外部刺激で分離挙動が変化する多孔質ガラス分離膜の簡易作製法の

外部刺激で分離挙動が変化する多孔質ガラス分離膜の簡易作製法の開発
Preparation of porous glass film with stimuli-responsive separation behavior changes
(登録番号)
研究代表者
兵庫県立大学大学院工学研究科物質系工学専攻・准教授
共同研究者
兵庫県立大学大学院工学研究科物質系工学専攻・教授
遊佐真一
矢澤哲夫
[研究の目的]
収縮して水に不要となることが知られて
近年、有機物と無機物を分子レベルで複
いる。Figure 1 に PNIPAM をグラフトした
合化した有機-無機ハイブリッド材料に関
多孔質ガラスの細孔の開閉の概念図を示
する研究の中で、無機化合物の表面に有
す。32 ℃より低温で、PNIPAM 鎖が広が
機ポリマーをグラフトすることで高い機
った状態では細孔が閉じ、透過物質が細
能性を持つ有機-無機ハイブリッド材料の
孔を透過することが出来ないが、32 ℃以
創生を目標とした研究が盛んに行なわれ
上の温度では PNIPAM 鎖が収縮して細孔
ている。我々は無機物である多孔質ガラ
が開き、透過物質が細孔を透過できると
ス表面に、外部刺激によりコンホメーシ
考えられる。
ョンが大きく変化する刺激応答性の有機
ポリマーをグラフトした新規な有機-無機
ハイブリッド材料を合成し、外部刺激に
よる細孔ゲートの開閉のコントロールを
行い、低分子化合物の透過の on-off 制御
を計画した。多孔質ガラスは耐熱性が高
Figure 1. Schematic illustration of permeation
く、細孔径が均一で、20 Å~数 μm の孔径
control by thermo-responsive polymer-grafted
のものを任意に作成することが可能であ
porous glass.
る。また表面に存在するシラノール基に
多孔質ガラスへの PNIPAM のグラフト方
より、シランカップリング剤を用いるこ
法に、可逆的付加-開裂連鎖移動(RAFT)
とで表面改質を容易に行なうことが可能
型リビングラジカル重合を利用した 。
である。外部刺激に応答して大きくポリ
RAFT 重合は NIPAM を含む様々なモノマ
マー鎖のコンホメーションを変化させる
ーの重合制御が可能であり、ポリメタク
ポリマーとして、温度応答性のポリ(N-
リル酸メチルやポリスチレンのシリカゲ
イソプロピルアクリルアミド)
(PNIPAM)
ル表面上へのグラフトも報告されている。
がよく用いられている。PNIPAM は 32 ℃
そこでトリチオカルボネート基を有する
より低温の水中では水和して、広がたコ
α-メチルトリチオカルバメート-S-フェ
ンホメーションで水に溶解するが、32 ℃
ニル酢酸(MTPA)を導入した多孔質ガラ
以上では脱水和を起こし、ポリマー鎖が
スを合成し、MTPA を導入した多孔質ガ
1
ラス存在下で NIPAM の重合を行なうこ
ホルムアミド中で混合し、アルゴン雰囲
とで、PNIPAM をグラフトした。さらに
気下、24 時間 40℃で反応して PNIPAM-
PNIPAM をグラフトした多孔質ガラスを
ガラスを合成した(Scheme 2)。ガラスに
用いて低分子化合物の透過の on-off 制御
固定していないフリーな MTPA を添加し
を試みた。
たのは、ガラス表面上の成長ラジカルの
寿命が、均一系と比べて長くなり副反応
[研究の内容、成果]
が起こりやすくなるので、成長ラジカル
1. 多孔質ガラスへの PNIPAM の導入
の寿命を短くするためにフリーな MTPA
MTPA を多孔質ガラス表面に高効率で
を添加した。そのため重合後の上澄み液
導入するために、MTPA と 2-メルカプト
にはガラスに固定されていないフリーな
-2-チアゾリンを反応することで MTPA の
PNIAPM が存在すると考えられる。重合
カルボン酸を活性化した。Scheme 1 に多
後の上澄み液のゲルパーミエーションク
孔質ガラスへの MTPA の導入を示す。細
ロマトグラフィー(GPC)測定の結果、
ガラスに固定されていないフリーな
PNIPAM の数平均分子量(Mn)は 1.33 ×
104 で、分子量分布(Mw/Mn)は 1.41 だっ
た。
Scheme 1. Synthesis of activated MTPA.
孔径が約 4 nm の多孔質ガラスに 3-アミノ
プロピルトリメトキシシランを反応する
ことで、多孔質ガラス表面にアミノ基を
導入した。アミノ基を導入した多孔質ガ
ラスと活性化した MTPA を反応すること
で、多孔質ガラス表面に連鎖移動剤であ
る MTPA を導入した。
Figure 2. Thermogravimetric analysis (TGA) data
of bare porous glass、 NH2-glass、 MTPA-glass、
and PNIPAM-glass.
Figure 2 に未 改質の多 孔質ガラ スと
NH2-ガラス、MTPA-ガラス、PNIPAM-ガ
ラスの熱重量分析(TGA)の測定結果を
Scheme 2. Synthesis of PNIPAM-grafted porous
示す。TGA は Rigaku Thermo plus TG-8120
glass.
を用いて行った。サンプルは 105 ℃で 90
MTPA を 導 入 し た 多 孔 質 ガ ラ ス と
分間加熱し、吸着水による重量減少がな
MTPA、NIPAM、開始剤を N、N-ジメチル
くなってから、800℃まで 5 ℃/min の速度
2
で温度を上昇させ、サンプルの重量変化
ガラス表面でのみ重合が起こったことを
を調べた。未改質の多孔質ガラスに比べ
示唆する。
て NH2-ガラスと MTPA-ガラスの重量減
少は大きかった。重量減少から求めた
2. PNIPAM-ガラスを用いたベンジルアル
NH2-ガラスの改質量は 0.135 mmol/g で、
コールの透過
MTPA-ガラスの改質量は 0.0218 mmol/g
だった。PNIPAM-ガラスは MTPA-ガラス
と比べて大幅な重量減少が観測された。
多孔質ガラス表面にフリーな PNIPAM と
同様の分子量の PNIPAM がグラフトされ
たと仮定した場合、PNIPAM-ガラスの改
質量は 4.64 × 10-6 mmol/g だと見積もら
れた。PNIPAM-ガラスへの改質量が低い
原因は、MTPA-ガラス存在下での NIPAM
Figure 4. Experimental setup of permeation study
の重合が、ガラスの細孔内では起こらず
using benzyl alcohol by PNIPAM-glass.
にガラス表面でのみ起こったか、ガラス
にグラフトされた PNIPAM の分子量が、
Figure 4 に PNIPAM-ガラスを用いたベ
ガラスに固定されていないフリーな
ンジルアルコールの透過実験の概略図を
PNIPAM 鎖に比べて低いためだと考えら
示す。一方をエポキシ樹脂で封じた多孔
れる。
質ガラスに、0.2 M に調製したベンジルア
ルコール水溶液をいれ、UV セル中の純水
に浸漬し、各時間のベンジルアルコール
の吸収極大波長の 257 nm の吸光度を測定
し透過量を求めた。
Figure 3. Pore radius (r) distribution of PNIPAM
modified glass (□) and bare porous glass (○).
Figure 3 に未 改質の多 孔質ガラ スと
PNIPAM- ガ ラ ス の 細 孔径 分 布を 示 す 。
Figure 5. Benzyl alcohol release from bare
PNIPAM-ガラスは未改質の細孔径と比べ
porous glass at 40 ( ) and 20 º C (▲);
てほとんど変化がなかった。これは
PNIPAM-glass at 40 (○) and 20 ºC (●).
NIPAM の重合が細孔内部では起こらずに、
3
Figure 5 に 未 改 質 の 多 孔 質 ガ ラ ス と
両方の要因だと考えられる。
PNIPAM-ガラスを用いてベンジルアルコ
ールの透過実験を行なった結果を示す。
[今後の研究の方向、課題]
透過物質として、水に可溶で高い吸収を
MTPA を導入した多孔質ガラスの存在
持ち 1 nm 以下のサイズを持つベンジルア
下で NIPAM の重合を行なうことで、多孔
ルコールを使用した。未改質の多孔質ガ
質ガラス表面に PNIPAM 鎖をグラフトし
ラスの 40 と 20 ℃での透過量を比較する
た。NIPAM の重合は細孔内では起こらず
と、40 ℃の方が透過速度が速かった。こ
に表面でのみ起こり、PNIPAM は細孔表
れはベンジルアルコールの拡散速度が温
面のみにグラフトされた。PNIPAM をグ
度上昇で増加したためだと考えられる。
ラフトした多孔質ガラスは温度変化によ
PNIAPM-ガラスを用いたベンジルアルコ
りベンジルアルコールの透過の on-off 制
ールの透過速度は、未改質の多孔質ガラ
御が出来た。今後は温度以外の刺激によ
スを用いたときと比べて遅かった。これ
る物質の透過制御を検討する予定である。
は PNIPAM をグラフトしたために、細孔
の立体障害が大きくなったためだと考え
[成果の発表、論文等]
られる。
1.
S. Fujii, K. Akiyama, S. Nakayama, S. Hamasaki,
S.
Yusa,
Y.
“pH-
Nakamura,
Temperature-Responsive
Aqueous
and
Foams
Stabilized by Hairy Latex Particles”, Soft Matter,
11 (2015) 572-579.
2.
A.
Mikulska,
M.
Inoue,
K.
Kuroda,
A.
Iwanowska, S. Yusa, M. Nowakowska, K.
“Polymeric/silicagel
Szczubiałk,
molecularly
photoimprinted
hybrid
adsorbents
for
adenosine and its derivatives”, European Polymer
Journal, 59 (2014) 230-238.
Figure 6. Stepwise release of benzyl alcohol from
3.
PNIPAM-glass under 20 (□) and 40 ºC (○).
R Enomoto, M Sato, S Fujii, T Hirai, A Takahara,
K Ishihara, S Yusa, “Surface patterned graft
copolymerization of hydrophilic monomers onto
Figure 6 に PNIPAM-ガラスを用いて、温
hydrophobic polymer film upon UV irradiation”,
度を 40 と 20 ℃に 30 分間隔で繰り返し変
Journal of Polymer Science Part A: Polymer
化させたときの透過量の変化を示す 。
Chemistry, 52 (2014) 2822-2829. Journal Front
40 ℃では透過したが、20 ℃ではほとん
Cover
ど透過しなかったので、温度変化により
4.
K. Fukuda, R. Enomoto, K. Ishihara, Y.
ベンジルアルコールの透過の on-off 制御
Morishima, S. Yusa, “Thermo-responsive and
が可能であると考えられる。しかし、こ
biocompatible diblock copolymers prepared via
れは 40 と 20 ℃での拡散速度の違いと、
reversible addition-fragmentation chain transfer
(RAFT) radical polymerization”, Polymers, 6
PNIPAM 鎖のコンホメーションの変化の
(2014) 846-859.
4