齢夫婦世帯数
男性が 9
5.
2% と女性 の 4.
8% を庄倒 してお り、5
0歳か ら
の増加 は、セル フ・
ネグ レク トの発生 因子である孤立 、
6
0歳代 の中高年層 に集中 しているが、6
0歳以上の高齢
貧困 と結 びつ きやす く、 これを裏付 ける生活保護世帯の
5
.
4% を占めている (
垣 田,2
03)
。 さらに
者 は全体 の 3
0
0
3年 の高齢者世帯 は全生活保護世帯
状 況 をみ る と、2
6
0歳以上の大阪愛 隣地区のホーム レス高齢 者の健康診
6.
4%を占め、全生活保護人員の 48.
7%は 6
0歳以上
の4
査後、継続 して生活指導 を受 けた高血圧薬服用者 は、中
の高齢者 であ り、全生活保護世帯 の 7
3
.
3%を単 身世帯が
。
等症 ・重症高血圧者の比率が低下 している (
表 3)
占め て い る (
社 会 ・援 護 局 「被 保 護 者 全 国一 斉 調査 」
以上の状 況 よ り、大都市 圏の貧困層 のセル フ・ネグ レ
2
0
03)
。
ク ト状態予備軍の高齢単 身世帯、高齢夫婦世帯 の人々が
人 として生 きて、生活で きる年金 と医療保険の保障、定
これ よ り、高齢単 身世帯、高齢夫婦世帯の経済状態の
0
0
3
苦 しさを推 し量 ることがで きる。 因み に大阪市の 2
期的 な健康診査 ・生活指導が なされる必要があ り、 これ
年の生活保護率 3
5
.
4は全国 1位 であ り、全国一低い富
への無策 は、将来的 に深刻 な社会問題 に繋が ることが予
7倍である (
総務省統計 局,2
(
氾3)
。
山県の 1
測 される。
表 1 高齢者の世帯形態の将来推計
a 高齢単身世帯
a/C
(
%)
b 高齢夫婦世帯
b/C
C
(
%)
C/d
2
0
00
年
2
0
0
5
年
2
01
0年
2
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2
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2
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4.
6
1
,
1
1
4
高齢者世帯
(
%)
(
万世帯)
2
3.
8
2
8.
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0.
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3.
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1
,
8
4
3
3
6ー
7
3
7
.
1
資料 :
総務省 「
国勢調 査 」
、2005年 以 降 は国立社 会保 障 ・人 口問題 研 究所 の将 来推 計
表2 野宿生活者数の都道府 県別順位
順位
都道府県名
野宿生活者数
率 (
%)
7,
7
5
7(
6,
6
0
3)
3
0.
7(
2
6.
1
)
1
位
大阪府 (
大阪市の数)
位
2
東京都
6,
3
61
2
5
.
1
位
3
愛知県
2,
1
21
8.
4
位
4
神奈川県
1
,
9
2
8
7.
6
5
位
福 岡県
1
,
1
8
7
4.
7
5,
9
4
2
2
3.
5
その他の府県
計
資料 :
垣 田裕 介 、厚 生労働 省 「
ホームレスの実態 に関する全 国報告書 2
003年 」より
-4-
大 阪市立 大学看護学雑誌
第 2巻 (
2006.
3)
表3 ホーム レスの血 圧 健 診 結 果 と高 血 圧 薬 服 用 状 況 別 血 圧 分 類 (
2004年度)
血圧分類
血圧 健診
60歳代
ホームレス調査
国民栄養調
(
n=67
3)
高血圧 薬服 用状 況
受
高血圧
けず 治療 高血圧薬
日服用せ 本
ず 高血圧薬本
日服用 中
(
n=3
94)
(
n=1
025)
(
n=1
28)
(
n=83)
総数
(
n=1
236)
至適 血圧
1
3.
4
9.
1 (
n=1
026)
4.
7
8.
4
1
4.
1
正常血圧
ll
.
6
1
4.
5 (
n=1
027)
5.
5
6.
0
1
2.
1
正常高値血圧
1
4.
4
21.
3 (
n=1
02
8)
1
3.
3
1
8.
1
1
6.
2
軽症 高血圧
3
3.
3
3
8.
1 (
n=1
02
9)
28.
9
4
4.
6
31
.
0
中等症 高血圧
1
5.
3
1
3.
5 (
n=1
03
0)
30.
5
1
2.
0
1
5.
1
資料 :
黒 田研 二 、厚 生科研 「
ホームレス者 の 医療ニース●
と医療 保 障 システムのあり方 に関する研 究報 告 書 」
2004より作成
4
.高齢世帯の犯罪被害、災害、自殺
歳以上の高齢者の被害件数 は 26.
5% であ り、6
0 歳以上
上述 2章 3) で多々良は、アメリカの高齢者虐待統計
3
で リフォーム詐欺 に遭遇 した被害件数 は平成 9年度 -1
ではセル フ・ネグ レク トは、他 の どの タイプの虐待 よ り
年度の 5年間で全体の 51
.
7% を占めている。次いで、身
発生率や専 門職の介入回数が多 い (
Ta
t
a
r
a
,
e
tal
.
1
998) と
近 に発生する災害 として火災 を取 り上 げたが、高齢者の
述べ ている。
火災 による死者 は全火災死 の半数 を占めていた (
表 4)。
これ を裏付 けるようにアメリカの 1
996 年 の統計では、
2年度 及び 1
6年度 自殺統計 をみ
さらに、高齢者の平成 1
在宅高齢者のセルフ・ネグレク ト数 は、在宅高 齢者虐待
ると、6
0 歳以上が全体の 3割以上 を占め、 自殺原 因 ・
総 数の 1
8.
3% (
1
01
,
000 人) を占め (
El
de
rAbus
eTa
s
k
動機の第 1位 は健康問題 、2位 は経済 ・生活問題である
R)
r
c
e
,
2001)、他 の どの タイプの虐待 よ り専 門職 の介入
(
表 5)
。高橋 は 「自殺 の危険因子 を検討す ることによっ
回数が多い と記載 している。 これ よ り、セル フ・ネグ レ
てハ イリス ク者 を発見 し、 さらに個 々人の 自殺 の危険 に
ク ト状態の高齢者が、健康危機 の状態 に追 い込 まれた り、
ついて もう一歩踏 み込 んで判 断で きる」と述べ ている
事故や事件 ・犯罪被害 などに巻 き込 まれた り、 自殺 に追
(
高橋,2004)
。
い込 まれるな ど、専門職が介入せ ざる を得 ない状況 にあ
以上 より、認知症高齢者 や健康障害 ・歩行障害で閉 じ
ることが推測で きる。
こ もりセルフ・
ネグ レク ト状態 におかれ た孤独 ・不安状
しか し、わが国では、在宅高齢者 のセルフ・ネグ レク
態 にある一人暮 らし高齢者 や高齢夫婦世帯 などが犯罪被
トの数 はい まだ未調査 である。 そ こで、セル フ・ネグ レ
害 に遭遇 した り、火災で逃 げ遅れて焼死 、あるいは自殺
ク ト状態の進行結果 として高齢者絡みの事件 ・犯罪被害、
に追い込 まれ るな ど、貧 しい高齢単身世帯 ・夫婦世帯の
自殺 、介護殺 人について、わが国の状況 を調べ てみた。
老後生活の厳 しさが推測で きる。 これ ら世帯への実態 を
0年度 及び 1
5年度の 65歳以上高齢者の刑法犯被
平成 1
把纏 と並行 して、早期対処がセルフ・ネグ レク トの発生
害認知件数 は、全被害認知件数 の 9.
3% を占めてお り、
予防に繋がる と考 える。
振 り込め詐欺事件 の一つである 「オ レオ レ詐欺」 は、65
災害(
火災)
遭遇状況
表 4 高齢者の犯罪被害 ・
刑法犯被害認知件数
年度
全数
65歳以上
平成 1
0
平成 1
5
1
,
7
68,
2
0
0 2,
407,
45
7
1
39,
0
69
22
3,
72
0
(
放火死
火災死者数
を除 く)
平成 1
0
平成1
も
1
,
2
06
1
,
43
3
57
2
7
4
4
ルオレ
詐欺
平成 1
6
1
4,
45
9
平成 1
0
5,1
1
3
平成 1
5
9,
5
07
3,
8329
歳以上の
める○
-1
3年の
55
1
年間で
.
7% を占
60
資料 :
犯罪統 計 は警 察 庁 「
犯罪 統 計書 」2003年 、火 災 は消防庁 「
消防 白書 」2003年より作成
-5-
リフォーム詐欺
大阪 市立 大学 看護 学雑誌
第 2巻 (
2006.
j)
表 5 全 自殺者 に占める高齢者の割合と自殺原因 ・
動機
(
遺書 あ.
り
者) 自殺数
6
0歳以上、原因
動機別
N=
3,
4
0
5(
1
0
0.
0)
自殺者数
平成 1
2
年度
平成 1
6
全数
31
,
9
5
7
3
2,
3
2
5
6
0歳以上
1
0,
9
9
7
1
0,
9
9
4
1
位
2位
3
位
健康問題
経済 .生活問題
家庭問題
2,
01
0
71
3
3
6
2
賓料 :警視庁 「自殺統計書」2
0
0
4
年 よ り作 成
心理的重圧 と先の見通 しの な さが絶望感 と疲労 、 ス トレ
5.要介護高齢者の介護者と介護殺人
要介護の単 身高齢世帯 は、当然の ことなが ら要支援 は
スを増 し、孤立状態の介護者 を追い詰め、高齢者へ の虐
3
4.
8%、要介護 1は 2
4.
5%、要介護 5は 5.
3% と介護度
待行為 となって出現、時 に介護殺 人や介護心 中 を引 き起
が重 くなるに従 い減 ってお り、高齢夫婦世帯 では、要介
こすに至 った もの と考 える。染谷 は 「
高齢 者虐待の最 も
護 4は 21
.
2%、要介護 5は 1
4.
6% と重介護 になる と在宅
悲惨 な形 と して被 介護者の 自殺 、介護殺 人、介護心 中な
介護 は介護力 を注入 しなければ維持で きない状況 にある
どがある。 介護 されることを苦 に し、生 きる こ とを自ら
ことが判 る (
図 1)
0
絶つのが 自殺 であ る。介護が負担 にな り、介護者が 介護
わが 国の現実 は、高齢 者が高齢者 を介護せ ざる を得な
を終幕す るために被 介護者 の命 を維つのが介護殺 人であ
0
0
0年 までは当然 とされて きた。 1
9
9
8年
い老 々介護が 2
る。そ して介護者が介護 に疲 れ、介護 を続 ける ことの限
-2
0
03 年 までの介護殺 人事件 の加害者 をみ る と、配偶
界 を感 じて被 介護者 をとも連れにす るのが介護心 中であ
者が全体 の半数弱 を占め、配偶者、全体 ともに男性 は女
る」 と述べ てい る (
染谷, 20 l
)。加藤 は 「介護殺 人は
性 の約 3倍 であ る。 また、肉親 の娘 ・息子が加害 者は 4
高齢者虐待 の最 も悲惨 な状態であ り、人権 を侵害す る虐
割以上あ り (
表 6)
、年齢 では、被害者 の 6割以上は 7
5
待 の究極的 な現象 と捉 え、基本的 人権 を侵害す る もので
歳以上の後期高齢者であ るが、加害者で も 6
0 歳以上が
0
05)
。
あ る」 と述べ てい る (
加藤 ,2
6割 弱 を占めている (
表 7)
。 また、新 聞紙上 で は見受
介護殺 人や介護心 中、要介護高齢者の 自殺 は、介護力
けるが明確 な続計数値 の得 られ ない夫婦心 中は、わが国
の ない高齢夫婦 ・高齢 の親 と未婚の子世帯 な どが追 い詰
独特 の価値観 に もとづ く、個人で.
はな く世帯 を個 とみる
め られ、経済的困窮 も加 わ って個人あるいは世帯が孤立 、
高齢夫婦 のセル フ・ネグ レク ト事件 と言 える。
セ ルフ・ネ グ レク ト状態 に陥 り最後 のエ ネルギ ーが死へ
上述 の介護殺 人や夫婦心 中は、老 々介護 に よる介護負
の幕引 きに使 われている。
担 や、娘 ・息子 が介護すべ きとの親戚 ・近 隣な ど周囲の
要介護 5
要介護4
要介護 3
要介護 2
要介護 1
要支援
0%
2
0
%
4
0
%
6
0
%
8
0
%
1
0
0
%
図 1 要 介護高齢者等の世帯構成 資料 :厚生労働省 「
国民生活基礎調査」2
0
0
1
年
-6-
大阪市立大学看護学雑誌
第 2巻 (
20 6.
3)
表6 介 護 殺 人 事 件 の加 害者 と死 亡 数 (1998年 ∼ 2003年 )
加害者の続柄
配偶者
息子.
娘
息子.
娘の配偶者
事件(
死亡)数
死亡者数
事件数割合(
%)
95
87
95
89
48.
0
43.
9
4.
1
8
9
親
3
3
1
.
5
その他
5
5
2.
5
資料 :加藤悦子, 「
介護殺 人」 クレス出版 p4
5,
2
0
0
5
掲載表 を一部改変作 成
表7 介護 殺 人事 件 の被 害 者 及び加 害者 の 年齢 層 (1998年 ∼ 2003年 )
被
年
齢
害
者
人数
60-65未満
65-75未満
75-85未満
85以上
加
蔓 割合 (
%)
22…
54:
80董
45i
1
0.
9
26.
9
3
9.
8
22.
4
齢
年
50未満
50-60未満
60-75未満
75以上
害
者
人数
割合 (
%)
34
48
69
48
1
7.
1
24.
1
3
4.
7
2
4.
1
資料 :加藤悦子, 「介護殺 人」クレ
ス出版 p51,
2
0
0
5
掲載表 を一部改変作 成
6
.セルフ・
ネグレクトを防ぐには 、一 課 題 と対処一
に発足 す る。 そ こで は、支援 困難事例 と して、高齢 者 虐
高齢単 身世帯 や高齢 夫婦等 の核 家族 世帯 は今後 も増 え
待事 例 な ど と一 緒 に、支 援 を拒 否 す るセ ル フ・ネ グ レク
続 け る こ とは明 らか で あ り、並 行 して セ ル フ ・ネ グ レク
ト事例 が相 談 窓 口 に持 ち込 まれ る。 また、地域 包括 支援
ト世帯 の増加 も予 測 で きる。
セ ン ターの虐待 防止 ・早 期 発 見事 業 か らセ ル フ・ネ グ レ
しか しなが ら 1章 で も述べ たが 、 わが 国 に はセ ル フ・
ク ト事例 が浮上 す る場 合 もあ る。
ネ グ レク トの定義 は現在 ない。◆
高齢 者 虐待 の定義 と同様
)セ
個別事 例 へ の有効 な対処 策 と して は、 上述 2章 1
に、早急 に法 的 に定義 が な され、 国の施 策 と して取 り組
ル フ ・ネ グ レク ト発 生 因子 、 2
)セ ル フ ・ネ グ レク トの サ
んで行 く必 要が あ る と考 える。 現状 を踏 まえ身近 な とこ
イ ンに照 ら して対 象高齢者 の個 別原 因の究 明、経 過 の分
)
個 別 レベ
ろか ら考 え られ る課題 - の対処 策 につ い て、 1
析 を通 して適切 な介入支援 を行 う必 要 が あ る。 また、 介
ルの対処 、2)
地域 レベ ル に分 け て述べ る。
護 者 につ い て は高齢者 虐待 発 見 の ため の家族 と家庭 環境
1
)
個 別 レベ
のサ イ ンと リス ク要 因 (
表 8) に照 ら して踏み込 んだ原
因の解 明 と経 過 の分析 を通 して適切 な介 入支援 を行 う必
2006年 4月か ら地 域 包括 支援 セ ン ターが 全 国市 町村
要が あ る。
表8 介護 家族 の 虐 待 .セルフ・ネグ レクトの リスク要 因 、疑 いのサ イン
虐待 のサ イン (
疑 い事 実調査 )
状
派
族
の
家
衣
庭
環
境
虐待 の リス ク要因 (
見守 り、継続 観察 )
・ 高齢者 の健康 に関心 を持 って ない
・ 高齢者 との人 間関係 は悪 化 してい る
・ 訪問者 を高齢者 に会 わせ ない
・ 介護負担感 .ス トレスあ り
・ 健康状 態 に不安 あ り
・ 認知症等 の介護 知識 な し
部者 が居
に対 る間は高齢者
して攻撃 的、冷淡
・外
訪問者
の側 を離 れ ない
々介護 的
の期
間が長い
(
平均
・老
自己中心
.依存
な ど性
格 的7
郵
な偏 り
・ 介護疲 れが著 しい、.
極度 の疲 労 .ス トレス状 態
身の 日常生活 も維持 で きて ない
・ 家庭 内 に介護 の協 力者 な く孤 立
・ 介護者 はアル コール依存 、薬 物依存状 態 にあ り、 自
・ 熱心
高齢者
周囲の
介護者
す に愛
目に、
ぎる
も障害
されて育
.や
介護
をむな
もってい
に完壁
った感覚
く同居
る
さを求め
し介護
な しる
・ 高齢者 の年金等 に依存 した生活状態
・ 介護
のため
には必
要す
なサ
ー ビスを拒 否
日常 的
に暴力
を容認
る生活状況
・ 家族 と高齢者 の人間関係 は悪 化状況
・ 家族 は高齢者 の部屋 を避 け、 出入 りの様子 が ない
・ 近隣者が高齢者 の存在 を知 らない
・ 近隣 との付 き合 いが ない、又 は避 けてい る
・ 家族 は未熟 で依 存 的 な性 格
・経
済状
は苦 しい は悪 い
家族
員態
の人間関係
・ 近隣 .社 会 との交流 が ほ とん どない
・ 屋内 .外 の掃 除 を しない
資料 ‥
津村智恵子・虐待のサインとリスク要因,大阪府健康福祉部高齢介護室,高齢者虐待防止に向けた体制整備のための手引き,
p20,2005掲載を一部改変作成
-7-
大阪 市立 大学看護学雑誌
第 2巻 (
2(
氾6.
3)
図 2 セルフ・
ネグレスト等 困難事例 実態調査
2) 地域 レベ ルの対処
実態調査 (
図 2) は有効 な手段 であ る。2
0
06年 4 月発
地域包括支援 セ ンター事業 とされた虐待防止 ・早期発
足 の地域包括支援 セ ンターでは、予防給付サ ー ビス事業
見 は、高齢者虐待 やセ ルフ・ネグ レク トな ど地域 に潜在
の対象 を確実 に把撞 す るために 25 項 目の基本調査 を関
す るこれ ら事例 の顕在化である。 そのためには、高橋が
係機 関や民生委員等 の協力 を得 て実施が予定 されている
述べ る 「自殺 の危険因子 を検討 す ることによってハ イリ
(
表 9)。 この調査 にセ ル フ・ネグ レク ト発 生 因子 ・兆候
ス ク者 を発見 し、 さらに個 々人の 自殺 の危険 について も
ア ンケー ト項 目を含 めて行 うのが効率 ・効果的ではない
う一歩踏み込 んで判断で きる」(
高橋 , 2 04) を、セル
か と考 える (
表1
0)
。 この様 な調査 で浮上 したセル フ・ネ
フ・ネグ レク ト事例 に当てはめ、上述 2章 のセル フ・ネグ
グ レク ト事例 を保健 師、看護師、介護士等が訪問 し、地
レク ト発生因子 を保持 、あるい は兆候 を疑 わせ る高齢単
域包括支援 セ ンター経 由で必 要 な専 門職チームの介入 を
身 ・夫婦世帯 や表 8に該 当す る介護者 を継続 して見守 っ
仰ぎ (
図 3)、一方 、見守 り必 要事例 は民生委員や近 隣
て行 くこ とが、セルフ・ネグ レク トの早期発見 ・予防 に
ボ ランテ ィア と協 同 して継続 的 な見守 りシステムを構築
繋が る。すでにデ ンマ ー クでは 「
75 歳以上の健 康ハ イ
し委 ね る (
図 3)。 この見守 りシステムに身近 な住 み慣
リス ク高齢者- の年間 2回の介護予防訪問」が制度化 さ
れ た地域 で高齢者 を支 える考 え方 (
図 4)が定着 し、そ
れ効果 をあげている (
Ka
h
l
e
r
,2
0
0
3)
。上述 2章 のセル
の第一歩 として様 々な小規模 多機能型居宅介護の拠点が
フ・ネグ レク ト尭 生因子 ・兆候 をア ンケー トに した各種
2
06年度か ら全国で開設 されることは喜 ば しい。
0
ックリスト(
特定高齢者選 定用 )
表 9 予防給 付サービス事 業対 象把握用基本チェ
No
1
3
か
半年前に比べて固いものが食べにくくなりました
はい いいえ
1
パスや電車で1
人で外出しますか
質 問 項 目
はい いいえ
回
答
1
4
お茶や汁物などでむせることがありますか
はい いいえ
2
日用 品の買い物をしていますか
はい いいえ
1
5
口の渇きが気 になりますか
はい いいえ
3
預貯金の出し入れをしていますか
はい いいえ
1
6
週に1
回以上は外出していますか
はい いいえ
4
友人の家を訪ねていますか
はい いいえ
1
7
昨年と比べて外出の回数が減っていますか
はい いいえ
5
家族や友人の相談にのつていますか
はい いいえ
1
8
周りの人から「
があると
言われますか
いつも同じ事を聞く」
な.
どの物忘れ
はい いいえ
6
階段を手すりや壁 を使わずに昇っていますか
はい いいえ
1
9
ていますか
自分で電話番号を調べて、電話をかけることをし
はい いいえ
7
椅子に座った状態から
上がっていますか
何もつかまらず に立ち
はい いいえ
20
今 日が何月何 日かわからないことがありますか
はい いいえ
8
1
5分位続けて歩いていますか
はい いいえ
21
(
ここ2週間)
毎 日の生活に充実感がない
はい いいえ
9
この1
年間に転んだことがありますか
はい いいえ
22
(
しめなく
ここ2週間)
なった
これまで楽しんでやれていたことが楽
はい いいえ
1
0
転倒 に対する不安は大きいですか
はい いいえ
23
(
はおっく
ここ2週間)
うに感
以前は楽し
じられるんでできていたことが今で
はい いいえ
ll
6カ月で2-3
kg以上の体重減少がありましたか
はい いいえ
24
(
ここ2週間)
自分が役に立つ人間だと思えない
はい いいえ
-8-
大阪市立大学看護学雑誌
第 2巻 (
20 6.
3)
表 10 見守りボランティアに必要なセルフ・
ネグレクト等
困難事例 早期 発見 の視 点
5項 目 (
運動)、
栄養 、口腔、閉 じこ もり、認知症、うつ」
介護予 防事業対象把握 「
基本 チ ェ ックリス ト2
に、次の困難事例発見の視点 11項 目を加 えた調査票 を作成す る。
住 んでいるのにカーテ ン、雨戸が閉 まった ままの状態
1週 間以上新聞受 けにチ ラシな どが溜 まった状態
夜遅 くなって も灯が燈 もらない
健康状態が悪化 して も医療受診 しない
経済的困窮状態 (
電気 ・
水道 の メー ターが止め られ るな ど)で も、生活保護等サ ー ビスを拒否
家庭 内 ・近隣 との人間関係悪化、 トラブルメーカーになっている
認知症 な どによる排掴、火の不始末が時 々ある(
灯 明 ロー ソク、煮炊 き)
近隣 との付 き合いな く孤立
不衛生 な生活 (
寝衣、
寝具の汚れ、
尿臭 、ゴキブ リ・
鼠 ・ノミなどの虫がい る。汚れ た食器、
腐 った生 ゴ ミ
の放置 な ど)
家屋 や窓が壊 れてお り、危険 な環境状態
・ 急激 な環境 の変化 (
転居 ・転入、身内の死亡、
事件 ・
事故 に遭遇、
重 い疾病 に雁患 )
見守 り支援システム
膚 待 対 処 .介 入 シ ス テ ム
(
セルフ ・ネグ レク トを含む)
生
図 3 高齢者虐待,セルフ・
ネグレスト支援システム
-9-
大阪市立大学看護学雑誌
おわりに
第 2巻 (
2006.
3)
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増 え続 け るわが 国の高齢 者の セ ル フ・ネグ レク トにつ
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1
1
(
2)
,
3354.
いての定義 は未 だ存在 しない。実態調査 も存在 しない。
l
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C.
A.
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(
2002):Pr
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西 欧諸 国では個 の最小単位 は個 人であ るが、人権意識が
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育 ってい ないわが 国では介護殺 人、介護心 中事件 等 の件
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1
72
41
730.
数か ら末 だ個の最小単位 は家族 とい う意識の強 さは拭 い
総 務省統計 局 (
2
002):国勢調査 2
000,人口問題研究所 ,
日本 の将 来推計 人 口.
きれ ない。 わが 国の セ ル フ・ネグ レク トの定義 は、西 欧
諸 国 と文化的 ・社会的価値観が異 なるこ とか ら、現状 で
20 4):国勢調査 , 2
00 ,人 口問題研 究
総 務省統計 局 (
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