マスターズ2 女子47kg 辻紀子 今年も晴れてマスターズクラシックの代表選手として世界の大舞台で戦う機会を与えられ ました。昨年は第1回という事で勢いのまま出場し運良く勝てたという感じでしたが、今 年は勝ちたい!という欲があります。が、そうは簡単にはいきません。 今年優勝争いになるであろうと思われる選手は 2 年前まで一般の部で活躍していたオース トラリアの選手で競技歴も長い世界のベテランリフターです。そんな選手にパワー歴 4 年、 今延び盛りの自分がどこまで挑戦する事が出来るかです。 まず自分への課題としてスクワット、ベンチを落とさず 3 試技ともとる事でした。が、 スクワットの第 3 試技を失敗に終わる。得意のスクワットの失敗、しかも練習では普通に 挙がっていた重量だったゆえに気持ちが沈む。やはり練習と試合は違うのだと痛感する。 ここでの差は 5kg 以内に抑えたかったが、結果 7.5kg リードされる。しかし気持ちを切り 替えるしかない。 金メダルにかける思いはどうしても諦めきれない。次のベンチでは足台の位置に泣かされ ながらも巻き返し、反対に 5kg のリードを取る。デッド前の 5kg のリードなど何の安心も 出来ないのだが、少しでも差を縮める事がベンチでは課題であったため気持ちは再びリセ ット。クリアーな気持ちでデッドに望む。 第 1 試技で差は 10kg のリードとなる。まだ安心出来ない。 相手はかなり余裕な引きかただ。 第 3 試技で重量はねあげてくるか?可能性大。第 2 試技、差は 12.5kg に開く。しかし第 2 試技も余裕あるように見える。運命の第 3 試技、先に相手が申請した重量に動揺はしない。 私が第 3 試技を失敗しても勝敗が決まってしまう重量だ。向こうもベテランの意地にかけ て、日本の新米リフターに簡単に勝ちを譲ったりはしないだろう。 ここからの駆け引きは今大会、私のセコンドについて下さったベテラン勢の出番です。第 3 試技、いざ自分の重量申請をどうするか、、、迷うとこだが山口団長さんから『ここはまず 一旦相手に合わせましょう』とアドバイスを頂く。案の定、時間間際になって重量変更し てくる。すかさずこちらも重量変更するのだが、125kg を成功させない限り自分に勝利はな い。山口団長さんより『125kg いけますか?』と問われる。 私は確かにバーベル握ってのトレーニング歴は長いのだが、ことデッドリフトとなるとパ ワーを始めてからの新種目で今一つ自分のものになってない。一番発展途上の種目である。 125kg はついこの間、東海パワーで出したばかりの自己新。 しかも今大会はたった 6 人ローテーションで、順番が回ってくるのも早く疲労が回復して ない。スクワット、ベンチと第 3 試技をことごとく失敗している。神の悪戯か昨年と同様 の展開だ。最終試技デッドの 3 本目まで勝負つかず。張りつめていた集中力も長い戦いで そろそろ限界にきている。が、挑戦するしかないのです! 金メダルかけた最後の 1 本。自分が成功するか否かで全てが決まる。 リストラップを巻く手が震える。山口団長さんより『相手はもう顔に余裕ないですよ。勝 負諦めてるかもしれない。いけますよ。さ、行きましょう!』と声を掛けて頂く。 100%の緊張に心なしか一息のゆとりが出来る。窮地に立たされた時、むやみに頑張って! の言葉はさらに苦しめられるだけだ。暗黒にほのかな炎が灯ったような希望を抱き無心に なってプラットフォームに向かう。最初の浮きが第2試技より軽いと感じた時、絶対成功 すると確信しました。 試技成功!白 3 つ点いた瞬間、これまでの人生の中で一番やり遂げた感を味わいました。 同時に世界記録更新!。昨年同様に本当に苦しい戦いでしたが今年の勝利は昨年とは比べ 物にならないくらい大きな感動があり、表彰式が始まっても半分夢うつつで、あんなに聞 きたかった君が代も半ば BGM のようでしかありませんでした。 今大会で私が一番強く感動した事。それは自分の勝利ではなく縁の下の力持ち、セコン ドの皆さんのご尽力です。私は普段が1人トレーニングなので、アドバイスしてもらう事 もなければ補助を手伝ってもらう事もないです。プレートの付け替えも自分1人でやりま す。ベンチのセンター補助もないです。これまでずっと1人でやってきたのであまり協力 者の必要性を感じていませんでした。ですが今回ほどセコンドの大切さを有り難く感じた 事はないです。 私が長年携わってきたボディビル競技。25 年間という長い競技生活でしたがそのボディ ビルも試合中は1人です。そして華やかです。ステージ、スポットライ、拍手に喝采、カ メラのフラッシュ。華やかが当たり前のボディビルステージ。がそこにも選手に華を添え るための裏方の尽力がありました。 今回私のセコンドについて下さった山口団長、丹羽選手。お二方は選手としてもベテラン。 椎木選手は今回が初の世界大会だったそうですが、椎木選手と会話していて【自分も将来 はこんな名セコンドになりたいな】と思いました。椎木選手は選手をリラックスさせるの がとっても上手なのです。皆さんのサポートが無かったらきっとメダルの色が変わってい た事でしょう。 今年は選手という枠を越えて広い視野で競技に触れる事が出来、いく回りも成長できた ような思いで帰国しました。今後、益々パワーリフティングの魅力にはまってしまいそう です。 I Love Power Lifting!
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