第1回 就職授業「心構え編」その1

第2章 「あいさつは自分を変える。
自分が変われば周りの世界が変わる」
1.あいさつが大事だと思うその心が大事
前回の授業の最後で、
「自分のチカラで就職するチカラを身につけてほしい」
というお話をしました。
そして、そのチカラはイコール
「自分のチカラで幸せになるチカラ」 だとお話をしました。
で、さらに 「自分のチカラで幸せになるチカラ」 というのは、
イコール 「人として大切なことをきちっとできるチカラ」
だと考えています。
では、「人として大切なこと」
って何だと思いますか?
ひとつだけ答えてください。
(学生ひとりずつ当てていく)
学生 「礼儀」
「あいさつ」
「健康」
「思いやり」
「モラル」
「笑顔」
「優しさ」
この本ではほとんど省略してありますが、実際の
授業は、頻繁に学生に質問をしたり、○×カード
で反応を見たりしながら進められています。
はい、今、すごくたくさん出てきましたね。
人として大切なこと。みんなすごく大切なことだと思います。
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ウエジョビでは、「人として大切なこと」 として、特に
「あいさつ」「そうじ」「素直」 の3つをあげています。
今日は、あいさつについてお話します。
私も、この学校に勤めて11年目です。
私は、この学校に来た最初の年から、
特にあいさつに関しては、「みんなちゃんとやろう!」
ということで、指導してきたつもりです。
その経験から、わかってきたことがあるんですが、
実は毎年こういう傾向があったんです。
4月5月はみんなちゃんとやってくれるんですよ。
一生懸命やってくれるんですよ。あいさつ。
ところがね~、6月とか、秋とかになると、
廊下ですれ違っても、こっちがあいさつしても、返してくれないとか、
声をかけても振り向いてもくれなくなってくる、なんて子が出てくるんです。
数年前まで、毎年そうでした。
不思議ですよね~。4月は、やってくれるのに、
どうしてだんだんできなくなってしまうんだろうって
ずっと思っていました。
…で、ひとつ出た答えがあります。
それは、私の指導の仕方に問題があったんです。
私の指導の仕方っていうのは、
それまでは 「あいさつの仕方」 を教えていただけですね。
本当は、何を教えなきゃいけなかったかと言うと、
結局は 「あいさつの心」 を教えなければならなかったんです。
「あいさつの心」 を理解していれば、放っておいても、
どんどんあいさつは上達するはずですよ。
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少なくとも、「昨日より今日のほうができなくなる」
なんてことはないはずです。
やり方だけ教えると、みんなは、
「その先生が見ていないところではやらない」 とか、
だんだん 「恥ずかしい」 とか、「めんどくさい」
ということになっちゃうじゃないですか。
典型的な例として、
きっとみなさん、保育園や小学校の頃は、
本当に元気のいいあいさつをしていたと思うんですよ。
ところが、中学、高校と、
だんだんあいさつできなくなる人って多いですよね~。
不思議ですよね~。
普通、成長するにつれて、
何でもだんだんうまくなるものですよ。
ところが、あいさつに関しては、
どんどんできなくなっていくんです。
で、私は、ひとつの答えとして、
「あいさつが大事」 なんじゃなくて、
「あいさつが大事だと思うその心が大事」 なんだ
ってことに気づきました。
「あいさつって大事だよな~」
…と思う心を持っている人だったら、
このあと、あいさつができなくなるなんてことは、ないはずなんです。
だから、私はそれまでは 「あいさつのやり方」 を教えていただけで、
「あいさつの心」 を教えきっていなかったんだなぁと反省をして、
それ以来、
どうしたらみんなに 「あいさつの心」 を伝えられるか
ということを考えて、こうやって授業をしています。
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2.うまくいかない組織には共通点がある
ひとつね、面白い話があるんです。最近聞いた話です。
ある経営コンサルタントの方から聞いた話です。
経営コンサルタントっていうのは、
いろんな業種のいろんなノウハウを持っている人です。
「こうやれば売り上げが上がる」 とか、
「こうやれば会社がうまくいく」 というノウハウ(やり方)を
たくさん持っていて、
いろんな会社に、ノウハウを教えてあげて、
「こうするとうまくいきますよ」 というアドバイスをしてあげるんですね。
そのコンサルタントの方が、
ずぅ~っと気になっていたことがあるそうなんです。
それは 「こうすればうまくいきますよ」 というノウハウを
ある会社に持っていってやってもらったら、大成功するのに、
別の会社に持っていくと、全然うまくいかない…ってことがあるんですっ
て。
…同じノウハウなのに、なんで、うまくいく会社と、
うまくいかない会社があるんだろう?…って
ず~っと思っていたそうです。
…で、最近答えが出たそうです。
それは、不思議なことに、
「組織の中で…会社の中で、社員同士、
気持ちのいいあいさつができない組織に、
どんなノウハウを持っていっても、うまくいかない」
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ってことが、わかったそうです。
ノウハウって「やり方、手法」ですよね。ある意味「形」だから、
形だけ真似すれば、ある程度はうまくいくような気がするじゃないですか。
だけど、
あいさつができないような組織には、
どんなにいいノウハウを持っていってもうまくいかないんですって。
3.あいさつとは相手に心を開くこと
で、今度はその話を私が尊敬する木下さん
(株式会社アビトレ 代表取締役会長 木下晴弘氏)
が分析していました。
株式会社アビトレ 代表取締役会長
木下晴弘氏
ウエジョビの「就職対策授業」の源流は
木下晴弘氏にあります。木下晴弘氏に
は、職員研修会や、夏期特別研修会に
お越しいただき、情熱あふれるお話を
していただいています。
1965 年大阪生まれ。進学塾講師時代、「授業は心」をモットーに、学力だけでなく人
間力も伸ばす指導を行い、生徒、保護者から絶大な支持を受けた。2001 年、株式会社
アビトレを設立し、教師向けのセミナーを実施。すでに全国 14,000 人を超える教師に、
豊富な経験から培われた技術と熱い思いを伝えてきた。木下氏の話は「感動」そのも
の。2006 年夏にウエジョビで行われた研修会でも、涙を流す者が続出。
また、常に謙虚で何事にも感謝をする姿、本気で全力投球する姿勢、周囲への細か
な気配り…木下氏の行動すべてから学ぶものは大きい。
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なぜ、あいさつのできない組織に
すばらしいノウハウを持っていっても
うまくいかないかと言うと、
「あいさつ」とは何か
というところから説明しないといけないのですが、
木下さんが言うには、結局、
「あいさつとは、相手の存在を認め、
相手に対して心を開くこと」
なんですって。
ですから、逆に言えば、
「相手からあいさつをされれば返すけど、自分からはしない」
というのは、
「相手を無視している、存在を認めていない」
ということになるんです。
もちろん、心を開いていない状態です。
で、結局、組織の中であいさつができないっていうことは、
「その組織の中のひとりひとりが
同じ組織のみんなに心を開いていない」
っていうことなんです。
…で、心を開いていない人っていうのは、
どんなにいい話でも、どんなにいいノウハウでも、
「そんなこと言ったってうまくいくのか~?」
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という気持ちで聞いているわけですよ。
だから、ぜんぜん効果が出ないのは、当たり前ですよね。
あいさつのできる組織なら、心を開いているわけですよ。
誰に対しても。
心を開いて人の話を聞くことができれば、
「あ、なるほどそうか! それなら、ちゃんとやってみよう」
って思うことができるわけです。
みんながそう思ってやってくれるような組織だったら、
そのノウハウは一気に生きるんですね。
これは、人間も一緒ですね。
人に対して、心を開けない人は、不幸ですね。
常に心を閉じて、人の話を聞くにも、
「そんなこと言ったって~。そんなうまくいくわけないよ~」
って、思っている人は、成長できないですね。
でね、人に対して心を開けない人は、
人からも心を開いてもらえないです。
逆に、人に対して、
いつも気持ちの良いあいさつをして、心を開ける人は、
他の人も心を開いてくれますよ。
ホントに、人に対して心を開いている人には、
周りの人も心を開いてくれますから、
これ、周りの人も嬉しいですよね。
私もいろんな卒業生を何百人と見てきましたが、いろんな子がいました。
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私に対して、心を開いてくれる学生に対しては、
やっぱね、
「何とかしてやろう」
という気持ちになりますよね。
でも、何度も何度も言っても、言うことを聞かない、
心を開いてくれない学生に対しては、
「…この子には、どんなに言ってもわかってもらえないんだ…
これ以上言っても無駄なのかも…」
って思ってしまうことが、どうしてもあります。
すごく悲しい気持ちになります。
それに、そう思われてしまったその子は、間違いなく不幸です。
4.まずは自分から
これは、就職した後も同じです。
上司に注意されても、心を開いていなければ、
上司も何も注意しなくなりますよ。
なので、自分から心を開かなかったらダメですよ。
ここで、こういうこと言う人、いますよ。
「あいつが心を開いてくれれば、自分だって心を開くのに。」
あいさつも一緒じゃないですか。
「先生があいさつしてきたら、するよ」
というのは、
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「あいつが俺に対して心を開いてくれれば、
俺だって心を開いてやるよ」
というのと同じです。
これね、うまくいかないんですよ。
「まずは、自分から」
自分が心を開かなかったら、
周りの人も心を開いてくれないです。
周りの人が、心を開いてくれなかったら、
自分が心を開いていないということです。
周りの人が、親切にしてくれなかったら、
それは自分が周りの人に親切にしていないっていうことです。
周りの人が、あいさつしてくれなかったら、
自分が周りにあいさつをしていないというだけのことです。
5.本物のあいさつとは
そして、私が考える「本物のあいさ
つ」について、お話します。
私が考える 「本物のあいさつ」 は
これです。
「自分から、相手の目を見て、
大きな声で、笑顔で」
あいさつでは、
「自分から」
学生達のさわやかなあいさつ。
というのが、一番大事だと思っています。 毎日、朝から元気をもらっています。
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自分から言えなかったら、レベルとしては半分以下かなと思っています。
勇気を持って、「自分から」してほしいですね。
「自分からあいさつしても
もしかしたら、相手はしてくれないかも…」
とか考えると、
ちょっと勇気いるじゃないですか。
自分からするっていうのは。
でもね、その勇気が大事なんだな。
ぜひ、…ぜひね、先生だけじゃなくて、友達に対しても、
自分からあいさつしてほしいなと思っています。
そしてね、「相手の目を見て」。
自分からあいさつしてくれる人は、
たいてい目を見て言ってくれるので、OKかなと思うのですが、
自分からあいさつできない人は、
私があいさつしても、
私の方を向かずにあいさつする人が結構いるんです。
さっきも言ったように、
「あいさつは、その人に対して心を開くこと」 ですから、
その人の目を見ずして、どうしてその人に心が開けるんですか。
なので、
「その人の目を見て」
あいさつをしなきゃダメです。
さらには、それが気持ちの良い大きな声で、
さらには、それが笑顔だったら、理想ですよね
…という、そういう話です。
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