債務の承継と相続税

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2015 年 8 月 20 日 第 77 号
haratax 通信
債務の承継と相続税
相続発生時に被相続人にローンが残っている場合、相続税の計算上、そのローンは相続財産から控除
することができます。
プラスの財産(土地や預金など)からマイナスの財産(ローンや未払金など)を控除した金額が基礎控除
以下であれば相続税はかかりませんが、そのような場合であっても債務の分割によって相続税が発生する
ことがあります。
今回のharatax通信では、債務の承継により相続税の計算にどのような影響があるかをご紹介します。
1.
簡単な計算例
・被相続人
・相続人
父
長女、長男
・相続財産
①自宅
5,000 万円(土地、建物含む)
②アパート
3,000 万円(建物のみ)
③預金その他
4,000 万円
合計
1 億 2,000 万円
このほかに②のアパート建築のための借入金 8,000 万円が残っています。
※なお、アパートの土地については、母の相続(一次相続)の際、長男が相続しています。
相続税の計算上、相続財産の合計額 1 億 2,000 万円から債務 8,000 万円を控除した 4,000 万円
が課税価格の合計額となります。
法定相続人が 2 人の場合、基礎控除が 4,200 万円(3,000 万円+600 万円×2 人)となり、課税価
格の合計額が基礎控除を下回るため、この例では通常、相続税は発生しません。
2.
債務の分割による相続税の計算
1の計算例では通常、相続税が発生しませんが、債務の承継によっては相続税が発生することに
注意が必要です。
アパートの建築のためのローンがある場合、通常、アパートを相続する相続人がローンも一緒に承
継し、アパートの家賃収入からローンの返済をすることが多いのではないかと思います。
たとえば、長女が自宅と預金等を、長男がアパートとローンをそれぞれ相続する場合、長女は自宅
と預金等で 9,000 万円の財産を相続し、長男はアパート 3,000 万円とともにローン 8,000 万円を承継す
るため、相続税評価額で△5,000 万円の財産を引き継いだことになります。

自宅と預金その他は長女が、アパートはローンとともに長男が相続するケース
長女
長男
自宅
5,000
アパート
3,000
預金その他
4,000
財産合計
9,000
3,000
債務
△8,000
課税価格
9,000
△5,000 ⇒ 0
単位:万円
合計
5,000
3,000
4,000
12,000
△8,000
4,000 ⇒ 9,000
各相続人が相続した財産をプラスマイナスできればよいのですが、遺産分割により取得した財産の
額を上回る債務を承継した相続人がいる場合、その上回る部分の債務金額は他の相続人の取得財
産から控除することができません。
つまり、長男が相続した財産の課税価格をゼロとして計算するため、長女の相続した 9,000 万円が
そのまま相続税の課税価格の合計額となります。その結果、課税価格の合計額が基礎控除を上回り、
長女にだけ 620 万円の相続税がかかることになります。
3.
相続税をかからなくするために
債務の切捨てが発生しないように債務を長女 5,000 万円、長男 3,000 万円と分割すれば、下記の表
のとおり相続税は発生しません。
ただし、アパートを相続しない長女がアパートのローンを半分以上負担することになるため、現実的
に長女は納得しないでしょう。

承継する債務の金額を調整する場合
長女
自宅
5,000
アパート
預金その他
4,000
財産合計
9,000
債務
△5,000
課税価格
4,000
長男
3,000
3,000
△3,000
0
単位:万円
合計
5,000
3,000
4,000
12,000
△8,000
4,000
さて、債務の分割が決まらない場合、相続税はどのように計算されるのでしょうか。
相続税法基本通達 13-3 によると、だれが負担するか決まっていない債務については法定相続分で
負担するものとして計算するとしています。そのうえでその負担することとなった債務の額が取得する財
産の額を超えるときは、その超える金額を他の相続人の相続税の課税価格から控除することを認める
としています。
つまり、債務の分割をしなければ、法定相続分で按分計算した債務の額が相続により取得した財産
の額を上回るとしても、そのマイナスは切り捨てられず、結果として債務を全額控除できることとなりま
す。
相続により取得する財産よりも承継する債務が多くなる相続人が発生しそうなときは、相続税の額を
より少なくするために、あえて債務の分割が決めないという選択肢があります。(この場合にはその後
のローンの返済についてよく検討しておく必要があります。)

債務の承継が決まっていない場合
自宅
アパート
預金その他
財産合計
債務
課税価格
長女
5,000
長男
3,000
4,000
9,000
△4,000
(全体の 1/2)
5,000
3,000
△4,000
(全体の 1/2)
△1,000
単位:万円
合計
5,000
3,000
4,000
12,000
△8,000
4,000
↑
債務の承継が決まっていない場合にはマイナスが切り捨てられない。
4.
まとめ
今回のharatax通信では、債務の承継が相続税の計算に与える影響についてご紹介しました。
今回お伝えしたかったのは、相続税を少なくするために債務は未分割にしておくべきだということで
はありません。
そもそも民法では、債務の負担を相続人同士で決めるのは、相続人間では有効ですが、債権者には
対抗できないとされています。つまり、相続人間で債務の承継を決めたとしても、債権者が認めなけれ
ば、債権者はその債権が各相続人により法定相続分の割合で承継されたものとして扱うということです。
相続人間の関係や今後の返済などを考えると、たとえ相続税が大幅に増えるとしても、債権者の承
諾を得て債務の承継を 1 人に限定した方がよい場合もありますし、逆に納税資金が不足しているので
あれば、相続税を最も少なくするためにあえて債務の分割を決めない方がよい場合もあります。
債務の承継についても、各相続人が相続する財産の状況や相続人間の関係、債権者の対応などを
総合的に考えて決めることが大切いうことだと考えます。