鎮痛薬腎症の臨床像と疫学

鎮痛薬腎症の臨床像と疫学
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元来、フェナセチン含有鎮痛薬が原因と考えられていたが、フェナセチン製造中止後も発症しており、ア
セトアミノフェンを含む2種類の鎮痛薬(アスピリン)とカフェイン±コデインの配合剤が原因と考えられてい
る。
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米国腎臓財団、ヨーロッパ科学者グループは鎮痛薬腎症は2つの鎮痛薬を含み、ほとんどがカフェイン±
コデインからなる多種類の鎮痛薬製剤の過剰服用によって腎乳頭壊死と慢性間質性腎炎を起こす進行
性の腎不全であると定義した。
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鎮痛薬腎症は乳頭壊死・慢性間質性腎炎を起こし、腎の疝痛、顕微鏡的血尿を伴うことが多いが、タンパ
ク尿や尿量減少を呈する症例は少ない。60~75%に無菌膿尿、再発性の泌尿器感染を伴う。
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CTによる両側の乳頭部のでこぼこした形状と石灰化を伴う腎萎縮は鎮痛薬腎症の診断の決め手となる。
特に両側の乳糖部石灰化の感度(92%)、特異度(100%)は高い。
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アセトアミノフェンとアスピリンの服用により皮質および乳糖部で高濃度のサリチル酸(アスピリンの活性代
謝物)がグルタチオンを枯渇させる(利尿薬併用により加速)。グルタチオンはアセトアミノフェンの毒性化
合物 NAPQIの不活性化に必要なため、枯渇により脂質過酸化、臓器タンパクのアリル化を起こし、乳頭
壊死、石灰化することが実証されている。
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鎮痛薬を少量、毎日服用しても鎮痛薬腎症を起こすには最低5年は必要であり、5年以下では起こらな
い。頭痛を持つ女性に多く、消化性潰瘍を含む上部消化管障害を併発しやすい。
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5~55年間、鎮痛薬を連用し、50~60歳で発症するが、緩徐に進行する腎障害で慢性腎不全(GFR15~
30mL/min)になるまで症状は出ない。フェナセチンが製造中止になっても鎮痛薬腎症が起こるのに平均
22年要するため、製造中止しても直ちには鎮痛薬腎症は減らない。
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アスピリン、アセトアミノフェンの単独長期大量使用ではほとんど発症しない。アスピリン、アセトアミノフェン
の配合剤が鎮痛薬腎症を発症する。アセトアミノフェン単独で相対危険度3.2倍という報告もあるが、アス
ピリン服用者とフェナセチン+アスピリン+コデイン服用者のみで相対危険度が計算されている。またアセト
アミノフェン年間服用量が366錠を超えると末期腎不全になるオッズ比が2.1倍に、あるいは生涯5000錠以
上の服用でオッズ比が2.4倍になるという報告も他の鎮痛薬も含まれておりアセトアミノフェン単独の報告
ではない。しかもこの報告では生涯NSAIDs服用量が5000錠以上で8.8倍になることも明らかにしている。
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鎮痛薬腎症の発症率は1970年代のオーストラリアでは22%と世界一であったが、1990年代初頭にはオー
ストラリア9%、ヨーロッパ3%、米国0.3%であり、国別ではオーストラリア、ベルギー、カナダで高い。
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動物実験によっても鎮痛薬腎症については相反する報告があり、解明されていない。
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鎮痛薬配合剤の大量連日服用が原因ということはほぼ一致している。
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少なくとも2成分の鎮痛薬を含むOTC薬の販売禁止によってオーストラリアの鎮痛薬腎症による透析患者
数を減らせることができた。
引用文献
1)
2)
Elseviers MM, De Broe ME: Analgesic nephropathy: is it caused by multi-analgesic abuse or single
substance use? Drug Saf, 1999, 20: 15-24.
Gault MH, Barrett BJ: Analgesic nephropathy. Am J Kidney Dis, 1998, 32: 351-360.