刑事訴訟法問題演習 2年次/後期 2単位 演習 中島 宏 1.授業の目標 この演習では,「刑事訴訟法A」「刑事訴訟法B」で修得した知識と考え方を前提に,より 高度かつ複雑な事案を解決する力を養うことを目標とする。すなわち,具体的な事実関係の中 から法的な争点を抽出する力,具体的な事実関係の中から法的推論のため必要な事実を抽 出する力,具体的事実との関係において判例の射程を検討する力,各具体的な事実に即し た法的推論を,口頭および文章で提示する力,法的推論の妥当性について,的確な議論を 展開する力を身につける。現に裁判所で適用されている刑事訴訟法の姿を正しく理解し,それ を具体的事案の解決に用いることができるようになるだけでなく,今後あるべき刑事訴訟法の 解釈・運用のあり方についても考察を深めたい。 毎回の演習においては,「共通的到達目標モデル」に記載された事項を念頭に置きながら, 刑事訴訟における捜査・公訴・公判・証拠・上訴の各過程における事例問題を素材として,重 要判例を参照しつつ議論を展開する。判例を検討するにあたっては,いわゆる「判旨」を機械 的に理解するだけでは足りない。事実審が認定した具体的な事実関係を視野に入れながら,判 決や決定が示した判断のうち「何が判例か」を自ら読み取る力を修得することが重要である。 2.授業の内容 ① 任意処分の限界 任意捜査と強制処分の限界,任意同行の適法性,逮捕との区別,同行に引き続いて行われた取調べや尿 の採取によって得られた証拠の証拠能力,写真撮影の適否,おとり捜査の適否などについて,複数の判例 を素材として検討する。 ② 逮捕・勾留 逮捕・勾留の要件と手続き,逮捕と勾留の関係について基本的な理解を確認したのち,逮捕の適否が取 り調べの適否に与える影響,別件逮捕・勾留,再逮捕の適否などについて,複数の判例を素材として検討 する。 ③ 捜索・押収(1) 捜査における物的証拠の収集について基本的な理解を確認したのち,具体的事案における捜索・差押え の可否について検討する。 ④ 捜索・押収(2) 捜査における物的証拠の収集について,具体的事案における捜索・差押えの可否について検討する。 ⑤ 即日起案 第4回までの講義内容について,即日起案を行い,講評を加える。 ⑥ 訴因(1) 訴因について基本的な理解を確認したのち,訴因変更の要否および可否について,具体的事案を素材に 検討する。 ⑦ 訴因(2) 訴因と訴訟条件について,具体的な事案を素材に検討する。 ⑧ 一事不再理効 訴因ないし審判対象についての議論を前提これと密接に関係する裁判の効力論について,具体的な事案 を素材に検討する。 ⑨ 即日起案 第6回から8回講義までの内容について,即日起案を行い,講評を加える。 - 56 - ⑩ 伝聞証拠 供述証拠と非供述証拠の区別,伝聞法則の意義と機能,当事者による同意の機能について基本的な理解 を確認したうえで,具体的な事案を素材に,犯行計画メモや実況見分調書の証拠能力について検討し,伝 聞と非伝聞の境界をめぐる議論を深める。 ⑪ 伝聞例外 伝聞例外の体系,それぞれの例外が許容される要件について基本的な理解を確認したうえで,具体的な 事案を素材に,検察官面前調書をめぐる諸問題について議論を深める。 ⑫ 即日起案 第5回から7回講義までの内容について,即日起案を行い,講評を加える。 ⑬ 違法収集証拠排除法則 違法収集証拠排除法則について基本的な理解を確認したうえで,具体的な事案における適用のあり方に ついて議論を深める。 ⑭自白 自白の証拠能力おわび証明力について基本的な理解を確認したうえで,具体的な事案に おける適用のあり方について議論を深める ⑮択一的認定 裁判における事実認定に関して,具体的な事案を素材として,特に択一的認定・概括的認定をめぐる問 題を検討する。 3.テキスト 特にテキストは指定しない。判例の原文を教材として指定することがある。予習の手がかり として,事前に読むべき判例評釈等をシラバス・システムで指定する。なお,全体を通じて すべての学生が常時活用すべき教材として,以下を指定しておく。 ・井上正仁ほか編『刑事訴訟法判例百選[第 9 版]』(有斐閣,2011 年) 4.参考図書 ○各講義の事例問題の作成においては,以下の教材・資料を参考にする。学生の自修におい ても必要に応じて活用することが望ましい。 ・井上正仁ほか『ケースブック刑事訴訟法 第 4 版』(有斐閣,2013 年) ・古江頼隆『事例演習刑事訴訟法 第 2 版』(有斐閣,2015 年) ・井田良ほか『事例研究刑事法Ⅱ 刑事訴訟法』(日本評論社,2010 年) ・笠井治・前田雅英『ケースブック刑事訴訟法 第 3 版』(弘文堂,2012 年) ・亀井源太郎『ロースクール演習刑事訴訟法 第 2 版』(法学書院,2014 年) ・佐々木正輝ほか『捜査法演習』(立花書房,2008 年) ・廣瀬健二『公判法演習』(立花書房,2013 年) ・平野龍一・松尾浩也編『新実例刑事訴訟法 1~3』(青林書院,1998 年) ・松尾浩也・岩瀬徹『実例刑事訴訟法 1~3』(青林書院,2012 年) ○常時参考にすることが望ましいものとして,以下の注釈書がある。 ・松尾浩也監修『条解刑事訴訟法(第 4 版)』(弘文堂,2009 年) ・河上和雄ほか『大コンメンタール刑事訴訟法(第 2 版)』(青林書院,2011-2013 年) ・三井誠ほか編『新基本法コンメンタール刑事訴訟法 (第 2 版)』(日本評論社,2014 年) ・後藤昭・白取祐司ほか『新コンメンタール刑事訴訟法(第 2 版)』(日本評論社,2013 年) - 57 - ○以下の基本書の水準を前提とする。 ・田宮裕『刑事訴訟法(新版)』(有斐閣,1996 年) ・白取祐司『刑事訴訟法[第 7 版]』(日本評論社,2012 年) ・田口守一『刑事訴訟法[第 6 版]』(弘文堂,2012 年年) ・池田修・前田雅英『刑事訴訟法講義[第 5 版]東大出版会,2015 年) ・上口裕『刑事訴訟法[第 4 版]』(成文堂,2015 年) ・宇藤崇・松田岳士・堀江慎司『LEGAL QUEST 刑事訴訟法』(有斐閣,2012 年) 5.成績評価方法 平常点(50%)。 (a)即日起案 3回実施して,その採点結果を評価する。いずれも添削して返却し,必要があれば再 提出を求めたうえで再評価を行う。平常点の 60%に相当。 (b)授業中の発言内容 平常点のうち 40%に相当。欠席については,その理由を考慮し,必要があれば 補習 課題を与えるなどの措置を講じたうえ,授業中の発言内容に対する評点から減点する。 席についてはここから減点する。全体の 10%相当。 期末試験(50%)。 ・事例問題の筆記試験による学期末試験を実施する。全体の 50%相当。 6.備 考 ・「鹿児島大学法科大学院において最低限修得すべき内容」に含まれる「共通的到達目標モ デル」に掲げられた事項のうち,授業時間内で扱うものと,学生の自学自修に委ねるもの の選択については,シラバス・システムの授業計画において明らかにする。なお,後者の 到達度も期末試験等における考査の対象となるので注意すること。 ・事前に示す課題について,全学生が十分な検討を済ませたうえで授業に出席していること を前提に,全体で議論を展開する。学生はあらかじめ課題についての解答(当該事案につ いてどのような法的判断を行うか否かを検討したペーパー)を作成して持参することを参 加の条件とする。 ・教員からのレクチャーは必要最小限にとどめ,学生相互のやりとりを軸にした「当事者主 義」的な進行を予定する。 ・予習または復習の機会として,オフィスアワーの積極的な活用を推奨する。 - 58 -
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