自分の思いや考えを伝え合い、認め合う子どもの育成

平成27年度 北海道小学校長会地区活性化支援事業【実践事例レポート】
1 報 告 地 区 :石狩地区
2 事例報告学校名 :江別市立大麻西小学校
3 報
告
者 :校長 中 井 清 一
4 キ ー ワ ー ド :「学力向上」「支援を要する子への指導」
研究主題
自分の思いや考えを伝え合い、認め合う子どもの育成
~算数科におけるユニバーサルデザインの理念を活かした授業づくり~
1
はじめに
本校は児童数341名、江別市の最も西に位置し大麻地区の住宅街に囲ま
れた学校です。子どもたちの学習意欲は全体的に高いものが見られますが、
学力の高い児童と極端に低い児童が学級内に存在する、いわゆる「二極分化」
の様子を示しています。また、通常の学級に在籍する特別な支援を必要とす
る児童も各学年に見られ、個人差に応じた学習指導の改善が必要でした。
どの子にも分かる授業づくりの研究
そこで、今年度から、
「ユニバーサルデザインの理念」を授業に取り入れ、
「どの子どもにも分かる授業はみんなが分かる授業」という考え方で算数科の授業研究に全教職員で取り
組んでいます。
研究仮説
研究内容(キーワード)
①学習環境や学習規律を整えることで、だれ
①「学びやすさ」「教室環境」「学習規律」「姿勢」
もが集中して学習に取り組むだろう。
②分かりやすい授業を構築し、互いに伝え合
い認め合うことで、学習意欲が高まるだろう。
2
「学習課題とまとめの表記方法統一」「ICT 活用」
②「授業の焦点化・視覚化・共有化」「ペア・グループ
学習」「自己評価・相互評価」
全校で統一した「学習環境」と「学習規律」(仮説①)
まず本校では、教室の環境を全校で統一するこ
とから手がけました。初めに児童が学習に集中し
やすいよう、黒板の周囲には掲示物を貼らないこ
とに決めました。さらに、
「学習のきまり」を作成
し、児童に示しました。この中には「立腰(りつ
よう)
」という言葉で、腰骨を立てる姿勢も示して 全校で統一した立腰(りつよう)の指導
黒板の周辺には掲示物がありません います。このような形で全校的に学習環境と学習規
律を整えることに取り組みました。さらに、本校の研究の経過は「校長室便り」などのお便りで示し、保護
者にも理解を求めています。
これらのことを年度の始まりから取り組んだ結果、
全校統一で取り組んだ主な内容
様々なことに気が散って集中できない子どもも、学
・学習に使う文房具やノートを学年で統一。
習に意欲的に取り組むようになってきました。また、
・板書の「学習課題」を青いチョークで、
「学習のま
教師も、指導のポイントを
とめ」を赤いチョークで囲み、児童もノートに色
鉛筆と定規で線を引いて記入。
意識しながら授業を進める
・言葉だけでなく、実物投影機や電子黒板等のICT
ようになりました。
機器を用い、教科書やノートを教室で提示。
今後も、落ち着きのある
・タイマー等を使い、児童の時間的感覚を養う。
学習環境の整備と統一した
・学級全体の説明では理解の難しい児童に、机間指
学習規律の指導の研究を推
導で個別に対応。
進し、学力の向上を目指
・個人差に配慮した座席配置の決定。
姿勢を良くし学習に集中しています
していきます。
3
視覚化・焦点化・共有化を図った「授業づくり」(仮説②)
算数科のユニバーサルデザイン化については、今年度は「視覚化」「焦点化」「共有化」につい
ても研究を進めました。以下は11月に行われた『5年生算数 単位量あたりの大きさ』の研究
授業の指導案です。
1 単元の目標
単位量あたりの大きさの意味を理解し、単位量あた
りの大きさで表したり、比べたりすることができる。
2 単元の構成 (※ UD ~ユニバーサルデザイン)
目 標
学習活動
3 本時の展開
UD 化への視点等
☆焦点化△視覚化□共有化
過程
つかむ
1 単位量あた ・エレベーターの混 ☆1平方メートルに何人いるかを
りの大きさ
意味と求め
2 方を理解す
る
み具合の比較を
比べて、混み具合を調べる。
通して、単位量あ (1人当たりの面積は次時に)
たりの大きさを求め □面積をそろえたり、人数をそろ
て比べる
える考え方を出し合う。
①授業の焦点化
1時間の授業で学ぶべき内容が
多すぎると、大切なことが分から
なくなります。そこで単元の目標
に沿って活動を焦点化する工夫に
取り組みました。
(1㎡の単位量に焦点化)
②授業の視覚化
頭の中だけで考えると分
からないことも、視覚化する
ことで考えやすくなります。
本校では、実物投影機等を
積極的に活用し、イメージ化
を図ってきました。
(図表の見せ方の工夫)
図表やICT機器を使い視覚化
4
◎混み具合の意味を理解する
T :混んでいるところはどんなとこ
ろかな?
C :電車、デパート、札幌ドーム
◎問題提示
3つのエレベーターのうち
1番混んでいるのはどれ?
UD 化への視点等
☆焦点化△視覚化□共有化
抽出児~集中力に欠けやすい児童
・導入の発問について考えて
いるか。
△先に表の人数を提示し、後で
面積を提示(視点を集中させる)
☆数値を最初から書かず、情報不足に
する(焦点化して考えさせる)
□人数だけでは比べられないことを確認
する(教室内で問題を共有化する)
□ペアで、ホワイトボードの模型を操作
しながら考える。
人数 面積
1号機 18 人 6㎡
2号機 16 人 6㎡
3号機 16 人 4㎡
・・・(中略)
T:1号機と3号機ではどち ③授業の共有化
らが混んでいるかな?
子どもたちが、考えを伝えあ
ったり教えあったりすることで、
自分の考えを深めることにつな
がりました。また、考えを共有
化(シェア)することで、相手
を尊重する豊かな心も育んでい
ます。
(ペアで互いの考えを共有)
ペアで1㎡に何人入るか確認
組織的に取り組む「校内研究」の工夫
事前研究及び事後研究の工夫
・低・中・高のブロック研究体制をとり、全校研究
授業の指導案は各ブロックで検討する。
・事前研究会では、授業者が授業の一部を「模擬
授業」として行い、他の教師が児童役となって、
内容を全員で検討する。
・事後研究会はⅠ型抽出児(理解がゆっくりな子)
とⅡ型抽出児(集中しにくい子)の記録を中心
に協議する。
・協議は、事前に付箋紙を配布、KJ法を用いて
焦点化したグループ協議を行い、成果と課題に
ついてまとめる。
5
もつ
学習の流れ
本校では、今年度より研究部員を4名とし、低・
中・高学年のブロック研究を強化しました。
さらに、事前研究では模擬授業を取り入れたり、
事後研究では付箋紙をつかったKJ法で実施するな
ど、「アクティブな話し合い」になるよう工夫して
います。その結果、「ユニバーサルデザイン」の授
業づくりについて、全教職員が積極的に取り組み、
成果を上げています。
成果と課題
事後研は付箋を使ってKJ法で実施
本研究に取り組んで、教師及び児童にアンケ 事前研で模擬授業を行いました
ート調査を行い、今年度の中間的な評価を行いました。その結果を以下に示します。(○成果●課題)
【教師の成果と課題】
○学習環境や学習規律を統一して指導できた。
○視覚的な提示や机間支援など個人差への配慮の意
識が高まった。
●ICT機器の活用や「共有化」を意識した話し合い、
自己評価への取組には課題が見られた。
【児童の成果と課題】
○算数の授業が「すき」という児童の割合が増加した。
○分からないことを「わからない」とはっきり言えるよ
うになった児童の割合が増加した。
●自分の発言が大事にされているという児童が少ない。
更なる「共有化」への取組が必要である。
今後も「ユニバーサルデザインの理念」を活かした研究を積極的に推進し、子どもたちの集中力を高め、
自尊感情や相互尊重の心を大切にしながら「だれもが分かる授業の創造」に取り組んでいきます。