中国第 4 の統合型石油企業・陝西延長石油

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第 32 回
2014 年度
平成 27 年 3 月 19 日
中国第 4 の統合型石油企業・陝西延長石油
中国では、三桶油(国営石油 3 社)と称される中
国石油天然ガス集団公司(CNPC)
、中国石油化学集団
公司(Sinopec)および中国海洋石油総公司(CNOOC)
以外に多くの石油会社が事業を展開している。3 社以
外に国内で上流から下流までを一貫操業している本格
的な統合型石油企業は、陝西延長石油(集団)有限責
任公司(YCPC:Shaanxi Yanchang Petroleum (Group) Co.,
Ltd.)が唯一であり、同社が油田の探鉱・開発能力を
もつ中国第 4 の石油企業と呼ばれる所以である。
1.
2.
3.
4.
5.
6.
7.
陝西延長石油の成立 ········1
事業規模 ························2
主要事業 ························3
石油精製事業··················5
石油製品販売事業 ···········7
化学事業 ························8
油田開発・生産事業 ······ 11
陝西延長石油は 3 カ所の製油所について増強・近代化を実施、石油製品の販売網も拡
充を進めている。化学事業においても最新鋭の石炭オレフィンプロジェクトを展開してい
る。また、大慶などの大型油田が減産に転じるなか、同社が管理する延長油田は、2000 年
代に入って飛躍的な増産を遂げた希有な油田である。中国第 4 の石油企業、陝西延長石油
(集団)有限責任公司を紹介する。
陝西延長石油の成立
国営石油 3 社以外の中国石油企業としては、貿易事業から総合石油ガス企業への脱皮
を図っている中国中化集団公司(Sinochem)
、旧化学工業部(MCI)系企業を再編して誕生
した中国化工集団公司(ChemChina)
、そして陝西延長石油(集団)有限責任公司(YCPC)
が代表的なものである。
1.
名前の通り、陝西延長石油は陝西省を中心に事業を展開している。陝西省は中国内陸
部、黄河の中流に位置し、東は山西省、河南省、西は寧夏回族自治区、甘粛省、南は四川
省、重慶市、湖北省、北は内モンゴル自治区と隣接している。同社が拠点とするのは延安
市および隣接する楡林市である。本拠を置く延安は、陝西省黄土高原の丘陵谷間にあり、
北側で楡林と接している。
陝西延長石油の前身が設立されたのは、清朝時代の 1905 年である。延長県がある陝西
省延安市は中国石油産業発祥の地といわれ、20 世紀に入ってまもなく 1905 年に清朝政府
の手によって延長石油官厰が設立され、中国初の油井が掘削され、石油精製設備が建設さ
れた。
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こうした豊富な石油資源の活用と石油企業の育成を図るため、陝西省政府は同省北部
の石油企業を再編するため探鉱・開発企業を中核に陝西延長石油(集団)有限責任公司の
設立を決定し、延長石油官厰創設から 100 周年を迎えた 2005 年 9 月、陝西省国有資産監督
管理委員会によって同公司を設立した。図 1 に同公司の沿革を示す。
図 1 陝西延長石油沿革
同社は、陝西省国資委が所轄しており、傘下の延長油田公司は、旧延長油鉱管理局所属
の油田企業 7 社と陝西省北部各区・県所属の 14 社からなる。さらに、延煉実業集団公司お
よび永坪煉油廠と楡林煉油廠の計 3 カ所の製油所も陝西延長石油が運営することになった。
延安は、中国紅軍の長征の終着地で、毛沢東が抗日戦線の指揮をとった拠点であったこ
とから、中国革命の聖地とされている。しかし、延安を中心とする陝西省北部(陝北)は、
自然条件が過酷な黄土高原にあり、中国において最も経済発展が遅れた地域の 1 つとなっ
ていた。このため、政府は貧困脱却の特例措置として県レベルの石油生産を認めていた。
これにより、多くの県営石油企業が設立されて、原油を生産していたが、これが利権争い
や管理の混乱、環境汚染や遅れた採掘技術による制限のロスなどさまざまな問題を生む原
因となっていた。陝西延長石油設立により、こうした混乱に終止符が打たれた。
事業規模
陝西延長石油の 2013 年の業績は、売上が前年比 15.1%増の 1865.48 億元、利益が 29.4%
減の 120.09 億元、総資産は 12.5%増の 2405.27 億元である(表 1 参照)
。
2.
表 1 陝西延長石油の業績推移
陝西延長石油は Fortune 2014 年売上世界トップ 500 では 432 位にランクされている。売
上ベースで中国大手 2 社や Shell と比較すると、約 15 分の 1 の規模となり比較の対象とは
いえないが、CNOOC と比較すれば、同社の 3 分の 1 弱の規模となる(表 2 参照)
。また、
他の海外石油・エネルギー関連企業と比べると、427 位の韓国 S-Oil や 428 位の中部電力と
ほぼ同規模ということになる。
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表 2 Fortune Global 500 と中国石油企業
主要事業
部門別売上は、石油ガス事業(主に原油生産と石油精製および石油製品販売)が全体の
80~90%を占めている(表 3 参照)
。また、陝西省には豊富な石炭資源や塩資源があり、こ
うした資源を活用した化学事業、製油所建設などの経験を活かしたエンジニアリング・建
設・機器製造事業、さらに貿易業務や金融保険業務、ホテルなど観光事業を展開している。
主要部門別業績を表 3 に、部門別子会社を図 2 に示す。
3.
表 3 陝西延長石油の主要部門別業績
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図 2 陝西延長石油の部門別子会社
このち主力部門である原油生産、石油精製、石油製品販売に関して、それぞれを統括す
る延長油田股份有限公司、陝西延長石油(集団)有限責任煉化公司、陝西延長石油(集団)
有限責任公司銷售公司の傘下企業群を図 3 に示す。
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図 3 陝西延長石油主要 3 子会社の傘下企業
石油精製事業
石油精製事業は、2005 年 11 月に設立された陝西延長石油(集団)有限責任煉化公司が
担当しており、傘下に延安煉油廠、永坪煉油廠、楡林煉油廠の 3 製油所を保有している。
延安煉油廠には二次処理設備拡充のための延安石油化工廠がある。原油処理能力は 2012
年段階で年間合計 2050 万トン(41 万 BPD)に拡張されており、延安煉油廠と楡林煉油廠
がそれぞれ 800 万トン/年(16 万 BPD)
、永坪煉油廠が 450 万トン/年(9 万 BPD)である。
4.
最近の原油処理実績は、2011 年が 1302 万トン(26 万 BPD)
、2012 年が 1400 万トン(28
万 BPD)
、2013 年が 1403 万トン(28 万 BPD)である。
4.1. 延安煉油廠
1986 年に設立され、
1988 年から操業を開始
した。年間 800 万トン(16 万 BPD)の常減圧
蒸留設備のほか、同 140 万トン(2.8 万 BPD)
の流動接触分解設備や 200 万トン
(4 万 BPD)
の残油流動接触分解設備、などをもつ(表 4
参照)
。
延安煉油廠恵家河石油製品タンクから銅川
市、咸陽市を経て陝西省の省都である西安市
へ石油製品を輸送する 201km のパイプライ
ンを建設、2009 年に完成した。設計輸送能力
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表 4 延安煉油廠の主要設備
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は年間 500 万トン(10 万 BPD)である。これと同時に、原油輸送能力年間 600 万トン(12
万 BPD)の呉起-延安煉油廠原油パイプラインも建設した。
表 5 延安石油化工廠の主要設備
4.2. 延安石油化工廠
延安煉油廠の二次処理設備拡充のため延安
石油化工廠を設立、延安煉油廠から 6.5km 離
れた楊庄河で二次処理設備建設を進め、フェ
ーズ1で年間処理能力120万トン
(2.4万BPD)
の連続触媒再生式接触改質設備や 140 万トン
(2.8 万 BPD)の軽油水素化精製設備、ガス
分離設備、さらに MTBE や PP プラントを建
設、2009 年に完成した(表 5 参照)
。続いて、
フェーズ 2 を進め、スチレンモノマー(SM)
表 6 永坪煉油廠の主要設備
プラント、ポリスチレン(PS)プラントなどを
建設した。
4.3. 永坪煉油廠
1986 年から原油処理開始しており、原油処
置能力は年間800万トン
(16万BPD)
である。
90 万トン/年(4.5 万 BPD)の流動接触分解設
備や 100 万トンの残油流動接触分解設備、接
触改質設備、ガソリン水素化精製設備などを
保有している(表 6 参照)
。2013 年 10 月から
国四/国五規格(EURO-IV/V 相当)のガソリ
ンと軽油生産を開始している。
表 7 楡林煉油廠の主要設備
4.4. 楡林煉油廠
1988 年に操業を開始し、
2012 年に原油年間
処理能力800万トン
(16万BPD)
体制となる。
同 60 万トン(1.2 万 BPD)の流動接触分解設
備、180 万トン(3.6 万 BPD)の残油流動接触
分解設備や接触改質設備、
水素化精製設備
(表
7 参照)などを保有している。2013 年 11 月か
ら国四/国五規格対応の石油製品を生産して
いる。
また、同 120 万トンの連続触媒再生式接触
改質設備と 30 万トンの芳香族抽出設備を建
設、2015 年には本格操業する。楡林煉油廠も
国四/国五規格の石油製品を資産可能で、陝西
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省や内モンゴル西部などで販売する。
4.5. 西安精細化工廠
2008 年に設立され、清浄剤や油田用化学製品、石油製品助剤、水処理剤などを生産して
いる。
石油製品販売事業
石油製品の販売は、陝西延長集団銷售公司が担当しており、永坪、延煉、楡林の 3 製油
所に販売部門,陝西省の西安と山西省の太原に販売拠点を置いている。もともと延長石油
は、販売ルートが脆弱で、生産した石油製品の 80%を Sinopec や CNPC の販売ルートを通
じて販売していたが、徐々に自前の販売網を整備している。
5.
2008 年 12 月には、延長石油が 46%、Shell が 45%、陝西天力投資公司が 9%を出資して
石油製品の合弁販売会社として延長殻牌石油有限公司(Yanchang and Shell Petroleum Co.,
Ltd.)を設立、陝西省および周辺地域での販売網整備を進めてきた。
続いて 2009 年には、
陝西省の高速道路事業会社である陝西省高速公路建設集団公司および
陝西交通建設集団公司と共同で、黄延、西禹、西漢、西潼、呉靖、楡靖、陝蒙の 7 ルート
の高速道路で石油製品販売サービス事業を行うことに合意し、合弁会社の陝西省高速公路
延長石油有限責任公司を設立した。さらに同年、四川省および中国西南部で販売事業を展
開するため、四川省の成都経済技術開発区との間で、流通タンク建設に合意した。
2010 年からは、1000 カ所のサービスステーション(SS)開設と生産した石油製品の 70
~80%を自社で販売することを目標に、本格的な販売ネットワーク構築に乗り出した。こ
れにより2013 年末でSS 設置数は計572 カ所となり、
2014 年6 月時点では620 カ所に拡大、
急ピッチで販売網の整備を進めている。また、陝西省交通運輸庁と共同で省内に 200 を超
える SS 設置計画を進めることに合意した。
販売事業のパートナーである Shell との間で、2014 年 5 月から広東省に折半出資の合弁
企業として延長殻牌(広東)石油公司を設立し、石油製品販売を開始した。これにより、
YSPC/Shell が石油製品販売事業で初めて中国内陸部から、製品需要の大きい南部沿岸部に
進出した。
これら販売ルート拡充により、延長石油の販売網は、陝西省および周辺地域を越えて、
北西部および南西部へ拡大している(図 4 参照)
。
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図 4 銷售公司の石油製品販売網
化学事業
陝西省は、石油資源とともに石炭資源が豊富で、延長石油の化学事業は石炭化学が中心
となっており、CNPC と共同で計画していた大型石油化学プロジェクトは、次期 5 カ年計
画(12.5 計画)に先送りされている。
6.
6.1. 延安市洛川のエチレンコンプレックス計画
延長石油がCNPC と共同で 220 億元を投下して陝西省延安市洛川に計画している大型エ
チレンコンプレックス建設計画は 2007 年初めに国家発展・改革委員会に申請され、2011
年からの第 12 次五カ年計画中の着工を目指していたが、2009 年段階で同事業は 2016 年か
らの 12.5 計画に先送りされることが決定した。
6.2. 陝西延長延安能源化工公司
2009 年 9 月に延安の石炭・油ガス資源の総合利用のため設立。219 億元を投下して年産
180 万トンの石炭由来メタノール、
同 60 万トンのメタノールからのオレフィン製造
(MTO)
、
20 万トンの先進的接触オレフィン製造(ACO:Advanced Catalytic Olefins)
、42 万トンの高
密度ポリエチレン(HDPE)
、30 万トンの PP、36 万トンのオクタノール、エチレンプロピ
レン非共役ジェンゴム(EPDM)などのプラントを建設、2015 年に操業を開始する。
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MTO は中国科学院大連化学物理研究所(DICP)技術、ACO は米 KBR の技術である。
HDPE は LyondellBasell 技術でエンジニアリングは Uhde、PP は Ineos 技術でエンジニアリ
ングは Technip、EPDM は FasTech、エンジニアリングは中国成達工程公司となっている。
ACO 技術は、KBR と SK Innovation が共同開発したもので、キー技術となるのは KBR
の流動床リアクターとオレフィンプラント技術である。これに SK Innovation による独自触
媒の開発およびプラント最適操業技術を加え、2010 年 10 月に韓国蔚山で実証プラントを
稼働させている。商業プラントは延安が初となる。
6.3. China Coal との合弁石炭化学事業
中国中煤能源股份有限公司(China Coal)と共同で靖辺能源化工綜合利用産業区にて石炭
由来メタノール、重油深度接触分解(DCC)
、MTO、高密度ポリエチレン(HDPE)
、リニ
ア低密度ポリエチレン(LLDPE)
、PP などのプラントを建設、2014 年 6 月に操業を開始し
た。生産能力は、メタノールが年産 180 万トン、DCC が 150 万トン、MTO は 60 万トン。
MTO は中国技術で、エンジニアリングは中石化煉化工程(集団)股份有限公司(SEG)が
担当した。HDPE は 30 万トンで Ineos 技術、LLDPE は 30 万トン、PP は 2 基計 60 万トン
で、うち 1 基 30 万トンは Ineos 技術。このほかに、Lummus がエチレン、プロピレンなど
の軽質オレフィンの回収技術および C4 留分を重合グレードのプロピレンにアップグレー
ドするオレフィン置換技術(OCT)に関してライセンスを供与とした。
6.4. 石炭液化プロジェクト
兗砿集団公司および兗州煤業公司と石炭の開発・生産と間接法石炭液化(CTL)プロジ
ェクトを実施する合弁企業の設立に合意し、陝西省楡林市に「陝西未来能源化工有限公司」
を設立した。2014 年 9 月に、年産 100 万トンの間接法 CTL プラントとこれに石炭を供給
する可採埋蔵量 10.1 億トン・年産能力 800 万トンの金鶏灘炭鉱の開発および採炭や精洗炭
設備の建設に関して政府認可を取得した。
CTL 実証プラントには、資金 162 億元が投下され、プロセスには、兗砿集団公司が開発
した「高温流動床 Fischer-Tropsch(F-T)技術」が採用されている。同技術による年産 100
万トン級プラントの建設は世界初。兗砿集団は、高温 F-T 技術に沈殿型鉄系触媒を初めて
採用した。同触媒は、性能が高く、国内外の他の触媒に比べコストが 30%低いとされる。
陝西未来能源 CTL プロジェクトは、2 期・3 段階に分けて計画を進める。年産 100 万トン
の実証プラントはその第 1 期 1 段階にあたり、
続く第 1 期第 2 段階で同 200 万トン・2 基
(計
400 万トン)のプラントを建設する。さらに第 2 期で同 500 万トンのプラントを建設し、
最終的には 1,000 万トン体制とする。また、将来的にはエチレンなどオレフィン生産プロ
ジェクトも実施する。
6.5. 石油ガス・石炭・クロルアルカリ総合事業
石油ガス・石炭・クロルアルカリの統合事業確立を目指し、2008 年に陝西有色金属集団
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公司および陝西鼓風機(集団)公司と共同で陝西延長石油興化化工公司を設立。フェーズ
1 で、年産 30 万トンの石炭由来メタノール、30 万トンのアンモニア、32.4 万トンの塩化ア
ンモニウム、30 万トンの炭酸ソーダの各プラントを建設した。フェーズ 2 で、7 万トンの
KA オイル(シクロヘキサノールとシクロヘキサノン混合物)
、1.5 万トンのシクロヘキサ
ン、7 万トンアジピン酸の各プラントを計画、2015 年末の完成を目指している。
6.6. 随伴ガス資源循環利用プロジェクト
延安市延長県黒家堡鎮周家湾で年産 14 万トンのガス由来メタノール、4 万トンの天然ガ
ス由来アセチレンから 10 万トンの 1,4-ブタンジオール(BDO)
、4.6 万トンのポリテトラヒ
ドロフラン(PTHF)統合プラントおよびコジェネ、空気分離プラントを建設する。続いて
第 2 期計画で、30 万トンのエチレングリコール(EG)プラントを建設する。
6.7. Veba Combi Cracker(VCC)技術
2011 年 6 月、米 KBR と水素化分解技術(Veba Combi Cracker(VCC)技術)に関する合
弁会社「延長石油凱洛格技術(北京)有限公司」を設立した。同年 7 月には VCC 技術合
弁事業の契約を行った。VCC は、もともとドイツ Veba が開発した石炭液化のための水素
化分解技術で、E.On 傘下の Degussa を経て 2002 年に BP が買収し、KBR と協力している。
石油精製、油田における改質、CTL 過程での精製残留物、コールタール、石炭石油混合物
の高品質な蒸留物または合成原油へと処理するのに適した技術で、事業運営は、延長石油
集団の子会社北京石化工程有限責任公司(BPEC)と KBR の技術事業部門が行う。
延長石油の子会社である油煤新技術開発公司は、石炭と石油精製後の残油を原料として
軽油などの高付加価値製品を生産するプラント建設を進めている。
年間 45 万トンの処理能
力があり、ガソリンを 7.8 万トン、軽油を 26.2 万トン、LPG を 4 万トン生産することがで
きる。同プラントのほかに 6 万 m3/h の水素製造設備、貯蔵量 22.5 万トンの石炭貯蔵施設
も建設している。
同じく延長石油の子会社である安源化工有限公司は、楡林市神木県錦界工業地区に中国
最大級のコールタール水素化分解プラントの建設している。同プラントは、コールタール
を原料として軽質および重質のパラフィンを生産する第 1 フェーズの計画だが、最終的に
は年産 100 万トンの生産能力をもつものになる。原料は、安源化工公司の蘭炭設備から副
産する6 万トンのコールタールと延長石油集団傘下7社の蘭炭設備から副産する計70 万ト
ンのコールタールを使用する。その他、横河電機が両プラント向けに統合生産制御システ
ム「CENTUM VP」を納入している。
なお、VCC プロセスは、カンボジア国家石油機構(CNPA)傘下の Cambodian Petrochemical
Company(CPC)が中国と協力して Kampong Som Petrochemical Industrial Zone に建設する
製油所の減圧残油処理のために採用される。中国関係以外では、ロシア TAIF グループ傘
下の TAIF-NK がタタールスタン Nizhnekamsk 製油所近代化プロジェクトにおいて、
世界初
の大型重質残油分解設備に使用されている。
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7. 油田開発・生産事業
7.1. 油田開発・生産事業
古い歴史を持つ延長油田だが、
石油生産が急増したのは 1990 年代中期以降のことである。
当油田の生産量は、1995 年の 74 万トンから 1997 年に 100 万トン(2 万 BPD)台に乗せ、
図 4 に示すように 2006 年は 935 万トン(18.7 万 BPD)
、2007 年は 981 万トン(19.6 万 BPD)
と 10 年で約 10 倍という驚異的な伸びを示した。それ以降も好調で、2008 年は 1,000 万(20
万 BPD)トンを、2010 年は 1,300 万トン(26 万 BPD)を突破し、2011 年は 1,396 万トン
(27.9 万 BPD)まで拡大した。2011 年以降は、かつてのような急増はないが、2012 年は
1,415 万トン(28.3 万 BPD)
、2013 年は 1,420 万トン(28.4 万 BPD)と増加基調にある(図
5 参照)
。
図 5 延長油田の原油生産推移
中国全体の原油生産量は 2 億 810 万トン(416 万 BPD)あり、延長油田のシェアは 6.8%
である。これは、19.2%の大慶油田(480 万 BPD)
、13.3%の勝利油田(55.5 万 BPD)
、11.7%
の長慶油田(48.6 万 BPD)に次いで第 4 位となる。
なお、オルドス-黄土高原には延長油田のほかに長慶油田がある。1970 年代に入ってか
ら発見された長慶油田は、延長油田の西側に位置しており、陜西省、甘粛省、寧夏自治区
の 3 地域にまたがることから陜甘寧盆地と称されるが、実際は、内モンゴル、山西を加え
た 5 省・自治区に拡がっている。
7.2. 非在来型資源開発
2011 年 4 月に甘泉県下寺湾で中国初の陸成シェールガス井の柳坪 177 井において破砕作
業とガス生産に成功した。延長石油は 2009 年から非在来型資源について研究を進め、2010
年に国土資源部からオルドス盆地東南部シェールガス高効率開発モデル事業を受託してい
る。
また、2013 年 1 月に Schlumberger および香港 Copower Enterprises による合弁会社の SCP
Oilfield Services(Yinchuan)
との間で、
天然ガス開発に関する技術協力協定に調印しており、
陝西省北部の低浸透率ガス田の開発を進める。この 3 社は、2011 年 4 月にシェールガス開
発に関する戦略的協力協定を締結している。
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7.3. 海外事業
延長石油国際有限公司(Yanchang Petroleum International)を設立して、マダカスカルおよ
びカナダを中心に海外事業を展開している。また、タイでも延長石油(泰国)有限公司を
通じて探査を進めている。
マダガスカルでは、香港の中聯石油化工国際有限公司(Sunpec)が取得していた南部の
3113 鉱区および西部の 2104 鉱区に参加、馬達加斯加能源国際有公司(Madagascar Energy
International Limited)および馬達加斯加石油国際有公司(Madagascar Petroleum International)
を設立して探鉱開発を進めている。
2014 年 1 月には、子会社の Yanchang Petroleum International(Canada)を通じてカナダの油
ガス会社である Novus Energy を総額 2.3 億ドルで買収した。Novus Energy は、カナダ中西
部の Western Canadian Sedimentary Basin を拠点とし、アルバータ州とサスカチュワン州にま
たがるタイトオイル埋蔵域である Viking Oil Play の権益を保有している。
タイでは 2010 年 2 月に北東部の Khorat 盆地 L31/50 鉱区における石油・天然ガスの探査
契約に調印した。鉱区面積は 3,960km2 で、Khorat 盆地はバンコクから約 280km に位置し
ている。同探査プロジェクトは 2010 年 9 月に中国国家発展・改革委員会(NDRC)の承認
を取得した。延長石油は同年 12 月、バンコクに現地法人の延長石油(泰国)有限公司を設
立して探鉱開発を進めている。
このほか、2012 年 7 月、カンボジア政府との間で石油ガスの探鉱開発に関する趣意書
(LoI)に署名している。
<参考資料>
(1) 陝西延長石油(集団)有限責任公司 http://www.sxycpc.com
(2) 延長石油国際有限公司 http://www.yanchangpetroleum.com
(3) 陝西省発展・改革委員会 http://www.sndrc.gov.cn
(4) 延長殻牌石油公司 http://www.ycshell.com
(5) 中国の石油産業と石油化学工業 各年版(東西貿易通信社)
(6) East & West Report 各号(東西貿易通信社)
以上
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本資料は、一般財団法人 石油エネルギー技術センターの情報探査で得られた情報を、整理、分析
したものです。無断転載、複製を禁止します。本資料に関するお問い合わせは[email protected]
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次回の JPEC レポート(2014 年度 第 33 回)は
「国内事情の変化する中国における自動車用代替燃料の展望」
を予定しています。
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