抗がん剤の作用メカニズム

2015/9/29
抗がん剤の作用メカニズム
概説
2015.9.29
懸川友人
我が国の人口ピラミッドー平成24年10月1 日現在ー
2015/9/29
悪性腫瘍
=悪性新
生物
癌腫:上皮性組織に発生する
扁平上皮癌:皮膚、子宮頚部、咽頭、食道、肺
⇒薬物効きにくい
腺癌:肺、胃腸、腎、肝、胆嚢、胆管、甲状腺、
前立腺、乳腺、卵巣
肉腫:非上皮性組織に発生する
腸リンパ腫、卵巣繊維肉腫、子宮筋腫、骨肉
腫、骨髄腫、骨髄性白血病、神経線維肉腫、
悪性リンパ腫
平成24年人口動態統計の年間推計
減少傾向は胃癌だけ
2015/9/29
世界の大型医薬品売り上げランキング(2012年、抜粋)
順位 製品名
一般名
主な薬効/クラス
メーカー
3
リツキサン
リツキシマブ
非ホジキンリンパ ロシュ/バイオジェン・アイ
腫他
デック
8
ハーセプチン
トラスツズマブ
乳がん
ロシュ/中外製薬
7
アバスチン
ベバシズマブ
転移性結腸がん
ロシュ/中外製薬
イマチニブ
抗がん剤
ノバルティス
多発性骨髄腫
セルジーン
17 グリベック
26 レブリミッド/レブラミド レナリドマイド
分子標的薬?
:疾病の要因となる特定の生体内分子を標的として、その機能を制御することにより治療する
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分子標的治療薬
分子標的治療(Targeted therapy)とは体内の特定の分
子を狙い撃ちしてその機能を抑えることにより病気を治
療する治療法。
正常な体と病気の体の違いあるいは癌細胞と正常細胞
の違いをゲノムレベル・分子レベルで解明し、癌の増殖
や転移に必要な分子を特異的に抑えたり、関節リウマチ
などの炎症性疾患で炎症に関わる分子を特異的に抑え
たりすることで治療する。
従来の多くの薬剤もその作用機序を探ると何らかの標的
分子を持つが、分子標的治療は創薬や治療法設計の段
階から分子レベルの標的を定めている点で異なる。
https://www.utobrain.co.jp/news/20140613.shtml
抗がん剤;大幅な改善!
出典:「政策研ニュースNo.38」(2013年3月)より引用
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図6-28
表6-2
腫瘍の分類(p203)
図6-29
がん細胞と正常細胞の特徴(p204)
代表的ながん原遺伝子とその機能ならびに関連するがん(p206)
表6-3
ヒトのがんにみられるがん原遺伝子の活性化の機序
(p207)
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表6-4
代表的ながん抑制遺伝子とその機能(p208)
図6-31 がん原遺伝子およびがん抑制遺伝子の変異とがん化の関係(p208)
遺伝性腫瘍ではがん抑制遺伝子の1stヒットに相当する遺伝子変異を先天的
に親から受け継いでいるので,発がんリスクが高くなる.
図6-32 サイクリン/CDK複合体による細胞周期の制御(p209)
G1期:CDK4(またはCDK6)はサイクリンDと結合し,G1期を進行させる.
CDK2はサイクリンEと結合し,S期を開始させる.
S期:CDK2はサイクリンAと結合し,S期を進行させる.
G2期:CDK1はサイクリンAと結合し,G2期を進行させる.またサイクリンB
と結合し,M期を開始させる.
図6-33
Rbおよびp53タンパク質による細胞周期の制御機構(p210)
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子宮体癌(しきゅうたい癌、 Endometrial cancer)
は、子宮癌のうち子宮体部に発生する癌。
子宮腔側の上皮組織である子宮内膜に発生し、
子宮内膜癌(しきゅうないまく癌)と同義。なお、子
宮体部の筋層に発生する悪性腫瘍は、子宮肉腫
と呼ばれる。
組織学的には腺癌
子宮頸癌(しきゅうけい癌、Cervical cancer)は、子
宮頸部に発生する癌。ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)
の感染によって発症する性行為感染症
組織学的には扁平上皮癌(SCC抗原)
成人T細胞白血病
・西南日本に予後不良の悪性リンパ腫が多い
・家族内発症が悪性リンパ腫にみられる
・ホジキン病が南九州に多い
・セザリー症候群や皮膚T細胞リンパ腫が九州に
多い
・リンパ腫から白血化し、急激に死にいたる症例が
認められる
・末梢血に核が分葉した奇妙な白血病細胞が認め
られる
前立腺癌は、欧米では男性癌死亡例の約20%
(肺癌に次いで第2位)を占める頻度の高い癌
日本では約3.5%と比較的頻度の少ない
近年、食事の欧米化、高齢人口の増加、PSA(前
立腺特異抗原)検査の普及に伴い、その発見頻
度は増加傾向にあり、近い将来、胃癌を抜いて肺
癌、大腸癌、肝癌の次に多い癌になると予想され
ている
非小細胞肺癌では、stageIII期までは手術療法が
検討される。
stage IV以上の臨床病期では化学療法、放射線療
法が治療の主体となる。
進行肺癌の初回治療ではシスプラチンを用いた2
剤併用化学療法が推奨されている
ゲフィチニブは肺癌細胞にEGFR遺伝子変異があ
れば高い奏功率が期待できる
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乳癌の約90%は乳管から発生し、乳管癌と呼ば
れ、小葉から発生する乳癌が約5~10%あり、
小葉癌と呼ばれる
現在わが国では、B型肝炎ウイルスやC型肝
炎ウイルスの持続感染の状態にある人が、そ
れぞれ100万人以上
年次推移は、罹患率、死亡率ともに一貫して増
加しており、出生年代別では、最近生まれた人
ほど罹患率、死亡率が高い
B型慢性肝炎のインターフェロン療法:
HBe抗原陽性、ALT値が上昇したあとの肝炎の
回復期に投与
罹患率の国際比較では、東アジアよりも欧米、
特に米国白人が高く、アメリカの日本人移民は
日本国内在住者より高い
C型慢性肝炎のインターフェロン療法:
インターフェロンαとリバビリンの併用療法
A型肝炎のインターフェロン療法の適用はない
肝細胞癌の多くは慢性肝炎・肝硬変から発生
•C型肝炎:70~80%で最多
C型肝炎が原因の場合にはほとんどが肝硬変を
経て発症
発癌率は年7~8%であり、6年から7年で50%が発
癌する
•B型肝炎:10%~20%
B型肝炎では肝硬変へ至る前の、慢性肝炎から発
症することも多い
B型肝炎ウイルス遺伝子が感染肝細胞の癌遺伝
子を活性化しているためと考えられる
比較的初期に見つけられた抗癌薬は、大規模な
天然および合成物質の「スクリーニング」や「伝承
薬」から見つけられた。→結果として効く仕組み
が判った。
最近の抗癌薬は、癌細胞の特徴を目標にして、
その増殖抑制や縮小を目指して設計されている。
最も特徴的なものが「分子標的薬」である。
その開発には、従来の「スクリーニング」に比べ
数十倍の開発費がかかる。→目的の癌以外には
効かない。
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抗癌薬の分類
薬 効 分 類 名
アルキル化剤(その他)
アルキル化剤(ニトロソウレア類)
アルキル化剤(マスタード類)
アロマターゼ阻害薬/閉経後乳癌治療薬
ウイルスワクチン類
抗乳腺腫瘍薬
サイトカイン(インターフェロン)
サイトカイン(インターロイキン)
代謝拮抗薬(葉酸拮抗薬)
代謝拮抗薬(その他)
代謝拮抗薬(ピリミジン拮抗薬)
代謝拮抗薬(プリン拮抗薬)
トポイソメラーゼII阻害薬
トポイソメラーゼI阻害薬
白金製剤
微小管阻害薬(タキサン)
微小管阻害薬(ビンアルカロイド)
図3-1
その他の抗癌剤(海洋生物由来)
ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤
非特異的免疫賦活薬
分子標的治療薬(抗体)
分子標的治療薬(小分子)
分子標的治療薬(レチノイン)
膀胱腫瘍再発抑制剤
ホルモン(LH-RHアゴニスト)
ホルモン(エステラジオール)
ホルモン(抗アンドロゲン薬)
ホルモン(抗エストロゲン薬)
ホルモン(その他)
男性ホルモン薬(アンドロゲン)
光線力学的療法用剤
抗生物質(アントラサイクリン系)
抗生物質(アントラキノン系)
抗生物質(その他)
細胞周期(p62)
図3-22
真核生物のDNA複製開始機構(p87)
図3-2
細胞周期チェックポイント
(p63)
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細胞周期と抗癌薬
タンパク質の合成、
RNAの転写、DNAの複製
New情報伝達阻害薬
S期
白金製剤
古典代謝拮抗薬
トポイソメラーゼ阻害薬
タンパク質、RNA、
DNAを増やす準備
アルキル化剤
抗生物質
G1期
M期
G2期
染色体は4n状態
有糸分裂
微小管阻害薬
図3-3
体細胞分裂の過程(p65)
白金製剤
図2-8
相補的塩基対とその間の水素結合の数,DNA二重らせんの溝とピッチ
(p29)
DNAには5′と3′の方向性があり,二本鎖は互いに逆向きに相補的塩基対を形
成する.
プラトシン注インタビューフォームより
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miriplatin
NH3
Cl
Pt
Cl
cisplatin
NH3
白金製剤(p91)
intercalation
分子または分子集団が他の2
つの分子または分子集団の間
に入り込むこと
ethidium bromide:
DNAの染色に使用する試薬
Intercalation
=平面構造の分子
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表3-1
図2-17
原核生物と真核生物のDNA複製関連タンパク質の比較(p85)
DNAトポイソメラーゼの反応(p36)
intercalation
intercalation
doxorubicin
daunorubicin
Intercalationによりトポイソメ
ラーゼIIを阻害する
O
OH
O
OH
H2N
OH
O
Intercalationによりトポイソメ
ラーゼIIを阻害する
アントラサイクリン系
アントラサイクリン系
O
O
OH
O
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intercalation
トポイソメラーゼ阻害薬
I型トポイソメラーゼを阻害する
トポイソメラーゼ阻害薬
etoposide
irinotecan
O
O
H
HO
H
O
O
O
O
H
HO
O
OH
O
Intercalationによりトポイソメ
ラーゼIIを阻害する
O
N
O
O
N
O
camptothecin
HO
O
抗がん抗生物質:アルキル化剤
mitomycin C
bleomycin
ナイトロジェンマスタード類の抗がん剤(p90)
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cyclophosphamide:シクロフォスファミド
アルキル化剤
busulfan:ブスルファン
図2-4
塩基の分類と種類(p25)
リボース5-リン酸
PRPP
5-ホスホリボシルアミン
デオキシヌクレオチドの de novo 合成:
リボヌクレオチド還元酵素
ADP
GDP
CDP
UDP
IMP
AMP
GMP
ADP
GDP
ATP
GTP
➡
➡
➡
➡
dADP ➡ dATP
dGDP ➡ dGTP
dCDP ➡ dCTP
dUDP ➡ dUMP ➡
dTMP ➡ dTDP ➡ dTTP
図2-35 プリン塩基の再利用(サルベージ)経路(p56)
APRT:アデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ
HGPRT:ヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ
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デオキシヌクレオチドの de novo 合成阻害薬
リボヌクレオチド レダクターゼ阻害剤
hydroxycarbamide
(hydroxyurea)
葉酸代謝拮抗薬
ジヒドロ葉酸レダクターゼ阻害薬(DHFR阻害薬)
代表的な葉酸代謝拮抗剤の構造(p55)
サルファ剤はパラアミノ安息香酸部分の構造に類似しており,葉酸の合成
を阻害する.
アミノプテリンはメトトレキセートのN10の N-CH3が NHとなっている.
methotrexate:メトトレキセート
代謝拮抗剤
ピリミジンとの拮抗
gemcitabine
cytarabine
mercaptopurine
5-FU
メルカプトプリンは対応する リボ核酸に変換され、IMPを擬態す
る。すなわち6‐メルカプトプリンリボ核酸(TIMP)はプリン核酸の生
合成と代謝を阻害する。
そのことにより、ヌクレオチドの相互変換に干渉するほか、DNAと
RNAの合成とそれらが関与する、特にセントラルドグマの機能を阻
害する。
tegafur
2015/9/29
細胞分裂毒の働き(p66)
ニチニチソウ(Catharanthus roseus)
細胞分裂毒の働き(p66)
写真はWikipediaより引用
ヨーロッパイチイ
2015/9/29
微小管重合阻害薬
微小管脱重合阻害薬
HO
N
H
N
vincristine
N
HO
OO
N
O
paclitaxel
O
O
OH
O
O
vinblastine
アロマターゼ阻害薬
docetaxel
内分泌療法
エストロゲンと競合的に結合し、抗
エストロゲン作用を示すことによる
tamoxifen
O
toremifene
N
アロマターゼ阻害薬
anastrozole
letrozole
2015/9/29
ビカルタミドは、前立腺腫瘍組織のアンドロゲン受容体に対するアンドロゲンの
結合を阻害し、抗腫瘍効果を発揮する。
bicalutamide
抗腫瘍作用の機序は、OH‐フルタミドが前立腺がん組織のアンドロゲン受容体に対
するアンドロゲンの結合を阻害することである。
F
F
F
O
N+
O
flutamide
O-
N
H
光線力学的療法用剤
効能/効果
外科的切除等の他の根治的治療が不可能な場合、
あるいは、肺機能温存が必要な患者に他の治療法が
使用できない場合で、かつ、内視鏡的に病巣全容が
観察でき、レーザ光照射が可能な疾患。
早期肺癌(病期0期又はI期肺癌)
レーザ光を照射することにより一重項酸素が生じる。
この一重項酸素が腫瘍細胞に直接障害を与えること、
あるいは腫瘍血管に障害を与えることにより、抗腫瘍
効果を示すと考えられる。
前立腺癌および閉経前乳癌
leuprorelin
高用量のLH-RH又は高活性LHRH誘導体であるリュープロレリン酢
酸塩を反復投与すると、初回投与直
後一過性に下垂体-性腺系刺激作
用(急性作用)がみられた後、下垂
体においては性腺刺激ホルモンの
産生・放出が低下する。
更に、精巣及び卵巣の性腺刺激ホルモンに対する反応性が低下し、
テストステロン及びエストラジオール産生能が低下する(慢性作用)。
リュープロレリン酢酸塩のLH放出活性はLH-RHの約100倍であり、そ
の下垂体-性腺機能抑制作用はLH-RHより強い。リュープロレリン酢
酸塩が高活性LH-RH誘導体であり、下垂体-性腺機能抑制作用が
強い理由は、リュープロレリン酢酸塩が、LH-RHと比較して蛋白分解
酵素に対する抵抗性が高いこと、LH-RHリセプターに対する親和性が
高いことなどによる。更に、本剤は徐放性製剤であるので、常時血中
にリュープロレリン酢酸塩を放出して効果的に精巣及び卵巣の反応性
低下をもたらし、下垂体-性腺機能抑制作用を示す。
講義用HPアドレス:
http://www1.jiu.ac.jp/~tomohito/kamoku.htm
講義資料:
ゲノム創薬、9月16日(毎水)~
生物系実習 11月9日(月)~11日(水)
薬物治療学IV 9月29日(火)
特論演習 11月&12月、集中