大阪市教育委員会の「個別指導教室(仮称)」

大阪市教育委員会の「個別指導教室(仮称)」について私たちが考えたこと
― 子ども情報研究センター子ども人権・子育ち連携合同部会からのメッセージ
―
2015 年2月 25 日
(文責・子ども人権部会座長 住 友
剛)
大阪市教育委員会が「個別指導教室(仮称)」
(以後カギカッコ略)の実施を検討中であ
るとの報道が伝わったのが、2014 年6月のことです。そこから私たち子ども情報研究セン
ター子ども人権部会・子育ち連携部会は合同で(以後2部会併せて「合同部会」と略)で、
同年7月、9月、11 月、2015 年1月と4回の会合を持ち、この個別指導教室(仮称)の実
施がどのような問題を子どもや保護者、学校に引き起こすのかについて考えてきました。
この個別指導教室(仮称)は、新聞報道によりますと、大阪市教育委員会が5段階に分
けた問題行動のレベル3~4の子どもを対象に、現在在籍中の学校から当該の子どもを引
き離し、課長級の教員以下非常勤で採用した教員経験者が指導にあたる予定です。このレ
ベル3とは「暴力、暴言、脅迫、強要行為、無免許運転、喫煙、著しい授業妨害など」が
該当し、同じく4には「激しい暴力、恐喝行為、危険物の所持、窃盗行為、レベル3の指
導に従わないなど」の子どもの行為が該当します。また、スクールカウンセラーや警察 OB
などの「第三者専門家チーム」や、学習支援に有償ボランティアの活用も行われる見通し
です(以上は 2015 年1月9日づけ朝日新聞大阪朝刊記事「問題児『分離』賛否なお 大阪
市の個別指導教室」を参照)
。
さて、いよいよ今年 2015 年5月から大阪市教育委員会の取り組みとして、この個別指導
教室(仮称)が大阪市内の公立小中学校に通う子どもたちに対して実施されます。
この個別指導教室(仮称)を実際に運営するにあたって、私たちは子どもの権利保障の
観点から見て次の4点のとおり課題があり、当事者である子ども、周囲の子ども、保護者、
学校の教職員等に、さまざまな支障が出てくるのではないかと考えています。
(1) 指導対象となる子どもの「抽出」のあり方の問題
この教室はそもそもどのような子どもたちを対象としているのか? 一応のレベル
分けが行われているとはいえ、学校が警察と連携して対応しなければいけない子ども
と、この教室に通わせることになる子どもとの線引きはかなりあいまいで、実際には
誰が決めるのか? 学校長か、それとも各校の生徒指導関係の会議なのか?
また、
この教室に通うことを決める場で、当事者である子どもの意見は尊重されるのか?
(2) 指導対象となった子どもの「通学」のあり方の問題
実際に通うことが決まった場合、個別指導教室(仮称)への通学はどのように行う
のか? 保護者が送り迎えするのか? ボランティアや教室配置の教職員が送迎する
のか? 教室の開設場所によっては相当、遠距離の通学を行う子どもがでると思われ
るが、それは現実的に可能なのか? 通学費は誰が負担するのか? そして、そもそ
もこの教室に通うことになった子どものなかには、決められた時間どおりに通えるよ
うな状態にはない子どももいるのでは?
(3) 指導対象となった子どもへの「指導・支援」のあり方の問題
一方、個別指導教室(仮称)では、そこに集まった子どもたちに対して、具体的に
どのような指導を行うのだろうか? 1か月程度の期間で本当にその子どもの状態を
改善することが可能なのか? もしかしたら教室配置の教職員と当該の子どもとの関
係づくりで終わってしまうのではないか?
(4) 指導対象となった子どもの原籍校への「復帰」のあり方の問題
そして、この個別指導教室(仮称)での指導の終了は、何を基準に、誰が判断する
のか? 個別指導教室(仮称)での指導終了者は、どのような形で原籍校に戻れるよ
うに対応していくのか? また、そのときの原籍校の子どもたちは、戻ってきた終了
者をどのようなまなざしで見ると考えられるのか?
指導終了者を原籍校に戻すこと
について、個別指導教室(仮称)ではどこまで考えていくのだろうか?
大阪市教育委員会におかれましては、上記の4点に関する問題点につきまして、個別指
導教室(仮称)の実施にあたっては、早急に子どもたちの権利保障の観点から適切な条件
整備、配慮等を行っていただきますよう要望いたします。
また同時に、合同部会の議論では、「今の大阪(府・市)の学校改革が続く限り、その学
校の構造のなかで誰かが荒れざるをえない状況にあるのではないか?」といった意見や、
「個別指導教室(仮称)を創設することよりも、教職員を複数、学校に加配できるように
したほうがいいのではないか?」「早い段階(低学年)で、人権の視点のある学ぶ場をつく
ることや、その充実に向けての体制を整えることが必要ではないか?」といった意見も出
ました。
私たちとしては、本来は個別指導教室(仮称)など必要のないような、子どもたちにと
って過ごしやすい学校の環境整備を行うことこそ、子どもの権利保障の観点からすれば重
要なことだと考えます。
そこで、私たちとしては今後も注意深く上記の4点に注目しながら、子どもの権利擁護
の観点からこの個別指導教室(仮称)の運営状況を見守っていくとともに、引き続き合同
部会での議論等をふまえて、このような教室を設置せざるをえなくなった大阪(府・市)
の学校状況のあり方について、積極的に意見表明を行っていきたいと考えています。
以上