平成 2 4 年( ワ ) 第 49 号 等 原告 長 谷川 照 被告 九 州電 力 株 式 会社 玄 海 原 発 差止 請 求 事件 ほか 国 更新弁論 (原 発 が もた ら す 被 害と 本 件 訴訟 に お い て 被 害 を 論ず る 意 味 につ い て) 20 1 5 (平 成 2 7 )年 4 月 24 日 佐賀 地 方 裁判 所 民 事 部合 議 2 係 御中 原告 ら 訴 訟代 理 人 弁 護士 池 永 修 1、 原 発 がも た ら す 被害 と 本 件訴 訟 に お いて 被 害 を論 ず る 意 味に つ いて 更新 弁 論 を行 い ま す 。 2 、 昨 年 (平 成 2 6 年) 5 月 、福 井 地 方 裁判 所 は 、半 径 2 5 0k m 圏内 の住民との関係で大飯原発の再稼働を差し止める 判決を下しました。 また 、 昨 年1 0 月 に は、 大 津 地方 裁 判 所 が 、 高 浜 原発 の 差 し 止め を めぐ る 仮 処分 に お い て、 結 論 的に は 住 民 敗訴 で は あり ま す が 、保 全の 必要 性 の 判断 に お い て、 耐 震 設計 の 不 合 理性 、 避 難計 画 の 不 備 等 を 具 体的に指摘し、現状での再稼働はあり得ないとの見方を示しました 。 そし て 本 年( 平 成 2 7年 ) 4 月1 4 日 、 福井 地 方 裁判 所 は 、 高浜原 発に つ い ても 再 稼 働 を差 し 止 める 仮 処 分 決定 を 下 し ま し た 。 原子力施設がずらりと立ち並び原発銀座とも呼称される地域にお いて 、 こ のよ う な 司 法判 断 が 立て 続 け に 下さ れ る 流れ は 、 福 島第 一原 発事 故 以 前に は 考 え られ な か った こ と で す。 そし て 、 これ ら 一 連 の司 法 判 断は 、 圧 倒 的な 市 民 の賛 同 を 得 ていま 1 す。 福 島 第一 原 発 事 故の 直 後 こそ 、 電 気 不足 へ の 不安 か ら 将 来的 には 原発 か ら 脱却 す る と いう と こ ろで し か 一 致 で き な かっ た 民 意 は、 原発 が止 ま っ たま ま で も 電気 が 足 りる こ と が 実証 さ れ た今 日 で は 、多 少の 電気料金値上げの負担を甘受してでも原発からの即時脱却を望むと いう 声 が 多数 派 を 形 成す る ま でに な っ て いま す 。 福島 第 一 原発 事 故 を 経て 、 こ れほ ど まで に我 が 国 の原 発 を め ぐる 情 勢が 一 変 した 理 由 は 、裁 判官 を はじ め 、私た ち 国 民の ひ と り ひと り が、 原発がもたらすすさまじい被害を目の当たりにしたからにほかなり ませ ん 。 原発 を 稼 働し な く て も電 気 が 足り る 、 こ のこ と が 分か っ て し まっ た 以上 、 こ れほ ど ま で の被 害 を もた ら す 危 険が 僅 か でも あ る の であ れば 原発 な ど いら な い 、 国民 が そ う 考 え る の は至 極 当 然の こ と で あり 、極 めて 冷 静 かつ 合 理 的 な判 断 で ある と い え ます 。 3 、 私 た ちは 、 被 害 論の 総 論 とし て 準 備 書面 3 を 提出 し 、 原 発を も たら す被 害 を 、被 害 を も たら す 加 害の 構 造 に 着目 し て 述べ ま し た 。 準備 書 面 6で は 、 か かる 加 害 の構 造 に 着 目し つ つ 、原 発 が も たらす 被害 の 全 体像 を 鳥 瞰 し、 そ の うち 主 要 な もの を 、 準備 書 面 1 6の 1乃 至9で詳述しています。また、準備書面18において汚染水問題を、 準備 書 面 22 に お い て避 難 の 問題 を 取 り 上げ 、 福 島第 一 原 発 事故 後に 顕在 化 し た被 害 を 都 度主 張 し てい ま す 。 この よ う に、 私 た ち は、 原 発 がも た ら す 被害 の 総 体を こ の 裁 判で明 らか に す るこ と を 大 きな 課 題 とし て 掲 げ てき ま し た。 それ は 、 原発 が も た らす 被 害 の総 体 を 正 しく 把 握 する こ と 、 それが 司法 判 断 とし て 原 発 の是 非 を 判断 す る う えで も 、 何よ り 重 要 なこ とで ある と 考 えて い る か らで す 。 4 、 原 発 がも た ら す 被害 と し て最 大 か つ 最悪 の も のは 、 い う まで も なく 2 過酷 事 故 がも た ら す 被害 で す 。 福島 第 一 原発 事 故 は 、一 民 間 企業 が 、 原 発 と い う 危険 な 技 術 を用 い た営 利 目 的の 事 業 活 動に よ っ て、 極 め て 広範 囲 に わた る 自 然 環境 とそ の土地に根ざした地域社会を半永久的かつ壊滅的に破壊するに至っ た史 上 最 大 、 最 悪 の 環境 汚 染 事件 、 産 業 公害 事 件 で す 。 最 高 裁も 、福 島第 一 原 発事 故 が 起 こる 以 前 から 、 原 発 の過 酷 事 故は 「 万 が 一」 にも 起こ っ て はな ら な い と述 べ て いま し た が 、そ の 「 万が 一 」 は 現実 に起 こるのだということを、私たちは最悪の形で知ることになりました。 しか し 、 私た ち が目 の当 た り にし て も の が 福 島 第 一原 発 事 故 の被 害 の極 々 一 部に 過 ぎ な いこ と は 、戦 後 7 0 年を 経 て も広 が り を 見せ る広 島長 崎 の 原爆 症 の 例 、チ ェ ル ノブ イ リ 原 発事 故 後 の健 康 影 響 の例 など を見 る だ けで も 自 明 のこ と で すが 、 そ の よう な 人 の生 命 、 身 体、 健康 に対 す る 最悪 の 被 害 のほ か に も、 福 島 第 一原 発 事 故が も た ら した 被害 は、 人 が 生活 を し て 行く た め に必 要 な 自 然的 環 境 、社 会 的 、 経済 的環 境、 我 が 国の 国 家 経 済に ま で 公汎 な 被 害 を及 ぼ し てお り 、 そ の全 体像 を把 握 す るこ と は 容 易で は あ りま せ ん 。 私た ち は 、こ の よう な 原 発 が もた ら す 被 害の 総 体 を 把 握 す る ため の 試み と し て 、 被 害 論 の総 論 と して 準 備 書 面3 を 提 出し 、 被 害 をも たら す加 害 の 構造 に 迫 り まし た 。 そこ で 、 私 たち は 、 ①国 策 民 営 、 ② 徹底 した 利 潤 の追 求 、 ③ 本質 的 な 公害 企 業 性 、④ 徹 底 した 情 報 の 隠蔽 、⑤ 地域 支 配 とい う 5 つ の視 点 を 挙げ ま し た が、 原 発 を推 進 し て きた 被告 国と 電 力 会社 或 い は その 背 後 にい る 財 界 が、 福 島 第一 原 発 事 故が 起る 以前 か ら 、 何 を 目 的 とし て 、 どの よ う な 手段 を 用 いて 、 原 発 とい う危 険極 ま り ない 嫌 悪 施 設を 地 域 に押 し 付 け 、そ の 地 域社 会 を 蹂 躙し てき たか を 理 解す る こ と によ っ て はじ め て 、 福島 第 一 原発 事 故 後 に、 福島 や、 真 実 は福 島 と 同 じよ う に 放射 性 物 質 で汚 染 さ れた 関 東 を 含む 東日 3 本一 円 で 繰り 広 げ ら れ て き た 名ば か り の 避難 政 策 や復 興 政 策 、 こ れに より 隠 さ れ切 り 捨 て られ て 今 も 拡 大 、 増 幅し て い る 被 害 の 総 体を 正し く把 握 す る こ と が 可 能に な る と 考 え た か らで す 。 準備 書 面 6で は 、 こ のよ う な 加害 の 構 造 に着 目 し つつ 、 被 害 の総体 の把 握 を 試み て お り 、こ れ に 続く 準 備 書 面1 6 で は、 そ の う ち主 要な もの に つ いて 掘 り 下 げた 検 討 を加 え て い ます 。 福島 第 一 原発 事 故 に よ り 、 関 東 を 含 む東 日本 一 円 の広 範 な 国 土が 放 射性 物 質 によ っ て 半 永久 的 に 汚染 さ れ ま した 。 事故から4年が経過した今でもなお12万人を超える市民が郷里 を離 れ て 避難 生 活 を 強い ら れ てお り 、 こ れだ け を みて も 桁 違 いの 公害 事 件 で あ ると 言 え ま すが 、 汚 染さ れ た の は被 告 国 が避 難 区 域 とし て線 引き し た 福島 の 中 の ごく ご く 限ら れ た 地 域だ け で はな く 、 今 も 数 百万 とも数千万ともいうべき膨大な市民が放射性物質に汚染された地域 で生 活 し てお り 、 そ の一 方 で 、 補 足 す ら され て い ない お び た だし い 区 域外避難者が孤立無援の避難生活を強いられているという我が国の 異常 な 現 実を 直 視 す る必 要 が あり ま す 。 放射 線 被 ばく の 晩 発 的な 影 響 に閾 値 が な いこ と は ICRP です ら認 め てお り 、 すで に 福 島 では 多 く の子 ど も た ちに 甲 状 腺が ん だ け でな く代 謝異 常 な どの 様 々 な 健康 上 の 問題 点 が 指 摘さ れ て いま す 。 に もか かわ らず 、 福 島第 一 原 発 事故 か ら 4年 が 経 過 し、 復 興 の 美 名 の も と 、 賠償 金打 ち 切 りの 恫 喝 に よっ て 、 多く の 避 難 者が 汚 染 地域 に 帰 還 して いる とい う 恐 るべ き 現 実 を直 視 し なけ れ ば な りま せ ん 。 また 、 放 射性 物 質 に 汚染 さ れ た地 域 で は 、 ど れ だ け名 ば か り の復興 政策 で 取 り繕 お う と も、 長 い 歴史 の な か で育 ま れ てき た 伝 統 や生 活様 式、経済活動、そして地域社会そのものが壊滅的に破壊されており、 被告国や東京電力による被害の線引きや放射線被ばくに対する認識 4 の格 差 等 に起 因 す る 住民 間 の 軋轢 も 深 刻 です 。 国家経済に眼を向けると、福島第一原発の廃炉や汚染地域の除染、 損 害 賠 償 等に 要 す る 費用 は 、 被告 国 の 試 算 で も 1 0兆 円 を 超 える と さ れ て お り 、そ れ で も なお 過 小 評価 で あ っ て 、 例 え ば福 島 県 全 域を 年間 1mSv 未 満ま で 原 状 回復 す る なら ば 、 そ れだ け で も数 百 兆 円 とい う桁 違い の 費 用を 要 す る と言 わ れ てい ま す 。 この よ う な費 用 負 担 も、 結局 は、 電 気 料金 や 税 金 とし て 国 民に 転 嫁 さ れる こ と にな り ま す 。 福 島 第 一原 発 で は 、今 も な お、 メ ル ト スル ー し てど こ に あ るの かも 分からないむき出しの核燃料が日々大量の放射性物質を放出し続け てお り 、 行き 場 の な いま ま 日 々た ま り 続 ける 汚 染 水の 海 へ の 漏出 も後 を絶 ち ま せん 。 も は や 福島 第 一 原 発事 故 の 被害 は 、 加 害者 と 被 害 者 の 線 引 きも でき ない ほ ど に広 が り を 見せ て お り、 加 害 者 であ る 東 京電 力 は 瞬 く間 に実 質国 有 化 され 、 我 が 国そ の も のが 国 家 と して の 存 立 の 危 機 に 曝さ れて いる の で す 。 4 、 次 に 本件 訴 訟 に おけ る 被 害の 位 置 づ けに つ い て述 べ ま す 。 こ れ まで 述 べ た よう な 福 島第 一 原 発 事故 の す さま じ い 被 害を 目 の当 たり に し 、私 た ち 法 律家 は 、 この 原 発 の 問題 を ど のよ う に 理 解し 、判 断す べ き なの で し ょ うか 。 福 島 第一 原 発 事 故 の 後 、 もは や 被 告 国も 電 力 各社 も 、 原 発が 絶 対安 全で あ る など と は 主 張 で き な くな り ま し た。 原 発 が 過 酷 事 故 を起 こす 危険 が あ るこ と に つ いて は 、 もは や 争 い のな い 事 実に な っ て おり 、原 発が絶対安全だと信じられていた時代の過酷事故の危険性をめぐる 科学 技 術 論争 は 、 も はや 意 味 を失 っ て い ると 言 え ます 。 過 酷 事故 の 危 険 性が 、 具 体的 危 険 性 であ る か 、抽 象 的 危 険性 で ある かと い う 議論 は 、 あ まり に 非 科学 的 な 言 葉 上 の 問 題に 過 ぎ な いの であ 5 って 、 過 酷事 故 の 危 険性 は あ るの だ と い う 厳 然 た る事 実 、 過 酷事 故 が もた ら す 被害 を 直 視 した 議 論 が な さ れ な けれ ば な りま せ ん 。 ま た 、 福 井 地 裁 判決 等 に よっ て 指 摘 され た 技 術的 欠 陥 が 治癒 さ れな い場 合 に 原発 の 稼 働 など 許 さ れな い こ と は 当 然 の こと と し て 、 そ もそ も原 発 は 、過 酷 事 故 が起 き な くて も 、 一 定の 放 射 性物 質 を 自 然界 に放 出し 続 け 、処 分 方 法 も定 ま ら ない 放 射 性 廃棄 物 を 大量 に 生 成 し 、 将来 の世 代 に 償い き れ な い負 の 遺 産を 残 し 続 けて い ま す 。 原 発 で 働く 労働 者は 使 い 捨て に さ れ 、原 発 周 辺の 住 民 に 健康 影 響 が出 て い る とい う報 告 も 国 内 外を 問 わ ず 存在 し て いま す 。 過 酷事 故 の 具体 的 危 険 性が ある かど う か とい う 議 論 に終 始 し て 原 発 の 是 非を 論 ず るこ と は 、 原発 の抱 え る 問 題 点を 矮 小 化 した 議 論 であ る と 言 わざ る を 得ま せ ん 。 私 た ちは 、 原 発 の是 非 を めぐ る 法 的 判断 は 、 過酷 事 故 の 危険 性 が 存 在す る と いう こ と を 前提 に 、 原発 が も た らす 被 害 の総 体 を 正 しく 把握 し、 そ れ でも な お 原 発を 温 存 させ る こ と が許 さ れ るの か 、 そ れだ けの 優越的価値が存在するのかを冷静にかつ総合的に検証されるもので なけ れ ば なら な い と 考え て い ます 。 そ し て、 福 島 第 一原 発 事 故 の 被 害 を 目の 当 た りに し た 私 たち 福 島世 代の 法 律 家が 到 達 す べき 結 論 は、 原 発 を 廃炉 に す ると い う 結 論に 到達 せざ る を 得な い の で あっ て 、 それ は 、 過 酷事 故 が 「万 が 一 」 にも あっ ては な ら ない と し た 最高 裁 判 決の 当 然 の 帰結 で も あり ま す 。 全 国 の原 発 が 停 止し て 3 年 、 す で に 我が 国 の 国民 は 原 発 に依 存 しな い生 活 を 確立 し て お り、 電 力 会社 で す ら 原発 を 稼 働 し な く て も黒 字を 計 上 で き るよ う に な って い ま す。 こ の よ うな 情 勢 の中 で 、 電 力会 社が 更なる経済的利益を追求するためだけに無責任に原発を再稼働する こと な ど 、 も は や 圧 倒的 多 数 の国 民 は 望 んで い ま せん 。 貴 裁 判所 が 、 原 発が も た らす 全 て の 被害 を 正 面か ら 受 け 止め 、 原発 6 と決別する歴史的な判決を下されることを国民のひとりとして切望 し、 私 の 更新 弁 論 を 終え ま す 。 以上 7
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