金属粉末を用いた微細porous表面の作製による

●第 48 回日本人工臓器学会大会 Grant-MERA 受賞レポート
金属粉末を用いた微細 porous 表面の作製によるオーダーメイド
加工可能な biolized 血液接触表面の作製
徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部生体材料工学分野
関根 一光
Kazumitsu SEKINE
porous 性状金属 scaffold”としての評価を行う。
背景と目的
1.
本邦における人工心臓の適応は,本学会でも活発に議論
また報告されている通りであり,その技術的かつ医療的完
成度によって今後益々の需要が予想される 1)
。
2.
方 法
金属粉体を主原料とする本法では,Ti 及び Ti-6Al-4V を
用いて検討を行っている。これらは,現在広く開発されて
人工心臓の施術においては,例えば左室補助型人工心臓
いる補助人工心臓で多く使われている生体親和性の高い材
について言えば,心尖部などの生体心の侵襲部位と脱血管
料であり,そのような既製カニューレや血液ポンプなどの
による生体組織と非生体物質による“つなぎ目”ができる。
表面への修飾付与を視野に入れて検討を行っている。
このような血液欝滞留部位での微小血栓の形成は,心源性
血栓塞栓症の引き金になるため,これらに対する何かしら
また,形状作成のバインダー(つなぎ)として,歯科鋳型
作製用熱可塑性樹脂を用いている。
1) 目的条件と金属粉体粒径
の抑制が必要になる。
このような背景から,本研究では,人工物表面への患者
現状での porous 体作製を例に述べる。血管内皮細胞や
自己由来の内膜形成の促進効果を期待し,血液接触表面で
血管内皮前駆細胞,赤血球の侵入を想定して,目的とする
ある金属製人工血管について,孔率や孔径,形状,厚みな
孔径を 15μm ∼ 30μm,孔率を 30 ∼ 50%とすると,金属粒
どを調整可能な微細 porous(多孔性)表面を作製する。こ
子が単純立方晶格子で充填された場合には格子論上 40 ∼
れにより血管内皮細胞の足場として早期組織化を促す,ま
70μm(200 mesh)の粒径粒子を用いる必要があるため,使
た自己による生体由来血液接触表面の形成を目的としてい
用金属粉末を超音波式ふるい機にかけ,目的とする粒度分
る。
布の粉体を得る。以上のような手法で,目的とする孔径及
元来我々は,真空プラズマ放電処理(SPS)法による骨代
び孔率を決定し,金属粉体粒径を選定・分別することで,
替インプラントとしての porous 体を作製してきたが 2),3),
目的とする孔径,孔率での porous 体のオーダーメイド加工
新たな porous 性状の作製方法として,熱可塑性樹脂を Ti
が可能である。
や Ti-6Al-4V などの金属粉体に混合することで,
「流動性の
2) 成形方法
確保と不定形形状や薄膜面の作製」「形状作成後の焼成処
本法において,成形性向上のために用いた熱可塑性樹脂
理による樹脂の燃焼と porous 作製」「粉体平均粒径と粉体
は成形後の焼成により,約 600℃付近で燃焼され,焼成完
−樹脂比操作による孔径と孔率の操作」により,図 1 に示
了後には樹脂部位が空気= porous 部位となる。金属粉体
すような微小薄膜円筒管の作製にまで至った。この技術に
は,焼成温度である 1,000℃付近において個々の粒が“ネッ
つ い て,
“任意形状でオーダーメイド的に作製可能な
キング”と呼ばれる粒子同士での結合成長することで,一
体の porous 体が完成する。
■著者連絡先
徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部生体材料工
学分野(〒 770-8504 徳島県徳島市蔵本町 3-18-15)
E-mail. [email protected]
42
成形は,まずカーボンもしくはセラミックスを用いて目
的とする形状の組み合わせ型ダイスを作製する。例えば円
筒状を作製するのであれば,任意形状の外筒及び内筒のダ
人工臓器 40 巻 1 号 2011 年
(a)
(b)
図 1 試作したミニチュア porous 試料
(a)外径 2.3 mm,内径 2.2 mm,長さ 5.0 mm の円筒型試料外観
(b)走査電子顕微鏡像:Ti-6Al-4V 粒子同士のネッキング
イスを作製し,内外の筒の隙間に加熱して流動性を高めた
特徴を併せ持つ。そのため,将来的には porous 体としての
粉体−樹脂の混合体を圧入する。冷却後にダイスを外すこ
足場効果と細胞増殖因子での相乗的な効果が期待できる。
とで成形可能である。そのダイスをそのまま焼成炉中でガ
これらについては,既存技術の 2- メタクリロイルオキシエ
ス置換下かつ適正温度で焼成することにより,焼成体が完
チルホスホリルコリン(MPC)やヘパリンなどのコーティ
成する。現状では,孔径 15μm ∼ 30μm,孔率 30%,粉体
ングを採用する場合でも有効である。
粒径 40μm ∼ 70μm での焼成について,1,000℃,1 時間焼
成条件下において理想的な焼成体を得ている。
また,技術的な障壁は高いが,患者由来の脂肪組織や血
液などから採取した血管内皮前駆細胞から in vitro で組織
3) 焼成後の porous 体評価
化 さ せ,そ の 後 術 式 に 持 ち 込 む,と い っ た 自 己 由 来 の
焼成後 porous 体とした金属試料の物理学的検討として,
biolized 表面も見据えている。本法が biolized 血液接触表
目的とする孔径・孔率の円盤状及び円筒状 porous 体を作
面として優れた成果を示せれば,送血管や脱血管のみなら
製し,円盤状試料では圧縮試験を,円筒状試料ではダイア
ずより複雑な人工心臓の本体へ,もしくはその一部へ,意
メ ト ラ ル 式 引 張 試 験 を 行 い,強 度 を 測 定 す る。 ま た,
図した porous 性状と厚みでの表面修飾によるオーダーメ
porous 体の特徴の一つである空孔率について,He ガス乾
イド型 biolized 血液接触表面の作製への発展 が期待でき
式密度測定機による空孔率を導く。この結果を基に,人工
る。
血管の漏れ率測定を基にした吸水率測定を行う。また,
porous 体の付加価値的な特徴である含浸効果の有用性を
図るため,粘性,薬性の異なる薬品での含浸性と徐放性を
4.
まとめ
優れた研究成果をあげている人工心臓研究の生体内評
価,また治験や臨床応用に対し,血管内皮誘導を狙ったオー
確認する。
生 体 と の 親 和 性 と 組 織 誘 導 能 評 価 に つ い て は,目 標
porous 性状での焼成体作製を経た後,任意の厚みで作製し
た各 porous 体の表面に血管内皮細胞を播種し,組織化まで
の形態観察と一定期間経過後の固定∼走査電子顕微鏡
ダーメイドの porous 表面作製技術が,更なる成果の一助と
なるよう研究評価し,展開していきたい。
謝 辞
(SEM)像観察を行う。SEM 像観察では,試料の切断面で
今回の Grant-MERA 受賞に際し,選考いただいた本学会
の観察も行うことで,細胞の侵入具合と新生血管の有無を
及び理事役員の先生方,また助成をいただいた企業の方々
確認する。同様に,小中型動物の任意血管へ小口径円筒
に深く感謝申し上げます。
porous 体を埋め込み,一定期間生育後に周囲組織ごと摘
出,切片化の後に病理診断を行う。また,血管内以外にも
筋層及び皮下脂肪組織へ円盤状 porous 体を埋め込み,筋層
のような毛細血管周囲や,脂肪組織のような血管内皮細胞
が少数存在する部位において,porous 体への新生血管の有
無についても確認する。
3.
独創性
Porous 性状表面はバルク体表面と比較して,
“表面積の
拡大”と“孔構造”の点で薬物徐放担体として優れるという
文 献
1) Yamane T, Kyo S, Matsuda H, et al: Japanese Guidance for
ventricular assist devices/total artificial hearts. Artif Organs
34: 699-702, 2010
2) Sakamoto Y, Asaoka K, Kon M, et al: Chemical sur face
modification of high-strength porous Ti compacts by spark
plasma sintering. Biomed Mater Eng 16: 83-91, 2006
3) Kon M, Hirakata LM, Asaoka K: Porous Ti-6Al-4V alloy
fabricated by spark plasma sintering for biomimetic surface
modification. J Biomed Mater Res B Appl Biomater 68:
88-93, 2004
人工臓器 40 巻 1 号 2011 年
43