利水作用とアクアポリン - k

第20回日本脳神経外科漢方医学会学術集会(2011)講演記録集
【特別講演Ⅰ】
漢方を科学する―利水作用とアクアポリン―
礒濱 洋一郎
熊本大学大学院 生命科学研究部薬物活性学分野 准教授
私は、薬学に軸足を置く基礎研究者で、特に薬理学をフィールドとしております。漢方については、EBM
漢方ということが最近よく言われ、本当に効くのか、あるいは何故効くのかとよく言われます。私の場合は、
何故効くのだろうという部分を解明して、先生方が実際に漢方をお使いになる上で、背中を押すというのが
仕事なのかなと思っております。
EBM漢方の意義
臨床試験
個の治療を重視する漢方にはそぐわない?
西洋薬:
既知の受容体(作用部位)に対する未知のリガンド
を検索し,確立したもの
漢方薬:
古くから使用されてきた薬物の効果は確かでも,そ
の受容体(作用部位)が不明なもの
本当にきくのか?
薬効薬理学的試験
細胞
(漢方薬)
特定の実験モデルを用いた薬効判定
漢方薬
薬物
シグナル
細胞応答
受容体
何故きくのか?
実験科学的手法による
作用機序の解明
漢方薬の作用を基礎とする新たな治療概念の提唱?
西洋薬の場合は、特定の受容体作用部位がまずあり、それに対してさまざまなスクリーニングをかけます。
古くから使われているものは不確かなところがありますが、最近の創薬の観点からは、作用部位を標的とし
て新しいリガンドをスクリーニングします。
それに対して漢方薬の場合は、古くから使われてきて実際確かに効くのでしょうが、どこに効いているか
はよくわからない、これが特徴なのかもしれません。私の場合は、漢方薬の作用を明らかにしていくと、特定
の活性成分が出て、新しい標的、薬物の受容体、標的分子がわかり、またそれを西洋薬的に応用すること
や、そこから薬を創っていけるかもしれないというのが、基本的なスタンスです。
漢方薬の分子薬理学的研究の戦略
麦門冬湯(Bakumondoto)
漢方薬の薬効評価と
作用特性の解明
麦門冬
半夏
大棗
Ophiopogon Tuber
Pinellia Tuber
Jujube Fruit
甘草
人参
粳米
Glycyrrhiza Root
Ginseng Root
Oryza Seed
漢方薬(活性成分)の
作用部位の決定
漢方薬の実効性や安全性は長
年の使用経験から検証済み
標的分子(受容体)
機能調節薬の検索
使用目標:
実効性の検証
1)
2)
粘稠で切れにくい痰を伴う咳嗽 (気道炎症時 )
咽頭の乾燥感や違和感のある咳嗽 (気道乾燥時)
最近の知見: 1) シェーグレン症候群の種々の乾燥症状に有効
新規治療薬の提唱
私自身の漢方薬との出合いは、私の先生の宮田健先生が、呼吸器系の中で麦門冬湯という漢方薬が
非常に素晴らしい鎮咳薬であると、臨床の先生方から聞いてきて、実験科学的に証明しようではないかとい
101
脳神経外科と漢方
うことから始まりました。
実際、私どもの研究室で、モルモットにクエン酸を吸わせ咳を起こさせて、麦門冬湯とリン酸コデインとの
鎮咳効果を比較する実験から始まったのです。
まず、正常モルモットでは麦門冬湯は全く効かなかったのです。次に、気管支炎を起こさせて、同じ実験
をしてみると、麦門冬湯の群が良く効いて、コデインの群はあまり効かなくなり、病態時特異的な鎮咳効果
が麦門冬湯の特徴であることを見出しました。
正常および気管支炎モルモットのクエン酸誘発咳反射
に対する麦門冬湯およびコデインの作用
100
80
80
30分間の咳の回数
30分間の咳の回数
(Pulmonary Surfactant)
産生細胞
気管支炎(SO2曝露)モルモット
正常モルモット
100
60
40
肺サーファクタント
・肺胞II型上皮細胞
・クララ細胞
I 型細胞
組成
・リン脂質(phosphatidylcholine)
・タンパク質(SP- A, -B, -C, -D)
60
*
機能
・肺胞の虚脱防止
・マクロファージ活性化
・好中球の不活性化
・粘液線毛輸送の促進
ほか
40
**
20
20
非投与
Codeine
麦門冬湯
非投与
Codeine
II 型細胞
麦門冬湯
これらのことは、証に応じて使うべき漢方薬の特徴がよく出ていると非常に評判になり、宮田健先生から、
このような結果を生化学的に理由づけてみろと言われました。
しかし、漢方薬を実験科学的に調べていく手法も何もわからないという状態でした。分泌を促すような作
用があって咳が止まる、もしかすると肺サーファクタントの分泌みたいなものを増やすのかもしれない、そん
なことを考え、研究に入っていったのです。
ラット
肺胞II型細胞による肺サーファクタント分泌の機序
麦門冬湯による肺胞II型細胞からの
肺サーファクタントの分泌亢進
肺を摘出
400
*
肺
精製
肺胞II型上皮細胞
*
分泌 (% of Control)
プロテアーゼで消化
300
*
Adrenaline
Adenosine
Gs
①
AC
cAMP
PKA
200
②
100
0
ATP
Control
1
10
100
麦門冬湯 (µg/ml)
1000 Terbutaline
(10 µM)
Gq
DAG
PKC
IP3
CaMK
PLC
タンパク
リン酸化
③
Ca2+
そこで、ラットの肺胞Ⅱ型上皮細胞を初代培養して、そこに麦門冬湯を振りかけました。すると、きれいに
反応が出てきて、オーセンティックな分泌促進物質のβ-stimulant と同じような効果が出てきました。これで
漢方薬のメカニズムを西洋薬と同じように、シグナルレベルでとらえられるかもしれないと思いました。
その理由として、当時すでに、cAMP/PKA システム、DAG/PKC、Ca2+/CaMK の 3 つのメカニズム、シ
グナルが、肺サーファクタントの分泌促進作用に関係すると考えられていたので、おそらく、この 3 つのうち
のどれかであり、解明できると思っていたのです。
102
第20回日本脳神経外科漢方医学会学術集会(2011)講演記録集
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PKA
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IP3
0
Control
(100 µM)
H-89
(6 µM)
H-7
(100 µM)
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(5 µM)
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103
脳神経外科と漢方
Aquaporin
漢方において生体を構成する成分
人体の機能的側面,
エネルギーの一切を現すが,
同時にそれ自身が流れる存在
・リンパ液
・細胞間質液
・尿
・汗
・涙
・唾液
・気道液など
気
血
水チャネル
水(津液)
人体に存在する血液以
外の液体の総称
組織を潤し栄養する
西洋医学的な血液と同じ
King et al., Nat Rev Mol Cell Biol, 5, 687 (2004).
Aquaporin(AQP)
細胞膜に存在する水選択的チャネルタンパク質で,13種類のアイソフォームが
全身に存在する.
間腔
H2O
細胞
Cl-
NPA
Na+
APN
NH2
ATP
HOOC
基底膜
Na+
Aquaporin(AQP)
細胞膜に存在する水選択的チャネルタンパク質で,13種類のアイソフォームが
全身に存在する.
AQP1
AQP4
H2O
AQP1
AQP4
AQP5
C
NPA
APN
NH2
HOOC
AQP1
AQP3
AQP4
Sasaki et al., Nippon Rinsho
104
第20回日本脳神経外科漢方医学会学術集会(2011)講演記録集
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AQP2
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Cinnamomi Cortex
Poria
Polyporus
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105
脳神経外科と漢方
Stopped-Flow Light
Scattering Method
高浸透圧刺激
H2O
H2O
H2O
H2O
試料混合部
漢方薬による水の調節は, アクアポリン?
細胞懸濁液
Cell
高張液
細胞容積
H2O
90°方向への散乱光強度
フォトマル
散乱光
光源部
Scattered light intensity
AQP
0.03
600 mOsm
0.02
0.01
300
0
0
解析部
1
2
3
Time (Sec)
4
実際、Stopped-Flow 分光光度計を使い、仮説を検証するための実験をしていきました。細胞懸濁液と
高浸透圧液あるいは低浸透圧液を瞬時に混ぜ、混ぜたものをチャンバーの中を通し、チャンバーに光を当
て、サンプルが発する散乱光を測定します。細胞は、例えば高浸透圧刺激をすると、水を吐き出してキュー
ッと shrinkage を起こします。shrinkage を起こせば、ブラウン運動が活発になり、散乱光が大きくなっていき
ます。
具体的例ですと、細胞膜の水透過性が高ければ、初期変化速度が非常に大きくなります。実際、現在ま
でに唯一知られているアクアポリンの阻害物質の水銀を用いると、この変化がマイルドになって、細胞膜水
透過性が下がるということです。
Stopped-Flow Light
Scattering Method
高浸透圧刺激
H2O
H2O
H2O
H2O
AQP阻害物質HgCl2によるMLE-12 細胞の細胞膜
水透過性の抑制作用
試料混合部
Control
細胞容積
フォトマル
散乱光
光源部
解析部
Scattered light intensity
90°方向への散乱光強度
0.03
600 mOsm
0.02
HgCl2 0.5 mM
0.01
1 sec
300
0
∆300 mOsm
0
1
2
3
Time (Sec)
Water Permeability (Pf) (×10-4 cm/s)
Cell
高張液
Scattered light intensity
細胞懸濁液
400
300
*
200
100
0
Control
HgCl2
(0.5 mM)
4
五苓散は、水銀と同じように、細胞膜の水透過性を抑制する作用が、確かにありますが、これだけだと、
本当にアクアポリンの阻害かどうか、まだちょっと疑わしいですね。
五苓散の構成生薬の活性について検討すると、主に蒼朮と猪苓に強い活性が認められ、一番再現よく、
強い作用が認められた、蒼朮に特に注目しました。
106
第20回日本脳神経外科漢方医学会学術集会(2011)講演記録集
MLE-12 細胞の細胞膜透過性に対する
蒼朮エキスの作用
五苓散は水銀に匹敵する細胞膜の水透過性抑制
作用をもつ
細胞膜水透過性 (% of Control)
Scattered Light Intensity
1.0 mg/mL
3.0 mg/mL
五苓散
25
50
75
100
Control
100
Control
*
80
沢瀉
*
60
*
茯苓
40
桂皮
**
20
蒼朮
0
Control
HgCl2
(0.3 mM)
0.3
1
0.005 mg/mL
Scattered light intensity
0.3 mg/mL
0
120
Relative water permeability
(% of control)
Control
0.05 mg/mL
0.5 mg/mL
(蒼朮)
1 sec
猪苓
3
五苓散 (mg/ml)
本当に電解質そのものを動かしていないのですか、本当は浸透圧を動かしているのではないですか、こ
のクエスチョンに答えるために、実際、細胞膜の静止膜電位をパッチクランプ法で測りました。五苓散や蒼
朮では、細胞膜の膜電位は全く動きません。KCl ではパーンと動きますので、細胞内外への電解質の移動
は、おそらく全く関係ないと思います。
肺上皮細胞株 MLE-12 細胞の膜電位に対する
五苓散および蒼朮の作用
AQP5 含有プロテオリポソームの水透過性
に対する蒼朮の作用
五苓散 (1 mg/mL)
リポソーム
AQP5 プロテオリポソーム
-40 mV
Scattered Light Intensity
-40 mV
KCl (50 mM)
20 mV
Control
Scattered Light Intensity
蒼朮(0.5 mg/mL)
蒼朮 (0.5 mg/mL)
Control
蒼朮(0.5 mg/mL)
0.5 sec
0.5 sec
1 min
脂質膜の水分透過性には影響しない
少なくとも膜内外の電解質の移動は生じない
でも、本当は、脂質二重層の水透過性を変えて、自然拡散を抑制しているのではないですか、このクエ
スチョンに答えるために、脂質二重層、人工的にリポソームを作り、これに対して、先ほど一番効いた蒼朮
の作用を調べますと、全く影響しませんので、少なくとも脂質膜の水透過性には影響しないと思います。さ
らに、in vitro で合成したアクアポリンを入れたプロテオリポソームを調製して、同じ実験をしますと、きれい
に抑制がかかります。ですから、間違いなく、アクアポリンを抑制する作用が、五苓散、そして蒼朮の中にあ
ると考えています。
次に、アクアポリンの阻害スペクトル、すなわち、どのタイプのアクアポリンに効くのかを、蒼朮を使って検
討したところ、非常におもしろいことがわかったのです。
これは、縦軸が水透過性で、低くなるほど阻害活性が強いと思ってください。オーセンティックな、今まで
私らが唯一知っている水銀は、アクアポリンの 4 番に効かずに、ほかのものには全部効きます。蒼朮は、1
番、2 番にはあまり効かず、3、4、5 番に良く効いて、明らかに阻害スペクトルが違います。特に、4 番に効い
たというのがおもしろかったのです。
107
脳神経外科と漢方
アフリカツメガエル卵母細胞発現系で比較した水銀イオン
と蒼朮のAQP阻害作用のアイソフォーム選択性
140
Hg2+ (0.3 mM)
160
Amino Acid Sequences of AQP1, 2, 4 and 5
蒼朮 (0.5 mg/mL)
AQP1
AQP2
AQP4
AQP5
120
細胞膜水透過性 (% of Control)
細胞膜水透過性 (% of Control)
140
100
80
*
*
60
*
40
*
20
M-A------------------------SEFKKKLFWRAV----VAEFLATTLFVFISIGSALGFKYPVGNNQTAVQDNVKVSLAFGLSIATLAQSVGHISGAHLNPAVTLGLLL
M---------W-----------------ELRSIAFSRAV----FAEFLATLLFVFFGLGSALNW-------PQALPSVLQIAMAFGLGIGTLVQALGHISGAHINPAVTVACLV
M-SDRPTARRWGKCGPLCTRENIMVAFKGVWTQAFWKAV----TAEFLAMLIFVLLSLGSTINW---GGTEKPLPVDMVLISLCFGLSIATMVQCFGHISGGHINPAVTVAMVC
M---------K----------------KEVCSVAFLKAV----FAEFLATLIFVFFGLGSALKW-------PSALPTILQIALAFGLAIGTLAQALGPVSGGHINPAITLALLV
120
HgP2+A
N
100
0
80
*
60
SCQISIFRALMYIIAQCVGAIVATAILSGITSSLTGNSLGRNDLADGVNSGQGLGIEIIGTLQLVLCVLATTDRRRRDLGGSAPLAIGLSVALGHLLAIDYTGCGINPARSF
GCHVSVLRAAFYVAAQLLGAVAGAALLHEITPADIRGDLAVNALSNSTTAGQAVTVELFLTLQLVLCIFASTDERRGENPGTPALSIGFSVALGHLLGIHYTGCSMNPARSL
A
N
P
TRKISIAKSVFYIAAQCLGAIIGAGILYLVTPPSVVGGLGVTMVHGNLTAGHGLLVELIITFQLVFTIFASCDSKRTDVTGSIALAIGFSVAIGHLFAINYTGASMNPARSF
Hg2+
GNQISLLRAFFYVAAQLVGAIAGAGILYGVAPLNARGNLAVNALNNNTTQGQAMVVELILTFQLALCIFASTDSRRTSPVGSPALSIGLSVTLGHLVGIYFTGCSMNPARSF
AQP1
AQP2
AQP4
AQP5
GSAVITHNFS-NHWIFWVGPFIGGALAVLIYDFILAPRSS—DLTDRVKVWTSGQVEEY------------DLDA----------------DDINSRVE----MKPK
APAVVTGKFD-DHWVFWIGPLVGAILGSLLYNYVLFPPA---KSLSERLAVLKG------LEPDTDWEEREVRRR-------QSVELHSPQSLPR-------GTKA
GPAVIMGNWE-NHWIYWVGPIIGAVLAGGLYEYVFCPDVEFKRRFKEAFSKAAQQTKGSYMEVEDNRSQVETDDLILKPGVVHVIDVDRGEEKKGKDQSGEVLSSV
GPAVVMNRFSPAHWVFWVGPIVGAVLAAILYFYLLFPNS---LSLSERVAIIKGT-----YEPDEDWEEQREERK-------KTMEL----------------TTR
HOOC
NH2
*
20
-----DYTGCGINPARSF
-----HYTGCSMNPARSL
-----NYTGASMNPARSF
-----YFTGCSMNPARSF
AQP1
AQP2
AQP4
AQP5
*
40
C
AQP1
AQP2
AQP4
AQP5
0
AQP1 AQP2 AQP3 AQP4 AQP5
AQP1 AQP2 AQP3 AQP4 AQP5
アミノ酸シークエンスですが、1 番、2 番、4 番、5 番を抜粋してきました。実は、赤で書いている NPA とい
う部分が、アクアポリンのポア構造の中で最も重要な部分と言われています。アクアポリンの 4 番を除いて、
そのすぐ近傍に、システイン残基があり、ここに水銀が結合するから、ポアがふさがって水が通らなくなると
理解されています。
ところが、ここにシステインのないアクアポリン 4 番でも、蒼朮、五苓散は効いたのです。しかも、このアク
アポリンの 4 番、実は脳にたくさんあって、ノックアウトすると脳浮腫の形成が抑制され、もしこれに対しての
阻害物質があれば、抗脳浮腫薬として応用できるのではないかと、推測されています。
AQP欠損マウスの表現型より推定される
AQP機能調節薬の様々な用途
AQP
アイソフォーム
欠損マウス表現型
機能調節薬の応用性
AQP1
尿量増加
腫瘍血管形成低下
利尿薬(阻害)
抗腫瘍(阻害)
AQP2
尿量増加
利尿薬(阻害)
AQP3
尿量増加
皮膚乾燥
利尿薬(阻害)
保湿薬,創傷治癒促進薬(活性化)
AQP4
脳浮腫形成抑制
抗脳浮腫薬(阻害)
AQP5
汗分泌低下
唾液分泌低下
気道液分泌低下
肺胞−血管間水透過性低下
そこで、五苓散は脳浮腫に効くのではないかと考えました。これはアクアポリン 4 の局在を示したものです
が、アストロサイトと血管内皮細胞が接着した、基底膜側、界面部分にたくさんあります。ですから、血液脳
関門を構築するような部分にアクアポリンがたくさんあると理解してください。
これは、ノックアウトマウスの表現型の一つです。脳虚血を起こさせた、中大脳動脈を閉塞して起こさせた
脳浮腫です。これが wild type、こちらはノックアウトマウスで、明らかに小さくなります。
108
第20回日本脳神経外科漢方医学会学術集会(2011)講演記録集
AQP4
Nature Medicine 6, 159 - 163 (2000).
Aquaporin-4 deletion in mice reduces brain edema after
acute water intoxication and ischemic stroke.
AQP4 はAQP類の中で最も高い水分透
過能をもち,血液脳関門のアストログ
リア基底膜側に存在する.
Manley GT, Fujimura M, Ma T, Noshita N, Filiz F, Bollen AW, Chan P, Verkman AS.
AQP4の阻害物質は,従来全く知られてい
ない
AQP4欠損マウスは梗塞後の脳浮腫が生じにくい!
急性水中毒マウスの生存率に対する五苓散の作用
急性水中毒
AQP4 -/-
急性水中毒
蒸留水 (20%/体重 )
抗利尿薬
100
五苓散 (3 g/kg)
マウス
蒸留水 (20%/体重 )
抗利尿薬
マウス
Survival (%)
80
五苓散 (1 g/kg)
60
40
Control
20
0
0
20 40 60 80 100 120 140 160
1440
Time (min)
Nature Medicine 6, 159 - 163 (2000).
もう一つが、急性水中毒モデルでの検討です。抗利尿薬、バゾプレッシンを投与した状態で、体重の
20%という大量の蒸留水を腹腔内に投与しますと、脳浮腫を起こしてバタバタと、90 分ぐらいで全て死んで
しまいます。ノックアウトマウスの場合は、なかなか死にませんが、五苓散で同じことを検討しました。
コントロールの動物は、2 時間以内に全部死にました。五苓散を用いると、1g/kg、そして 3g/kg、非常に
高い投与量ですが、確かに、死にません。バゾプレッシンのアナログ、つまり抗利尿ホルモンを用いている
ので、尿は全く出ない状態で、この動物をレスキューできるのです。
では、五苓散で脳浮腫が本当に抑制されているのか、実験モデルを使って実際に脳内の水分含量を測
ったデータです。ゼロタイム、そして 60 分後、赤で書いているのが五苓散です。あれっ、変わらないと思っ
たのですが、その間をみますと、確かに、脳浮腫、つまり脳内へ水が入っていくスピードが落ちるのです。
急性水中毒マウスの脳浮腫形成に対する
五苓散の作用
PNAS, 108, 846-851 (2011)
Brain Water Content (%)
80.5
80.0
: Control
: 五苓散(3 g/kg)
79.5
79.0
*
78.5
*
78.0
77.5
0
7.5
15
30
60
Osmotically induced astrocytic Ca2+ responses in vitro.
Two-photon images of Rhod2 AM-loaded acute cortical slices obtained from WT (upper) and AQP4-/- mice.
Time (min)
109
脳神経外科と漢方
アクアポリンのノックアウトマウスから採ってきたアストロサイトを使った実験が、すでに報告されています。
低浸透圧刺激を加えると、wild type では細胞内のカルシウム濃度がパーンと上がって、グルタメートとか
ATP のリリースが活発に起こる。それに対してアクアポリンノックアウトマウスでは、このカルシウムトランジェ
ントが起きないのです。つまり、脳内での浮腫を起こしたときの過剰な興奮が起きないということが、ここで示
されています。ですから、先ほどのデータのように、脳への水の移行速度が落ちているということには、確か
に意味があるのだと思っています。
そうなると、何が効いているのかということが知りたくなります。薬学でよくやるのですが、エキスの中を分
画していきます。80%エタノールに溶けるもの、溶けないものと分けて、さらに、溶けた部分は疎水クロマト
を使って 4 つの分画に分けてみました。最終的には、80%エタノールに溶けなかったところに活性がありま
した。しかも、この水透過性を抑制するという作用は、EDTA の存在下では消えてなくなりました、そうです、
金属が関係していたのです。
細胞膜水透過性に対する蒼朮エキス分画の作用
AQP4を発現させたアフリカツメガエル卵母細胞の
細胞膜水透過性に対する五苓散の作用
Control
蒼朮エキス
Acetone
MeOH
Extracted by hot water
Water extract
yield:34.9%
120
Water
Dispersed by 80% EtOH
*
80% EtOH ppt
Insoluble
Membrane Water Permeability
(μm/sec)
50% MeOH
Soluble
0
20
40
60
80
100
120
Water Permeability (% of Control)
Diaion HP20
Column Chromatography
yield:31.7%
Eluted with
Water
蒼朮に多く含まれる
マンガンによる
50% MeOH
MeOH
Acetone
Water
fraction
50%MeOH
fraction
MeOH
fraction
Acetone
fraction
yield:53.4%
yield:3.7%
yield:2.9%
yield:0.9%
Control
+ EDTA
Scattered Light Intensity
80% EtOH
precipitate
100
80
60
40
*
20
0
80% EtOH ppt
Without
AQP4
*
AQP4-expressed
Control
MnCl2
(1 mM)
五苓散
(0.1 mg/ml)
1 sec
ICP-MS を使って、どんな金属が含まれるかを調べると、マンガンがたくさん含まれていました。では、活
性の本体はマンガンなのかと、無機マンガン、塩化物を使って、同じ実験をしました。アフリカツメガエルの
卵胞細胞で試したものですが、アクアポリン 4 番で五苓散もマンガンもきれいに抑制しました。おそらくは、
五苓散、そして蒼朮の中に含まれるマンガンを含んだ化合物が、活性本体であろうという推測ができます。
アクアポリンは、通常時は電解質の移動に伴った正常な水の動きを、サポートしているのですが、例えば
浮腫が起こるような場合、浸透圧バランスが大きく崩れています。アクアポリンがいってはいけない方向へ
の水を通してしまって、その結果、浮腫を起こしていると考えられます。ですから、五苓散、蒼朮、そしてそ
の中に含まれるマンガンを含む化合物があると、このアクアポリンを阻害してくれるので、いってはいけない
方向へ水をいかせにくくするのだろうと考えております。
以上、五苓散の利水作用に関するアクアポリン仮説として、異常な水の流れを止めるのではないだろう
かと考えます。
110
第20回日本脳神経外科漢方医学会学術集会(2011)講演記録集
Edema
Edema
Edema
Edema
Na+
Na+
五苓散の利水作用に関するAQP仮説
Na+
上皮細胞,グリア細胞
Edema
+
NaEdema
K+
K+
Na+
K+
Edema
Edema
Na+
五苓散は,AQPを阻害することで
水の動きを止め,異常な水の流れを止める.
K+
血管内皮細胞
五苓散
Mn
浸透圧バランスの乱れ
先ほど田中先生が、予防的に使うといいのではないかとお話がありましたが、私もその意見に全く同感で
す。事実、私自身の実験でも、水中毒の実験で五苓散を後処理しても効きませんでした。さらに、作用があ
まり長く続かないのです。動物実験の場合、2 時間ぐらいで消えてなくなるような印象があります。
活性成分がミネラルということも関係しているのかもしれませんが、その投与のタイミングは非常に重要だ
と思います。おそらく、ここというタイミングで大量に投与されると、抜群に効くのではないかと思います。
私の実験の場合は、抗利尿ホルモンを使って尿量の増加を止めていましたが、実際の臨床の現場では、
尿量増加も出てきます。ですから、五苓散は、脳でのアクアポリン阻害と、同時に尿量を増やすことで、二
重に効きますから、私の実験の結果よりは、臨床医の手応えのほうが、本当は高いのかもしれません。
ただ、こんなお話をすると、「アクアポリンを阻害すると浮腫の形成を抑制するということは理解できるんだ
よ。でも、水毒というのは浮腫抑制ばかりではなくて、例えば分泌異常とか、炎症に伴うとか、そういうものが
いっぱい含まれるんだよ。それはアクアポリンで説明できないのではないか。」と、東洋医学系の先生方か
らよく言われます。例えば分泌異常などが、東洋医学的な水毒という現象には含まれます。
水毒関連徴候
水の貯留・・・
AQP欠損マウスの表現型より推定される
AQP機能調節薬の様々な用途
浮腫
関節腫脹
腹水,胸水
AQP
アイソフォーム
水の排泄異常・・・ 排泄異常・・・・ 尿量減少
尿意頻数
排尿遅延
分泌異常・・・・ 唾液過多/減少
涙液過多/減少
鼻汁過多/減少
発汗過多/減少
自覚症状・・・
頭重,めまい,口渇,こわばり,水様性喀痰,
下痢,動悸,耳鳴り,腹鳴,体が重い
欠損マウス表現型
機能調節薬の応用性
AQP1
尿量増加
腫瘍血管形成低下
利尿薬(阻害)
抗腫瘍(阻害)
AQP2
尿量増加
利尿薬(阻害)
AQP3
尿量増加
皮膚乾燥,創傷治癒遅延
利尿薬(阻害)
保湿薬,創傷治癒促進薬(活性化)
AQP4
脳浮腫形成抑制
抗脳浮腫薬(阻害)
AQP5
唾液分泌低下
汗分泌低下
気道液分泌低下
肺胞−血管間水透過性低下
口渇治療薬(活性化)
制汗薬(阻害)
鼻汁抑制薬(阻害),鎮咳・去痰薬(活性化)
肺水腫治療(活性化?)
「入門漢方医学」(日本東洋医学会編)より一部改変
実は、アクアポリンは分泌腺にもたくさんあり、唾液腺、汗腺、気管支腺、これらにはアクアポリン 5 番タイ
プがたくさんあります。これをノックアウトすると、乾き、分泌が減るという現象が起こります。何か調節がある
のだろうかと考え、アフリカツメガエル卵胞細胞を使って実験しました。
具体的には、アクアポリン 5 の cRNA を注入し、低張刺激により、炎症メディエータの一酸化窒素の作用
を調べてみました。
111
脳神経外科と漢方
AQP5を発現させたアフリカツメガエル卵母細胞の
細胞膜水透過性に対する NO ドナーの作用
アフリカツメガエル卵母細胞を用いた細胞膜水透過性試験
1.2
Xenopus
Oocytes
AQPs cRNA injection (5 ng/cell)
48 hr culture at 18 ℃
Oocytes (AQP)
*
140
AQP5(+) Control
120
1.15
Pf (µm/s)
Relative volume
Oocytes isolation
1.1
AQP5(+) GSNO
AQP5(-) Control
1
Control
Cell Volume Measurement
AQP5
80
60
40
1.05
Hyperosmotic stimulation(40 mOsm)
100
0
1
2
3
Time (min)
20
0
5
4
AQP5(-)
Control GSNO
AQP5(+)
Control GSNO
(1 mM)
1.2
Computer
AQP5
X
1.10
1.05
Control
(1 mM)
160
*
AQP5(+) Control
1.15
120
Pf (µm/s)
CCD
Camera
Relative volume
Relative Cell Volume
1.15
1.1
AQP5(+) SIN-1
80
40
1.05
AQP5(-) Control
1
0
100
200
300
1
Time (sec)
0
0
1
2
3
Time (min)
4
5
AQP5(-)
Control SIN-1
AQP5(+)
Control SIN-1
(1 mM)
(1 mM)
NO のドナーを入れておきますと、透過速度が落ちて、水があまり通らなくなります。水銀が結合して水の
通り道をふさいでしまうシステイン残基に、一酸化窒素がダイレクトに結合してニトロシル化をするのではな
いかと考えました。そこで、実際にアフリカツメガエル卵胞細胞を用いて、ニトロシル化を測ってみました。
NO のドナーにより、ニトロシル化されたアクアポリンがきれいに増えます。そして、システイン残基をセリン
に置換してみると、wild type では NO によって抑制されたものが、抑制されなくなります。おそらく、ニトロシ
ル化されて通らなくなるというのが本当なのだろうと思います。wild type から置換した point mutant では、こ
のニトロシル化体の産生も起こりません。
MLE-12 細胞における AQP5の S-ニトロシル化
GSNO (1 mM)
AQPはNOによってニトロシル化される?
Control
1
Control
0.1
2
4
8 (h)
S-NO AQP5
H2O
Total AQP5
ニトロシル化?
GSNO (mM)
Hg
NO2+
C182
N P A C
A P N
C6
NH2
0.2
0.5
1
S-NO AQP5
C145
C
アフリカツメガエル卵母細胞に発現させた AQP5
の S-ニトロシル化
C
HOOC
Control
GSNO
(1 mM)
Control
GSNO
(1 mM)
S-NO AQP5
アフリカツメガエル卵母細胞に発現させた AQP5 のシステイン
点変異体の水透過性に対する GSNO の作用
アフリカツメガエル卵母細胞に発現させた AQP5 のシステイン
点変異体の水透過性に対する GSNO の作用
H2AQP5
O
S-Nitrosylation of
Water Permeability (µm/sec)
: Control
S-Nitrosylation of AQP5
ニトロシル化
: GSNO (1mM)
300
NO
N
250
200
S-NO-AQP5
A
P A C
C182
P N
150
NH2
100
AQP5
(WT)
AQP5
(C182S)
50
HOOC
0
AQP5(-)
*
350
Water Permeability (µm/sec)
*
350
: Control
: GSNO (1mM)
300
250
200
S-NO-AQP5
150
AQP5
(WT)
100
AQP5
(C182S)
50
0
AQP5WT AQP5C182S
Mutant
AQP5(-)
AQP5WT AQP5C182S
Mutant
外分泌腺に関して、炎症が起こると、NO ドナーとしては最高のものですが、ニトロシル化されて、水が通
らなくなります。実際には、細胞表面からなくなるというのも観察しております。
112
第20回日本脳神経外科漢方医学会学術集会(2011)講演記録集
こういう場合にはどんな薬剤がいいのでしょう。シェーグレンや咽頭部乾燥感に用いる麦門冬湯を思い
出します。麦門冬湯を試してみますと、きれいに回復します。ニトロシル化体も消えます。ですから、麦門冬
湯の場合は、NO によって阻害された外分泌腺タイプのアクアポリン 5 の働きを回復させることにより、水の
分泌を回復させるのではないかと考えております。
麦門冬湯は NOによる AQP5 の S-ニトロシル化と
活性低下を抑制する
麦門冬湯(Bakumondoto)
麦門冬
半夏
大棗
Ophiopogon Tuber
Pinellia Tuber
Jujube Fruit
S-nitrosylated
AQP5
Control
GSNO GSNO
+
麦門冬湯
(1 mg/ml)
*
甘草
人参
粳米
Glycyrrhiza Root
Ginseng Root
Oryza Seed
使用目標:
細胞膜水透過性 (µm/s)
160
140
*
120
100
80
60
40
20
1) 粘稠で切れにくい痰を伴う咳嗽 (気道炎症時 )
2) 咽頭の乾燥感や違和感のある咳嗽 (気道乾燥時)
0
AQP5(-)
AQP5(+)
Control
最近の知見: 1) シェーグレン症候群の種々の乾燥症状に有効
GSNO
GSNO
+
麦門冬湯
(1 mg/ml)
さらに、皮膚にはアクアポリン 3 番があり、ケラチノサイトにたくさんあります。これはおもしろいアクアポリン
で、水だけではなくてグリセロールも一緒に通します。これがあると、皮膚の真皮の領域でグリセロールが行
き渡り、皮膚を保湿するのに関係すると言われています。従いまして、アクアポリンのノックアウトマウスの表
現型としては、皮膚の水分含量が減少します。皮膚疾患の際の乾燥症状が出ます。そこで、アクアポリン 3
は皮膚の乾燥症状に関係するのかを、試してみました。
Physiological roles of glycerol-transporting aquaporins:
the aquaglyceroporins
皮膚のAQP (AQP3)と炎症
M. Hara-Chikuma and A. S. Verkman.
Biol Cell. 2005; 97(7): 479-86.
Stratum
Comeum
AQP3 is expressed in
epidermal keratinocytes
Epidermis
AQP3
AQP3
AQP3の欠損は:
1) 皮膚の水分含量の減少
2) 創傷治癒の遅延
Dermis
Glycerol Glycerol
AQP5
AQP5
H2O
アトピー性皮膚炎自然発症モデルの NC/Nga マウスから皮膚炎症部位と非炎症部位を採り、アクアポリ
ン 3 の発現量を比較してみますと、実際の炎症部位のみ、アクアポリン 3 の発現量がきれいに低下している
ことがわかりました。
なぜ低下するかですが、炎症性サイトカインがダイレクトに mRNA の発現を抑えて、蛋白質を消えてなく
ならせるという仕組みがあるようです。実際に細胞膜の水透過性を測ると、きれいに低下しますから、水や
グリセロールが通らなくなって、乾燥症状が出てくるのだろうと思っています。
アトピー性皮膚炎の患者さんには、炎症をケアするためにステロイド軟膏が使われますが、おもしろいこ
とに、この低下したアクアポリン 3 の発現は、ステロイドを用いても、戻らないのです。水透過性も同様でした。
「乾燥症状だけが残ってしまうことがあるのでは。」と、皮膚科医に確認すると、「なるほどそうかもしれない」
とおっしゃいます。
そこで、アクアポリン 3 を増やす生薬を探してみました。皮膚科領域と婦人科領域で使うものを中心に、
113
脳神経外科と漢方
方剤に含まれる生薬を調べたら、荊芥に、非常に強いアクアポリン 3 の発現亢進作用が出てきて、実際に、
蛋白質でも、mRNA でも増えてきました。
荊芥エキスはTNF-αにより低下したAQP3
の発現を回復させる
荊芥エキスはDJM-1ケラチノサイトのAQP3発現
を増加させる
荊芥エキス
ケイガイ (mg/ml) for 24 hr
0
0.01
0.03
0.1
AQP3
-actin
AQP3 mRNA Level (Fold of Control)
3
*
2
1
0
Control
0.01
0.03
2.5
Dexamethasone (DEX)
#
*
2
1.5
1
*
0.5
0
Control
0.1
TNF-α
荊芥
(0.1 mg/ml) (20 ng/ml)
ケイガイ (mg/ml)
TNF-α
+
荊芥
AQP3 mRNA level (fold of control)
AQP3 mRNA
AQP3 mRNA level (fold of control)
AQP3 Protein
1.2
1
N.S.
0.8
*
*
DEX
TNF-α
(100 nM)
(20 ng/ml)
TNF-α
+
DEX
0.6
0.4
0.2
0
Control
*, #P < 0.05 vs. Control, TNF-α
先ほどステロイドでは、下がったアクアポリン 3 は戻りませんと言いましたが、最終的に炎症が治まれば、
その後は上がってくると思います。荊芥は、炎症性刺激によって下がったアクアポリン 3 を戻します。増やす
作用とは、おそらく別のメカニズムと思いますので、炎症時には、荊芥は確かに良いのかもしれません。
もう一つおもしろいことがあります。実は、このアクアポリン 3 のノックアウトマウス、欠損動物では、皮膚の
乾燥症状が出るのに加え、不思議なことに、傷の治りが悪くなるという現象が観察されています。理由は、
ケラチノサイトの migration にアクアポリン 3 が関係するというのです。
ケラチノサイトの培養細胞で、一部をかき取って、24 時間おいておくと、これが少しずつふさがっていきま
す。荊芥を一緒に用いますと、このふさがっていく migration が促進される。こんなデータが出てきました。
荊芥エキスはAQP3の発現増加を介して
遊走能を亢進する
荊芥エキスはケラチノサイトの遊走能を亢進する
siRNA
**
250
24 h
DJM-1 keratinocytes
200
150
Protein expression
Control siRNA AQP3 siRNA
100
Control
50
AQP3
0
Control
荊芥 (0.1 mg/ml)
24 h
Control
荊芥
(0.1 mg/ml)
β-actin
**P < 0.01 vs. Control
荊芥
Control
荊芥
200
Relative wound healing activity
(% of control)
Relative wound healing activity
(% of control)
Initial wound
Wound after 24 h
500 μm
Scratch
荊芥
300
*
Control
荊芥 (0.1 mg/ml)
150
100
N.S.
*
50
*
0
Control siRNA AQP3 siRNA
*P < 0.05 vs. Control (Control siRNA)
本当にアクアポリン 3 を増やしたからなのかという疑問がわいてきますので、今の実験をする前に、siRNA
を使ってケラチノサイトのアクアポリン 3 の発現をつぶしてしまいます。そこに荊芥を入れて、同じ実験をして
みました。そうしますと、wild type、何もしないものでは、ケラチノサイトの migration は促進され、siRNA でア
クアポリン 3 をつぶしてしまうと、この migration の促進は消えてなくなります。ですから、荊芥は、アクアポリ
ン 3 を増やすことでケラチノサイトの遊走を促進する作用があることも、これでわかりました。
114
第20回日本脳神経外科漢方医学会学術集会(2011)講演記録集
In vivo 創傷に対する荊芥の作用評価
荊芥エキスはマウス皮膚の創傷治癒を促進する
Initial wound (Day 0)
Biopsy punch
Day 1
Day 4
Hair-less mice
(6-week-old, male)
Hara M et al.
J Biol Chem. 277, 46616-21 (2002)
Day 7
Wound
2
3
4
5
6
7
Vehicle
荊芥
100
80
60
***
40
*
20
0
投与方法
Day 0 1
DMSO
% of initial wound area
120
荊芥
(5 μg)
Scale bar: 5 mm
経路: 皮膚上塗布
基剤: プラスチベース®(大正製薬)
濃度: 0.1 mg/g, 50 mg/wound/day
0
1
Initial wound area (n=8)
2
3
4
5
6
7
Day after wound
DMSO: 24.42 ± 1.22 (mm2)
荊芥: 26.01 ± 1.42 (mm2)
荊芥投与
*, ***P < 0.05, 0.001 vs. Vehicle (n=8)
実際に vivo でも確認しました。荊芥を基剤に混ぜて、傷をつけて、片方には荊芥を塗る、もう片方には基
剤だけで、実験してみました。荊芥エキスを含ませた軟膏を塗っていたほうは、実に劇的に、コントロールに
比べて傷の治りが早くなるのです。これが、3 つ目の仮説といいますか、提唱です。
荊芥連翹湯や十味敗毒湯など、皮膚科領域で、よく使われている荊芥は、炎症によって低下するアクア
ポリン 3 の発現を増加させることによって、皮膚を保湿、そして修復することを促すことがわかってきました。
今のところ、アクアポリンと利水について、漢方の作用を考えたとき、大きく 3 つのことがわかってきたとい
うことです。
一つ目は、病態として、浸透圧のアンバランスがある場合は、水の分布に異常が出てくる。これは、行って
はいけない水を五苓散が止めることで、浮腫を予防できます。
二つ目は、炎症が起こると、外分泌腺のアクアポリンはニトロシル化されて機能しなくなります。これは、
抗酸化作用、NO 消去作用を持った麦門冬湯で回復します。
三つ目は、皮膚のアクアポリンは、炎症が起こると消えてなくなります。ここに、荊芥を含んだ方剤を用い
れば、発現が回復して、傷の治りが良くなって、水分保持にもいいでしょう。
水毒および利水作用とアクアポリン
原因:
水毒様
病態:
AQP標的
薬理:
漢方,
生薬:
浸透圧アンバランス
体内の水分分布異常
(浮腫)
AQP阻害による
水の移動抑制
炎症
和漢薬の薬理作用の特性
外分泌腺
皮膚
AQP5ニトロシル化 AQP3発現低下
による分泌抑制
による皮膚乾燥
抗酸化による
AQP5機能回復
・多成分による多面的・複合作用
AQP3発現促進
・西洋薬に応用されていないユニークな機序
ケイガイ
五苓散
麦門冬湯
荊芥連翹湯?
十味敗毒湯?
漢方の薬理作用の特性はどんなところですかと皆さんにお聞きすると、必ずと言っていいほど、多成分
系だから、多面的で複合的な作用を持っているところがいいのだという答えが返ってきます。ただ、今私ど
もが注目しているアクアポリンのように、西洋薬には応用されていないユニークな機序が、漢方薬の中には
含まれているのだと思います。
では、ここまでわかったのだったら、アクアポリン阻害薬、例えばマンガンはその最たるものですが、マン
ガン錯体か何かをきれいに合成して、五苓散と同じような西洋薬が創れるのではないですかと、薬学系の
先生にはよく言われます。
115
脳神経外科と漢方
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第20回日本脳神経外科漢方医学会学術集会(2011)講演記録集
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脳神経外科と漢方
ような生薬が、ちょっと足りないのかなという気もします。ですから、例えば先ほどの一般演題中の、脳梗塞
を起こしたときに出てくる浮腫や脳出血の後の血腫には、柴胡や甘草などの抗炎症活性を持った生薬が
入っている方剤がもっと効くかもしれないなと思っております。
三木 大阪畷生会脳神経外科病院脳外科の三木です。漢方はビギナーで先生の論文もたくさん読ませて
いただいて、セッションVの22で亜急性硬膜下血腫に対する五苓散の効果の発表をします。勉強すればす
るほど、なぜ効くのかがわからなくなってきて、先生の単純なスペキュレーションを聞きたいのです。硬膜下
血腫は慢性であれ、亜急性であれ、脳頭蓋内の脳実質外の生き物ですが、それにどうして五苓散が効くと
先生は考えられていますか。
礒濱 1つはおそらく血腫の外膜のところに血管がたくさん集まってきて、そこに内皮がたくさんあり、そこか
ら水の動きが活発に起こっていると思います。五苓散を単純なアクアポリンインヒビターと考えるとすれば、
そこの部分を抑制するのが1つかなと思っています。ただ、ご指摘のように私自身も抗炎症活性が足りない
と思います。
三木 実は自分の発表での、ディスカッションの最後のスライドで触れていますが、アクアポリン4は、脳実
質内のastrocyteのastroglia細胞、視床下部、それから脳周囲に発現して、先生の論文にありますが、血管
内皮とすれば、アクアポリン1なのですね。そうすると五苓散は効かないんですね。それがマンガンIII、IV、
Vなので、それがどうしても私には納得いかなくて、結局、自分の発表ではやはり不明ということになります。
その見解を先生に教えていただきたいのです。
礒濱 そうですね。1に効かなかったのは蒼朮ですね。五苓散が1に効かないのかという部分については、
ダイレクトに試していないので、私も実はよく知らないのです。もしかするとそこの部分が私のデータの中に
足りない部分かなとは、思っています。
それともう一つは、異常な水の動きに伴うような炎症を最終的に抑制すること、そして、そこの部分が五苓
散で本当にケアできるのかが大事だろうと思います。
実際に先生方の発表を拝聴し、非常に良い、血腫が消えてなくなるよという話を聞くと、何だろうと、micro
gliaの分化を調節するような作用がはたしてあるのかなど、いろいろなことを今考えていますが、本当に直接
的なお答えは持っておりません。
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