平成 28 年度 卒業論文「ミャンマー産植物抽出エキスの抗腫瘍 活性一次スクリーニング」 愛知学院大学薬学部医療薬学科 生体有機化学講座 10A076 柴田 理恵 現在、がんの標準的な治療法は、外科療法、放射線療法、化学療法の 3 つに大別され る。がんが比較的早期で見つかり転移もなく局所である場合、外科療法や放射線療法が 行われる。一方、がんが進行しており転移の可能性がある場合には外科療法、放射線療 法に加え、化学療法が検討される。現在、化学療法で用いられる抗がん剤は、第 1 次、 第 2 次世界大戦で使用された毒ガスから改良されたナイトロジェンマスタードに始ま り、アルキル化薬、代謝拮抗薬、抗がん性抗生物質、微小管阻害薬、白金製剤、分子標 的薬と次々に新薬が開発されている。中でも分子標的薬は、がん細胞の持つ特異的な分 子生物学的特徴に対応する分子を標的にした薬剤であり、より副作用を少なく抑えな がら治療効果を高める期待がされている。しかし、分子標的薬は非常に高価であるため、 今後の医療経済の破綻が危惧されている。そこで、分子標的薬に代わるような副作用が より少なく治療効果の高い新薬の開発が必要であると考えられる。本研究では、長い間 国が閉ざされていて生息する植物などの研究がなかなか進んでいないミャンマー連邦 共和国由来の天然物に着目し、ミャンマーで採取された植物から抽出したエキスに対 する抗腫瘍活性一次スクリーニングを MTT アッセイを行い評価・検討した。 実験の結果、100 µg/mL のミャンマー産植物抽出エキス 400 検体に対し、KB 細胞、 L1210 細胞ともに抗腫瘍活性を示した検体は 25 検体であった。KB のみ抗腫瘍活性を 示した検体は 3 検体[No.57: Periploca calophylla(KB: 72.3%, L1210: 41.8%)、No.149: Senna auriculata(KB: 73.0%, L1210: 65.2%)、No.161: Cryptolepis buchanani (KB: 70.7%, L1210: 48.7%)]であった。この 3 検体は、ヒト由来がん細胞である KB に特異的に抗腫瘍活性 を示したため、ヒトに対して有用な抗腫瘍成分を含有する可能性があると思われる。 今後は、抗腫瘍活性を示した検体に対し他のがん細胞を用いてスクリーニングを行 い、がん種に特異的な抗腫瘍活性を示す(新規)抗腫瘍化合物をも発見できると考えら れる。また、ヒトがん細胞とヒト正常細胞に対する感受性の相違を検討することで、よ りがん細胞に選択性が高い検体を選択することができると考えられる。そして、これら の植物やその成分に対しての研究、調査をさらに進めることで、抗腫瘍薬の開発につな がるような新規抗腫瘍化合物が見出されることに期待したい。
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