要約と結論 要約と結論 i 要 要約と結論 1 .起業家教育システムが「先導的」であるためには、そのための基本的な戦略を 明確に設定することが必要である。本報告書で提唱する戦略は、基本となる「起 業家」という概念を、シュンペーターのいう「経済社会に新たな文脈」を導入 する者にかぎることとして、幅広くかつ狭く設定すること同時に、 「先導的たり うる分野」として E- コマースを選び、その E- コマースを教育分野に適用する ことによて「突破口としての先導性」を持たせることである(第1章)。 2 .先導的な起業家は、たんなる事業の開始ではなく、市場の創造や新規市場の 成長を目指さなければならない。ゲーム理論の用語でいえば、 「ゼロサム」の ゲームではなく、 「ポジティブ・サム」つまり「共に勝つ」ゲームを行ない、 市場のパイ自体を大きくすることが目的である。そのような起業家にとって 重要なのは、第一に、市場というものをいかに新鮮に捉えるかという視点の 獲得であり、 第二に、市場における財・サービスの相互連結の基盤となる技 術的アーキテクチャーの理解であり、第三に、市場における経済取引のルー ルを決めるマーケット・アーキテクチャーの新検討と学習である(第2章)。 3 .起業家がそのような知識を獲得しうるためには、それぞれについての世界最先 端の情報知識を効率的に学習できるような仕組みを持つ教育システムを提供し なければならない。ネットワークを利用した教育システムは起業家育成という 仕組みに合致しており、そこで発生するさまざまなコストをE - コマースの仕 組みで管理することによって、 驚くべき広範囲にわたる知識を効率的に収集し、 編集し、伝達するシステムを構想することができる。それは、既存の学校や教 育産業が担いうるものではなく、教育情報の仲介役を果たす新たな起業家を育 成することによって可能となるものである(第3章)。 4 .そのような観点から「先導的起業家育成システム」を効果的に形成していくに は、スタンフォード大学・シリコンバレーと連携し、そこで成果をあげている 「プロジェクトに基づく学習」を導入し、かつそれをつぎのように発展させてい くことが必要である。 「プロジェクトに基づく学習」 (Project-Based Learning)とは、これまでのもっ ぱら教室で行なわれ、先生が主導するいわゆる「座学」ではなく、学生と教授 とが現実の具体的な課題(プロジェクト)に取り組みつつ行なわれる「実学」 であるが、その実学が距離を離れても効果をあげるためには、遠隔教育への場 面の取り入れが必要であり、それは立体映像と立体音響の技術を使うことに よって可能となる(第4章)。 ii 要約と結論 5 .それと同時に、起業家が現に群生し、それらの人々のなかの相互作用によって 新しいビジネス機会がいわば「芋づる」的に生まれている現実の場所、たとえ ばシリコンバレーという「場」の生態系のなかに、短期的ではあっても「住み こみ」、嗅覚や触覚をも含めた「身体知」として場の生態系の真髄に触れるとい う学習の期間を加えることが不可欠である。そこで、どのように共同的な知識 (共同知)が形成されているかを経験的に学ぶ事が重要である(第5章)。 6 .これからの起業家にとっては、この「共同知」をどう獲得し、その質をどのよ うに高めてゆくかが最も重要な課題になる。インターネット・ビジネスやE-コ マースの世界においては、起業家が未開拓な市場に挑戦して一気にマーケット を獲得したり、人の気がつかない「ニッチ」を見出して成功したりする第一波 はすでに終わりつつあり、これからはより難しい、本格的な問題解決に挑戦し ていかねばならず、そのためには「共同知」の質こそが決め手になるからであ る。 「プロジェクトに基づく学習」によって、異なる分野の専門家がそれぞれの 概念をぶつけあい、共同知としての事業コンセプトを鍛えてゆく「場」をつく ることが可能になる(第5章)。 7 .先導的な起業家育成システムの土台として、 以上に述べたシステムを支援し、 発想の素材を提供し、議論の過程を記録し、有効な共同知を保存する「プラッ トフォーム」を形成しなければならない。しかし、大事なポイントは、そのプ ラットフォームを最初に作ってしまわなければ、育成事業が始まらないという ことではない。プロジェクトに基づいて教育を行なうことが、 「プラットフォー ム」をつくる過程であり、両者は同時に進行するのである。その意味で、 「プロ ジェクトに基づく学習」は、リアルタイムの経済に適した実効性ある起業家育 成システムたりうるものである(第5章)。 8 .具体的な教育プランとしては、まず前述の「身体知」ないし「経験知」を獲得 するための「一週間のスタディツアー」、 「一週間の管理職教育」、 「サマーイン ターンシップ」などから始め、次に遠隔教育による「3ヶ月間セミナー」 、 「一年間のフェローシップ」を実施し、それらを総合して「プロジェクトに基 づく学習」を日米間の共同プロジェクトとして行なうという形態が効果的 である。 「先導的起業家育成システム」を形成するためには、このような三層からなる 育成システムが必要であり、効果的であることを実証的に論じたのが本報告書 の内容であり、その三層についての具体的なプランを示したのが本報告書の結 論である。 要約と結論 iii
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