廃プラスチックの処理と再資源化

シリーズ GSC
低炭素・循環型社会を先導する GSC
廃プラスチックの処理と再資源化
KAMIYA Takushi
神谷卓司
(社)プラスチック処理促進協会広報部 部長
プラスチックは,暮らしに欠かせない素材で多くの製品に使用され,使用後の処理と再資源化についてもさま
ざまな手法が開発され実用化されている。廃プラスチック処理について,LCA *1 の考え方も紹介しながら,循
環型社会のあり方を紹介する。
業系および 23 区の家庭系廃プラスチックの埋め立て処分
1 は じ め に
ゼロを目指し新区分での収集を本格的にスタートしてい
プラスチックの歴史は,1907 年アメリカのベークラン
る。このように廃プラスチックの処理については,ようや
ド博士がフェノール樹脂(商品名:ベークライト)を開発
くここに来て環境負荷面だけでなく,社会的・経済的な実
し,日本でも 1914 年にライセンス生産されたことに始ま
効性や効率性の観点からより望ましい方向に向かって大き
る。
く動き出した。
石油化学工業の発展とともにプラスチックの生産が急増
2 暮らしと産業を支えるプラスチック
し,2007 年はプラスチック誕生 100 年となったが,この
GSC
年のプラスチック国内消費量 1,000 万トンは,紀元前 200
プラスチックは,軽くて丈夫・さびや腐食に強い・透明
年頃から使用されてきた鉄と容量がほぼ同じであった。
性があり着色が自由・大量生産が可能・電気や電子的性質
一方,排出されるプラスチックの処理についての問題が
に優れている・断熱性が高いなどの長所がある。
顕現化した。循環型社会を構築していくための法制度は,
また,欠点としては,熱に弱い,キズやホコリがつきや
基本的な枠組みを定める循環型社会形成推進基本法におい
すい,ベンジンやシンナーに弱いものがある,などがあ
て,3R(リデュース,リユース,リサイクル)を推進し
る。
ていくこととし,資源有効利用促進法を施行している。ま
身のまわりのいくつかの使用例を以下に示す。
た,個別製品についてもそれぞれの特性に応じて,1995
2.1
家電の液晶テレビ
年容器包装リサイクル法(以下容リ法と略す)が制定・施
緻密で色鮮やかな高画質画像を広野視覚で再現する液晶
行を皮切りに家電,建設,食品,自動車リサイクル法がス
ディスプレー(LCD)は,偏光フィルム,位相差フィル
タートしている。このような動きの中で,特に容リ法は廃
ム,バックライト用拡散板などのプラスチックを重ねあわ
プラスチックのリサイクル技術開発を促進するのに大きな
せた構造になっている。電子部品・回路・ハウジング部分
役割を果たした。中でもペットボトル以外のプラスチック
にもプラスチックが使われている。
製容器包装として大量に分別収集される廃プラスチックは
2.2 自動車のガソリンタンク
多種類の樹脂が混ざり,かつ食品付着等による汚れや異物
4 種類の樹脂を 6 層に重ね合わせ,燃料の透過を防止,
が混入していることから,多くの手法が開発され,実用化
複雑な形状も一発成型で車内空間が拡大可能で,軽量化に
されている。
も貢献している。今後普及が予想されるバイオ燃料にも対
そして,環境省は,廃プラスチックの処理・処分に関
応,15 年・15 万マイル(29.6 万 km)の北米安全基準を
し,最終処分場のひっ迫していることとダイオキシン類な
満たしている。
どの有害物質の発生抑制が可能な焼却施設の導入が進み,
性能や安全が確保されてきたことから,処理の適正化を図
2.3 食品の容器包装(パウチ,詰め替えバック,カッ
プ状容器など)
るため,分別基準を「可燃ごみ」として統一し,収集・焼
加熱殺菌処理から冷凍保存まで,用途にあった容量で食
却処理していくことに変更した。これにより 2005 年 5 月,
品を衛生的に消費者に供給する役割を果たしている。レト
廃棄物処理法の基本方針は「廃プラスチックについては,
ルト性,密封性,再封性,アルミやバリア樹脂層により酸
まず発生抑制を,次に再生利用を推進するとした上で,な
素,紫外線を遮断し食品の長期保存性や,軽量化にも応え
お残る物について,直接埋立てを行わず,熱回収を行うの
ている。
が適当である」と改正された。また,東京都においても事
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―持続可能な社会を目指す化学技術の過去・現在・未来―
2.4
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医療の輸液用バック容器(栄養輸液,透析製剤の
EU では,エネルギーリカバリーと呼ばれ,多くの国で
容器)
行われている(図 2)1)。
耐熱性があるので加熱殺菌処理ができ,軽くて柔軟性が
あるため通気針不要の自己排液性により,クローズドシス
テム(院内感染防止)で使用されている。混注性が容易で
誤薬投入を防ぐダブルバックのものも使われている。
2.5
建材の塩ビ窓枠
アルミサッシと単板ガラスに比べ,塩ビサッシと低放射
複層ガラスと組み合わせることでエネルギーロスを 1/3 に
でき,水滴(結露)の発生も抑えられる。欧米では省エネ
対策の観点から広く普及しており,日本での普及が期待さ
れている。
3 プラスチックのリサイクル手法
廃プラスチックのリサイクル手法は,長年の技術開発に
よって多くの手法が実用化された。これらの手法は,図 1
のように 3 つに分類される。
図 2 EU 各国の廃プラスチック処理。
4 プラスチックの生産から処理処分のフロー
当協会では,毎年プラスチックの生産から処理処分まで
表している。
2010 年 12 月に発表した「2009 年 プラスチック製品の
生産・廃棄・再資源化・処理処分の状況」(プラスチック
のマテリアルフロー図)について解説する(図 3)2)。
図 1 プラスチックリサイクルの手法。
3.1
マテリアルリサイクル(MR)
廃プラスチックを原料としてプラスチック製品に再生す
る手法で,材料リサイクルとも言う。
産業系廃プラスチックは,樹脂の流通段階で排出され,
種類がはっきりしていて,汚れが少なく,量的にまとまっ
ていることから,MR に多く利用されている。
3.2
ケミカルリサイクル(CR)
廃プラスチックを化学的に分解するなどして,化学原料
に再生する手法。
モノマー・原料化,高炉原料化,コークス炉化学原料
化,ガス化,油化などがある。
3.3
図 3 2009 年プラスチックのマテリアルフロー図。
サーマルリサイクル(TR)
廃プラスチックを固形燃料にしたり,焼却して熱エネル
ギーを回収する手法。熱回収,エネルギー回収とも言う。
2009 年の値は,リーマンショック(2008 年 9 月)によ
セメントキルン *2,ごみ発電,RPF *3 などの固形燃料と
り景気が大幅に後退した影響を大きく受け,国内樹脂製品
して利用している。
消費量は 843 万トン(−23%),樹脂生産量は 1,121 万トン
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の数量を調査・発表し,パンフレットとホームページで公
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(対前年比−17%)とそれぞれ大幅に減少した。廃プラス
チック総排出量も 912 万トン(−9%)と減少したが消費
量,生産量に比べ減少率は小さい。これは当年に消費・排
出されるもの以外に,過去に市場に投入され,ストックさ
れていたものが排出されてくるためである。処理処分方法
では,廃プラスチックの全体量が 998 万トンから 912 万ト
ンへと 86 万トン減少した中でマテリアルリサイクルは
200 万トン(−6%),サーマルリサイクルは 486 万トン
(−6%)と減少したが,ケミカルリサイクルは高炉・コー
クス炉原料やガス化原料としての利用が伸びたため,32
万トン(+28%)に増加した。その結果,有効利用量は
718 万トンで,有効利用率は前年に対し 3 ポイント増え
79% となった。
なお,日本では,原油を精製して得られるナフサから石
油化学製品を作っている。2009 年に消費されたナフサ量
は約 4,400 万 kL(重量換算すると約 3,080 万トン)で,こ
の中から約 1,100 万トンのプラスチックが製造された。ナ
フ サ 約 4,400 万 kL は, 原 油 約 4 億 4,600 万 kL( 約 3 億
7,900 万トン)から得られる。したがって,プラスチック
の生産に使用された原油の割合は,約 2.9% となる。
5 リサイクル手法の比較と LCA
プラスチック処理促進協会は 1991 年,プラスチックと
リサイクルに関する LCI(ライフサイクルインベントリ)
GSC
と LCA の検討にいち早く着手した。1999 年には「石油化
学製品の LCI データ調査報告書」
(2009 年に更新版発行済
図 4 リサイクル手法ごとの成果物と手法間比較。
み ) と,2011 年 3 月「 樹 脂 加 工 に お け る イ ン ベ ン ト リ
データ調査報告書」で一連の汎用樹脂から樹脂の加工まで
ケット法により基準ケースとの比較(差)によって評価し
を含めた汎用樹脂製品の LCI データを公表している。こ
た。基準ケースとの比較は,
「機能」を合わせる必要があ
れらのデータをベースに 2001 年以降,廃プラスチックの
る。リサイクルでは,廃プラスチックの処理を通して何ら
リサイクル,処理手法についての環境負荷評価実施,その
かの新しい製品が製造される。言い換えるとリサイクルは
後,これに経済的な概念と社会的な重み付け係数を導入
「廃棄物の処理」,
「リサイクル製品の製造」という 2 つの
し,環境負荷と経済性の二つの軸で評価するいわゆるエコ
「機能」を持っている。したがって,リサイクルしない場
効率分析を試みている。
合では「廃棄物処理(焼却発電)
」に加え,
「リサイクル製
また,2008 年には,それまでの検討をより分かりやす
品に見合った製品の製造」と言う「機能」を設定する必要
い形でまとめ直し,「より理解されやすい LCA 手法(製
がある。検討の範囲としては自治体により分別収集した
*4
品バスケット法 )の研究」として発表している。
後,圧縮・梱包(ベール化)されたものを開始点とし,リ
2010 年その報告書を基に一般消費者にも理解しやすく
サイクル施設に輸送し,リサイクル製品として使用される
要点をまとめて解説し,HP の新コンテンツ「プラスチッ
までとした。分析に当たっての主な前提としては,マテリ
3)
クのリサイクル 20 の?(はてな)
」としてアップした 。
アルリサイクルで得られた再生樹脂原料は新規樹脂に対し
以下にその一部を紹介する(図 4)。
て品質が同等でないことから,その品質の低下を新規樹脂
検討するリサイクル手法は,マテリアルリサイクル
の量比に置き換えて何 % 相当という「新規樹脂代替率」
(MR)は再生樹脂の製造,ケミカルリサイクル(CR)は
という換算指標を導入した。高炉原料化,RPF の代替物
高炉原料化,サーマルリサイクル(TR)は RPF の 3 つ
はエネルギー等価換算で石炭代替とする。
と,リサイクルしない基準ケース(発電効率 10% の焼却
このような考え方で 3 つのリサイクル手法についてそれ
発電処理)を取り上げている。それぞれのリサイクル手法
ぞれ基準値と比較評価し,資源・エネルギー消費削減効果
の環境負荷と資源・エネルギー消費削減効果は,製品バス
と CO 2 削減効果を図 5 に示す 3)。
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図 6 廃プラスチック処理の将来像。
図 5 資源・エネルギー消費削減効果と CO 2 削減効果。
荷が増加することもある。
「集めたものをどうリサイクル
するか」ではなく,「どのようなものを何にリサイクルす
しない場合に対して削減効果があるとの結果を得た。リサ
るために集めるか」へ,発想を転換する必要がある。汚れ
イクル手法間の比較では,結論として,資源・エネルギー
の少なく単一で回収や選別が可能な廃プラスチックはマテ
消費削減効果と CO 2 削減効果いずれの項目もマテリアル
リアルリサイクル,混合もしくは汚れや劣化のひどい廃プ
リサイクルがケミカルリサイクル,サーマルリサイクルに
ラスチックはケミカルリサイクルやサーマルリサイクルで
比べて劣っていることが確認された。
処理される方向に向かうべきであると考える。
GSC
この評価では,いずれのリサイクル手法ともリサイクル
このことから,現状の容器包装リサイクル法でのリサイ
参考文献
クル費用の増大という問題は,入札時にマテリアルリサイ
クルが優先され,RPF が実施されていないことに起因し
ていることがわかる。日本における,廃プラスチック処理
の将来の理想像としては,図 6 に示す 3)。
一般廃棄物,産業廃棄物ともに,単一素材は,マテリア
1) Plastic Europe HP Plastics─the Facts 2010.
http://www.plasticseurope.org/(2010 年 12 月)
2) 2009 年プラスチック製品の生産・廃棄・再資源化・処理処分の状況
(プラスチック処理促進協会 2010 年 12 月発行).
3) プラスチックのリサイクル 20 のはてな
(プラスチック処理促進協会 HP 2011 年 5 月現在)
ルリサイクルに適し,汚れているもの・混合物・ラミネー
http://www.pwmi.jp/plastics-recycle20091119/.
トフィルムなどの複合材は,ケミカルリサイクルとサーマ
用語解説
ルリサイクルが適している。
*1
6 お わ り に
廃プラスチックのリサイクル・有効利用の手法は,プラ
スチックの特性を活かし,近年著しい技術進歩があり,今
後もさらなる進歩が期待されるが,併せてその手法,シス
テムの客観的かつ合理的な適正評価法開発の重要性が増し
てきている。リサイクルが目的になってしまうと,環境負
LCA(Life Cycle Assessment)
:製品の原料採取から製造,消費,廃
棄まで範囲を決めて,ライフサイクル全体の環境影響を科学的,客観
的,定量的に評価する手法.
*2 セメントキルン:セメント製造用の回転式窯.
*3 RPF(Refuse Paper & Plastic Fuel):廃プラスチックと古紙を原料
にした固形燃料.
*4 製品バスケット法:リサイクル手法の機能を合わせて評価する手法.
[連絡先]104─0033 東京都中央区新川 1─4─1 住友六甲ビル 7 階(勤務
先)
。
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